第14話 意外な救援者
文字数 4,046文字
東京都二十三区の1つ、板橋区。その中にある『板橋区立在徳高校』。今この学校では阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。骨で出来たような巨大な蜘蛛のような怪物が無数に湧き出し、生徒や教職員のべつ幕無しに襲い掛かり殺戮しているのだ。
骨蜘蛛たちは文字通り無限に湧き出し留まる所を知らない。そしてこの学校は現在『結界』に覆われているので、この学校の惨状は外からは認識されていないのだ。つまり助けは来ないという事だ。
だが今……彼等を助ける為に神の戦士が1人、孤軍奮闘していた。
『ディーヴァの舞踏会!』
シャクティは神力で作り出した光のチャクラムを複数周囲に飛ばし、学生たちを襲う骨蜘蛛たちを所構わず斬り倒していく。骨蜘蛛たちは大した強さではなく、光のチャクラムに斬り裂かれて一撃で消滅していく。
「さあ、今の内です! あちらの体育館の方に逃げて下さい!」
襲われていた学生たちを大声で促す。地獄絵図の中、古代神話から抜け出したような煽情的な鎧を身に纏ったインド人女性に超常的な力で救われた学生たちは、誰もが夢でも見ているのかと疑うような唖然とした顔で彼女を見上げたが、大声で促された事で正気を取り戻し、半ば本能的な判断でシャクティの指示に従って体育館の方に逃げ去って行った。
彼等を追うように別の骨蜘蛛たちが群がって来るが、シャクティは光のチャクラムを操って全て斬り倒した。
「くっ……キリがないですね……!」
骨蜘蛛たちは完全な雑魚だが、ほぼ無限に湧き出してくる数の暴力が厄介だ。こいつらを召喚している本体 さえ倒せば解決するはずだが、その間襲われている人々を放置する訳にもいかない。
本体を倒す役目はぺラギアに託すしかない。シャクティはそれを信じて、とにかく人々を骨蜘蛛どもから守るのだ。
学生や職員たちは校舎中に散らばっている。彼女は建物の中を駆け巡って襲われている人々を助け、その都度体育館への避難を促していた。一箇所に集めた方が守りやすいからだ。そしてあの体育館なら障害物も無く視界も効くので、大勢の人間を守るのに適していた。
(ぺラギアさん、どうか……ご武運を!)
犠牲者の救出と避難誘導を繰り返しながら、シャクティは仲間を信じてその勝利を一心に願い続けていた……
「くっ……」
そのぺラギアは現在、無様に四肢を投げ出して仰向けに倒れていた。倒れたまま激しく息を喘がせる。
「あれぇ、どうしたのかな? 威勢よく掛かってきた割にもうへばったのかい?」
そのぺラギアを余裕の表情で見下ろしているのは、この学校の制服に身を包んだ1人の男子生徒。上杉風太郎という名前らしい。
元々は陰気で気弱だったと思われるその顔を酷薄に……そして好色に歪めて、露出度の高い古代戦士風の神衣 から剥き出された肢体を汗まみれにして喘ぐぺラギアを視姦する。
その上杉の両手にはそれぞれ、まるで独自の意思を持ったようにゆらゆらと蠢く、鞭のようなもの が握られていた。それぞれの『鞭』は何本ものカラフルな線状の物体で構成され、それが扇状に広がってこちらを威圧する様はまるで孔雀の尾 を連想させる光景であった。
「ほら、いつまで寝てるんだい? まあ僕としては眼福な光景だけどね」
「ぐ……あ、あまり、大人を舐めるんじゃ、ないよ……!」
