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文字数 844文字

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 ここはどこなんだろう。いつから僕の世界はおかしくなったんだろう。
 この幻聴は幻聴じゃない、という。ひとのこころのなかを盗み見て、応答し、僕をあざ笑い、追い詰めていくこれは誰かの差し金だ、というのか。そんなに僕のことが気に食わないなんて。締め付けて殺す。『地域の目はあなたを見ています』の看板は、『あなたを盗撮盗聴し噂話を流します』という意味だった。おかしいのは僕じゃない。カルラ町全体がおかしかったのだ。この町が仕掛けた監視制度の、そもそもの前提が間違っているだろう。〈幻聴〉は、僕の〈欲望〉を覗き見てバカにして笑ったり激怒したりする。しかし、ひとの脳みそを見て欲望という汚いと思われる部分を『持つこと自体』が間違っている、と断定し怒鳴り散らしあざ笑いしゃべりちらし、『こころ』を縛り付けることは、間違っている。こころを侵犯するのは犯罪どころの話ではない。


 あるひとのことを知って、そいつのことが気に入らず、そいつの個人情報を握ったとして、個人情報をネタにして悪口や嫌がらせをするとき、そいつの悪い点を見出すことは知恵ではないし、悪口や嫌がらせをすることは勇気ではないし、それを行うこと自体を自分らは社会正義だと思っているのだろうが、追い詰めてすっきりしたいという欲望を節制できていない、独りよがりの寄せ集めで、そいつをみんなで追い詰めるのは衆愚である。
 つまり、正しい個人の在り方である『知恵』『勇気』『欲望の節制』で構成される『魂の三部分』の真逆をしているそのひとは、魂が無秩序な状態であり、『不正』である。


 なんで気づかない。僕を追い詰めることは社会正義ではなく、『不正』だ、と。こころの審判は許されるものじゃない。『特定しました社会』の害悪。相互監視の行き届いた世界。ここは収容所だ。
 ……浅い。浅すぎる。僕が今思っていることも浅ければ、追い詰める大衆心理も底が浅い。よくそれで正義を振りかざした気になれたもんだ。



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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