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文字数 1,934文字
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走りながら回想する。走馬灯のように感じて、縁起でもないと、こころから走馬灯という単語を振り切る。
思い出す。思い出す。思いだす。でもそれは今日の出来事で。
夕闇を増殖するアーケードが遮る。増殖するアーケードとは、一体どういうことを指示しているのだろう。
僕はひたすら走った。
……………………。
レプリカをつくった時のエネルギーの残光を集めた結晶が、晶が見つけ解読してしまった〈物質XYZ〉だと言われているわ。これはいわゆる『オーバーテクノロジー』なの。
オーバーテクノロジーというのは、現代の科学力、または魔導力では使うことが不可能なテクノロジー。おそらくはほかの星かほかの宇宙からもたらされたテクノロジー。
もしくは……神様の力の断片。
……………………。
神様の力の断片、か。悪くない響きではあるが。
……………………。
春葉の投げかける言葉。
自分の価値が見いだせないと思っているのは知ってるけど、あなたにも価値はある。少なくとも、春葉たちには、晶が必要なんだよ。
……………………。
ノノのきつくてもまっすぐ前を向いた言の葉。
読心術や他人の心のコントロールなんて、ずーっと権力者が主導で研究してきたのは本当のことダヨネ。疑いないわけ。だから、魔導力は秘伝だったのよ。ディアヌスの伝承とそれは結び付くようになって、怪異の政治学が生まれた。カルラ町は、そういう町なわけ。
……………………。
そして、もう一人の僕と、僕の会話。
……………………。
「僕のどこに羨ましがられる要素があるっていうのさ、お姉さん」
「中学時代の掛軸陸前の友人であり、水野玄人の兄である、というそのポジションよ。あなた自身にはわからないでしょう。あなたを見ているのではなく、あなたのポジションを見られて、羨ましいと思われていたのよ。衣食住にも困ってなかったみたいだし、病院へ通うお金もあった。なにも『困る要素がない』のが、原因よ。そういう人間を、ひとは困らせて、苦しめて、ストレスのはけ口にするものよ。都合よく、外法が、魔導力が、この町にはあったし、攻撃されて当然だったのよ。ひとの心が読めないところはノノにそっくりね、水野晶くん」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
「わからないね。あたしは滅ぼしたけど、なにも変わらなかった。頭の中で、ずっと響いているんだよ、君が経験したような地獄を、ね」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
『真実の羽根』に、あたしの血を注いでやったのさ。普通はできないんだけどね。あたしにはそれができた。どちらの天秤にも、あたしの血が混じった。そうしたら、すべては反転した。『羽根』がそのとき、『真実』を知って、血の涙を流したのさ。……そして、すべての哀しいひとたちの嘆き、苦しみから世界を救済すべく、〈アース・オリジン〉は滅亡した。
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
……………………。
近づいていく。近づいていく。僕の向かう先から、樹木の軋る音と雄たけびがない交ぜになって、音が、周囲を振動させている。
商店街の階段を上り、アーケードより高い位置にある神社の分社へ。
一種の例大祭か?
