文字数 2,006文字

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「アンタ、死んだんですけど?」
「は?」
「死んでしまうとは情けない」
「は?」
「アレはね、アンタの弟さんじゃないワケ。正確には」
「正確には?」
「あの魔王は、わたしの方の地球、〈アース・オリジン〉からやってきた弟。双子地球のこっち、〈アース・レプリカ〉ではアンタの弟のポジションにあたるであろう人物。アンタの弟は、この〈アース・レプリカ〉のどこかで生きているわ。けど、〈アース・オリジン〉が、オリジナルの地球。アンタの弟にあたるあの魔王こそが、本物のあの人間なのよ。こっちの地球、〈アース・レプリカ〉にいるのはみんなNPCだもの」
「エヌピーシーって……」
「そうよ。ノン・プレイヤー・キャラクターの略よ。今いるこの地球はオリジナルではなくて、オリジナルのコピー、複製なんですけど。すべてが、複製。ただ、違う進化をしている部分もあって、結果として、わたしの故郷である〈アース・オリジン〉は、レプリカと違う道をたどったから、滅亡してしまったわ」
「滅亡……」
「双子地球のもう片方、こちらへの移民も大勢いた。あの魔王もその一人ね。でも、こっちの地球〈アース・レプリカ〉も、もうおしまい。あと一週間で滅亡する。破滅へのカウントダウンは始まっているわ。どんどん狂っていってる」
「双子地球……」
「そう。地球は双子だったの。正確には、オリジナルからコピーがつくられた。〈地球〉という〈奇跡の星〉が消えないようにね。で、オリジナルの方が壊れてしまったわけ。間髪おかずに、今度はレプリカの方も終わるっていうこと。これを防げば、まだこの〈奇跡の星〉は、間に合うかもしれない」
「間に合うって、なにに?」
「宇宙でも稀有なる双子地球の生き物たちの、絶滅を防ぐのに。NPCだって、魂を吹き込まれてはいるわ。魂や心・意識があるかはいろんな学説があるケド。きっとあるわ、レプリカにも、魂が」
「でも、僕らは偽物ってことになるよね。オリジナルの、コピー」
「そう。偽物ということは、わたしらから見ればゲームで言うところのNPC。でも、人間ではあるわ。オリジナルがなくなった以上、コピーを生かすしかないわ。それに、オリジナルからの移民もいるしね。そのうちオリジナルもコピーも区別がなくなるわ。シミュラークルって言葉、知っているでしょ。コピーのコピーのコピーのコピーっていう風に複製をし続けると、本物の所在がわからない世界になる。そのコピー、シミュラークルと呼ばれるものの跋扈するハイパーリアル世界では本物と偽物の区別をすること自体が無意味になるのよ。そこにあるのはシミュラークルの快楽のみ」
「そのオリジナル地球の地球人とこっちの地球の地球人の区別が」
「もうなくなってるカモ。融合が果たされる。だけど、このままだとこっちの地球も終わるってワケ」
「ややこしいんだけど、僕もNPCなんでしょ」
「そう。〈アース・オリジン〉の叡智の結晶が生んだ被造物よ」
「それ、やっぱり人間じゃないんじゃない?」
「ならば自分で確かめなさいよ。わたしの知ったことじゃないんですけど」
「えー」
「わたしの意見は述べたばかりだわ。もう一度説明を繰り返させるワケ? 単細胞」
「……歩いていてひととすれ違ったとき」
「それはオリジナルかNPCかはわからないわね」
「ノンプレイヤーキャラっていうくらいだからコンピュータがしゃべってるイメージなんだけど」
「だから。〈アース・オリジン〉の魔導力がつくった被造物がアンタたち。神がつくったわけじゃないって意味くらいよ。違いなんてほとんどない」
 いや、あるだろ、触手とか、などと脳内で突っ込みつつ。
「触手も気になるけど……魔導力って?」
 僕はそれを尋ねた。
「科学力みたいなものよ。科学と魔導の線引きは無意味なわけ。もしくは、民間伝承も神通力を嘘っぱちととらえる心が、魔導力の存在を拒むのカモネ」
 オリジナルの地球があるとして、そこには魔法があるのか? 春葉を吹き飛ばしたノノの魔法のような、ああいったものが、自然に? でも。
「僕は昔、小説を書こうとしてた。だから言えるけど、今言った話は説得力を持ちづらいよ。なんか凡庸でいて頭のネジが緩んだようなやつが書いたファンタジーみたいだ。魔導力とかいう魔法で人間つくれちゃったらなんでもアリじゃん。すでに。要するに、〈ファンタジー失格〉」
「〈ファンタジー失格〉も、いいんじゃない? こんな世界だから、アンタがカギになるのよ、この世界を救うための」
「なんで僕が世界を救うカギなんだよ」
「〈アース・オリジン〉を破滅に導いたのが、オリジナルの方のアンタだからよ」
「意味がわからないんだけど」
「アンタが地球を粉々に破壊したのよ」
「なんていうか」
「〈ファンタジー失格〉でしょ。破壊した力も魔導力なワケ」



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登場人物紹介

紫延ノノ

 ウサミミ看護服の少女。

白梅春葉

 バーサーカー少女。主人公の幼馴染。

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