第7話 生き残るということ

文字数 7,721文字




ブティックに(ひそ)んでから、俺は改めてその店舗を見た。


商店街のブティックだけあって、店内に並んでいる服は年配の女性が好みそうなものばかりだ。

だが商店街の店にありがちな、商品が(ところ)(せま)しと並んでいるということはない。
店内の通路も比較的広々と余裕を持って取ってあるので、買い物客には心地良い空間となっている。


商店街の方に振り返り、ファミレスの位置を確認した。

俺が隠れている場所からは、ファミレスは左斜め前。
通りをはさんで、反対側の店並びにある。

うどん屋は右側、ブティックと同じ店並び。
服の裏に隠れた俺からはファミレスは見えるが、うどん屋は見えない。


――――しかし静かだ。
自分の呼吸音が大きく聞こえる。

この世界の静かさを改めて思う。
これなら弾薬暴発の音も店の外までしっかり聞こえるはずだ。

…………たぶん。


ガキはなかなか来ない。
ファミレスで弾薬を仕掛けてから10分前後ってところだろうか?

失敗ならすぐ撤退だ。


撤退時にブティックの裏口は使えるのかと、うしろを振り向いた時だった。
ファミレスの方から1発の発砲音が聞こえた。

いや、発砲音……銃声というより破裂音だ。
爆発音と言ってもいい。

とても銃声には聞こえなかった。

失敗か…………そう唇を()んだ。



…………が、どこにいたのだろうか?