視姦され、余裕の態度で煽られる屈辱にぺラギアは歯噛みしながら、何とか上体を起こして片膝立ちの姿勢になる。上杉はそんな彼女をニヤニヤと見下ろしている。
因みにぺラギアは掠り傷や打撲一つ負っていない無傷の状態である。にも関わらず彼女がこれほど消耗している原因は、上杉の持つ『鞭』にあった。
「ふふ、大分辛そうだねぇ? 僕の『雀蓮華 』に体力と神力を吸われて 立つのも大変でしょ?」
「く……こ、このくらい……へっちゃらさ」
ぺラギアはまるで全身に鉛の塊を括り付けられたかのように重く感じる身体を強引に持ち上げて、何とか立ち上がった。だが脚はガクガクと震えて覚束ず、全身汗まみれで肩で息をしている状態であった。
「頑張るねぇ、お姉さん。そんなにもう一度『雀蓮華』の感触を味わいたいなら、お望みどおりにしてあげるよ!」
上杉が哄笑と共に両手の『鞭』……『雀蓮華』を一斉に繰り出してきた。意志を持ったような鞭の動きというとラシーダの『セルケトの尾』があるが、上杉の『雀蓮華』はそれぞれが5本の鞭で構成され、それが両手で合計10本。単純に手数が比較にならない。
「くそ……!」
ぺラギアは毒づきながら剣を振るうが『雀蓮華』はヒラヒラと波打って斬撃を受け流す。その間に他の触手 がぺラギアの死角に回り込んでくる。彼女は必死で盾を掲げるが、そもそも『雀蓮華』は打撃で攻撃してくるのではなく、フワフワと揺らめきながら纏わりついてくる ような動きで攻めてくるので、盾で防ぐには相性が悪かった。『触手』と表現したのはその為だ。
ぺラギアは必死に『ニケ』を振るうが、斬撃を受け流すような『雀蓮華』の動きに翻弄されるばかりだ。既に大きく体力と神力を消耗させられていた事もあって動きが鈍ったぺラギアの、『アイギス』を持つ方の手首に『雀蓮華』の一本が巻き付いた。
(しまった……!?)
ぺラギアは慌てて巻き付いた触手を斬り落とそうと剣を振りかぶるが、その手にも別の触手が巻き付いた。両手を封じられてしまった。
「あはは! それっ!」
必死に振り解こうと両腕に力を込めるぺラギアだが、それを嘲笑うように上杉が『雀蓮華』を操作すると、ぺラギアの両腕を拘束している触手が動き、彼女はまるで十字磔のように両手を大きく広げられた体勢にされてしまう。
それだけでは飽き足らず、他の触手がそれぞれぺラギアの両脚にも絡み付き、両脚も大きく割り裂かれて大股開きの姿勢に固定された。
「ぐ……くそ!!」
立ったまま大の字のような形で四肢を拘束されたぺラギアが呻く。だが更にその首にも別の触手が巻き付いて呻きは苦鳴に変わる。
「くふふ……それじゃ遠慮なく、頂きまーーす!」
「……っ!! う……ああ……うあぁぁぁぁぁぁ!」
立位で磔にされたぺラギアの姿を眺めながら舌なめずりした上杉が力を込めると、『雀蓮華』が巻き付いている彼女の身体から再び体力と神力を吸収 し始めた。
緩く柔らかく決して相手を傷つけず……相手のエネルギーだけを奪い取って吸収する。これが『雀蓮華』の恐ろしい特性であった。
「ふふふ、『雀蓮華』を通じてお姉さんのパワーがどんどん僕に流れ込んでくるよ。お姉さんは逆にどんどん力を吸い取られちゃって、差が開く一方だねぇ。エロカッコいいお姉さん、大ピーーンチ!! あははは!」
(くぅ……だ、駄目だ。力が、入らない……! このままじゃ……!)
