第18話 パチンコ店4

文字数 8,575文字




…………脱出前の準備を始める。


スタッフルーム近くの清掃道具の入ったロッカーから、幅の広いモップを持ってくる。
そして店内のサービスカウンターの(はし)に立てかけた。

このモップはあとで使うことになる。


…………それから自分の置かれた状況の確認だ。

東側出入口からサービスカウンターまで続く、店内の長い通路。
その通路に身を(さら)さないように気をつけながら、アサルトライフルを抱え、パチンコ台の前でしゃがむ。


…………目の前の床には、弾丸が当たり欠けてしまった壁掛け時計が落ちている。

うっかり通路に出ると、僕のように穴だらけになるよ……
君の場合は、お花畑か川の(ふち)、それか閻魔(えんま)の前に瞬間移動することになるかもね。

――――壁掛け時計はそう教えてくれている。


量子(りょうし)もつれ』のことを知らなかったら、自分にあり得ないとツッコんでいたかもしれない。

しかし、(たましい)の量子もつれを研究しようと考える学者が存在する以上、その可能性がゼロと言い切れないところが、まったく笑えない。


弾丸が右頬(みぎほほ)(かす)めた、この場所でポケットに入っていた三角形の鏡を取り出す。
その鏡を使って、自分の左側にあたる東側出入口をのぞいた。


フェイクのモップを撃った時と俺の右頬を撃った時…………
河西による都合(つごう)2回の銃撃で、廊下の先の自動ドアのガラスがさらに割れ、外が見えやすくなっている。

自動ドアの下部には、斜めになり割れたガラスが刃物のように残っているだけだ。


――――その先の東側駐車場を見る。

スタッフルームから従業員出入口を出たところで見えたような、長方形の大きな鏡はないようだった。

だが今まで気づかなかったが、出入口を出たところの一番手前……駐車場に停まっている車の車種が変わっている気がする。


河西が来る前は、黒のステーションワゴンが停まっていたはず…………

だが今は、別の黒い車が停まっていた。
車の形状はセダン車だろうか。


…………もともとあった黒のステーションワゴンは、そのセダン車の後ろに停まっているように見える。


河西がわざわざ別の車を移動させたと考えると、あの車になにか細工が(ほどこ)されているのだろうか?

――――自分の手元、三角形の鏡をじっと見つめる。


…………なんだろう?
河西が移動させた車の運転席のドアガラス。その上の方から、ひものようなものが伸びていて、なにかがぶら下っている。

ぶら下がっている物をみると、板こんにゃくのような形をしている。


手に持っていた三角の鏡を一度引っ込め、パチンコ台の下に座って考えた。


…………しばらくして、ようやく思いついた。
遠近感が(つか)めなかったので板こんにゃくに見えたが、あれは裏返しになったスマホだ。

スマホと出力コードをつないで、ディスプレイなどと有線接続しているのだろう。
長いコードがあれば、スマホで撮影した店内の様子をディスプレイで見ることもできるのかもしれない。

ネットが使えない状況でも、物理接続すればスマホの動画を見ることができるというわけか…………


――――やるべきことはわかった。
ここまでの状況を踏まえて、自分の脱出計画を再構築する。

そして脱出計画を実行に移すことにした。



パチンコ店に来てすぐかき集めた銃は、未使用のまま床に並べられている。

そこからAK-107、アサルトライフルを取り出した。
側面にあるボルトハンドルをゆっくり引く。

小気味(こぎみ)の良い金属音とともに初弾を、銃の薬室(やくしつ)装填(そうてん)

