文字数 1,054文字

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 紫延ノノはナース服に身を包んでおり、頭の上にバニーガールのウサミミを装着した。
 玄関から中は血まみれだった。
「犯人はまだ近くに、いるみたいなんですけど?」
 ウサミミに耳を澄ますノノが言う。耳がよく聞こえるようになるとか、そういうものなのだろう、ウサミミ。って、そんなバカな。だがそうとしか考えられない。必然性がなさすぎる。それよりも、近くにいるって?
「は、犯人が?」
 そう、犯人。
 血の海。これは刑事事件だ。
 血液の異臭だけでなく、殺人犯、という単語が頭に浮かぶと僕は、がくがくと膝が震え、くずれ折れた。女の子座りでぺたんとドアの外でへたり込む。もう、立てる気がしない。
 ノノは玄関が閉まらないように手で押さえながら、もう一方の手で、家の中を指さす。
 天井まで血が飛び散っている。フローリングは血が池をつくっている。
「血って、刃物の当たり所によっては血を噴き出すワケ。いい加減目をそらさずに見てほしいんですけど。こいつ、あんたの親父じゃないワケ?」
 目の焦点が定まらない。
 必死に、ノノに指さされた場所を見る。

 肉塊が、そこにはあった。二階に上る、廊下の正面にある階段の下。
 父だった。

「お、弟は!」
「ほかのNPCの生体反応は、ないわよ。逃げたか、さらわれたか……、いや、違うか」
 舌打ちするノノ。ウサミミが揺れる。
「犯人の生体反応なら追える。走ってほしいんですけど。捕まえにいくわ」
「殺人鬼を?」
「悔しくない?」
「血の匂いで吐きそう」
 父と思しき人物の惨殺体を目の当たりにして。平然としていられるわけがない。
「吐しゃ物が胃から口元に上がって来たら飲み込めば。意外と飲み込めるものよ。詰まって死ぬこともあるケド」
「犯人は?」
「隣の家でもパワーのチャージをしようとしている」
「パワーチャージ?」
「蚊が血を吸うように、ね」
 ノノの右手が、僕の左手を握り、地面に尻をつけて座っている僕を起き上がらせた。
 暖かく、強い手のひらだと、感じる。
 僕はノノについていくことに決めた。目指す先は隣家だ。隣は一軒しかない。と、すれば行先は林田さんの家。
「頭が割れそうだ」
「そんな発言していると真っ先に頭カチ割られるけど?」
 自分の住んでいた家の玄関を閉める。ウサミミナース服に引っ張られてやっと歩けるその姿の僕は、現実感がつかめないのが丸出しだ。せかされて走る。僕らは逃げるようにその場、僕の家を、走って去った。


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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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