上杉に盛大に揶揄されて侮られてもそれに言い返す余裕さえなく、大の字姿のまま為す術なく体力と神力を吸い取られていくぺラギア。既に武器を保持している余力もなく、『ニケ』も『アイギス』も力なく取り落としてしまう。
『雀蓮華』に拘束されていなかったらもう立っているのも辛く、その場に崩れ落ちてしまっていただろう。拘束によって強制的に大の字に立たされたままエネルギーを奪われ続ける。
完全に万事休す。仕方なかったとはいえ、やはりウォーデン相手に単身で戦いを挑むのは無謀過ぎたのだ。最低でも2人、安定して戦うには3人以上はいなければウォーデンの相手は出来ない。それを破った結果が今のぺラギアの状況だ。
(す、済まない、シャクティ。済まない、テンマ。不甲斐ない私を許してくれ……)
この状況を覆す術がない事を悟ってしまったぺラギアは諦念の中で仲間達に詫びた。もうそれしか出来る事が無かった。
「あはははは――――――はぎっ!?」
その時、ぺラギアの力を吸い取り続ける上杉の狂笑が唐突に止んだ。といっても死に体のぺラギアが何かした訳ではない。
上杉が……背後から 胴体を刺し貫かれていたのだ。奴の背中を突き破って胴体から血塗られた二本の槍の穂先 が生えていた。
「お、ごぁ……な、何……?」
上杉が大量の血を吐き出しながら背後に振り向く。
「……あなたがその女性を甚振る事に気を取られてくれて助かりましたわ。お陰でこうして完璧な奇襲が出来ましたから」
「……っ!!」
聞き覚えの無い女性の声。ぺラギアは朦朧とした意識に霞んだ視界の中に、上杉の背後に現れた女性の姿を捉えた。
まず目を惹いたのは燃えるような赤い 長髪。その下には堀の深いアイリッシュ系の美貌。西洋の騎士甲冑を女性用に改造したような露出度の高い鎧に身を包み、両手にはそれぞれ長柄の斧槍 が握られており、その二本の斧槍の穂先で上杉を背後から貫いたらしかった。
「き、き、ぎ……」
「ああ、ご安心なさい。すぐ楽にして差し上げますわ。『デス・ストローク!!』」
赤毛の女騎士が叫ぶと、彼女の身体から強烈な神力 が発生して、それが斧槍を伝って上杉を身体の内側 から灼き焦がした。
「……!! っ!? ……っ!!」
上杉は激しく身体を痙攣させると、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。同時にぺラギアを拘束していた『雀蓮華』が消滅し、解放された彼女はそのまま床に突っ伏した。
「あらあら、だらしがないですわね、お仲間さん ? でもあなたがこいつの注意を引きつけてくれたお陰で楽が出来ましたわ。お礼を言わせて頂きます」
「う……き、君、は……?」
何とか四つ這いの姿勢になって息を荒げながら、ぺラギアはその赤毛の女騎士を見上げる。女性は二振りの斧槍を持ったまま慇懃無礼な態度で一礼した。
「私 はハリエット・ラザフォード。ケルトの戦女神モリガンのディヤウスですわ。邪神の気配を追ってこの地まで来ましたが……想像以上に浸食が進んでいるようですわね」
「モリガン……!」
ケルト神話の、主にアイルランド地方で信仰されていた死と戦を司る女神だ。恐らくこの女性……ハリエットも、ぺラギアやアリシアと同じく独自に覚醒して戦い続けていたディヤウスなのだろう。
骨蜘蛛たちは文字通り無限に湧き出し留まる所を知らない。そしてこの学校は現在『結界』に覆われているので、この学校の惨状は外からは認識されていないのだ。つまり助けは来ないという事だ。
だが今……彼等を助ける為に神の戦士が1人、孤軍奮闘していた。
『ディーヴァの舞踏会!』
シャクティは神力で作り出した光のチャクラムを複数周囲に飛ばし、学生たちを襲う骨蜘蛛たちを所構わず斬り倒していく。骨蜘蛛たちは大した強さではなく、光のチャクラムに斬り裂かれて一撃で消滅していく。
「さあ、今の内です! あちらの体育館の方に逃げて下さい!」
襲われていた学生たちを大声で促す。地獄絵図の中、古代神話から抜け出したような煽情的な鎧を身に纏ったインド人女性に超常的な力で救われた学生たちは、誰もが夢でも見ているのかと疑うような唖然とした顔で彼女を見上げたが、大声で促された事で正気を取り戻し、半ば本能的な判断でシャクティの指示に従って体育館の方に逃げ去って行った。
彼等を追うように別の骨蜘蛛たちが群がって来るが、シャクティは光のチャクラムを操って全て斬り倒した。
「くっ……キリがないですね……!」
骨蜘蛛たちは完全な雑魚だが、ほぼ無限に湧き出してくる数の暴力が厄介だ。こいつらを召喚している
本体を倒す役目はぺラギアに託すしかない。シャクティはそれを信じて、とにかく人々を骨蜘蛛どもから守るのだ。
学生や職員たちは校舎中に散らばっている。彼女は建物の中を駆け巡って襲われている人々を助け、その都度体育館への避難を促していた。一箇所に集めた方が守りやすいからだ。そしてあの体育館なら障害物も無く視界も効くので、大勢の人間を守るのに適していた。
(ぺラギアさん、どうか……ご武運を!)
