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文字数 1,179文字
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南から北へ下っていく鉄道。線路の東側が工業地帯と、海。線路から西側は、森と山に囲まれて住宅地がある。北に流れる川の方が旧住宅地。駅の近くが新住宅地。住宅地と隣町の商業区画を隔てるように、山がそびえたつ。この展望台は、その山のなか。神社は、展望台公園のふもとにある。山麓の森の中には砥石先生が勤めていた心療内科が建っている。
これが、カルラ町の全景。静まり返った町だ。目指すは駅前のアーケード。商店街だ。
僕らは今、展望台に上って町の景色を眺めている。
「別段、変わったところはないな。人々は今、どうしているんだろう」
ノノは視線を僕からそらし、
「大部分が、死んでいるでしょうね」
と、微笑んだ。なぜ微笑んだかは、僕にはわからない。だって、僕はノノのことを知らないから。
「さっきははぐらかされちゃったけどさ、ノノって何者なんだ?」
「看護師」
「それはわかったよ」
「医者がいないのに、病巣を摘出するしかない状態の、看護師」
「資格が、ないってことか? それとも、実は医者だったりするのか?」
「明日世界が終わるなら、無茶をしてもいいと思ってる。病巣の摘出。最初は一週間あるって聞いてたんだけどね」
「ノノが看護師だとして、医者は?」
「アンタ」
「お医者さんごっこするか」
「わたしはお医者さんごっこを望んでいるんですけど」
「ふーん。世界を救う、お医者さんごっこか」
「最後にしては、悪くないんじゃない? 世界を救おうとする最後の日っていうのも」
「またはぐらかしたな。僕が聞きたいのは、ノノのことだ。僕は、ノノのことを知りたい」
「惚れた?」
「かもな」
「へー。じゃあ、教えてあげる、お姉さんが」
「優しく頼むよ」
「素直じゃん」
「そういうときもあるさ」
「へー。楽しそう。お姉さんも、混ぜてほしーなー、この会話に」
展望台の百円を入れる望遠鏡に片足立ちしているお姉さんが、僕とノノの会話に割り込んだ。
は?
『展望台の百円を入れる望遠鏡に片足立ちしているお姉さん』だって?
誰だ、こいつは?
「久しぶりね、紫延ノノ。汐見お姉さんは、この通り世界が終わるまでは元気よぉ」
息をのむノノ。
「汐見……。オリジンで会って以来ね」
「そうね。こっちの地球では『はじめまして』かしら。汐見お姉さんは寂しかったんだぞー」
望遠鏡からジャンプして展望台の床に着地する汐見というお姉さん。ジャンプしたときに、母性を思わせる大きな胸と、清楚なロングスカートがふわりと揺れる。
「わたしは汐見ミーケ。こっちの地球のディアヌス・玄人くんの恋人よ」
玄人の奴は、巨乳なお姉さんが好きだからな、と僕はひとりごちた。とはいえ、こっちのディアヌスはこっちに住んでいた水野玄人と同一人ではないのだけれども。
南から北へ下っていく鉄道。線路の東側が工業地帯と、海。線路から西側は、森と山に囲まれて住宅地がある。北に流れる川の方が旧住宅地。駅の近くが新住宅地。住宅地と隣町の商業区画を隔てるように、山がそびえたつ。この展望台は、その山のなか。神社は、展望台公園のふもとにある。山麓の森の中には砥石先生が勤めていた心療内科が建っている。
これが、カルラ町の全景。静まり返った町だ。目指すは駅前のアーケード。商店街だ。
僕らは今、展望台に上って町の景色を眺めている。
「別段、変わったところはないな。人々は今、どうしているんだろう」
ノノは視線を僕からそらし、
「大部分が、死んでいるでしょうね」
と、微笑んだ。なぜ微笑んだかは、僕にはわからない。だって、僕はノノのことを知らないから。
「さっきははぐらかされちゃったけどさ、ノノって何者なんだ?」
「看護師」
「それはわかったよ」
「医者がいないのに、病巣を摘出するしかない状態の、看護師」
「資格が、ないってことか? それとも、実は医者だったりするのか?」
「明日世界が終わるなら、無茶をしてもいいと思ってる。病巣の摘出。最初は一週間あるって聞いてたんだけどね」
「ノノが看護師だとして、医者は?」
「アンタ」
「お医者さんごっこするか」
「わたしはお医者さんごっこを望んでいるんですけど」
「ふーん。世界を救う、お医者さんごっこか」
「最後にしては、悪くないんじゃない? 世界を救おうとする最後の日っていうのも」
「またはぐらかしたな。僕が聞きたいのは、ノノのことだ。僕は、ノノのことを知りたい」
「惚れた?」
「かもな」
「へー。じゃあ、教えてあげる、お姉さんが」
「優しく頼むよ」
「素直じゃん」
「そういうときもあるさ」
「へー。楽しそう。お姉さんも、混ぜてほしーなー、この会話に」
展望台の百円を入れる望遠鏡に片足立ちしているお姉さんが、僕とノノの会話に割り込んだ。
は?
『展望台の百円を入れる望遠鏡に片足立ちしているお姉さん』だって?
誰だ、こいつは?
「久しぶりね、紫延ノノ。汐見お姉さんは、この通り世界が終わるまでは元気よぉ」
息をのむノノ。
「汐見……。オリジンで会って以来ね」
「そうね。こっちの地球では『はじめまして』かしら。汐見お姉さんは寂しかったんだぞー」
望遠鏡からジャンプして展望台の床に着地する汐見というお姉さん。ジャンプしたときに、母性を思わせる大きな胸と、清楚なロングスカートがふわりと揺れる。
「わたしは汐見ミーケ。こっちの地球のディアヌス・玄人くんの恋人よ」
玄人の奴は、巨乳なお姉さんが好きだからな、と僕はひとりごちた。とはいえ、こっちのディアヌスはこっちに住んでいた水野玄人と同一人ではないのだけれども。