27
文字数 1,336文字
*****
階段の最後の一段を上り終え、境内の土を踏む。そこには神社を内部に飲み込んだ、いびつなかたちの巨木が、境内の半分以上の大きさの幹を持って、そこに根を下ろしていた。
「地球を救いに来たぜ、掛軸陸前!」
発破をかける。ハッタリってやつだ。
風が吹き、神木となった掛軸の枝の葉を揺らす。
「オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン」
声、なのか?
嘆きの声のような音が、神社のなかを駆け巡る。
「ディアヌス制度で得た、感覚技術によるヒアリングヴォイシズ、〈幻聴〉。全部、おまえのせいなのか?」
風の音が僕の質問を遮る。
神木の幹がギシギシ音を立て、蠕動する。
蠕動してできたのは、樹の凹凸でできた掛軸陸前の顔だった。
「魔導……の力。滅亡は避けられぬかもしれぬ」
掛軸は震える声を僕の脳内に響かせた。
「この地球は、我の根が覆いつくした。カルラの星を」
カルラの星?
「〈アース・レプリカ〉には、カルラ町しか存在しない」
カルラ町しか存在しないってのは? どういうことだ?
「カルラ以外の町の記憶はすべて、脳内が作り出したまぼろしだ」
まぼろし?
「〈アース・オリジン〉に眠っていた禁断の魔導力を持ってしても、町ひとつぶんの生態系をつくることしかできなかった」
掛軸は、淡々と語る。
「我々は神ではなかった。その氏子どもが施した〈幻聴〉にしても、実際それは晶、おまえの精神のなかにだけ存在するのかもしれず、だが〈幻聴〉が与えた〈思考〉は現実での周囲に影響を与えるのも事実。その意味において、〈幻聴〉はまぼろしでは済まないのだ。同様に、破壊されたオリジンと壊されるレプリカについても、それは精神が見せたまぼろしになる。カルラ以外の町の記憶が虚偽であるのと同様に」
僕はぼーっと立っていたらしい。
ノノの平手打ちが飛んできた。
「痛ッ」
「バカ! 魂を吸い取られるわよ! 相手はディアヌス。迦楼羅天のボス。天狗よ! 音波で攻撃するに決まってるでしょうが!」
僕はうつろになっていた目の焦点をノノに合わせる。そこにはナース服を着たウサミミの少女が僕に平手打ちをして、怒っている。そう、こっちが現実だ。脳内世界に干渉してくるのはわかった。だが、それに乗せられてはならない。
神木にできた掛軸の瞳の部分から、樹脂が垂れる。まるで泣いているみたいだ。
「オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン」
また、風が泣き声を響かせる。
「〈物質XYZ〉はついぞ見つからなんだ。レプリカの火も消える……」
脳内でしゃべりかける神木。そこに現実の声が声をふさぐ。
「そんなこともねーぜ。我が名はディアヌス。真のディアヌスのおれは見つけたぜ、地球のカギ、〈物質XYZ〉を、なぁッ!」
声を荒げて現れたのは、もう一人のディアヌス、水野玄人だった。
「精神感応でしゃべるな、掛軸! ほんと神気取りだな、マスメディアスターさんは、よぉ」
境内に玄人の叫び声がこだまする。
「こういうことだ。〈物質XYZ〉はここだああああああぁぁぁ!」
階段の最後の一段を上り終え、境内の土を踏む。そこには神社を内部に飲み込んだ、いびつなかたちの巨木が、境内の半分以上の大きさの幹を持って、そこに根を下ろしていた。
「地球を救いに来たぜ、掛軸陸前!」
発破をかける。ハッタリってやつだ。
風が吹き、神木となった掛軸の枝の葉を揺らす。
「オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン」
声、なのか?
嘆きの声のような音が、神社のなかを駆け巡る。
「ディアヌス制度で得た、感覚技術によるヒアリングヴォイシズ、〈幻聴〉。全部、おまえのせいなのか?」
風の音が僕の質問を遮る。
神木の幹がギシギシ音を立て、蠕動する。
蠕動してできたのは、樹の凹凸でできた掛軸陸前の顔だった。
「魔導……の力。滅亡は避けられぬかもしれぬ」
掛軸は震える声を僕の脳内に響かせた。
「この地球は、我の根が覆いつくした。カルラの星を」
カルラの星?
「〈アース・レプリカ〉には、カルラ町しか存在しない」
カルラ町しか存在しないってのは? どういうことだ?
「カルラ以外の町の記憶はすべて、脳内が作り出したまぼろしだ」
まぼろし?
「〈アース・オリジン〉に眠っていた禁断の魔導力を持ってしても、町ひとつぶんの生態系をつくることしかできなかった」
掛軸は、淡々と語る。
「我々は神ではなかった。その氏子どもが施した〈幻聴〉にしても、実際それは晶、おまえの精神のなかにだけ存在するのかもしれず、だが〈幻聴〉が与えた〈思考〉は現実での周囲に影響を与えるのも事実。その意味において、〈幻聴〉はまぼろしでは済まないのだ。同様に、破壊されたオリジンと壊されるレプリカについても、それは精神が見せたまぼろしになる。カルラ以外の町の記憶が虚偽であるのと同様に」
僕はぼーっと立っていたらしい。
ノノの平手打ちが飛んできた。
「痛ッ」
「バカ! 魂を吸い取られるわよ! 相手はディアヌス。迦楼羅天のボス。天狗よ! 音波で攻撃するに決まってるでしょうが!」
僕はうつろになっていた目の焦点をノノに合わせる。そこにはナース服を着たウサミミの少女が僕に平手打ちをして、怒っている。そう、こっちが現実だ。脳内世界に干渉してくるのはわかった。だが、それに乗せられてはならない。
神木にできた掛軸の瞳の部分から、樹脂が垂れる。まるで泣いているみたいだ。
「オオオオオオオオォォォォォオオォオォオオォオオォォオオォォオッォオォンンンンンンンンン」
また、風が泣き声を響かせる。
「〈物質XYZ〉はついぞ見つからなんだ。レプリカの火も消える……」
脳内でしゃべりかける神木。そこに現実の声が声をふさぐ。
「そんなこともねーぜ。我が名はディアヌス。真のディアヌスのおれは見つけたぜ、地球のカギ、〈物質XYZ〉を、なぁッ!」
声を荒げて現れたのは、もう一人のディアヌス、水野玄人だった。
「精神感応でしゃべるな、掛軸! ほんと神気取りだな、マスメディアスターさんは、よぉ」
境内に玄人の叫び声がこだまする。
「こういうことだ。〈物質XYZ〉はここだああああああぁぁぁ!」