21:ミユちゃんのスイーツを求めている

文字数 802文字

 昼休み。
 
というわけで、今日から私も一緒にお昼を食べるわ
どういうわけなのかは知らんが、よろしくな!
え、ええ

 ミユちゃんは、ややぎこちなさを感じる動きで、差し出されたマオちゃんの手を握ったよ。

 それから、弁当箱を開ける。
おっ? おかずクレープか?
ツナマヨと、こっちは普通にイチゴだな?
私が作ったのよ。弁当作りも、パティシエールの修行にしようと思って
(そんなことまでしてたんだ)
君も見習わないとね
(うるさい。パティシエールは諦めたって言ったでしょ!)
おお、怖い怖い
よかったら、二人とも食べてみる?
いいのか?
いただくぜ
私も
 ミユちゃんがおかずクレープを器用にちぎって、渡してくれたよ。
もぐもぐ……ツナマヨだね。これは、塩も入ってる?
ええ
うまいが、少し塩辛いな。もうちょい塩分は抑えめでいいんじゃないか?
……そうね。そうするわ
 それ以降はあまり喋らなかったけど。
またご一緒させてもらうわ

 と、不満そうな様子なく廊下に出て行った(トイレかも)から、安心したよ。



 それから。

  放課後。ハルカゼ。

 お客さんが増え始めると。

ああ、今日はやけに忙しいわ
(なんて言いつつ、スイーツを作るミユちゃん、ちょっと嬉しそう)

 私は微妙に笑みを浮かべるミユちゃんのことを、厨房で撮影したよ。
 みんなの前でも、せめてそのくらいの表情をしたらいいのに。

 それから、ミユちゃんの作ったスイーツで、笑顔になるお客さんのことも撮影したよ。もちろん、許可を撮って。
 夜に動画をアップすると、
私も食べたいなあ
SAYAさん、まさかハルカゼスイーツ食べ放題!?
いいなあ。私もYouTuberになろうかな
↑ムリムリ。パティシエールと人脈ないとダメだからw
 とかコメントがあって。
 だけど、私はちくりと胸が痛むのを感じた。
 みんながミユちゃんのスイーツを求めている。こんな風に、私も――。

私も、なんだい?
……なんでもないよ
いい加減素直になったらいいのに
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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