それからロシアのAKライフル特有の、少し扱いづらいセレクターレバーを操作する。
――――レバーをフルオートの位置にセットした。


「――――やるべきことはわかっている……」

…………わずかに目を閉じ、自分を鼓舞(こぶ)する。


つぶやいたあと、俺は思い切って目の前の通路におどり出た。


店の外、一番手前にある黒のセダンの側面をフルオートで銃撃する。
銃口から出るマズルフラッシュと、広い店内で反響する銃声に身を任せながら、トリガーを引き続けた。

…………ドアガラスにぶらさがるスマホを狙う。

それがなくなったのを確認すると、残りのすべての弾薬を使い、車を穴だらけにすることに専念した。
30発すべて撃ち終ったところで、パチンコ台の裏に身を隠す。


弾がなくなったAKライフルを床に置いて、代わりに新しいバトルライフル、FN FALを手にする。
そしてすぐにスタッフルームへ走った。


スタッフルームに来てから、従業員出入口ドアを開ける。
開けたのはライフルで外を撃てるぐらいだけだ。

銃身のみをドアの外に出して、空に向かってフルオートで引き金を絞った。


…………断続的な、いかにも走りながら撃っている感じの銃声になるように工夫する。

店の外、北西側にある河西が用意した生け垣の鏡は、撃たないように注意した。

今度は20発ぐらい撃ってから、静かに扉を閉め鍵をかけた。


ライフルにはまだ弾が残っている。
しかし今使ったFALをスタッフルームに捨てる。

そしてまた、サービスカウンター前の銃を集めてある場所まで走って戻る――――


また壁掛け時計が転がっている場所までやってきた。
ポケットから三角形の鏡を取り出し、パチンコ台の前でしゃがむ。

さっきと同じように鏡を持って、東側出入口の先に河西がいるかどうか確認する。


――――今はいないようだ。

一旦(いったん)、手に持った鏡を床に置く。
別のポケットから、スタッフルームで拝借した他人のスマホを取り出した。

「……大丈夫。河西はいない……」

そう自分に言い聞かせる。


思い切って、目の前のサービスカウンターから東側出入口までの長い廊下に飛び出た。
そして自分の左側、東側出入口に向い、力一杯スマホを投げる。

オリンピックのカーリング競技に(なら)って、床を滑らせるように…………

スマホの背面が鏡として使えそうなほど磨かれているせいか、摩擦抵抗を感じさせないぐらいにスマホは滑っていく。

――――が、出入口の20メートルほど手前、フロアーの半分すぎを滑ったあたりで停まった。

…………上々だ。


床に置いていた三角形の鏡を再びポケットに入れる。

新しい銃として、STキネティクスという会社の、SAR21 LWCというアサルトライフルを手にした。
トリガーの位置よりも手前に、弾薬が入ったマガジンを差すところがあるブルパップと呼ばれる銃だ。

ブルパップは確か『ブルドックの子供』という意味だったはず。
自分の体質のことを知ってから、夜鍋(よなべ)して本から得たうろ覚えの知識だが……


少し撃ちづらさを感じる、そのライフルを持ってサービスカウンターの端の、あらかじめモップを持ってきていた場所までやってくる。

持っていたブルパップ銃をカウンターの上に載せ、それから(ひざ)をカウンター上についた。
そうやってサービスカウンターを乗り越える。

カウンターを乗り越えた後、ライフルとモップを回収した。


回収したライフルとモップを持って、サービスカウンターの内側を屈みながら進む。
カウンター内を立ったまま移動すると、東側出入口までの一直線の通路を横切ることになる。

…………そうすると河西に見つかり、銃撃される。


また、自分が店内のどこを移動しているのか河西に知られるということは、俺がどこから脱出しようとしているのかを河西に知らせることにもなりかねない。

…………脱出前にそんなケアレスミスは避けたいところだ。


アサルトライフルとモップをなんとか持ちながら、カウンターの外に身を晒さないように注意して、小さくなりながら進む。

河西のフルオート射撃のせいで、カウンターの内側は木くずや、穴だらけになったipadの箱、家庭用ゲーム機の箱などでひどい有様になっている。

穴があいたアーモンドチョコの箱を見つけたので、外層フィルムを()がしチョコを一つ口の中に入れた。


カウンター反対の端まで辿り着き、顔だけ出す。
パチンコ台が邪魔して東側出入口からは見えないことを確認する。

そして先程と同じくサービスカウンターを乗り越えた後、ライフルとモップを回収した。


目の前の廊下、カウンター付近にはパチンコ玉は床に転がっていない。
だが俺がこれから向かう店の南出入口までは、パチンコ玉が所狭(ところせま)しと転がっている。

スタッフルームから近いということで、南出入口には念入りにパチンコ玉をバラまいたからだ。
自分で()いた種とはいえ、とても歩けたものではない。


…………そこで、この幅広(はばひろ)のモップの出番だ。
ライフルを持ちながら、モップを使って床のパチンコ玉を取り除く作業を始めた。



…………ここまで俺が行った、店内からの2回の銃撃。
これを河西はどう(とら)えているだろうか?


