12
文字数 2,415文字
*****
なにはともあれ、食事の時間である。朝食。地球が滅びるなんて実感がないけれど、そういえば春葉の家は県道沿いにあるのに、全然自動車の音がしない。通行人の話し声も。
過疎地域というわけではないのだけれども。
テレビのニュース番組を観てみれば、なにかわかるかも。
ダイニングに集合してレトルトを温めながら、リビングのテレビをつける。
ノノは、
「やめたほうがいいわよ、テレビを観るのは」
と、僕に言う。僕自身も、気乗りがしない。
一方、家主の春葉は、
「マスメディアさんはきっと大忙しだよー」
と、笑顔でテレビのリモコンの「オン」を押した。
砂嵐。
つまり、映らない。
アナログ放送でもあるまいし、なんでテレビをつけて砂嵐の画像と音が流れるんだ?
「なんです? このザザーって音と気味の悪い白黒灰色が動く画面」
春葉が「壊れたのかな」と言って、テレビをぶっ叩く。
「テレビを叩けば治るって発想も古いんですケド。このザザーって灰色になる奴を、砂嵐っていうワケ。最近の子は、見たことないのかしら」
「うっわ。アナログテレビに詳しいなんてババ……ぐはぅっ!」
ノノにげんこつで殴られる春葉。殴られながら笑って「ばばあばばあババーン」とか言ってはしゃいでいる。
お前もしっかりテレビを叩くという、ブラウン管が壊れ気味のときの対処法を知ってるじゃないか。
それより気になるのは。僕はうろ覚えで話す。
「砂嵐って、宇宙からのメッセージだってオカルト話を聞いたことがある。『受信』しちゃうひとが、たまにいるって」
「ふーん。アンタ、鋭いとこ、突くじゃない」
「伊達に幻聴で心療内科に通っていないからな」
紫延ノノとの出会いもまた、病院であるということを、ふと思い出す。それもまだ昨日のことだ。そして、明日には地球が滅亡する。実感がわかない。
テレビ画面を観る。映らない。砂嵐のままだ。
そうだ。
駅前商店街のことを思い出した。ローカル情報はローカル局の放送で手に入る。また、ローカル情報誌もある。地方紙の新聞もある。
もしも、この町が地球の……〈アース・レプリカ〉の滅亡に関係するならば、ローカル情報を手にするために駅前まで行って、情報誌やら町の人の様子を見るなりすればいいのでは。
砂嵐の画面を見つめていたノノがひとこと、
「山猫神社」
と、口にした。
「山猫神社?」
聞き返してしまった。
「今、砂嵐に神社が映った」
「んなバカな」
「よく見るといいんですけど?」
砂嵐を観ていると、今にも電脳世界に没入してしまいそうな感覚に陥る。だから、あまり観ていたくない。それに、正直気味が悪い。その砂嵐に、神社だって?
