(7) 狂った悪魔
文字数 2,003文字
サイトの背景は全体的に黒と紫の二色が中心で、赤くおどろおどろしいフォントで「News」などの文字が記されている。
写真の彼らが一体誰なのかは全くわからなかったけれど、サイトの雰囲気と美樹ちゃんがさっき言っていたことから、恐らくアーティストの公式ホームページか何かだろうと思った。
「ごめん、わからないや。この人たちが大好きなバンドなの?」
正直にそう答えると、野薔薇ちゃんは一瞬だけしゅんとした表情をしてから、今までとは打って変わって饒舌に語りだした。
「まあ、まだマイナーなバンドだからな。彼らは、いわゆるビジュアル系ロックバンドとして世間では括られているけど、演奏技術、表現力、曲の世界観、そのどれをとっても他のバンドとは比べ物にならないくらいレベルが高いんだ。この中心の彼がボーカルで、科学者の反人道的実験によって人工的に生み出された悪魔でもある。彼の喉から絞り出される声からは、悪魔として生み落とされてしまった運命にもがき苦しみつつ、それでも自己を表現すべく前を向き続けようとする熱い魂が伝わってくる。そして、そんな彼を支える三人の楽器隊たち。かつては悪魔を生み出した実験に加担した科学者たちだったが、やがて自らの罪深さを実感し心を入れ替え、今は悪魔の音楽を的確にかつ情熱的に奏でるミュージシャンとして支えている。四人の曲は時に繊細で、時に熱く聞く人の胸に語り掛けてくるんだ。中でも特に、ベーシストのジキルが鳴らす四弦がしっかり周りをまとめつつ、自らも存在感を出していて、それで……」
「はいはいはい! そんな感じで、少しとっつきにくい感じのわらちゃんだけど、話し始めたら結構面白い子だから、仲良くしたげてねー」
「……おい、まだ話し終わってないぞ。あと、わらちゃんって呼ぶな!」
好きなものの話を中断され、咄嗟に不満を言う野薔薇ちゃんと、それをいかにも手慣れた様子でなだめる美樹ちゃん。
さっきまでの気まずさは嘘みたいに立ち消え、部屋の空気が和やかになった。
思わずほっとして隣を見ると、早百合は今にも吹き出しそうな顔で真向かいの二人を眺めている。
ついついいたずらしたくなってきて、そっと脇腹に触れてみた途端、堪えきれず笑い声を上げた。
驚いた様子の二人にじろじろと見つめられ、急激に顔を赤くしながら、早百合が睨んでくる。
「もう、何すんの、桜良!」
「ごめん、ごめん。だって、なんか笑いたいのを我慢してる顔だったから」
「まったく……。あ、ごめんなさい! 別に、野薔薇さんたちのことがおかしかったわけじゃなくて、お二人が思ったよりもいい人たちだったから、つい安心してしまって」
「うん、実はわたしも同じ。美樹ちゃんも野薔薇ちゃんも、それぞれ好きなものを持ってて、夢中になって喋ってくれるから、だんだん興味を持ってきちゃった。ねえねえ、二人はどうして仲良くなったの?」
「あ、それ私も気になるかも」
わたしと早百合の「気になるオーラ」に思いがけずたじろいだ様子の二人だったけど、少しして美樹ちゃんが小さく呟いた。
「……鎖骨」
「え、なんて?」
「だから、鎖骨! うちたち、たまたま鎖骨の話で盛り上がったの。ほら、うちネットとかで海外のバスケの試合よく観るんだけど、たまに選手がズームで映った時にユニフォームの隙間からちらっと見える鎖骨が好きなんだ、ってこの間喋ったの。そしたら、わらちゃんが……」
「いんや。美樹は何にもわかってない。この世界で一番なのは、バンドマンが演奏中にそれとなくちらつかせる鎖骨に決まってんだろが。ひたむきに楽器を弾く一途さの中に垣間見える、仄かなセクシーさがまたいいんじゃん。だから、そう言ってやったんだ」
「そう言うわらちゃんこそ、全然わかってないよ。アスリートが汗を流しながら精一杯頑張る。その時に太陽の光やライトに照らされて、キラキラ光る鎖骨がいいんだよ。なんならもう一度うちのお気に入り見せてあげよっか?」
「ああ、いいだろう。だが、私が持ってるこの宣材写真を超えるほどの艶っぽいヤツはないけどな」
散々言い争った後、二人は黙々とスマホをいじってお互いにコレクションを見せ合い始める。
そのあまりの熱意と真剣さに、わたしも早百合もしばらくただ呆然と眺めているほかなかった。
そのまま数分程経ち、依然自分たちの世界に入っている二人を見かねた様子で早百合が話を持ち出した。
「えー、まあとにかくお二人は、これから私たちの仲間として、一緒に歌ってくれるんだよね?」
その瞬間、二人は同時に顔を上げて、口を半開きにしながら早百合のことを見つめる。
和らいでいた空気が、再び瞬時に張りつめ出した。
「うちたちが……」
「歌う?」
「どういうこと?」