文字数 714文字

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 母と父は別居している。僕と弟は父の家に住んでいる。
 ニートの僕と違って、父も弟も仕事のできる人間で、それでどうにか自分の住む家は回っていた。
 僕はニートであるだけでは申し訳ないと、職安に通う。職業安定所。
 もうひとつ、心療内科という場所にも通う。
 デイケアや職業訓練に通わないか、と言われたがそれは拒否した。

 職業安定所と言っても、通院している人間用の特別な窓口での仕事探しだ。相談員が相談に乗ってくれるかたちになっている。もたつきながら、職を探す。二週間に一回通うと求人が変わる程度の、ゆったりした進みの相談室だ。
 職があるのは身体が不自由なひとばかりで、こころの病気というと、まず、雇ってくれない。探す根気だけでどうにかなるものなのか、ちょっと謎だ。
 
 父や弟はワーカホリックなまでに仕事をする。その家の中で唯一の怠惰な人間が僕で、部屋に閉じこもってゲームばかりしていた。
 小説は、潰されてからはほとんど書けないでいるが、自分としては小説を書くということをしたかった。
 どんなジャンルを書きたいか。それは大きな謎だ。経験も知識もなく、書く資格のない僕は、書かないままで、だんだん時間だけが経っていく。
 自分の中にこもる人間なので、家族の会話はほとんどなかった。
 ガキの頃から自分の殻にこもる奴だったのだ、そんな僕がいきなり明るくなったら怖いだろう。


 父にも弟にも感謝している……。


 しかし、感謝の言葉が父と弟に伝わることはなかった。
 タクシーから降りて玄関ドアを開けると、家の中は血まみれだったのだ。
 家に、死の匂いが立ち込めていた。



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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