29:久しぶりのスイーツ作り ※1/6大幅修正・加筆

文字数 1,097文字

必要な材料はあらかじめ作業台に乗せておいたわ。

それから、こっちが作って欲しいスイーツのレシピ

私は恋するパティシエール

あなたという生クリームに キュンキュンなの


なにこれ?

わあああああああああああああああ!

間違えた! こっち! こっちよ!!

 ミユちゃんがノートを広げるよ。そこには、桃やキウイを使ったフルーツタルトに、数種類のチョコレートを使ったパフェなんかが書かれている。
さっきのはなんだったの?

わ、忘れなさい!

じゃないと、脳みそというプリンをこんがり焼いてやるわよ!!

オーケー、見なかったことにするよ。

だから落ち着くんだ。頼むからその振り上げたフライパンをおろしてくれ

フーッ、フーッ!

 ミユちゃんは荒ぶった猫みたいに息を荒くしながら、フライパンをおろしたよ。

 今夜、ミユちゃんは顔を枕に押し付けて、足をバタバタするんだろう。それを想うと、ちょっと同情する。見なかったことに、してあげよう。

じ、じゃあ……私は接客の方をやろうかな。ほら、ミユちゃんは笑顔作るのとか苦手でしょ? 適材適所かなぁ、と
そうね。でも残念、開店まで一時間あるわ。なので、スイーツ作りをお願い
 逃げられないみたい。
わ、わかったよ……

 そんなわけで、レシピを見ながら久しぶりのスイーツ作りだよ。鍋に牛乳、ゼラチン、生クリームを入れて温めたり。ボウルに卵を割って、砂糖を入れ混ぜたり。
(量らずとも、適量がわかる。身体が覚えているっていうのは、本当なんだ)

(そう、これよ。きっちりかっちり量ってやらないとダメな私と違って、紗彩は感覚でミリグラム単位の素材量を把握できる。このセンスと感覚は、悔しいけど私にはないもの)
(ずっと、置いていかれたくないって思ってた。でも、これだけの才能を腐らせて欲しくないというのも本当の気持ち)
(だって、私はあなたの幼馴染だもの。大切で、大好きな幼馴染には、幸せになってほしいもの。あなたはスイーツ作りで幸せになるべきなのよ)
 そうこうしているうちに、一時間が過ぎたよ。ミユちゃんのセットしていたタイマーが鳴って、時計は10時を示す。
あっ、そろそろお店開けなきゃだよねっ!
(でも、もう少し作っていたいような)
店は私が開けるわ。紗彩は引き続きタルトを量産していて!
えっ? でも……
作りかけのを任されても困るわ。私とあなたじゃ、同じレシピを使っていても、やり方が違うもの
そ、そっか
 厨房を出て行くミユちゃんを見送って、私は安堵したよ。それから、気づく。
(って、レシピ通りにやってるんだからやり方は一緒でしょ!?)
(はめられた!!)
けど……ありがとう、ミユちゃん
 結局、その日は一日スイーツ作りに没頭したよ。
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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