震度する音がまるで、ディアヌスが高位の神様にお伺いを立てているかのようだ。
階段を登りきる。
「せめて良い夢を見て死ぬべきだったな、晶」
「へっ! 冗談じゃないぜ!」
バオバブの声に応える僕。
境内について開口一番これだ。スターさんは地球乗っ取りに大忙しか。へぇ。
「我が汝をいつまでも相手にしている思うな、晶よ。バオバブによる地球の寄生は間もなく完了する」
「させるかよ!」
樹木の枝からなにかが僕の目の前に落ちてきた。
僕はそれを見て、一瞬にして吐き気がこみ上げてきた。
頭蓋。
切断された、人間の頭部だった。
この顔はよく知っている。自分の母親だった。
「おまえの母ちゃん、でべそ」
唐突にバオバブ掛軸が言った。
「は?」
「大昔からある罵りの言葉だ。意味は、『おれはおまえの母ちゃんのでべそを、つまり裸を見たことがあるぞ』という意味だ」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
バオバブは吠える。
目の前の怪物を殺すしかないな、と僕は思った。
走りながら回想する。走馬灯のように感じて、縁起でもないと、こころから走馬灯という単語を振り切る。
思い出す。思い出す。思いだす。でもそれは今日の出来事で。
夕闇を増殖するアーケードが遮る。増殖するアーケードとは、一体どういうことを指示しているのだろう。
僕はひたすら走った。
……………………。
レプリカをつくった時のエネルギーの残光を集めた結晶が、晶が見つけ解読してしまった〈物質XYZ〉だと言われているわ。これはいわゆる『オーバーテクノロジー』なの。
オーバーテクノロジーというのは、現代の科学力、または魔導力では使うことが不可能なテクノロジー。おそらくはほかの星かほかの宇宙からもたらされたテクノロジー。
もしくは……神様の力の断片。
……………………。
神様の力の断片、か。悪くない響きではあるが。
……………………。
春葉の投げかける言葉。
自分の価値が見いだせないと思っているのは知ってるけど、あなたにも価値はある。少なくとも、春葉たちには、晶が必要なんだよ。
……………………。
ノノのきつくてもまっすぐ前を向いた言の葉。
読心術や他人の心のコントロールなんて、ずーっと権力者が主導で研究してきたのは本当のことダヨネ。疑いないわけ。だから、魔導力は秘伝だったのよ。ディアヌスの伝承とそれは結び付くようになって、怪異の政治学が生まれた。カルラ町は、そういう町なわけ。
……………………。
そして、もう一人の僕と、僕の会話。
……………………。
「僕のどこに羨ましがられる要素があるっていうのさ、お姉さん」
「中学時代の掛軸陸前の友人であり、水野玄人の兄である、というそのポジションよ。あなた自身にはわからないでしょう。あなたを見ているのではなく、あなたのポジションを見られて、羨ましいと思われていたのよ。衣食住にも困ってなかったみたいだし、病院へ通うお金もあった。なにも『困る要素がない』のが、原因よ。そういう人間を、ひとは困らせて、苦しめて、ストレスのはけ口にするものよ。都合よく、外法が、魔導力が、この町にはあったし、攻撃されて当然だったのよ。ひとの心が読めないところはノノにそっくりね、水野晶くん」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
「わからないね。あたしは滅ぼしたけど、なにも変わらなかった。頭の中で、ずっと響いているんだよ、君が経験したような地獄を、ね」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
『真実の羽根』に、あたしの血を注いでやったのさ。普通はできないんだけどね。あたしにはそれができた。どちらの天秤にも、あたしの血が混じった。そうしたら、すべては反転した。『羽根』がそのとき、『真実』を知って、血の涙を流したのさ。……そして、すべての哀しいひとたちの嘆き、苦しみから世界を救済すべく、〈アース・オリジン〉は滅亡した。
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
……………………。
近づいていく。近づいていく。僕の向かう先から、樹木の軋る音と雄たけびがない交ぜになって、音が、周囲を振動させている。
商店街の階段を上り、アーケードより高い位置にある神社の分社へ。
一種の例大祭か?
震度する音がまるで、ディアヌスが高位の神様にお伺いを立てているかのようだ。
階段を登りきる。
「せめて良い夢を見て死ぬべきだったな、晶」
「へっ! 冗談じゃないぜ!」
バオバブの声に応える僕。
境内について開口一番これだ。スターさんは地球乗っ取りに大忙しか。へぇ。
「我が汝をいつまでも相手にしている思うな、晶よ。バオバブによる地球の寄生は間もなく完了する」
「させるかよ!」
樹木の枝からなにかが僕の目の前に落ちてきた。
僕はそれを見て、一瞬にして吐き気がこみ上げてきた。
頭蓋。
切断された、人間の頭部だった。
この顔はよく知っている。自分の母親だった。
「おまえの母ちゃん、でべそ」
唐突にバオバブ掛軸が言った。
「は?」
「大昔からある罵りの言葉だ。意味は、『おれはおまえの母ちゃんのでべそを、つまり裸を見たことがあるぞ』という意味だ」
オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン。
バオバブは吠える。
目の前の怪物を殺すしかないな、と僕は思った。