橋のようには揺れない心
文字数 808文字
「吊り橋理論って知ってる?」
バカにしないでほしい。いくら私でも、それくらいは聞いたことがある。
「つまり、私の気持ちは、その吊り橋効果だって言いたいの?」
この一年、たくさんの事件に巻き込まれて、クラスの雑学くんと手を取り合って切り抜けてきた。
学校に暴漢が乱入してきたのを、撃退したのが始まりだった。知恵の雑学くんと、身体能力の高い私はいいコンビになれた。
次の事件は、連続失踪事件。私の友達も雑学くんの兄弟も巻き込まれて、解決に奔走した。まさか犯人が宇宙人で、学校を襲った暴漢も彼らに操られていたなんて、まるで想定外の真相だった。
幽霊屋敷と噂されている町外れの空き家から、悲鳴が聞こえて、助けに行ったら本当に幽霊がうじゃうじゃ出てきて襲われて、物理的にはどうしようもないから雑学くんの知識頼みでどうにか解決できた。
転校生の正体が実は魔女で、秘密を知ってしまった私たちと仲良くなれたのはよかったけど、雑学くんと妙に親密な様子でやきもきさせられて、でもやっぱり彼女は思い出だけ残して故郷に帰ってしまった。
最終的には、地球を真っ二つに切り裂こうとしたチェーンソーを二人で食い止めた。
だから、ハッピーエンドまではもう少し。
「ねえ、知ってる?」
ぐいっと顔を近づけると、雑学くんはいつまでも慣れないみたいで、必死に顔を背けている。
「吊り橋理論は俗説で、科学的に実証されたわけじゃないってこと」
「え」
さすがの雑学くんも、そこまでは知らなかったみたいだ。私だってたくさん調べたのだ。
「美人かどうかに左右されるんだってさ」
「そんな、身もふたもない」
その通り。そして私は誰よりも強いし、誰よりもカワイイ。
ちなみに実験では、ひとつ抜けている視点がある。
吊り橋を渡る前から、つまりただの日常を過ごしていたときから、恋に落ちていた場合のことだ。
「吊り橋理論なんて、言わないで」
最後の危機だけは、君には切り抜けられない。