前屈みになったガキが、ファミレスの自動ドアに近づいて行った。

そのゆっくりとした動きを見ると、音源を理解した上でファミレスにやってきたわけではないようだ。
今のはファミレスからの音かと、疑問を持ちながらやってきた感じだ。


相手が持っている武器は、ハンドガンひとつだけだ。
隠し持っている銃があるかもしれないが…………

左足と左肩を怪我しているはずなのに、それを感じさせない動きだ。
普通に歩いているところを見ると、俺が撃った左足はかすった程度なのかもしれない。

もっと足を引きずるとかしていると思っていたのだが…………


計画段階で、ファミレスに入っていくガキを狙おうと考えていた。

しかし今見たガキの動きを考えると、それなりの至近距離でなければ当たらないのでは?
…………そう思った。


――――ガキはファミレスの自動ドアをくぐる。
そして商店街通りに沿った客席の方に向かったようだ。


視界からガキの姿が消えたのを確認する。
それから、俺はブティック入口のガラス戸に近づき、腹ばいになる。

そのガラス戸をわずかに開け、ハンドガンの銃口だけを外に出すようにする。
斜め上に2発、発砲した。


――――暗幕がかかったような夜の商店街に、銃声という名の異物が鳴り響く。


店内に転がった空薬莢(からやっきょう)を回収して、俺はもとの位置に戻った。


ちょうどガキが銃声を聞いて、ファミレスから出てきた。

…………隠れようともせず、ファミレスの入口前で立ち尽くしている。
銃声がどこから聞こえたものなのか、相手にはわからないのだろう。

「お兄ちゃん、こそこそしないで正面から戦おうよ。小学生相手に情けないと思わない?」

放っておこう。
言いたいように言わせておけばいい。


それに撃とうにも、50メートルほどあるこの距離では無理だ。
…………当たらない。

もっと確実なチャンスがあるはず。ここは辛抱だ。


相手を観察する。
さっきは気付かなかったが、俺が撃った左肩と左太ももに黒い布のようなものを巻いている。

…………布で止血しているのだろうか。



うどん屋の仕掛けは、まだ作動しない。

…………少しずつ()れてくる。
この罠が成功するかどうか、そのすべてがうどん屋の暴発にかかっている。


だんだん我慢の限界が近づいてくる。
狩りをする時って、こんな心境なのだろうか。


このままじゃ、ファミレス前で立ち尽くしているガキがどこかへ行ってしまう。
だが、どうすることもできない。

…………ガキは首を動かし辺りを見回している。


そして俺がいる方向とは反対、ガキにとっての右側を向いて、何かを注視するように止まった。


その右側に何があるのか? 
確かにそちらにも、商店街は続いているはずだが…………



――――やっぱり計画自体に無理があった。

そもそもフライパンに載せた弾薬の暴発時間、その調整なんて無理に決まっている。

…………だが仕掛けた罠が作動しない。
そんなことはよくあることだ。

そしてその罠は放置される。
戦場で使われる地雷なんかがそうだ。


…………失敗だ。
仕方ない、また別の方法を考えよう。


まだ右側を見ているガキを、売り物の服の後ろから眺める。
そしてさっき確認し損ねた店の裏口を見ようと、後ろを向こうとした。


――――目の(はし)に、ガキが移動し始めたのが見える。

俺は体の向きをもう一度、ファミレスの方に戻す。

さっきまで右を向いていたガキが、なんの気紛(きまぐ)れなのか?
左のほう……俺のいる方向に斜めに歩いてくる。


…………こっちに気づいている様子は全くない。

相手はゆっくりと歩き、隠れたり屈んだりしていない。
明らかに油断しているように見える。


ガキがそのまま斜めに歩けば、このブティックの2軒左手にある楽器屋に突き当たるか?

