文字数 659文字

 新潟の阿部家本家は古いが、かなり大きい。一階は祭事を行なう際、一族全員が入れるように、襖を取り外すことができ、十八畳ほどの部屋になる。縁側からは緑の苔が生い茂る、池が見える。昔は鯉を飼っていたが、今はどうなっているのだろうか。一階はそれに台所、風呂と、前にばあちゃんがいた部屋、客間がひとつある。二階はミツ子さんが住んでいて、一階よりは大分狭い造りになっている。
 親族一同は、襖を取り外し、大広間を作った。そこに木彫りの机を出し、完二伯父さんが再び酒を持ってきた。徹はそれから逃げるように、隣の客間に布団をしいて眠ってしまった。幸太さんがいない今、飲みの相手は親父だけだ。再び俺も飲むように誘われた。断ったが、泥酔した親父に無理やりコップに注がれ、飲まざるを得なくなる。仕方なく一気にあおると、完二伯父さんは嬉しそうに手を叩いた。
「まったく、お父さんったら。浩介くんもごめんね」
 つまみやお菓子を運んできた美佐子が、呆れた瞳で父を見つめると、俺の前に金平牛蒡を置いた。
 酔っ払いの話は不愉快なものだった。ばあちゃんが死んだときに入る遺産で、完二伯父さんは引っ越したいらしい。うちの親父は義理の母親だから、露骨にはそういうことは言わなかったが、何か含むものはあるらしい。酒もまずい。どんなにいい酒でも、こんな席で飲む酒がうまいはずはない。美佐子の作った金平牛蒡だって、うまく感じない。俺は引き止める伯父さんを無視して、徹の隣りに布団を敷き、自分が病院へ行く時間まで眠ることにした。
                   
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