「行ってみよーよ!」
僕のそばに駆け寄った白梅春葉が、提案する。
「行かない理由がないな。なんだか行かなくちゃいけない気がする」
僕もまあ、インスピレーションで動くようになってしまったものだなぁ、と残念な気持ちになる。山猫神社なんて誰も近寄らないし、商店街も、ひとがいるのかどうか、まともに今日も生活しているのかわからない。確かめるために行かなくちゃいけないような、でも本当は、ただの直感で行動するしかないから、直感で動くだけだ。明日がリミットなら、直感で行くしかない。その思考がすでに残念な感じだ。僕は探偵にはなれないな。いや、インスピレーションは大切なのか? 霊感と直感の違いってなに? 僕にはわからない。どうでもいいや、違いなんて。
僕の目には神社は映らなったけど、山猫神社まで行くことを僕からも提案する。駅前商店街も。
「満場一致だ。神社に行こう。それから、駅前。悠長なことができないって言ったって、考えたって無駄だ。砂嵐に神社が映ったってのを足掛かりにできれば、越したことはない」
「晶はなーに、一人で仕切っているのかな? みんなで探索、楽しいな!」
殺人鬼がなにか言ってるが、気にしないようにする。
僕にはなにかが欠落している。どうしてこいつらと普通に接していられるのだろう。
わからない。心のなにかが欠落しているから、としか言えない。
それが、NPCであるということなのだろうか。
山猫神社。入りづらい場所ではあるけど、行かなくちゃならないなら、僕は行くぞ。
隠す気もなく監視カメラがずらーっと並ぶ場所だけれども。逆を言えば、それだけ、なんらかの意味がある場所なのだろう。
朝飯の描写をしている隙はない。僕らは探索する準備をする。
女子の着替えシーンはいらない。
そう、僕は安定剤になるのだ。手足は震える僕が、なれるかどうかわからないけど。
「シャキッとしないと殴るんですけど?」
ノノが冷たい目で僕を見る。それでこそ〈僕の安定剤〉だ。
「神社ジンジャー!」
春葉はうきうきを隠さない。僕の知る幼馴染とは全くの別人である春葉は。
「行こうか」
僕はテレビを消して立ち上がった。
春葉はその場で服を脱ぎだし、下着も外す。
「なぜここで脱ぐんだ……」
春葉は全裸を隠そうともしない。
「お着換えで脱ぐのはいつもリビングでだよっ? 裸で移動だよ、気持ちいいから。気持ちいい数分間をエンジョイするんだよ? あ? ああ! 見たわね、えっちぃ」
「…………」
それから春葉は着替え服を取りに自室へと向かった。
ノノはウサミミを再度、装着した。
「自分の裸に自信があるのね、あの子。軽くムカつくんですけど」
訂正。女子の着替えは最高だ。もしかしたら春葉だったからか、と首をひねって、近くにいるノノの方を見た。ものすごい形相でにらまれたので、視線を床に落とす。
春葉が戻る間、食器を洗って片付けた。朝食はレトルトを盛り合わせたものだった。
春葉が着替えて戻ると、戸締りをして、僕らは白梅邸を出た。
なにはともあれ、食事の時間である。朝食。地球が滅びるなんて実感がないけれど、そういえば春葉の家は県道沿いにあるのに、全然自動車の音がしない。通行人の話し声も。
過疎地域というわけではないのだけれども。
テレビのニュース番組を観てみれば、なにかわかるかも。
ダイニングに集合してレトルトを温めながら、リビングのテレビをつける。
ノノは、
「やめたほうがいいわよ、テレビを観るのは」
と、僕に言う。僕自身も、気乗りがしない。
一方、家主の春葉は、
「マスメディアさんはきっと大忙しだよー」
と、笑顔でテレビのリモコンの「オン」を押した。
砂嵐。
つまり、映らない。
アナログ放送でもあるまいし、なんでテレビをつけて砂嵐の画像と音が流れるんだ?
「なんです? このザザーって音と気味の悪い白黒灰色が動く画面」
春葉が「壊れたのかな」と言って、テレビをぶっ叩く。
「テレビを叩けば治るって発想も古いんですケド。このザザーって灰色になる奴を、砂嵐っていうワケ。最近の子は、見たことないのかしら」
「うっわ。アナログテレビに詳しいなんてババ……ぐはぅっ!」
ノノにげんこつで殴られる春葉。殴られながら笑って「ばばあばばあババーン」とか言ってはしゃいでいる。
お前もしっかりテレビを叩くという、ブラウン管が壊れ気味のときの対処法を知ってるじゃないか。
それより気になるのは。僕はうろ覚えで話す。
「砂嵐って、宇宙からのメッセージだってオカルト話を聞いたことがある。『受信』しちゃうひとが、たまにいるって」
「ふーん。アンタ、鋭いとこ、突くじゃない」
「伊達に幻聴で心療内科に通っていないからな」
紫延ノノとの出会いもまた、病院であるということを、ふと思い出す。それもまだ昨日のことだ。そして、明日には地球が滅亡する。実感がわかない。
テレビ画面を観る。映らない。砂嵐のままだ。
そうだ。
駅前商店街のことを思い出した。ローカル情報はローカル局の放送で手に入る。また、ローカル情報誌もある。地方紙の新聞もある。
もしも、この町が地球の……〈アース・レプリカ〉の滅亡に関係するならば、ローカル情報を手にするために駅前まで行って、情報誌やら町の人の様子を見るなりすればいいのでは。
砂嵐の画面を見つめていたノノがひとこと、
「山猫神社」
と、口にした。
「山猫神社?」
聞き返してしまった。
「今、砂嵐に神社が映った」
「んなバカな」
「よく見るといいんですけど?」
砂嵐を観ていると、今にも電脳世界に没入してしまいそうな感覚に陥る。だから、あまり観ていたくない。それに、正直気味が悪い。その砂嵐に、神社だって?