楽器屋の前からそのまま左に歩けば、相手はこのブティックの前を通るかもしれない。


しばらくして相手がブティックのある店並びの方に近づく。
そのため、服に隠れている俺の視界から消えた。


――――息を殺して待つ。


わずかに足音が近づいてくるのが聞こえる。
歩幅の短い音…………


入口近くのハンガーに掛かった服に隠れるため、俺は足音を殺して移動する。

それから革靴を脱ぎ、邪魔にならない所に置いた。
ひんやりとした感覚が靴下を通して足の裏に伝わる。

だが、さらに靴下も脱いで裸足(はだし)になる。
これで足音を消し、滑ることなく走ることができる。



目を閉じ、相手の足音を聞きながらシミュレーションを始めた。


…………ブティック入口のガラスドアは店内から見た時、その取っ手は右側に付いている。

取っ手は、黒いプラスチック製の40センチ長の棒状のもの。
それが縦に取り付けてある。


…………ドアはその重さから、力を入れて押さなければ開かない。

左手と左肩を使ってドアを押し開け、右手に持ったハンドガンで撃つ。

左肩は怪我しているが正念場だ。
…………(かば)っている余裕はない。


ゆっくり…………目を開けた。

ガキがこの店を通り過ぎ、完全に背を向けたときが勝負だ。
銃を向けた時の相手との距離は、5メートルほどでいいだろう。


親指で銃のセーフティーを解除し、撃鉄(げきてつ)を倒す。


…………ガキの足音が、この店の前に差し掛かる。

俺は服の後ろに隠れて、じっとその時を待った。



――――少しこもったような破裂音が、商店街に鳴り響いた。


…………なっ、今頃鳴りやがった。
うどん屋に仕掛けた、もう一つの弾薬。


最悪のタイミングだ――――


…………この音を聞いて、ガキが動きを変えるかもしれない。
うどん屋まで走って行かれたら、撃てなくなる。


そっと、俺は服の隙間から視線を向ける。

ブティックのドアガラスの向こうまで来ていた敵が、今の音を聞いて歩みを停めていた。


右手にハンドガンを持っている。
視線を相手の顔に移す。

一瞬……口元を歪めたかと思ったら、足を動かし始めた。


ガキが走り出すのを警戒して、前傾姿勢になる。
すぐに攻勢に出る準備をした。

しかしさっきと変わらぬ速度で歩き出した。
そのままうどん屋に向かうようだ。


…………安心している暇はない。
ガキはもうこちらに背を向け始めている。

銃初心者の俺でも当たるだろう距離。
5メートル、5メートル…………


――――相手がこの店を完全に通り過ぎようとした時、走り出した。

ガラスドアの取っ手を左手で掴み、肩で乱暴に押し開く。

同時にハンドガンをガキに向ける。
ドアから離した左手も使い、グリップを両手で握った。


しかしガキもこちらに気づいたのか…………

それとも俺の動きを予想していたのか…………
信じられない速さで振り返った。

ここまで来て、ためらうことはできない。

俺はガラスドアを思いっきり押したため、空中で斜めに体を傾かせたまま――――
ガキに向け、全弾撃った。




…………いや、撃とうとした。


しかし4発撃っただけで、俺はアスファルトに転がることになった。
ガキの弾が右脇腹に突き刺さったからだ。

俺の撃った弾は、相手の左肩をかすっただけのようだった。


握っていたハンドガンを捨て、両手で撃たれた腹部を押さえる。

うめき声をあげたくなるのを必死に我慢した。

患部が焼けるように熱い。
今までの人生の中で味わったことのない痛みが、全身を駆け巡る。


額に脂汗を浮かせ、薄く目を開け夜空を見上げた。
…………こんな世界にも星が見える。

暗い空を眺めていると、視界の一角(いっかく)に人影が映った。

「お兄ちゃん…… 弾薬をワザと爆発させて、敵を誘うアイデアは良かったと思うよ。でもそれを三回繰り返されると……ねえ? バレても仕方ないよ。……でもまあ楽しかったよ…… これで終わりにしようか……」