最初に(はな)った東側出入口への銃撃は、一見(いっけん)、でたらめに撃ったように見える。
だが、河西にとって重要なはずの、車に取り付けたスマホを破壊している。


続いて2回目のスタッフルーム従業員出入口からの発砲。
このフルオート射撃では、河西が生け垣に設置した鏡は無傷で残っている。

つまりその発砲は鏡を狙ったものではないということだ。

――――スマホは破壊されたのに、鏡は割れていない。


鏡の存在に気づいていて、俺が逃げようとするなら、逃走の障害となるかもしれない鏡は割っていくはず…………

…………逆に、俺が鏡に気づいていないと仮定するなら、従業員出入口を出たところで発砲せず、気づかれないようにそのまま逃げればいい。

鏡を割るわけでもないのに、わざわざ発砲すれば、俺が今どこにいるのか教えているようなもの。
 
…………『これから逃げますよ、銃撃してください』と言っているようなものだ。


また鏡を壊していないということは、その前のスマホの破壊も故意ではない可能性があると、河西は考えるかもしれない。

この場合、河西が作ったパチンコ店の出入り口を見張るための工夫は、俺にバレていないと考えることもできるということだ。


…………じゃあ、一連の発砲はなんのためのものなのか?


河西の敵である俺が、矛盾(むじゅん)した行動をとらない人間だという前提で考えるなら、俺の行動、『割られずに残った鏡』の意味が河西にはまったくわからないだろう。


――――合理的な人間であればあるほど、存在する矛盾を否定する。

クラスの木場(きば)が、河西は成績優秀者として、高校の入学式で新入生代表をしていると言っていた。

成績優秀者は合理的思考に()り固まっている傾向があるのではないだろうか……?

――――だとすれば、俺の行動を理解することはできない。


そして矛盾の中で、河西は考える。
…………そもそも俺はもうパチンコ店から逃げてしまった後なのか?
…………まだ店内にいるのか?