犠牲者の救出と避難誘導を繰り返しながら、シャクティは仲間を信じてその勝利を一心に願い続けていた……
「くっ……」
そのぺラギアは現在、無様に四肢を投げ出して仰向けに倒れていた。倒れたまま激しく息を喘がせる。
「あれぇ、どうしたのかな? 威勢よく掛かってきた割にもうへばったのかい?」
そのぺラギアを余裕の表情で見下ろしているのは、この学校の制服に身を包んだ1人の男子生徒。上杉風太郎という名前らしい。
元々は陰気で気弱だったと思われるその顔を酷薄に……そして好色に歪めて、露出度の高い古代戦士風の
その上杉の両手にはそれぞれ、まるで独自の意思を持ったようにゆらゆらと蠢く、鞭
「ほら、いつまで寝てるんだい? まあ僕としては眼福な光景だけどね」
「ぐ……あ、あまり、大人を舐めるんじゃ、ないよ……!」
視姦され、余裕の態度で煽られる屈辱にぺラギアは歯噛みしながら、何とか上体を起こして片膝立ちの姿勢になる。上杉はそんな彼女をニヤニヤと見下ろしている。
因みにぺラギアは掠り傷や打撲一つ負っていない無傷の状態である。にも関わらず彼女がこれほど消耗している原因は、上杉の持つ『鞭』にあった。
「ふふ、大分辛そうだねぇ? 僕の『
「く……こ、このくらい……へっちゃらさ」
ぺラギアはまるで全身に鉛の塊を括り付けられたかのように重く感じる身体を強引に持ち上げて、何とか立ち上がった。だが脚はガクガクと震えて覚束ず、全身汗まみれで肩で息をしている状態であった。
「頑張るねぇ、お姉さん。そんなにもう一度『雀蓮華』の感触を味わいたいなら、お望みどおりにしてあげるよ!」
上杉が哄笑と共に両手の『鞭』……『雀蓮華』を一斉に繰り出してきた。意志を持ったような鞭の動きというとラシーダの『セルケトの尾』があるが、上杉の『雀蓮華』はそれぞれが5本の鞭で構成され、それが両手で合計10本。単純に手数が比較にならない。
「くそ……!」
ぺラギアは毒づきながら剣を振るうが『雀蓮華』はヒラヒラと波打って斬撃を受け流す。その間に他の
ぺラギアは必死に『ニケ』を振るうが、斬撃を受け流すような『雀蓮華』の動きに翻弄されるばかりだ。既に大きく体力と神力を消耗させられていた事もあって動きが鈍ったぺラギアの、『アイギス』を持つ方の手首に『雀蓮華』の一本が巻き付いた。
(しまった……!?)