ガキが銃を持った右手を上げて、俺の頭にポイントしようとする。


それをスローモーションのように見ながら…………
最後の抵抗をするため、右手の平でアスファルトを掴むように、俺は身を起こそうとした。


ガキが口角(こうかく)を歪めた時――――

手の平のそれを、力一杯引いた。


――――瞬間。
倒れた俺の右側、ガキの正面にある軽自動車のリアウィンドウが突き破られる。

光がほとばしり、雨のような銃弾が水平に放たれた。


弾丸を受けたガキが、わずかに膝を折り…………
そして後ろ向きに、音も無く崩れた。


闇を()く銃声が途切れると同時に、20発あった弾薬が撃ち止めになる。


そして俺は、右手のピアノ線を放す。
ピアノ線は楽器屋から拝借してきたものだ。

邪魔にならない位置に移動させた軽自動車。
その後部座席の間に挟まっているアサルトライフル。

そのトリガーに結び付けられたピアノ線は、車の左サイドミラーに引っ掛かっている。
そして自分のすぐそばまで伸びていた。

ピアノ線の先端には、セロハンテープがぐるぐる巻かれている。
こうすれば……俺には道路に落ちていてもわかりやすく、ガキには透明なため、気づき(にく)かったろう。


ブティックでの銃撃が失敗したときのため、即席で作ってみた罠…………
だが、保険を掛けておいてよかった。



脇腹の痛みで、しばらくその場に寝転がっていた。
だが、ずっとそうしている訳にはいかない。

俺は一度、体をうつ伏せにして、膝を立てて四つん()いになった。

口の中に溜まる血を吐き出すと、真っ黒な液体がアスファルトに染みを作る。
今改めて見ても、血には見えない。


よだれのように(したた)る黒い血を、ペッともう一度吐き出す。
右脇腹の傷を庇いながら立ち上がった。


さっき手放した92( )手槍(てやり)を手にし、上着のポケットに無造作に入れる。

代わりに背中のベルトから新たなハンドガンを取り出す。
バックアップ用のコルトガバメントだ。


左手で右脇腹を押さえながら、右手で銃を構える。
いつ動くかわからないガキに照準を合わせ、重い体を引きずるように歩いていく。

数歩しか離れていないガキまでの、その一歩が100メートルダッシュをしているように体力を奪う。


ガキの足元まで辿り着いた。
さっきから見ているが、全く動かない。

だが、わずかに息があるようだ。
すきま風が鳴っているかのような、ヒューという呼吸音が静かな商店街に響いている。

胸の辺りが弱々しく上下しているだけ。
…………まさに虫の息だ。


銃のフロントサイトとリアサイトをガキの頭に合わせ、静かに正確に照準を定める。

「悪いな。これで終わ―――― 」


最後まで言い終わる前に、発砲音がとどろいた。
何が起こったのかわからない。


――――俺はトリガーを引いていない。


ガキの右手を見る。
――――――ハンドガンを握ったその手が…………上を向いていた。



その弾丸が、俺の体のどこかに当たったような気がした。
だが、それ以上に信じられないものを見たように思った。


こいつ…………
こんな瀕死の状態で、目を閉じながら撃ちやがった………… 


「うっ、うわあああああああああああああぁぁぁぁっ」


()()りながら半狂乱になって、俺は横たわるガキに向け撃ちまくった。


銃上部のスライドが引き切って、弾切れを知らせているにもかかわらず、動かなくなったトリガーを強く指で引いていた。


恐慌状態から少しずつ、身体の痛みで頭がクリアになってきた。

新たな痛みを覚える箇所を左手で触ってみる。
ぬめっとした液体が手につくのがわかった。

真っ黒な血が指先についている。
左太ももを撃たれたようだ。

――――かろうじて立っていられるのは……
極限まで高められた緊張感と生存本能からだろうか?


右腹部を押さえながらガバメントを捨てて、4発しか撃っていない92式手槍を構える。
それからガキの体を見た。

さっきめちゃくちゃに撃った弾は外れたのだろうか?
体に銃創(じゅうそう)は増えていないような気がする。

ゆっくりと視線を上げていった。

「――うっ――――」


それを見て2、3歩後退(あとず)り、俺は両膝を地面につけてしまった。

胃から突き上げるようなものを感じ、腹部に当てていた手を口元にあてて、固く眼をつぶった。

――――か、顔が………… 

傘の先で何度も突いたように……原形を留めていない。

スイカ割りで、何度も何度も叩いたように、黒い液体がいっぱい飛び散って…………


目をつむっても、強烈な光景を頭から追い出すことはできず…………


こみ上げてくる吐き気と闘っていると――――
目を閉じているのに光を受けたように感じ、全身がスッと浮いた気がした。




――――わずかに、気持ち悪いのが収まった感じがした。
ゆっくりと目を開ける。


人工の白い光が、ぼんやりと見える。
…………どこだろう、ここは?

わずかに体が揺れているのは、何か乗り物に乗っているからだろうか?


体で揺れを感じていると、ついさっきまで我慢していた吐き気が戻ってきた。

限界を感じて、口に手を当てて狭い通路を精一杯走る。
…………途中、乗り物の揺れで腰や腕を打ったが、気にせず走った。


涙目になって、目の前の自動ドアがゆっくり開くのを我慢する。

トイレに駆け込もうとした時、ちょうどスーツを着たサラリーマンがそこから出てきた。
俺はその人を押し退けるようにして、トイレに入った。


…………鍵もかけず、我慢していたものを全て吐き出した。

頭の片隅で、間に合ったことにほっとする。
しかし波のように押し寄せる吐き気に、その安堵感も()き消えていった。


どのくらいそうしていただろうか?

胃が軽くなったような感じがするほど全てを吐き出す。
それからボタンを押して流し、トイレットペーパーで口元を(ぬぐ)った。

そしてそのままトイレの壁に背中を付け、ずるずるとしゃがみこんだ。


――――頭の中が真っ白で、何も考えられない。


ゆっくり目を閉じようとした時に、トイレの鍵を掛け忘れていたことに気付いた。

しゃがみ込んでいた状態から、わずかに腰を浮かせる。
中指の先で鍵に触れた時、俺はそのままの体勢で動きを止めた。

――――――左肩の痛みが消えている。


すぐに礼服の上着を開けて左肩を見た。

上着の下で、真っ黒に染まっていたワイシャツ…………
それが昨日、初めて着た時と変わらないかのように白い。

そして弾丸を受けた際に穴が開いているはずなのに、シャツにはシワすらなかった。


すぐにその場で立ち上がり、ワイシャツの(すそ)をズボンのベルトからまくりあげた。
右脇腹を撃たれているはずなのに、ワイシャツにはやはり、黒い血の染みがない。

ワイシャツの下に着ていたTシャツもまくり上げる。
さっきまで激痛を発していた脇腹を直接見てみた。

…………傷が無くなっている。全くの無傷だ。

呼吸の(たび)にわずかに動きはするが、痛みはない。


たぶん最後に撃たれた左太もも、それも同じだろう。
痛みを感じないということは、傷がなくなっているのだろう。


ぐったりとしながら壁に背中を預け、静かに目を閉じる。
疲れた頭で、自分の置かれた状況について考えた。


ここは新幹線の中だろうか?

