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文字数 551文字

 夕飯の席で、久子伯母さんにばあちゃんがDNA検査を受けたことを報告した。「また完二は人に黙って!」と最初は怒っていたが、ばあちゃん自身が承知して受けたことだと言ったら、途端に静かになった。
「お母ちゃんが望んだんなら、それは仕方ないね」
「まあ、これではっきりするからいいんじゃないですか? マスコミからは、みんなで守ればいいんだし」
 珍しく俊夫さんがばあちゃんを擁護した。俊夫さんも血縁者ではない。俺にとって義理の伯父だ。この人が阿部家の人間とうまく対峙している理由は、幸子さんがすでに「阿部家の人間ではない」からだ。つまり、幸子さんは俊夫さんの家、井上家に嫁いでいる。久子伯母さんもそうだ。久子伯母さんは田中家に嫁いだが、旦那さんが亡くなって、現在は幸子さん夫婦と同居している。女性の多い阿部家で、唯一「阿部」を正式に名乗れるのは、ミツ子さんと完二伯父さん、その息子娘の学さんと美佐子だけなのだ。だとしたら阿部家って一体なんだ? 血は繋がっていても、姓はほとんど違う人間が集まっているだけじゃないか。逆に、だからこそ阿部の血縁の人はミツ子さんを嫌うのかもしれない。
「結果が出るまで、一ヶ月くらいかかるようだから」
 それだけ言って食事を終わらせると、ばあちゃんは珍しく自分の部屋に閉じこもってしまった。
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