第15話 パチンコ店1

文字数 5,295文字




国道は片側二車線、合計四車線のかなり広い道路だ。

その国道を前に、南下するように左折した。


しばらくすると、左手に見覚えのある店が見えてきた。
パチンコ店だ。


俺が以前に下見で入店した時は、夜の営業時間だった。
その時は店の中には、客がけっこういた記憶がある。

店の中に客がたくさんいるということは、今、多くの銃が店内に落ちている……ということを意味する。

もちろん昼の営業時間もそうだとは限らないが…………


――――銃は多い方が良い。
とりあえずパチンコ店に(ひそ)むことにした。



パチンコ店の建物は、国道に隣接するように建っている。

なので、建物を一度通り越したあと、それから左折。
歩道を(また)ぐように、駐車場に入った。


サッカーのグラウンド3つ分はありそうな敷地。
…………地方都市ならではの、土地の使い方だ。


敷地の北西側に店舗がある。
自分が乗る車から左手の店舗を見ると、その派手な外観の建物が見える。

それ以外の場所はすべて駐車場だ。
駐車場に停まっている車は店の近くに集中している。

だが車の数は決して少なくはない。
駐車場が広いため、その数が少なく感じるだけだ。


真っ赤なのぼり(ばた)が駐車場の外側に立っているのを見ると、まるで戦国武将の陣地のようにも感じる。


運転する車をゆっくりと流し、店の右手、東側駐車場までやってきた。
車と車の間が一台分のスペースしかない場所を見つける。

…………運転が下手くそな俺は、ぶつけないように丁寧に駐車した。


自分がここまで乗ってきた軽自動車は、さっきの銃撃戦でドアガラスが割れている。
当然、現実世界にはそんな車はない…………


この壊れた車を普通に駐車すると、割れたガラスのせいで目立ってしまうことになる。
そうなると追ってきた河西(かさい)に、すぐにここにいるのがバレる。

こうやって他の車に(はさ)まれていれば、この車のガラスが割れていることに気づきにくいだろう。

せこい気がするが、パチンコ店に入ってからの、応戦のための準備時間はどうしても欲しい。


車を降りるとき、さっきの戦闘で使っていたライフル、G36Cを持っていくかどうか考えた。だが、残弾少ないそれは置いていくことにする。

新しい銃を手に入れるため、パチンコ店に入ったことを相手に印象づけるためだ。


HS2000、ハンドガンを両手で握り、駐車場全体に気を配りながら歩く。


銃撃戦がなければ、ただひたすらに静寂が降り注ぐこの世界…………

今、追われる側の自分には、ただ歩いているだけで精神を削られるような感覚がある。


後ろ向きで自動ドアの手前まで来て、背中にドアの開閉音を聞く。
それから店に入った。

俺を出迎えたのはタバコの煙ではなく、アロマの匂いだった。


通常、やかましいはずの店内。
だが人がいないからか、パチンコ台の電子音は全く聞こえない。

シンと静まり返っている。
…………店全体に音楽がかかっていることもない。

だが音は聞こえないが、あちこちで黄、緑、赤とせわしなく光が踊っている。


パチンコ台のド派手な照明と、気分を落ち着かせるはずのアロマの香りが、どうにもミスマッチに感じる。


そう考えながら店内を歩いた。
…………この店は1階のみで2階はない。

それでもフロアー自体が広いので見て回るのに時間がかかる。

下見で確認した時と同じように、平日の昼間なのに客入りは悪くなかったようだ。


――――銃が多い。あちこちに落ちている。

ハンドガン、バトルライフル、サブマシンガン…………

…………ショットガン、マシンガン、アサルトライフル。

そしてスナイパーライフル。

最近覚えた、銃の知識でなんとか判別していった。


グレネードランチャーはないようだ。
前回の戦闘でガキが使っていたグレネードは、この世界ではレアな存在なのかもしれない。

とはいっても、アサルトライフルなどの銃身の下についているグレネードは、その限りではないようだが…………


パチンコ台の間の通路は、基本的に客が座る椅子と銃しかないようだ。

だが通路によっては、椅子の横にパチンコ玉が入ったプラスチックの箱が、山積みに置かれている。
…………たしか、ドル箱と呼ばれるものだ。

今の俺には、邪魔でしかないが…………


店内の一部に、暗くなっている場所があった。
スロットコーナーのようだ。

店内は基本的に照明が点いている。
だが雰囲気を出すためか、暗い場所もいくつかあるようだ。


その場で屈み、先ほどの戦闘で負傷した左手で近くにあった銃を拾う。

ラドム  Wz63  サブマシンガン  重量1600グラム
装弾数25発  弾薬9mm×18


ここまで持ってきたHS2000、ハンドガンを背中のベルトに差し、そのサブマシンガンを持った。

襲ってきたのは河西だけだが、敵は他にもいるかもしれない。

そもそも、この世界がどういうものなのか…………
――――それすら全くわからない。



一通りフロアーを見た。かなり広い。

パチンコ業界は斜陽(しゃよう)産業なんて言われる。
だが、これだけ客が入っていることを考えると、(もう)かっているところは違うのかもしれない。


この店は建物の形が長方形ではなく、右下の頂点をななめに削った五角形になっている。
客が駐車場から店内に入りやすいように考えた結果、そのような形になっているのだろう。