普通の電車と走行音が違う。
俺は鉄道に詳しくないが、たぶん新幹線のトイレだろう。


あのガキが言っていたように新幹線の中で寝てしまって、もう一つの別の世界に飛ばされたと言うことか?

そして戻ってきたと――――


でも向こうの世界では、少なくとも4時間はいたような気がする。

正確にはどれだけの時間が過ぎていたのかわからない。
だが、京都~東京間の約2時間よりも長い時間、向こうの世界にいたはずだ。


なのにまだ新幹線の中にいるということは、向こうの世界は時間の流れが速いということだろうか?

だとしたら、ガキが言っていたことは嘘じゃなかったということになる。



とりあえずトイレで考え事していたら、他の人の邪魔だ。
落ち着いてきたので自分の席へ戻ろうと、トイレのドアを開けた時だった。

目の前でバタバタという走る音がして、その遠ざかる足音の方に目をやった。
横にスライドした自動ドアの向こう、隣の車両に人だかりができているのが見えた。


なんだろうと思って、そちらの方に向かう。
ガヤガヤと聞こえる周囲の雑音の中…………

「AED、早く持ってきて」
「はい。すぐに」

緊張した声と共に、車掌(しゃしょう)とおぼしき制服を着た男性がこちらに向かってくる。
そして俺をはねのけるように後方に走っていった。

何が何やらさっぱりわからない。
隣にいたサラリーマンに聞いてみた。

「何かあったんですか?」
「なんか意識不明らしい。小学生くらいの男の子が……」

それを聞いて、一度だけ心臓が深く大きく鼓動した。


小学生の男の子――――確認しなくてはならない。
野次馬の垣根をはがしにかかろうとしたとき、後ろから体当たりを食らった。

「どいて! どいてください。AED持ってきました」

さっき走っていった車掌が野次馬の外から叫ぶ。
一瞬だが、人垣が崩れ、道を開けた。

――――その時、わずかに見えた。
あのガキが座席の間の通路に寝かされ、横たわっているのを…………

鼻からは真っ赤な血のようなものを流している。


…………が、顔は原型を留めない程のぐちゃぐちゃな状態ではない。
鼻血を除けば、きれいそのものだ。


見えたのはそれだけだった。
でも、それだけで十分だった。

――――――死んでいる。

上半身が徐々に震えだし、その震えは(ひざ)に伝わる。

俺のせいじゃない。これは正当防衛だ。

さっき話しかけたサラリーマンから「大丈夫か?」と声をかけられる。
俺は弱々しく笑うのが精一杯だった。


(きびす)を返し、何事もなかったかのように自分の席に戻る。
蘇生(そせい)が試みられているのだろうが、俺はその結果を知っている。

…………おそらく生き返ることはない。


自分のシートに戻る途中、東京駅に間もなく到着するというアナウンスが流れ始める。

――――あのガキは死んだんだ。

あいつ自らがそう言っていたように…………
向こうの世界で死ぬと、この現実世界でも死ぬ。

ガキの言っていたことは本当だった。
――――あいつが、自身の体で証明して見せた。


カバンをまとめ、降車の準備をしながら考える。
あのガキはこう言っていた。


自分と同じ能力をもっている人間同士が、ある一定の距離の中で同時に眠った場合、あっちの世界に送られると…………


生き残った俺のこれからについて考えた。

この先も同じことが起こり得るかもしれない…………


――――光の見えないトンネルをのぞいているような気分になった。








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