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文字数 1,298文字
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テレビと言えば。
中退してしまった高校に、絶大な人気を誇っていたひょうきん者がいて、僕はそいつが嫌いだった。そいつは同じ中学出身で、中学生時代に「いてもいなくても同じ存在だった」と僕に語ったことがあった。
彼はその人生リベンジのために、高校に入ってから、笑いを取ることによってみんなの人気者として再生を謀り、それは成功した。
数々の女性を抱き、僕が大好きだった女の子はだいたいそいつの「お手付き」だった。
うんざりする話だ。だが、話は続く。
そいつは高校生にしてテレビスターになってお茶の間を騒がせたのだった。高校生タレント。みんなが彼を祝福した。
僕だけが彼を憎んだ。
憎んだが、そいつはテレビの電源をつけるとひょうきんな顔をしてぺらぺらしゃべっているのだから、避けるのは難しい。気味が悪い。
しかしその嫌悪感は僕の劣等感の現れだから、余計とたちが悪かった。
かくしてほぼすべての家庭に置いてある、テレビ放送という文明の生んだメディアは、僕の心を殺す、『文明が生んだ殺人兵器』となった。……実際、そいつの顔がテレビに出てきたとき、僕はボールペンで自分の太ももを刺したことがある。
出血した。治ったと思ったら、ボールペンのインクがまるで入れ墨のように体の中に残ってしまった。
僕の完全敗北である。別にそいつにとっては僕なんて地面を歩く大量の蟻の一匹程度にしか思われていないだろう。ボールペンで自分の太ももを刺したのももちろん知らない。僕の存在なんて取るに足らない。間違いない。
本当に、うんざりする話だ。
僕の横で歩いている一人、幼馴染の白梅春葉もまた、そいつのファンであり、おそらくはそいつとセックスの経験がある。
本当に、うんざりする話だ。
と、下を向いて歩いていたら後方から蹴りが飛んできた。
蹴りを受けた僕は前に倒れそうになった。
「痛いなぁ、なにすんだよ、ノノ」
「アンタ、今絶対、よくないこと考えてる。だから童貞なワケ」
「ひどい……」
僕はつぶやく。
「テレビスターってどんな気分なんだろうな」
「はぁ? アンタとなんら関係のない世界なんですけど、考えて意味あるワケ?」
「ははぁーん。春葉、わかっちゃったもんねー」
「言わなくていいよ、その先は」
「ぷくぷくぷー。そんなん、晶が相手になるわけないじゃーん。勝ち組と負け組の差は明確でしたー。ぷくぷー……」
「なんだ、その笑い方は」
春葉が僕の前に立ちふさがるように躍り出る。
「でも、春葉は、ここ、〈アース・レプリカ〉の春葉じゃないのでしたー」
そうだった。この春葉は偽物……じゃなくて本物、……いや、どっちでもいい。とにかく、僕が知る春葉じゃないのだった。
「そんなに掛軸くんのことが気になるの? バカだな、晶は。成功者をうらやんでどーすんのさ。殺人予告でも出すの? あ、そっか。明日でこっちの地球も終わるんだった。……そうね、じゃあ、少し向こうの地球の話をしようか。向こうの世界の、晶と掛軸くんの」
二人の、因縁の話を、と春葉は言った。
テレビと言えば。
中退してしまった高校に、絶大な人気を誇っていたひょうきん者がいて、僕はそいつが嫌いだった。そいつは同じ中学出身で、中学生時代に「いてもいなくても同じ存在だった」と僕に語ったことがあった。
彼はその人生リベンジのために、高校に入ってから、笑いを取ることによってみんなの人気者として再生を謀り、それは成功した。
数々の女性を抱き、僕が大好きだった女の子はだいたいそいつの「お手付き」だった。
うんざりする話だ。だが、話は続く。
そいつは高校生にしてテレビスターになってお茶の間を騒がせたのだった。高校生タレント。みんなが彼を祝福した。
僕だけが彼を憎んだ。
憎んだが、そいつはテレビの電源をつけるとひょうきんな顔をしてぺらぺらしゃべっているのだから、避けるのは難しい。気味が悪い。
しかしその嫌悪感は僕の劣等感の現れだから、余計とたちが悪かった。
かくしてほぼすべての家庭に置いてある、テレビ放送という文明の生んだメディアは、僕の心を殺す、『文明が生んだ殺人兵器』となった。……実際、そいつの顔がテレビに出てきたとき、僕はボールペンで自分の太ももを刺したことがある。
出血した。治ったと思ったら、ボールペンのインクがまるで入れ墨のように体の中に残ってしまった。
僕の完全敗北である。別にそいつにとっては僕なんて地面を歩く大量の蟻の一匹程度にしか思われていないだろう。ボールペンで自分の太ももを刺したのももちろん知らない。僕の存在なんて取るに足らない。間違いない。
本当に、うんざりする話だ。
僕の横で歩いている一人、幼馴染の白梅春葉もまた、そいつのファンであり、おそらくはそいつとセックスの経験がある。
本当に、うんざりする話だ。
と、下を向いて歩いていたら後方から蹴りが飛んできた。
蹴りを受けた僕は前に倒れそうになった。
「痛いなぁ、なにすんだよ、ノノ」
「アンタ、今絶対、よくないこと考えてる。だから童貞なワケ」
「ひどい……」
僕はつぶやく。
「テレビスターってどんな気分なんだろうな」
「はぁ? アンタとなんら関係のない世界なんですけど、考えて意味あるワケ?」
「ははぁーん。春葉、わかっちゃったもんねー」
「言わなくていいよ、その先は」
「ぷくぷくぷー。そんなん、晶が相手になるわけないじゃーん。勝ち組と負け組の差は明確でしたー。ぷくぷー……」
「なんだ、その笑い方は」
春葉が僕の前に立ちふさがるように躍り出る。
「でも、春葉は、ここ、〈アース・レプリカ〉の春葉じゃないのでしたー」
そうだった。この春葉は偽物……じゃなくて本物、……いや、どっちでもいい。とにかく、僕が知る春葉じゃないのだった。
「そんなに掛軸くんのことが気になるの? バカだな、晶は。成功者をうらやんでどーすんのさ。殺人予告でも出すの? あ、そっか。明日でこっちの地球も終わるんだった。……そうね、じゃあ、少し向こうの地球の話をしようか。向こうの世界の、晶と掛軸くんの」
二人の、因縁の話を、と春葉は言った。