そのため、客出入り口が3つある。
右側(東)、右下(南東)、下(南)の3つ。


店内左側(西)には、縦に伸びたサービスカウンターがある。
俺が入ってきた右側の客入り口から、広い通路をまっすぐ奥に進むと、サービスカウンターに突きあたるようだ。

パチンコ台やスロット台は上から下へ、縦書きノートの罫線(けいせん)のように配置されている。



店内の戦闘を想定して、ある程度の数の銃を一ヶ所に集めて置くべきだろう。

――――少し考える。


…………西側のサービスカウンターの前に、陣取(じんど)ることにした。

店舗右の出入り口からカウンター前まで伸びる直線の通路。
ここは広く、店真ん中の通路になるようだ。

この通路を確保すれば、あとあと便利だろう。


またサービスカウンター前なら、右出入口の先にある俺が車を停めた駐車場。
それも見ることができる。


――――さっそく店内から銃をかき集めた。

ハンドガンを二挺(ちょう)、サブマシンガン三挺…………

…………アサルトライフル四挺、バトルライフル一挺。


ハンドガン以外は、フルオート仕様の銃を持ってきたつもりだ。

フルオートとは引き金を引き続けると、連射ができる銃のこと…………

アメリカなんかの銃社会でも、戦争で使うようなフルオートの銃の所持は禁じられているらしい。


集めてきた足元の銃を見て、思う。

…………現実世界で銃をこんなにため込んでいたら、確実にテロリストに間違われるレベルだ。


最後に、他の銃に比べ重いマシンガンを調達しに行き、サービスカウンター前まで帰ってきた。


さっきまで持っていたWz63、サブマシンガンの代わりに、ヴァルメ社のRk76TPというアサルトライフルを手にした。

しかし一度手にした武器は2回目に手にしても、例の機械(きかい)()みた音声で銃の説明はされないようだった。
銃のスペックは、一度しか教えてくれないらしい。

…………不親切だ。



戦闘準備をした後、腕の治療をすることにした。
…………撃たれた腕は、(にぶ)い痛みを放っている。

救急箱のようなものを探すなら、スタッフルームにいくのがいいだろう。


周りをみると、サービスカウンター内側にスタッフルームへ向かうと思われる扉がある。
だが、カウンターを乗り越えるという方法以外で、内側への入り方がわからない。


カウンターから離れたところに、背の高い観葉植物がある。
それに近づいてみると、スタッフオンリーとアルファベットで書かれた扉があった。

(かま)いなしに、その向こうに踏み込んだ。


扉の向こうは、どうせ店員しか入れないのだから、という作り手の意思が読み取れる粗末な廊下が続いていた。
店内の内装の豪華さとはかなり違う。


廊下左に行くと、サービスカウンターの裏に出るらしい。
ここから見えるドアがカウンターの内側に見えたものと同一なのだろう。

まっすぐ進み、突きあたりで左右を見た。


工事現場の片隅にある事務所についているような扉が、いくつか並んでいる。
とりあえず目の前のドアノブに触れ、中に入った。


部屋にはパソコンや監視カメラのモニターなどが置いてあった。

部屋の奥には、外につながると思われる金属製の白いドア。
ドアのそばにタイムカード用の機械があるので間違いないだろう。

…………スタッフルームにスペースは使いたくない、といいたげな狭い部屋だ。

床には従業員が替わったと思われる、ハンドガンが一挺だけ落ちている。


この部屋で救急箱を探してみた。
緊張が()けたからか、傷は地味に痛覚を増している。

だが、救急箱らしきものはなかった。

天井近くの棚の上に載っている段ボール箱の中を(あさ)ってみると、ガムテープが見つかった。
仕方ないので、ガムテープを包帯の代用品とすることにした。


撃たれた、左の二の腕に巻かれているネクタイを、もう一度きつく縛る。
それから傷口を圧迫するように、ワイシャツの上からガムテープを巻いていった。

そして黒い血で濡れたワイシャツの(そで)を、ハサミで切って捨てる。


…………撃たれた傷は、こうして治療するとかなり痛い。

