下手すぎる

文字数 1,108文字


:@ki_kun3




「斎藤、見ろよ」
 声が聞こえた気がした。ハッとして当たりを見渡すが、田舎道には人どころか猫すらいない。幻聴の原因はわかっている。目の前の光景だ。
「いくらなんでも下手すぎるだろ」
 誰も聞いていないとわかっていながら、ひとり呟く。学校からの帰り道、いつもは堀井と一緒なのだけれど、少し前に喧嘩してからは、ずっとひとりで歩いている。
 気になったのは駐車場の二台の車だ。運転が下手なのか、ルールになんか従わないという反抗期的意思表示なのか、白線を無視して駐める人はたまに見かける。だけど目の前の二台は度を超していた。白線に対して垂直に駐めている。真横に並んだ白い車と黒い車が互い違いに並んでいた。どちらも角張ったミニバンだ。 二台分のスペースを二台で分け合っているのだから、計算は合うけれど、近くに一台でも車を駐められた、二台とも駐車場から出られなくなる。
 いつもなら、なぜこんな奇妙な光景が生まれたのか、堀井と推理合戦をする。ケータイで写真を撮って、堀井に送ろうか迷った末、画面を消してポケットにしまった。あいつもそんな気分になれないだろう。
「それにしても、なんだろうな」
 大抵の物事には理由がある。よく観察して、よく考えればわかるということを、僕は堀井に教えてもらった。
「たとえば……」
 白線が見えていなかったという説はどうだろう。雪が降った直後に駐めたのなら可能性はある。今見えているのは雪が溶けた後の状態なのだ。
「……いや」
 ここ数日、雪どころか雨すら降っていない。すぐに却下する。
 白線の指示通りに駐めたのでは目的が達成できなかったとして、一体何が違うのだろう。二台の車は塀のギリギリに駐められている。
「死角?」
 塀と二台の車はコの字型になっている。つまり、その中央に何か見られたくないものがあって、隠すために車を移動させたのではないだろうか。たとえば血痕など、何らかの事件が起きたことを示す何かだ。
 車の持ち主は、痕跡を消す道具を調達したら、戻ってくるはずだ。
 近づいて確かめようか迷った瞬間、ポケットにしまったケータイが震えた。取り出すと画面にはメッセージアプリの通知が出ている。
「……堀井?」
 メッセージも添えずに送られてきた写真をタップして表示する。
「下手すぎるだろ」
 思わず笑ってしまった。送られてきたのは道にチョークで描かれた模様だった。絵の感じで、それが堀井の作だとすぐにわかった。
 あいつは謎を解くのは得意でも、謎をつくるのはうまくないみたいだ。
「俺も変なもの、見つけたんだけど」
 さっき送り損ねた写真を堀井に送る。ケータイをポケットにしまう前に、返事はすぐに返ってきた。
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