8
文字数 1,872文字
*****
おまえにはなにもできない、とクラスメイトたちが言う。おまえにはなんの才能もないのだから、と。
やめちまえ、やめちまえ、人間をやめて死んでしまえ、と言う。
町の人々は冷たい。バカにするだけバカにして、学校を中退したら今度はこのカルラ町から出ていけ、と言う。
僕が歩いているだけでひそひそ話を見せつけてくる。早く出ていけ。そういうことだろう。
子どもたちは口々に「デブ! デブ! ブサイク!」と僕を笑う。太ってないしブサイクなんて腐るほど存在するし、そのなかの一人でしかない僕にどうしろと言うのだろうか? 今の世の中は子ども様が偉いので、口出しできない。
悔しかった。
だが、僕は病気で、それは進行し、怯えが止まらないので、ほとんど仕事ができる状態ではなかった。
部屋の中でうずくまって、動けない身体をどうにか動かそうともがくのがせいぜいだった。
こんな僕に、確かにできることなんて、なにもなかった。
僕は負け犬だ。負けたまま、死んでいくのだ。その事実が悔しくて、悔しくて、どうにかしたくて。だけど、どうにもならなかった。
元クラスメイトになったひとたちは今日もへらへらと、人生をうまく生きていく……。
いずれそのクラスメイトが生んだ子供たちが僕を攻撃してくるだろう。
風聞は広まり、知らないひとたちも僕を迫害しだすだろう。
ここは地獄だ。
地獄以外に、どう形容すればいいというのか。
ここは地獄だ。
「嫌なことを思い出したな……。いや、現在進行形の、嫌なことを」
僕らは階段を登り切り、二階の奥の部屋のドアの前にくる。
「あー、もう。ムカつくこと思い出したらイライラしてきたぜ。どうなってんだ、ったく。このドアだろ? 早く開けて中に入ろう……」
僕がドアノブを回す。
「あ、バカ! 危な……」
ノノが叫ぶ。
「えっ?」
大きな衝撃音。なにかがドアを突き破った。触手だ。
ドアの木材が飛び散り、僕は木材の破片で腕をすりむく。
目を見開いていると、ドアを突き破って伸びてきた固い触手としか言いようのないものが三本、僕の腹部と両足の太ももに突き刺さった。
「うがぁッ」
ドアを粉砕しながら、触手が引っ込んでいく。
太ももを刺された僕はその場で崩れ折れた。
壊れたドアの向こう側にいる、〈弟〉の姿を、僕は見る。
「なん……だと?」
弟? 水野玄人……なのか?
そこにいたのは、水野玄人。弟の姿だった。
黒いマントに身を包んだ僕の弟がドスのきいた声を出す。
「おれの名前はディアヌス。この町を統治し、また破壊と再生を司る者だ」
ノノが手の指の爪を噛む。
「カルラ町の魔王ね。ふーん。町の魔王ごときがこの世界の終わりに出てきてなにをしようってのかしら」
躊躇いがちに、でも強気なノノの言葉。挑発するようにしゃべっているのがわかる。
尋ねることが僕にはある。ノノを遮るように、僕は弟に尋ねた。
「お前、親父を……殺したのか……?」
「然り」
意味がわからんが。なんだ、然りって。殺した……のか。
マントと、背中から生える触手から察するに、弟は人間じゃない。ノノの言葉を鵜呑みにすれば、魔王らしい。
少なくとも、普通の人間じゃない。マント以外は半裸で、黒いビキニパンツをはいている。マッスルな体つきに、黒ビキニパンツ。はて、僕の弟はこんな奴だったっけ?
それにこの町、カルラ町の魔王って表現がよくわからんが、魔王はいっぱいいるのか?
「世界の破滅を救わんとする者たちよ。やめておけ。貴様らでは荷が重い」
やめておけ、だと?
僕はその『言葉』に反応する。言葉自体に。
「やめろじゃねー、ボゲェ!」
僕が叫ぶと、弟の背中から飛び出してきた触手が、僕の左肩を貫いた。
「うわあああああああああぁぁぁ!」
血が飛び散る。そういやさっき腹部を刺されて、声を出すのに力を使いすぎた。力を込めないと声すら出せない。
……そこら中から血が出る。気を、失いそうだ……。
まばゆい光が弟……じゃなかった、魔王のいる部屋を照らした。
思わず目を閉じる。
目を開けたときには、魔王の姿は、なかった。
「シット! 逃げられたわ」
春葉にしても弟にしても、一体なんなんだ?
こいつら、本人なのか?
そっくりさんじゃないのか?