――――俺の目的は時間稼ぎ。
意図的に矛盾をはさみこむことで、時間を作り出すことが目的。

…………モップでパチンコ玉を取り除く時間が欲しかっただけだ。


ここまで考えて、自分が一つのミスを犯していることに気がついた。

2回目の従業員出入口での発砲の際――――
(から)薬莢(やっきょう)がドアの外にほとんど落ちていないということだ。

俺はドアをわずかに開けて撃ったため、ドアの内側、スタッフルームに空薬莢が落ちてしまっていた。
だから空薬莢は外に落ちていない。


空薬莢が外に落ちていなければ、俺がまだ店内にいる可能性が濃厚(のうこう)と考えられるということだ。


河西がそれに気づけば――――
俺の行動が次のための布石だというのがバレているかもしれない……ということになる。


あれこれ考えているうちに南側出入口に辿り着いた。
ここまでパチンコ玉を退()けるのに使ったモップの()を、そっと床に置いた。



南側出入口の自動ドアが開かない程度の場所から、外の駐車場を見る。
ここからは河西は見えない。

…………出口の外でライフルを構えているかもと思った。

しかし杞憂(きゆう)に終わったようだ。


見えない相手を終始(しゅうし)意識すると、結局なにもできないことになる。
俺は俺の、やるべきことをやろう。


思い切って一歩踏み出し、自動ドアを開ける。
店の外壁に沿って外が確認できる位置まで進み、そこでしゃがんだ。

ポケットから三角鏡を取り出して、まず出口の左側、南東の方を見た。

スタンドミラーが垂直に設置してある。
姿見のような大きな鏡ではなく、店の北西の生け垣にあったような学校のトイレにある大きさの鏡。


…………さっきから思っていたんだが、あんなもんどこから持ってきたんだろう。

そういえば国道沿いに家具屋があるんだっけか……


それから右側、南西の方を見る。
こちらの方には何もないようだ。

それから色々と鏡の角度を変えて、自分の位置から眼では直接見れない場所を確認する。
どこにも河西の姿はない。

…………従業員出入口をまだ調べているのかもしれない。


相手が今どこにいるかわからない以上、これからの成り行き次第では河西と偶然遭遇することもある…………

だが、これからのことを考えてもわからないものは、わからない。


ライフルをいつでも撃てるように準備して、俺はシミュレーションを始めた。

南側の駐車場は、東側ほどではないが広い。
目の前には40台ぐらいの車が停まっている。

停車している車のほとんどは、パチンコ店の客のものだ。


現実世界で所有者が車に鍵をかけた状態なら、その車はこっちの世界でも鍵がかかった状態になっているはずだ。

…………ここから逃走するには、車の方が良いだろう。
だが目の前に停まっている車を当てにするのは、間違っているということになる。


ということで、目の前の車を無視して、走行中だった車がある国道まで出るのが一番良いだろう。
走行中の車なら鍵をかけていない場合が多いと思う。


パチンコ店は国道に接している。
店に隣接している生け垣を登り、道路に出るという手もある。

だが河西が店の周りに張りついていることを考えると、生け垣に登っている間に相手に見つかる可能性が高い。
…………それは止めた方がいいだろう。


――――残っているのは、駐車場から国道へ出る、車用の出口に逃げる方法だ。

その一番近い出口というのは、ここから2時の方向になる。
距離にして80メートルぐらいあるだろうか…………

駐車場に停車している40台ほどの車が障害物となるため、一直線でそこに辿り着くことはできない。


アサルトライフルを持ちながら、車という障害物を避けて走る…………
全力で走っても18秒はかかるか?


…………ここでウジウジ考えてても仕方がない。

――――結論は出た。


俺は自分のスマホを出し、着信履歴を表示させる。
一番最近の番号表示を見て、その番号に電話をかけた。

…………ほどなくして、かなりデカい音で着信音が鳴り出した。


さっき東側出入口の方に投げた他人のスマホだ。
わかりやすいように、スマホの着信音量を最大にしておいたのだが、広い店内に響き渡る音量だ。

これなら、店の外にいても気づく。
おそらく河西にも…………


三角鏡を取り出し、左側のスタンドミラーをうかがう。
さっきは気づかなかったが、ギリギリ東側出入口が確認できるようだ。


…………そうしているうちに電話の呼び出し音が切れてしまった。
もう一度同じ番号にかける。

スマホから持っていた鏡に視線を移すと、なにかが映り込んだ。

――――河西だ。


南東に置かれているスタンドミラーに河西が映り、さらにスタンドミラーに映っている河西を、俺が三角鏡で見ている状態だ。

その河西が、東側出入口そばの外壁に身を寄せているのがわかる。


…………と、再度スマホが大きい音を立て始めた。

――――今しかない。
三角鏡を捨て、スマホを呼び出し状態のまま、ポケットにしまう。


――――――目の前の駐車場に向い、俺は全速力で走り始めた。


アサルトライフルを抱えるように持ち、停車している車をラグビー選手のようにかわす。


店から一番遠い所に停車しているSUV車…………
その裏に隠れるように、一度俺は停まった。

息を切らしながら振り返り、持っていたアサルトライフルの銃口を店に向ける。


視界に河西の姿はない…………


ポケットから自分のスマホを取り出し、耳に当てる。
呼び出し音が切れている。

もう一度電話をかけてから体を反転させ、目指す国道への出口に全速力で走った。


――――ここから国道までは車などの障害物がない。

俺にとっては走りやすいが、下手な鉄砲でもフルオートで撃てば当たるかもしれない。


吸ってるのと()いてるのが、ほとんど同時のような荒い呼吸で走る。

…………駐車場は抜けた、あとは国道へ。

歩道を横切り、すぐ近くにあった会社名が書かれた白の営業用のワンボックスカー。
その運転席側に回り込んだ。


――――――そこで立ち止まる。


アサルトライフルの銃口を上に向け、杖のようにして両膝をついた。
――――生きてる。

…………パチンコ店から脱出したぞ。


まだ荒い息をなだめながら、その車の運転席ドアを開けた。
…………ドアの鍵はかかっていなかったようだ。

そのドアを大きく開いた時だった。


――――――――――息が聞こえる。


全速力で走ったため、俺の呼吸もまだ整っていない。


……でも、それとは違う…………

ポケットに手を入れ、スマホを取り出した。

通話状態になっている!
呼吸音が聞こえるのはスマホからだ!

