42(最終話)

文字数 1,087文字

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 新聞や雑誌類は、どうなっていたか。結果から言うと、白紙になっていた。新聞や雑誌から文字がなくなっていた。写真も絵もないし、ただの紙の束になっていたのだ。
 まるで、最初からここにはなにもなかったかのように。
 違うか。僕は表面だけ地球上をシミュレートされた空間が宇宙にできているのを主人公が見つける、というSF小説を読んだことがある。
 ニートでもSF小説くらい、読むものだ。
 いや、小説で挫折した人間だからか。


 希望があった頃だって、あったはずだ。希望はきっとある。そう、信じていたはずだ、僕は楽観的なんだ、意外と。
 これからこの地球がどうなるか、それを天秤は示していた。
『真実の羽根』はやはり慟哭し、臨界点を示していた。僕が関与したからには、宇宙のどこからかの関与である、と言えなくもない。僕の知ったことではないけれども。
 人類は滅亡する。
 地球は、静寂に包まれ、眠り始める。
 僕らは懐中電灯であたりを照らしながら山猫神社まで歩く。ご神木を斬るためだ。チェインソーはホームセンターからまた仕入れてきた。
 人間はすでに僕らだけになってしまった。

 いろんな思いがある。
 だいたい、魔導の力ってのに最後の二日間で知って、僕は歩みが遅すぎて、手遅れすぎた。魔導力をうまく扱えていればどうにかなったかもしれなかったのに。これまでの人生をサバイブするために。……どっちみち同じか。地球は眠りにつくし、人類はもう僕らだけらしいし、結局最後はこうなるって決まっていたようなものだ。

 三人で手をつないで歩く。僕が真ん中にいて、ノノが懐中電灯を片手に持っていて、春葉はチェインソーを担いでいる。

 大空を遮断するアーケードは崩れた。
 大地からの電気がない夜空が、あり得ないあかるさの星で輝いている。
 瞬く星々。
 月が綺麗だな。

 僕らはこれから〈白紙〉になる。
 だからさ、誰でもいいから、この話を知ったら、そのひとはそのひとなりの物語を紡いでほしい。
 世界は一度、〈白紙〉に戻される。その後のストーリーを、誰か、紡いでくれ。
 僕にできなかったことを、誰かやってくれ。
 眠りから覚めた地球の誰かが。頼むよ、と僕は願う。
 その誰かが紡いだストーリーが復讐劇にならないことを、僕は祈ろう。

「ご神木の前に着いたぜ。どうする?」
 僕は問う。

「決まってるでしょ」
 ノノが強く手を握り返してくる。

「断ち切るに決まってるじゃん!」
 春葉が強く、応える。

 断ち切ろう、この運命を。



〈了〉
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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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