「行ってみよーよ!」
僕のそばに駆け寄った白梅春葉が、提案する。
「行かない理由がないな。なんだか行かなくちゃいけない気がする」
僕もまあ、インスピレーションで動くようになってしまったものだなぁ、と残念な気持ちになる。山猫神社なんて誰も近寄らないし、商店街も、ひとがいるのかどうか、まともに今日も生活しているのかわからない。確かめるために行かなくちゃいけないような、でも本当は、ただの直感で行動するしかないから、直感で動くだけだ。明日がリミットなら、直感で行くしかない。その思考がすでに残念な感じだ。僕は探偵にはなれないな。いや、インスピレーションは大切なのか? 霊感と直感の違いってなに? 僕にはわからない。どうでもいいや、違いなんて。
僕の目には神社は映らなったけど、山猫神社まで行くことを僕からも提案する。駅前商店街も。
「満場一致だ。神社に行こう。それから、駅前。悠長なことができないって言ったって、考えたって無駄だ。砂嵐に神社が映ったってのを足掛かりにできれば、越したことはない」
「晶はなーに、一人で仕切っているのかな? みんなで探索、楽しいな!」
殺人鬼がなにか言ってるが、気にしないようにする。
僕にはなにかが欠落している。どうしてこいつらと普通に接していられるのだろう。
わからない。心のなにかが欠落しているから、としか言えない。
それが、NPCであるということなのだろうか。
山猫神社。入りづらい場所ではあるけど、行かなくちゃならないなら、僕は行くぞ。
隠す気もなく監視カメラがずらーっと並ぶ場所だけれども。逆を言えば、それだけ、なんらかの意味がある場所なのだろう。
朝飯の描写をしている隙はない。僕らは探索する準備をする。
女子の着替えシーンはいらない。
そう、僕は安定剤になるのだ。手足は震える僕が、なれるかどうかわからないけど。
「シャキッとしないと殴るんですけど?」
ノノが冷たい目で僕を見る。それでこそ〈僕の安定剤〉だ。
「神社ジンジャー!」
春葉はうきうきを隠さない。僕の知る幼馴染とは全くの別人である春葉は。
「行こうか」
僕はテレビを消して立ち上がった。
春葉はその場で服を脱ぎだし、下着も外す。
「なぜここで脱ぐんだ……」
春葉は全裸を隠そうともしない。
「お着換えで脱ぐのはいつもリビングでだよっ? 裸で移動だよ、気持ちいいから。気持ちいい数分間をエンジョイするんだよ? あ? ああ! 見たわね、えっちぃ」
「…………」
それから春葉は着替え服を取りに自室へと向かった。
ノノはウサミミを再度、装着した。
「自分の裸に自信があるのね、あの子。軽くムカつくんですけど」
訂正。女子の着替えは最高だ。もしかしたら春葉だったからか、と首をひねって、近くにいるノノの方を見た。ものすごい形相でにらまれたので、視線を床に落とす。
春葉が戻る間、食器を洗って片付けた。朝食はレトルトを盛り合わせたものだった。
春葉が着替えて戻ると、戸締りをして、僕らは白梅邸を出た。