くるくるさん

文字数 1,177文字


:@kinakinakinakoo







 ムサシくんのおうちには、くるくるさんという神様がいるらしい。
 保育士になって四年、今まで何度も似たような話は見聞きしてきた。
 くるくるさんという神様は、探し物を見つけてくれる力があるようで、園で何かがなくなると、ムサシくんは嬉しそうに「くるくるさんにお願いしてみるね!」と探索を引き受ける。
 実際翌日になると「くるくるさんが見つけてくれたよ」となくなっていたオモチャやお遊戯の道具などを持って登園してくる。
 ムサシくんが言うには、くるくるさんにお願いするには、いくつか条件がある。
 たとえば、以前にお気に入りのサルのキーホルダーをなくした女の子がいたとき、ムサシくんは捧げ物として牛のキーホルダーを持ち帰った。
 これをムサシくんちの庭の、決まった場所に置いておくと、翌朝なくしたはずのものと入れ替わっているのだという。
 くるくるさんにお願いをする条件はふたつ。
 同じくらい大切なものを捧げること。
 何もせずに一晩待つこと。
 一度ムサシくんのお兄さんがくるくるさんの正体を確かめようと、カメラをしかけたところ、カメラを持ち去られ、二度とお願いを聞いてもらえなくなったそうだ。神様とのルールを破ったにしては、ずいぶん甘い罰だと思う。
 何度もムサシくんの話を聞いていて、ひとつ気になることがあった。同じくらい大切なものという判定がかなり曖昧なのだ。
「ムサシくん、お願いがあるんだけど……」
 昨日飲み過ぎてどこかにケータイを忘れてきてしまった。店に連絡しても、忘れ物は届いていないというので、もしかしたら道で落としてしまったのかもしれない。
 もう数年使っているので、いいタイミングだと買い換えてもいいのだけど、安月給の身で、いきなり数万円の出費は痛い。
 そこで、くるくるさんのことが頭をよぎった。
「これで、お願いね」
 ムサシくんには捧げ物として、十年前に使っていた古い機種のケータイを預けた。くるくるさんの判定の甘さなら、これで落としたケータイが返ってくるはず。
 予想が当たり、翌朝ムサシくんは私のケータイを持って登園してきた。
「ありがとう~」
 思わず抱きしめて、ぐりんぐりんと頭を撫でた。しかしムサシくんは何故か浮かない様子だった。聞けば「パパが一昨日から帰ってこない」という。出張にでも行っているのだろうか。私に撫でられたのが嫌だったわけではなくてよかった。
 スマホを買い直さずに済み、上機嫌で一日を過ごしていると、夕方に園長から担任の園児のことで話があると呼び出された。
 スマホのことがバレたのかと思って、おそるおそる出頭する。
 お呼びでしょうかと顔をだしたところ、怒っている様子はなく、いつも通りの口調で話し始めた。ムサシくんのお母さんから電話で連絡があったそうだ。
「再婚して、名字が変わるらしいです」
 へえ。
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