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文字数 1,804文字

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 向こうの地球でも、掛軸陸前は人気者だったよっ。高校デビューなんて言葉が昔あったみたいだけど、まさにそれ。小学中学の時代のルサンチマンを晴らすために、掛軸は、みんなの人気を勝ち取った。勝ち取って、女は抱きまくったし、スクールカーストの最上位に君臨した。学校じゃ誰も逆らえない。
 彼のことが気に食わないのは、大人たちだった。煙たがれたの。だから、山猫神社の伝承を友達伝いに聞いたとき、神社に向かった。
 そこには屈強なディアヌスが待ち構えていたけど、その頃の掛軸はもう裏の世界と通じていたから、この国では所持が禁止されている銃器を魔導力と混ぜて使って……それも、手下を何人も連れて……ハチの巣にした。
 そして掛軸は町の最高権力と魔導力を手にした。ディアヌスという魔王になって。大人たちを統率した。


 一方、やはり小学校でも中学校でもいじめられていたのに高校でもいじめられっ子から抜け出せない、スクールカースト最下位がいた。それが晶だったの。向こうの地球の晶は、女の子だったんだけど、女の世界のいじめはひどいものだったのよ、こっちの地球と同じように、ね。
 地元の民俗学に触れた晶は、ディアヌス制度も知り、現在、闇の世界でも君臨しているのが同じ高校のスター、掛軸だと知る。
 彼女は必死になって対ディアヌス兵器を探したわ。彼女はもともと探偵部なんてものをつくるほどのディテクティヴマニアだったから、その探偵趣味で、いろんな伝承を紐解いていった。……普通は紐解けるはずのない、伝承というものを、本来持っていた潜在的な魔導力で、紐解いていった。
 彼女にはそうする理由があった。男のスクールカースト上位がカースト最下位の女の子にする仕打ちなんて、暴力を伴う性的なものだし、女子もそれを焚きつける。なにしろ、スター・掛軸サマの敵なんだから。最下位だ、というだけで、人類の敵と認定される。それがこの世の中なのはニートであるこっちの晶もご存じのことでしょ。そういうことなのよ。
 そして、見つけてしまったのよ、見つけてはならない〈物質XYZ〉を。
 これは、あってはならないものだった。触れてはいけないものだった。葬られたはずのものだった。
 この物質の情報を解読してしまった晶の魔導力は暴走した。
 掛軸たちはレプリカの地球へ逃げたわ。それを追って、水野玄人くんも、春葉も、ね。
 その情報がもたらされるのが遅かったオリジンの地球人たちは、星ごと滅んだ。晶の抱いた憎しみによってね。

 多宇宙は有限で、〈アース・オリジン〉と鏡のようになっているのは、違う宇宙につくられた〈アース・レプリカ〉ただひとつだけ。
 レプリカをまたつくれるか、と聞かれたら、つくれない、というしかないの。
 レプリカをつくった時のエネルギーの残光を集めた結晶が、晶が見つけ解読してしまった〈物質XYZ〉だ、とみんな噂したわ。これはいわゆる『オーバーテクノロジー』なの。
 オーバーテクノロジーというのは、現代の科学力、または魔導力では使うことが不可能なテクノロジー。おそらくはほかの星かほかの宇宙からもたらされたテクノロジー。
 もしくは……神様の力の断片。
 テクノロジーを手にしても、晶には使いこなせなかったのよ。残念ながら。
 そして、〈アース・オリジン〉は、地方都市の高校生の因縁の関係がこじれたという理由だけで、消滅した。



 ……でも、レプリカをつくるときに使われたテクノロジーの残光があるとすればそれは『つくった側』のオリジンにしかないはずで、レプリカは安全だろう、と思われていた。
 だけど、現実は違ったの。
 もう、こっちの〈物質XYZ〉は暴走してる。それは観測すればわかることで。
 あんな悪魔の物質を解読できるとしたら、水野晶しかいない、と考えた。そうなんでしょ、紫延ノノ。


「ええ。そーなんですケド」


 しかし、物質XYZは、この町のどこかにある。それを誰かが所持しているか、勝手に暴走している。
 この町は、『グランド・ゼロ』なんだー。
 希望もまた、晶。あなたなの。

 自分の価値が見いだせないと思っているのは知ってるけど、あなたにも価値はある。少なくとも、春葉たちには、晶が必要なんだよ。

 さ。先を急ぎましょう。
 こっちの世界の山猫神社へ。



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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