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文字数 1,627文字

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「僕はいつも、僕の人生で主役になれないんだ。いつも主役の座には目立つ人気者がいて、そいつにいじめられる、主役の引き立て役にしかならない。僕の本質は悪なんだ。人気者にやっつけられる悪の役割を担っている。そこでは悪は弱く、僕はいつもひどい目にあわされ、みんなの笑いものになって終わる」
「そうね。主役じゃない人間だってのは、わたしもアンタに対してそう思うわ。名脇役でもない。マンガのモブキャラ。コマ割りの画面から見切れている。全身が画面に映ることもない。そういう存在ね。そういう意味では、悪ではないわね。雑魚キャラ。雑魚なんて大した悪でもない」
「辛らつだな」
「追放体験に追放体験を重ねた生き方。逃げて逃げて逃げる。だけど、敵はいつまでもどこまでも違うかたちを取って現れる。毎回、その敵に負けて、追放される羽目に遭う。わたしの生き方にそっくりなのよ、〈アース・レプリカ〉のアンタは、ね」
 僕らはつないだ手を放さない。芝生に仰向けになって、痛む身体を休めている。
「もう、消滅を始めているわ。地球の人間は」
「消滅?」
「〈アース・オリジン〉がなくなってから、徐々に消滅は始まっていた。バランスが崩れてしまったのね。鏡のような双子地球の。でも、強い自我を持った人間たちは生き続けていたし、オリジンからの移民がうまく消滅を隠ぺいしていてくれたわ。でも、もうダメ。だって明日、世界が破滅するワケだし」
「こっちの僕は探偵にはなれなかったな」
「そうね。あきらめるにはまだ早い、なんてことは言わないわ。身体、動けるようになるまでまだだいぶかかりそうだわ」
「僕も、動かない」
 つないだ手を、僕はぎゅっと握りしめる。ノノも、強く握り返してくれる。
「最後の最後に恋愛してるなんて、わたしらしくないケド、それもいいかもね」
「明日世界が終わるのに、人間って恋をするものなんだな」
「不思議ね」
「不思議だ」
「わたしたち、違う星の人間なのよ。星をまたいだ恋愛を、している」
「僕も、NPCらしいしな。生まれも育ちも違う二人の恋愛ってことか」
「世界の終わり方、これでいいと思うかしら?」
「それは……ここであきらめるか、ってことか」
「そうよ」
「どうだろうなぁ」
「煮え切らないわね」
「いい人生を送ってきたとは思えないし。こうして手をつないでいられたら、それでいいかと思えてくる」
「弱いわね。だからモブキャラの童貞なワケ」
「だな」
 僕は頷く。
「僕は僕の人生の主役になれなかった。なにもない人生だった。そりゃ、小説も書けるわけがないよな」
「小説なんて書いてたの。暗いヨネ、それ」
「ああ。僕はそういう奴だし、それに、書けなかった。全くじゃないけど、潰されて、書けなくなった」
「潰された、か」
「僕にはなにもない。それこそ、掛軸たち我欲の強い奴らの押し付けで書けなくなったけど、そんなもんなんだよ、きっと」
「書くのもあきらめたの?」
「もう、とっくの昔に」
「書けなくなったのを、誰かのせいにして?」
「うん。幻聴もあるし。いや、カルラ町の〈意思〉なのか、幻聴は」
「そうね。町全体の、意思。外法をかけられたのよ、ここの町に伝わる魔導の力の」
「政治とか、権力とか、金や財産や、利権とか。そういうものの圧力だよな、これ」
「そうとも言えるわ」
「ひどいな」
「ひどいわよ、いつだって世の中は」
「理解なんてされなかった。全く。病気だと言われて、薬をたくさん処方された。治らなかった」
「最後に処方されたのは、わたしよ。どう、効いた?」
「抜群に効いたかもな」
「肩の荷が下りてきたわ」
「僕もだよ」
「地球は回ってるらしいケド、最後まで世界は回ってるのね、こういう風に」
 上半身を動かしたノノの唇が、僕の唇に軽く触れた。
「お薬を、処方してあげる」
 唇はすぐに離れ、また僕らは仰向けの二人組になった。



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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