もう少しちゃんとした治療をしたいが、救急箱すらない状況では大した応急手当ができなかった。

河西を見たときに、弾丸が車のボディーを貫通したため負傷した右肘(みぎひじ)も治療した。


別の部屋の、従業員ロッカーを見て回る。
学校の制服であるブレザーはフェイク用に捨ててしまったので、代わりに着るものを探しにきたのだ。

出血がバレないための黒い服は、ライダースジャケットしかなかった。
自分の身には少し大きいが、それを着ることにした。



アサルトライフルを持って、もう一度スタッフルームに戻ってきた。
そしてこの部屋にある、従業員出入口ドアのところまで進む。

ドアノブを握ったところで、ぴたりと動きを止めた。


…………ドアの向こう側は店の外だろう。

ドアを開けた瞬間、穴だらけになって自分が作った血だまりに横たわる。

なんてことになったらシャレにならない。


ノブを握りしめて、ゆっくりドアを開けた。

嫌な金属音を立てるドアを少し開ける。
ドアの隙間から日の光が漏れてくるのを感じながら、目を細めてその向こう側をうかがった。


…………銃声は聞こえない。

思い切ってドアを開けて、すぐしゃがむ。
それから後ろ手でドアを閉めた。


外は人がようやくすれ違うことができる程度の広さしかない場所だった。
店の外壁と、外周を囲うようにある高い生け垣にはさまれた細い道。

生け垣の向こうは、さっき俺が車で通ってきた国道だろう。

国道の方が位置的に少し高くなるようだ。
俺の腰の高さまで垂直のコンクリートになっており、そこから水平に国道のアスファルトへ続いている。

腰までのコンクリートの上の部分に、生け垣が生えている状態だ。

この店が国道に隣接している理由は、国道と店舗との間に高低差があるからというのも、一つの理由らしい。


ドアを背にして通路の右側は、細い道が右に折れている。
左側は行った先が開けているようだ。駐車場の端に出るのだろう。

とりあえず自分が乗ってきた車がある駐車場が見たいので、通路を右方向に進むことにした。

細い道をぐるりと時計回りに歩き、店の北東に当たる外壁まで来た。


――――河西の姿は見当たらない。


俺が乗ってきたドアガラスの割れた車は、ここから見えない。

しかし大体の駐車位置は把握している。
今、その車の周りに人影はないようだ。


ほとんどの客は車に乗って交通量が多い国道から、この店にやってくるのだろう。
そのため国道から入ってすぐの場所にある店の南側駐車場に、客は車を停めるようだ。

目の前にある東側の駐車場に停まっている車の台数が少ないのは、気のせいじゃないだろう。


河西が俺を探す場合、パチンコ客と同じく、車を使ってやってくるだろう。

この広い塚ヶ(つかがはら)市だ。
徒歩でやってくるとは考えにくい。

つまり……車でやってくる河西も南側の駐車場から、店に入ってくるということになるのだろうか?


いや…………追う側の視点で考えよう。


俺の待ち伏せや罠を警戒して、河西はやってくることになるだろう。
当然、このパチンコ店でも、目に見えない俺の存在に細心の注意を払う。


だとしたら、どうするか…………

いきなりパチンコ店に踏み込んだりしないだろう。
河西が用心深い人物なら、まずドアガラスが割れた車を探すはずだ。


車が見つかれば、俺が店の中にいる可能性があるのだから、万全の準備を整えて踏み込めばいい。


――――そう考えれば、河西はこの東側の駐車場までやってくる。


…………時間はいくらでもある。

そしてこれは純粋な殺し合いだ。
頭に弾が当たれば、即死なのだから…………

敵も……用心に用心を重ねるだろう。


どこからパチンコ店の駐車場に入ってきても、俺が乗ってきたドアガラスの割れた車の所まで、最終的にやってくる。

そして相手は車に置いてある使用済みのアサルトライフルを見て、俺が店に逃げ込んだと思いパチンコ店を警戒する。


…………その隙に俺は、店内ではなく……

駐車場から河西を狙うという作戦をとることにしよう。









ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み