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文字数 1,678文字

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「あっけない、終わり方だったな、掛軸は」
「ディアヌスという存在自体が、世代交代を前提にして魔導力を得る魔王だったのだから、仕方ないわね。神様、とあがめられてもね」
 ノノ、春葉と合流した僕らは今、駅前のクリニックのロビーにいる。アーケードは、バオバブが枯れていくと同時に崩れていった。
 落下する鉄柱などを避けながら逃げていた僕は、アーケードの影響が及んでいない、老人向けクリニックの扉を開けて、無断侵入した。
 夜になったので電気をつけると、居場所がわかったのか、ノノと春葉がやってきた。
 電気で灯りがついているのは、ここだけだ。
 僕ら三人の間には、『真実の羽根』の天秤が型崩れしながら、ホログラムとして浮いている。扉を拒絶した天秤が。
「さて。〈アース・オリジン〉は、真実の羽根と天秤が破壊したワケ。真相はそういうことね。宇宙から飛来した〈シミュラクラ〉の魔導力でブーストされて、天秤は滅亡を選択した。ここには三人しかいないけど、どうするの」
 春葉が手を上げる。
「パーティしよう、乱こ……げふっ」
 ノノの拳が春葉のみぞおちに入る。
「却下」
「ぶー」
「僕は倒せただろうか、掛軸陸前の〈亡霊〉を」
 僕が言うとノノは、
「昨日よりはすっきりした顔をしているけど、果たして倒せたのかしらね。アンタの優柔不断さは、宿敵を物理的に倒しても治らないのね」
 と、ため息を吐いた。今はため息を吐けるくらいには、リラックスできている。
「ノノ。おまえを送り込んだ奴がいるんだろ? 砥石先生が『上の了承は得ている』と言ってた気がするし」
「よく覚えていたわね」
「上って、誰のことだったんだ?」
 椅子に座っているノノは足を組みなおし、
「アンタの母親よ」
 と、唇の端を上げた。
「母親?」
 突然、母親、という言葉が出てきて、あの転がった母親の頭部を思い出し、次いで別居すると言って出ていった母親の怒りの顔を思い出した。
「意外だったかしら」
 春葉はソファでくつろぎ、げらげら笑っている。
「家族のことなんて眼中にないもんね、晶は。春葉、知ってるよ!」
 その通りだった。今日も指摘されたばかりだった。
 はぁ。病院で始まり、病院で終わる話だとばかり思っていたが、家族の話に還元させられるとは。フロイト先生か?
「アンタ、幼いころ、両親に『おまえはどぶ川に捨てられていたのを拾ってきてやったんだ! 飯食わせてやってるだけありがたいと思え!』って、何回も怒鳴られたこと、あるでしょ」
「ある」
「あれ、本当のことだったのよ?」
「は?」
「だから。あれ、本当のことだったのよ? どぶ川に捨てられていたのを拾ってきたって話は」
「…………」
「アンタはモルモットだった。まさか宇宙からの飛来物だったなんて知らなかったけど、なんらかの大規模実験が行われていて、病気のケースモデルにされていることも、知ってた。実験は、アンタの両親の合意のもと、どぶ川から助けられたときから始まっていたのよ」
「そうだったのか……」
「アンタの両親は、オリジンの方とレプリカの方の両者間で、交流があった。情報を交換し合っていたのね。レアケースだったワケ。地球を滅亡から救ってくれ、というのは、モルモットで得た利権を持っていたお母さんの命令よ。地球外生命体を捕獲しただけでもすごいのに、モルモットにしつつ育て上げたんだからね、それも、カルラの地球でも、ね」
 とはいえ、僕は〈アース・オリジン〉を破壊したあの彼女のコピーなんだろうけれど。
「そーだ! 忘れてたよぉ! チェインソーでご神木を斬らなくちゃ! 山猫神社のご神木!」
 いきなり思い出した春葉はソファから飛び上がった。
「天狗とか外法とかヤバイでしょー。あと二時間で、迦楼羅も終わるし、ぶった斬ろうよ!」
 壁掛け時計は午後十時を指していた。
「行こうか、最後に。今日の最初にしようとしてたこと」
 僕は言う。
「そーだよ、春葉、有言は実行するんだよ?」
 春葉は頷く。



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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