疲労がたまって、再び目を閉じる。
僕に眠りが訪れた。これで死んでしまったら、笑えるな。カルラ町の人たちは大喜びだ。
おまえにはなにもできない、とクラスメイトたちが言う。おまえにはなんの才能もないのだから、と。
やめちまえ、やめちまえ、人間をやめて死んでしまえ、と言う。
町の人々は冷たい。バカにするだけバカにして、学校を中退したら今度はこのカルラ町から出ていけ、と言う。
僕が歩いているだけでひそひそ話を見せつけてくる。早く出ていけ。そういうことだろう。
子どもたちは口々に「デブ! デブ! ブサイク!」と僕を笑う。太ってないしブサイクなんて腐るほど存在するし、そのなかの一人でしかない僕にどうしろと言うのだろうか? 今の世の中は子ども様が偉いので、口出しできない。
悔しかった。
だが、僕は病気で、それは進行し、怯えが止まらないので、ほとんど仕事ができる状態ではなかった。
部屋の中でうずくまって、動けない身体をどうにか動かそうともがくのがせいぜいだった。
こんな僕に、確かにできることなんて、なにもなかった。
僕は負け犬だ。負けたまま、死んでいくのだ。その事実が悔しくて、悔しくて、どうにかしたくて。だけど、どうにもならなかった。
元クラスメイトになったひとたちは今日もへらへらと、人生をうまく生きていく……。
いずれそのクラスメイトが生んだ子供たちが僕を攻撃してくるだろう。
風聞は広まり、知らないひとたちも僕を迫害しだすだろう。
ここは地獄だ。
地獄以外に、どう形容すればいいというのか。
ここは地獄だ。
「嫌なことを思い出したな……。いや、現在進行形の、嫌なことを」
僕らは階段を登り切り、二階の奥の部屋のドアの前にくる。
「あー、もう。ムカつくこと思い出したらイライラしてきたぜ。どうなってんだ、ったく。このドアだろ? 早く開けて中に入ろう……」
僕がドアノブを回す。
「あ、バカ! 危な……」
ノノが叫ぶ。
「えっ?」
大きな衝撃音。なにかがドアを突き破った。触手だ。
ドアの木材が飛び散り、僕は木材の破片で腕をすりむく。
目を見開いていると、ドアを突き破って伸びてきた固い触手としか言いようのないものが三本、僕の腹部と両足の太ももに突き刺さった。
「うがぁッ」
ドアを粉砕しながら、触手が引っ込んでいく。
太ももを刺された僕はその場で崩れ折れた。
壊れたドアの向こう側にいる、〈弟〉の姿を、僕は見る。
「なん……だと?」
弟? 水野玄人……なのか?
そこにいたのは、水野玄人。弟の姿だった。
黒いマントに身を包んだ僕の弟がドスのきいた声を出す。
「おれの名前はディアヌス。この町を統治し、また破壊と再生を司る者だ」
ノノが手の指の爪を噛む。
「カルラ町の魔王ね。ふーん。町の魔王ごときがこの世界の終わりに出てきてなにをしようってのかしら」
躊躇いがちに、でも強気なノノの言葉。挑発するようにしゃべっているのがわかる。
尋ねることが僕にはある。ノノを遮るように、僕は弟に尋ねた。
「お前、親父を……殺したのか……?」
「然り」
意味がわからんが。なんだ、然りって。殺した……のか。
マントと、背中から生える触手から察するに、弟は人間じゃない。ノノの言葉を鵜呑みにすれば、魔王らしい。
少なくとも、普通の人間じゃない。マント以外は半裸で、黒いビキニパンツをはいている。マッスルな体つきに、黒ビキニパンツ。はて、僕の弟はこんな奴だったっけ?
それにこの町、カルラ町の魔王って表現がよくわからんが、魔王はいっぱいいるのか?
「世界の破滅を救わんとする者たちよ。やめておけ。貴様らでは荷が重い」
やめておけ、だと?
僕はその『言葉』に反応する。言葉自体に。
「やめろじゃねー、ボゲェ!」
僕が叫ぶと、弟の背中から飛び出してきた触手が、僕の左肩を貫いた。
「うわあああああああああぁぁぁ!」
血が飛び散る。そういやさっき腹部を刺されて、声を出すのに力を使いすぎた。力を込めないと声すら出せない。
……そこら中から血が出る。気を、失いそうだ……。
まばゆい光が弟……じゃなかった、魔王のいる部屋を照らした。
思わず目を閉じる。
目を開けたときには、魔王の姿は、なかった。
「シット! 逃げられたわ」
春葉にしても弟にしても、一体なんなんだ?
こいつら、本人なのか?
そっくりさんじゃないのか?
疲労がたまって、再び目を閉じる。
僕に眠りが訪れた。これで死んでしまったら、笑えるな。カルラ町の人たちは大喜びだ。