(終) 羽化
文字数 1,293文字
わたしたちは店の裏側で、ひっそりと時が来るのを待った。
そして、バタバタ感も落ち着いて空気が和らいでくるお昼過ぎを見計らい、勢いよく店内へと飛び出した。
突然裏から現れた四人の女子高生に、何も知らないお客さんはざわつき始める。
少しだけ緊張しながら、わたしたちはさっと一列に並んだ。
列はわたしたちの方から見て、右側から美樹、わたし、早百合、野薔薇の順になっている。
ふと右隣の美樹を見ると、唇をかみしめ身体を小刻みに震わせていた。
わたしはそんな彼女の肩をそっと叩き、なるべく優しい声でひそひそと囁いた。
「大丈夫だよ。今まで頑張って練習して、最後にはうまくいってたじゃん。きっと、できる。わたしたちを信じて、自由に歌っていいからね」
わたしの言葉を聞いて、美樹は安心したように前を向く。
その眼差しには、最早迷いらしきものは一切感じられなかった。
ゆっくり一歩前に踏み出すと、お客さんに向けて声を出す。
「みなさん、こんにちは! 驚かせてすみません。わたしたち、これから四人で歌います。良ければ是非聴いてください!」
そして元の位置に戻ると、静まりきった空気の中早百合がポケットからマウスピースを取り出した。
無機質な音が順番に響く。
その後、彼女の合図でわたしたちは一斉に歌い始めた。
曲は短いものだったけど、演奏中はとても長く感じた。
美樹の高音やわたしのメインパートを、早百合や野薔薇がそっと下から支える。
四人の音が重なり合って、一つのハーモニーとなって店内に流れていく。
練習の時にはあまり感じられなかったものの、初めて人前で歌うと、段々気分が高揚してきて、まるで宙に浮かび上がるような錯覚をしてしまう。
歌いながらひらひらと自由に舞い踊っているわたしたちは、まるで四羽の蝶みたいだ、とふと感じた。
やがて演奏が終わり、直後耳まで聞こえてきたのは、温かい拍手の音だった。
「いいぞ、嬢ちゃんたち!」
口々にお客さんから賛辞が送られる。
その言葉を聞きながら、わたしは両隣を交互に見回した。
早百合と野薔薇は、それぞれの演奏の出来にとても満足そうだ。
そして右側の美樹を見ると、今にも泣きそうな顔でわたしを見つめ返してきた。
わたしたちは一斉に揃って礼をした。
盛大に拍手を浴びながら、ふと裏手の方を見ると、ナナ様が陰の方からこっそりと様子を伺っていた。
わたしに気づかれないようにしながら、静かに手を叩き、優しく微笑んでいる。
バレバレだよ。
思わず吹き出しそうになりながら、わたしは仲間たちと共に、裏へと引き返していった。
第二章 さなぎ 終
第三章につづく…
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Shooterです。
第二章までお読みいただきありがとうございました!
二人からスタートした合唱活動に、新たに二人が加わって、いよいよ本格化。
練習場所や目標もでき、これからさらに進んでいきます。
三章では学年が変わり、後輩ができたりするころですが、果たして……。
是非、お楽しみに!