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文字数 1,768文字

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 首が苦しくなり、目を開けると、寝ている僕にまたがって、春葉が僕の首を絞めていた。
「地球、壊れるんだよ? よかったじゃん、地球が終了して。いじめられっ子だったもんね、ずっと。高校を中退してからは近所から蔑視されてたもんね。もちろん、春葉も晶のこと、キライなところの方が多いかなぁ? 蔑視されるにはそれなりの事情がある。晶がクズだからだよっ! クズは死ねばいいの。世間はみんなそう思ってるよ。水野晶が死ねばいいのになぁ、って。だから、死んじゃえ!」
 そういえば春葉、林田家のひとたちを食べていなかったか? 血がべっとりだったんだぞ、ずっと。いろんなことが多すぎてわけがわからなくなっていたが、わけがわからなくなるほうがおかしい。春葉。こいつは殺人鬼だ。正真正銘。
「そう。春葉は鬼だよっ! ついでに言うとねぇ。春葉も〈アース・オリジン〉からの〈移民〉なんだ。こっちの地球の春葉は、春葉が殺しちゃったよっ」
「ぐ……ぎぎ……。い、いつ……ころ……した」
「ずっと前。〈アース・オリジン〉が滅亡するって噂はずいぶん前に流れていたんだ。しかも、春葉は晶の幼馴染だからね。こうなることは、……晶が失敗することは、……目に見えていたんだぁ」
 どういうことだ?
「どういうことだ、って顔してるね。教えてあげるよ。春葉が、ざっくりと、その身体に、教えてあげるよっ!」
 首がもっと強く絞められてもう意識が飛びそうだ。
「『アーク』って聞いたこと、あるよね。『失われた契約の箱』の寓意を持つものを、アークって呼ぶこと、あるよね。あっちの地球の晶は、偶然見つけちゃったんだ、アークである、〈物質XYZ〉を、ね。見つけたのも間違いなら、探偵気取りして〈物質XYZ〉を読み解こうとしたのも間違い。それはアークだから。触れてしまって、神の裁きを受けた。〈オリジナル〉にしか存在しない〈オリジナル〉の契約を破ったことになったんだよ。だから、〈アース・オリジン〉は〈オリジナル〉の方にしか存在しない〈物質XYZ〉のせいで、滅んだ」
 なに言ってんだ、こいつ。
 苦しくて頭の血管が圧迫されているところになにか言い出しやがって。
 意識がもうろうとするなか、いきなり春葉が吹き飛ばされ、部屋の奥の本棚に激突した。
「痛いー。なにすんのよぉ」
 春葉の頭上に書物の雨が降る。
 蹴り飛ばしたのはノノだった。ノノはナース服を今日も着用している。
「朝っぱらからいちゃついてんじゃないわよ。騎乗位でお楽しみ中だったのかしら? キモいんですけど」
「い、……いちゃついてねぇ……だろぅ。ころ、されか、けた……」
 息ができる。僕は眩暈を抑えながら空気を大きく吸い込む。
「春葉ちゃん。この子はねぇ、〈アース・レプリカ〉で責任を取ってもらうのよ。〈アース・オリジン〉を滅亡へと導いてしまった罪を償わせないとならないんだよねぇ」
「罪? 償う? なに言ってんだ?」
「レプリカにもレプリカ特有の〈物質XYZ〉に対応したものがある。それはこの町にあるっていうことはわかっている。だけど、位置も、それが『どんなもの』なのかもわかってない。いっそ石板ならばいいのにね。『アーク』への嗅覚が働くのは、晶なのよ。水野晶。『見ずの晶』であり、『水の晶』……水晶とも読める名前の、アンタを使うんですけど。それこそ、水晶代わりにしてネ。あきら、が『あきらめる』って意味じゃないことを願うわ。『あきらめない』でいてほしいヨネ」
「意味が全くわからん」
「わからなくていい。探すわよ、アークを」
 倒壊した本棚をかき分けて出てくる春葉。
「ああ、もう、部屋がぐちょぐちょだよぉ」
「あら。ぐちょぐちょになるほど感じちゃったかしら。濡れたかしら? 刺激が強すぎたカモネ」
 ノノの話を遮るように、携帯電話の着信音が鳴る。
 電話に出ると、担当医の砥石先生だった。
「ごめん、ごめん。修正があってね、業務連絡。明日、世界が滅ぶ」
「は?」
「いや、だからさ。秘密事項なんだけど、明日、世界が滅ぶから。以上。良い旅を」
 通話は切れた。
 ノノと春葉の視線が僕に集まる。
 僕は肩をすくめて言った。
「明日、世界が滅ぶってさ」
 置時計は午前八時を指していた。

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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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