ぺラギアは慌てて巻き付いた触手を斬り落とそうと剣を振りかぶるが、その手にも別の触手が巻き付いた。両手を封じられてしまった。
「あはは! それっ!」
必死に振り解こうと両腕に力を込めるぺラギアだが、それを嘲笑うように上杉が『雀蓮華』を操作すると、ぺラギアの両腕を拘束している触手が動き、彼女はまるで十字磔のように両手を大きく広げられた体勢にされてしまう。
それだけでは飽き足らず、他の触手がそれぞれぺラギアの両脚にも絡み付き、両脚も大きく割り裂かれて大股開きの姿勢に固定された。
「ぐ……くそ!!」
立ったまま大の字のような形で四肢を拘束されたぺラギアが呻く。だが更にその首にも別の触手が巻き付いて呻きは苦鳴に変わる。
「くふふ……それじゃ遠慮なく、頂きまーーす!」
「……っ!! う……ああ……うあぁぁぁぁぁぁ!」
立位で磔にされたぺラギアの姿を眺めながら舌なめずりした上杉が力を込めると、『雀蓮華』が巻き付いている彼女の身体から再び体力と神力を
緩く柔らかく決して相手を傷つけず……相手のエネルギーだけを奪い取って吸収する。これが『雀蓮華』の恐ろしい特性であった。
「ふふふ、『雀蓮華』を通じてお姉さんのパワーがどんどん僕に流れ込んでくるよ。お姉さんは逆にどんどん力を吸い取られちゃって、差が開く一方だねぇ。エロカッコいいお姉さん、大ピーーンチ!! あははは!」
(くぅ……だ、駄目だ。力が、入らない……! このままじゃ……!)
上杉に盛大に揶揄されて侮られてもそれに言い返す余裕さえなく、大の字姿のまま為す術なく体力と神力を吸い取られていくぺラギア。既に武器を保持している余力もなく、『ニケ』も『アイギス』も力なく取り落としてしまう。
『雀蓮華』に拘束されていなかったらもう立っているのも辛く、その場に崩れ落ちてしまっていただろう。拘束によって強制的に大の字に立たされたままエネルギーを奪われ続ける。
完全に万事休す。仕方なかったとはいえ、やはりウォーデン相手に単身で戦いを挑むのは無謀過ぎたのだ。最低でも2人、安定して戦うには3人以上はいなければウォーデンの相手は出来ない。それを破った結果が今のぺラギアの状況だ。
(す、済まない、シャクティ。済まない、テンマ。不甲斐ない私を許してくれ……)
この状況を覆す術がない事を悟ってしまったぺラギアは諦念の中で仲間達に詫びた。もうそれしか出来る事が無かった。
「あはははは――――――はぎっ!?」
その時、ぺラギアの力を吸い取り続ける上杉の狂笑が唐突に止んだ。といっても死に体のぺラギアが何かした訳ではない。
上杉が……
「お、ごぁ……な、何……?」
上杉が大量の血を吐き出しながら背後に振り向く。
「……あなたがその女性を甚振る事に気を取られてくれて助かりましたわ。お陰でこうして完璧な奇襲が出来ましたから」
「……っ!!」
聞き覚えの無い女性の声。ぺラギアは朦朧とした意識に霞んだ視界の中に、上杉の背後に現れた女性の姿を捉えた。
まず目を惹いたのは燃えるような
「き、き、ぎ……」
「ああ、ご安心なさい。すぐ楽にして差し上げますわ。『デス・ストローク!!』」
赤毛の女騎士が叫ぶと、彼女の身体から強烈な
「……!! っ!? ……っ!!」
上杉は激しく身体を痙攣させると、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。同時にぺラギアを拘束していた『雀蓮華』が消滅し、解放された彼女はそのまま床に突っ伏した。
「あらあら、だらしがないですわね、
「う……き、君、は……?」
何とか四つ這いの姿勢になって息を荒げながら、ぺラギアはその赤毛の女騎士を見上げる。女性は二振りの斧槍を持ったまま慇懃無礼な態度で一礼した。
「
「モリガン……!」
ケルト神話の、主にアイルランド地方で信仰されていた死と戦を司る女神だ。恐らくこの女性……ハリエットも、ぺラギアやアリシアと同じく独自に覚醒して戦い続けていたディヤウスなのだろう。