「…………お前、着信音が鳴っているスマホにでたのか? (わな)とわかってて……」

相手が立ち止まるのが聞こえた後、俺と同じく荒い息で応えてくる。

「罠ですって? どうせまた、ただのフェイクのくせに……」

『また』と言われるほど、俺はフェイクを使っただろうか……?


「あんたが今、耳元に当てているそれには、小型爆弾を仕込んであるんだがな……」
「フン、しょうもない嘘ね。そんな物を作れる技術はあなたにはないわ!」


…………バレバレだ。
そうだとしても、この人がいない世界で鳴っているスマホを普通は触りたいとは思わないだろう。

なんというか、肝が()わっているというか…………


「…………あなた今、車のドアを開けたわね。その車を動かした瞬間、蜂の巣になることを覚悟しなさい」


俺は通話状態だった自分のスマホの電源を切る。
そして反対車線に放り投げた。

プラスチック製品がアスファルトを転がるような音を立て、俺のスマホはどこかに消えていった。


車を動かすなと言われて『はい、わかりました』と素直に応じる訳にはいかない。

だが、俺の隣にある白いワンボックス車は、パチンコ店から出てすぐの国道上にある。
この車を使えば、河西の言うとおり蜂の巣になるかもしれない。


音が鳴らないように、ワンボックスカーのドアをゆっくりと閉める。
そしてその車の前に移動した。

片側2車線の国道だが、その右車線に停まっている車を利用した方が河西の銃撃は避けられるかもしれない。


…………前方の右車線に黒の高級車が見える。


ここから後ろ向きになり、中腰になりながら後退していく。

河西はどこにいるのか、位置がまったくわからない。
かといって、相手を探すために背を伸ばすと、その瞬間に俺の頭に穴が空くかもしれない。


銃口をさっきまでいたパチンコ店の方へ向け、ゆっくり後退し続ける。

そのうちに、右足の(ひざ)裏あたりにドンと、何かがぶつかった。
おそらく俺が目指していた黒の高級車のバンパーだろう。

そのまま回り込むように運転席に向かう。


運転席ドアは………… クソッ、閉まってる。

――――すぐにあきらめる。


河西がもう迫っているかもしれない。
すぐ目の前の赤い軽自動車に走った。

…………敵からの銃撃はない。


軽自動車の運転席ドアに手をかける。
…………今度は開いていた。

運転席に置かれていたアサルトライフルを助手席にどかし、自分の持っていたライフルも同じように置く。

ハンドルの右横についていたキーを回す。


…………やや遅れて、この軽自動車に置いてあったアサルトライフルの情報が頭に響く。

FNハースタル  M16A4  アサルトライフル  重量3990グラム
装弾数30発  弾薬5.56mm×45


車のエンジン音を響かせた時点で、もう敵に居場所を知られてしまっただろう。
ギアをPからDの位置に――――


それからアクセルをベタ踏みした。
前の車を回避するために、すぐに左にハンドルを切る。


――――と同時に、すぐに自分の車のリアウインドウが穴だらけになった。


ガラスが割れる音と銃声を同時に聞きながら、割れたフロントガラスの先に目を()らす。

――――ルームミラーも足元に落ちた。


…………クソッ、河西がすぐ近くまで来ていた。


頭を屈め、それでもアクセルを踏み続ける。
――――軽自動車だからか、急激な加速が感じられないのがもどかしい。

反対車線との間には中央分離帯があるので行き来できない。
なので、我慢して2つの車線の真ん中を走るしかない。


左サイドミラーが落ち、フロントガラスさえも3分の2ぐらいが蜘蛛の巣のようになったところで、ようやく相手を振り切ったようだった――――


だがそのまま速度を落とさず走り続ける。

――――なんとかパチンコ店から脱出できた。


脱出できたはいいが、これからどうしたらいいのだろう…………
所どころにある2車線の間の別の車を、上手く追い抜きながら考える。

やはり当初の考えの通りに、この国道沿いの店のどこかで戦闘を行うのが良いだろうか?

パチンコ店での戦いは、地の利があったのに戦闘を優位に進められなかったのだが…………


少し迷ってから、ちょうど差しかかった大きい交差点をドリフト気味に左折する。
国道から出た道路をすぐに右折した。


――――やはり自分の知った場所で戦う方がいいだろう。

先日念入りに調べた、ショッピングモールの駐車場に入っていった。














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