空中カマキリ

文字数 837文字


 目の前をカマキリが横切っていった。
「え?」
 目で見たものを理解するまで、数秒時間がかかった。
 カマキリは飛ぶ、だけど今見たそれは、空中を歩いていた。
「ええ?」
 雑学に詳しい友人と、コンピューターに詳しい友人、こいつらなら何かわかるかもしれないと通話をかける。
「お前のところも?」
 こっちも同じだよ、虫が宙を歩いている、と異口同音に言われる。どうやら俺の頭がおかしくなったわけではないみたいだ。
「ちょっと変だぞ、こいつら触れない」
「あ、本当だ」
 雑学の友人の言うとおり、カマキリを捕まえようと手を伸ばしても、まったく手応えがなくすり抜けてしまう。
「虫のホログラム?」
「いや、待て、虫のいるところの地面触ってみなよ」
「わ、なんかいる。透明な……虫?」
「わかったぞ!」
 今度はコンピューターの方の友人が叫んだ。
「虫の座標だけがちょっとだけ上にズレたんだ」
「座標?」
 彼が言うには、この世を調律している何かが狂って、虫だけがバグってしまったらしい。
「公園行ってみろよ、すげえぞ」
 言うとおりにすると、大量の白い球のようなものが浮いていた。
「これは?」
「……セミの幼虫」
 七年かけて地面で成長するセミが、座標がずれてしまったことで、その姿を露わにしてしまっている。幻想的とも気持ち悪いともいえる光景にしばらく見とれていると、通話の向こうから新しい指示が飛んできた。今度は雑学の方が何か思いついたらしい。
「……網を用意して、海に行こう!」
 言われたとおり、網を買って海に集合した。
「なるほど、こりゃすごいな」
 海の上には、エビやカニ、シャコなどが浮き上がっていた。
「甲殻類は虫と同じ祖先を持つ生き物なんだよ」
 三人で手分けして、蟹のいるあたりめがけて網を投げた。座標がずれて位置がわかるようになっているので、俺たちのような素人でも簡単に捕まえられた。
「大漁じゃー!」
 その日の夜は、透明になったカニを三匹、エビを五匹食べた。
 バラバラになったエビカニが、俺たちの頭の上に浮かんでいる。
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