幻影散歩 安全地帯

文字数 1,112文字









 転校生のリョウキくんは、不思議な男の子だった。
 ものすごい田舎の方から来ると聞いて想像していた姿とはまったく違い、むしろ都会でモデルや芸能活動でもしていそうなルックスで、身につけているものも高価そうなものばかりだった。
 白くて透き通った肌に、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な身体、アイドルのような男の登場に、私たち女子は色めき立ったけれど、騒がしいのは最初の一週間だけで終わってしまう。
 リョウキくんにいろんな女子が話しかけにいったけれど、答えはどれもそっけなくて、二往復以上会話が続かないのだ。女子が引いた後に何人かの男子が話しかけにいったけれど、そこでも同じようなやりとりが繰り返された。
 よほど人が嫌いらしい、とみんなが納得したころ、事件が起きた。
「それ、見せて」
 私が友達の聡子ちゃんに写真を見せていたら、リョウキくんの方から話しかけてきたのだ。
 お父さんから「スマホは中学生にはまだ早いから」と誕生日プレゼントとして、ポラロイドカメラをもらってから、お休みの日に散歩しながら写真を撮るのがマイブームになっていた。その成果を誰かに見せたくて、教室で広げていたのだ。
「リョウキくんって、猫好きなの?」
 見せていたのは、神社で撮った猫の写真だ。狛犬の脚の下にすっぽりと収まって寝ている。リョウキくんは質問には私の答えず「どこで撮った?」「いつ?」「この猫はいつもここに?」と矢継ぎ早に質問してきた。
 クラスメイトの視線を感じる。この瞬間から、暮らすの地味な女子から、話題の転校生と五分以上話をした唯一の生徒へと、私の印象が変わってしまった。
 むやみに目立つのは避けたかったのだけど、リョウキくんは「案内して」と私の手を取って立ち上がった。
「え」
 わけもわからず、二人で神社に行くことになった。もっとちゃんと説明してほしかったけど、リョウキくんは怖い顔をしたまま、何も答えてくれなくなってしまった。
 とにかく猫を見れば満足するのかと思って、狛犬のところに連れて行く。
「この子、いつもここで寝てるの」
 狛犬の下にすっぽりと身体を収めて、いつもここで横になっている。
「不思議でしょ」
 リョウキくんは狛犬にゆっくりと近づいて、猫に触れた。
「いや、不思議なんかじゃない。いられるのが、ここしかないんだ」
 青い顔をして震えている
「どうしたの、大丈夫?」
「ここ、神社じゃない。何を祀ってる?」
 そんなはずはない。地図にも載っている由緒正しい神社のはずだ。
 真剣な眼差しと震えから、冗談を言っているつもりじゃないのが伝わってくる。
「すごい邪気だ……だから安全な場所はここだけなんだ」
 転校生のリョウキくんは、不思議な男の子だった。
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