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文字数 1,237文字

 夕飯はしばらく作ってなかったので、久しぶりに一汁三菜の和食にした。学さんの料理もうまかったが、エスニック料理やらどこの国の料理かわからないものを大皿で出されることが多かったので、こうやって小皿に盛りつけるのは数日ぶりだ。
「和食だ!」
 やっぱりトキは和食が好きらしい。色々食べさせてみたが、一番喜ぶのは白いご飯と味噌汁だった。

 食べ終わると一緒に皿洗いをして、ぼーっとテレビを見ていたが、トキはすでに眠っていた。まだ九時にもなっていないが、たまには早寝もいいだろう。俺は電気とクーラーを消して、ガラス戸を開けた。カーテンで外の景色を隠しているが、今夜は何となく月が見たかった。トキに気づかれないようにベランダに出る。――満月だ。
 空を見つめて、ここ一ヶ月の目まぐるしい出来事をひとつひとつ思い出す。ばあちゃんが死にそうだと聞いて、新潟に行った。すると変なマネキンどもがばあちゃんの年齢を吸って、ばあちゃんは子供に戻った。それからはお袋や親父から逃げ、完二伯父さんをごまかしてトキが元に戻るまで思い出を作ってやると決めた。旭の言うとおり、元に戻ったら死んでしまう運命ならば、俺と笑いあった出来事もあの世まで持っていってもらいたい。これは俺のわがままだ。トキを傷つけたこともあったけれど、もう同じ失敗は犯さない。
 決心して部屋に戻ろうとしたとき、ガシャンという大きな音が聞こえた。
この辺は大学の近くということもあり、学生が多く住んでいる。しかし、たまに家で飲んでいた学生のテンションが上がって、外に置いてある何かを壊してしまうという事件もしばしばあった。今の音もそれだろう。それにしても、今の音はかなり近かった。気になって普段は見ない墓場の辺りに目を凝らす。すると、光の点がいつか見えた。今回は墓場の何かを壊したのか。俺は嫌な予感がして、ガラス戸をすぐに閉めた。
 
 体が重い。何者かにのしかかられているようだ。目だけが薄っすら開くことができる。俺は力を振り絞ってトキの方を見る。こういったことは前もあった。ばあちゃんの病室で見た、あの白いマネキン。子供の霊。また今度もトキの周りに白いマネキンが、いる。ただこの間と違うのは、どこからか響く声だ。
“この子は生者とは違う”
“普通の人間じゃない”
“どこにも行けない魂だ”
“それなら彼女から若さを吸い出そう”
“若い頃に戻りたい”
 腰を曲げた三体の白いマネキンたちが、トキの周りをぐるぐると回っている。若さを吸い出す? トキがどこにも行けない魂だって? そんなことない。少なくても俺の側にいることはできるはずだ。トキが襲われる。白いマネキンの老人たちの手に、煙のようにトキの魂が吸われていく。どうにか止めようと、金縛りの中、トキの方へと向っていく。
「そうは……行く……か」
 俺がトキの方へ向うのも無視して、マネキンたちはトキの若さを吸い込んでいく。それに比例するように、体の重さは増していく。ソファーから落ちたところで、俺は記憶を失った。
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