第9話 異臭の街
文字数 4,028文字
足立区での『要石』破壊を無事に終えたミネルヴァとタビサ。彼女らはそのまま北上して、隣接する葛飾区に入る。そして……
「……っ!?」
「うぇ……! く、臭……!! 何だ、この酷ぇ臭い!? 鼻が曲がりそうだぜ!」
葛飾区に入ってしばらくすると、2人は空気中に漂う凄まじいまでの臭気に顔をしかめる。足立区にいた時はこんな臭いはしなかった。ミネルヴァは他に道行く人々に視線を走らせるが、誰もこの異様な臭いを気にしている人はいない。隣の足立区ではこんな臭いはしなかったし、他の区から来ている人も大勢いるはずなので、慣れという事はないはずだ。
(……普通の人間が感知しないとなると、この臭いは魔力が関わっている?)
そう考えるのが妥当だ。となればやる事は一つだ。
「しっかりして。この臭いの元を辿るわ」
「うぇ、マジかよ。既に吐きそうだってのに、この臭いにもっと近づけって?」
タビサは露骨に顔をしかめる。ミネルヴァだって出来ればこんな事はしたくないが、彼女の勘はこの臭いと『要石』は確実に関係していると告げていた。
「他の班に後れを取ってもいいの? テンマは何て言うかしら?」
「……!!」
この任務を競争のように考えている節のあるタビサ、ましてや彼女が少し懸想しているらしい天馬の事を引き合いに出したらその効果は覿面であった。
「そ、そうだな。他の班よりも早く全部の『要石』をぶっ壊して、テンマの所にいの一番に加勢するんだ。その為ならこんな臭いくらいで尻込みしてられねぇな!」
単純なタビサはすっかりその気になって、むしろ自分から率先して臭いの元へ動き出した。
「ほら、何してんだ! ボサッとしてたら他の班に負けちまうだろ! 置いてくぞ!」
最初は難色を示していたのも忘れて彼女を促してくるタビサの姿に、半ば呆れながらため息をついたミネルヴァはその後を追うように歩き出した。
気分の悪さを別にすれば、この異臭の元を辿るのは全く難しくなかった。ただ臭いがきつくなる方に向かっていけばいいのだから。やがて二人は葛飾区の街中にある、巨大な煙突をいくつも備えた何らかの工場のような施設の前に辿り着いていた。
「間違いねぇ。ここがこの臭いの元だな。でも何だここ? 何かの工場か?」
「工場は工場だけど……何かを作るのではなくて、むしろ処分 する為の工場のようね」
施設を見上げながらミネルヴァが呟いた。彼女の知識に間違いがなければ、ここは恐らくゴミ処理施設の類いだと思われた。実際に正門の所に『葛飾清掃工場』と書かれた看板が貼られていた。
「ゴミ処理施設? それにしちゃ随分小奇麗だな。アフリカじゃ考えられねぇな。カネ持ってる国は贅沢で羨ましいぜ」
タビサが鼻を鳴らす。ようやくこの異臭にも少し慣れてきたようだ。しかしそれだけに即行動を起こそうとする。
「よし、じゃあ早速中にある『要石』をぶっ壊しにいこうぜ。それを壊しゃこの臭いも消えるだろ」
「え……ちょっと待って。このまま入る気? 今は操業中よ。下手すると不法侵入になるわ。夜まで待って忍び込むべきよ」
いきなり工場に踏み込もうとするタビサに唖然としたミネルヴァは慌てて引き留める。
「何言ってんだよ。夜までなんて待ってたら他の班に先を越されちまうだろ? それになるべく早くここの『要石』を壊した方がいいのはあんたも同意だろ?」
「それは、まあ……」
ここまで来るとはっきりと分かるが、この処理施設の巨大な煙突から大量の魔力の靄が、常人には見えない煙状になって噴き出して拡散されているのだ。間違いなくこの異常に濃い魔力が異臭の元であり、一刻も早く破壊しなければ大変な事になりそうだという予感はあった。
「ディヤウスの力なら一般人に見つからないように忍び込むくらい簡単だろ。『要石』がこの中のどこにあるのかは、この臭いが教えてくれるんだしよ」
「でも……『要石』を破壊するには神力を込めた技を当てる必要があるわ。流石にそれを見咎められずに行う事は不可能よ。それ以前に邪神の勢力が妨害してきたら応戦しない訳にはいかないし……」
超常の戦いを直に見られるのは宜しくない。ここにも邪神の勢力が潜んでいるとして、奴等が不法侵入で警察を呼ぶなどといった常識的な手段 でこちらの妨害を図ってこないとも限らない。しかしタビサは呆れたように眉を上げた。
「それこそ取り越し苦労だぜ。もしそうなったらとにかく強引に『要石』を破壊しちまえばいい。それを防ごうと思ったら奴等だって超常の力を振るわなきゃいけない。そこに警察なんか来たら困るのは奴等だって同じだろ?」
「……!」
そう言われれば確かにそんな気もする。ミネルヴァはタビサが意外に色々考えていた事に驚かされた。彼女が苦笑した。
「あたしだってそこまで考えなしじゃないぜ。テンマに迷惑かけたくないしな」
「……そうね。それに確かにこの煙と臭いは放置できないし。解ったわ。今すぐに潜入しましょう」
ミネルヴァが同意すれば話は早い。2人は早速神力を発動させ、それを身に纏った状態で堂々と工場の敷地内に侵入する。敷地内を忙しく動き回る従業員や出入りの業者などが大勢いたが、誰も白人と黒人の女性2人連れという、この場所にあっては異質な存在に目を向ける事はなかった。
これも言語翻訳や簡易洗脳などと同じくディヤウスの共通能力の一つで、神力の『膜』をその身に纏わせる事で周囲の人間の認識能力を攪乱させて、自身の存在を気づかれないように出来るのだ。どのような原理か鏡や監視カメラにも映らなくなるのだ。
ただし隠せるのは『自分の存在』だけで、ドアや窓を開けたりなどの物理現象は気づかれる(というより誰もいないのにドアがひとりでに開いたように思われて余計に注意を引いてしまう)ので、ドアを潜る必要がある時だけは周囲に誰もいない時を見計らって開閉しなければならないが。
あとは勿論プログレスやウォーデンといった邪神の勢力には通じず、即座に見破られてしまう。もし今の彼女らを見咎める者がいるとしたらそれは人間ではないという事だ。そしてバレた場合は即座に作戦を切り替えて、強引に『要石』まで突っ切る事になっていた。
ゴミ処理施設だけあって、ゴミを搬入して集積する為の大きな搬入口があったので、内部への侵入にはそちらを使わせてもらう。施設内は施設の大部分を占めるゴミを搬入、運搬して焼却炉まで繋がる工場部分と、事務所のようなオフィスフロアに分かれており、オフィスフロアの方はここがゴミ処理場かと疑う程に綺麗で清掃の行き届いた内装であった。流石に工場部分はそうでもなかったが。
『要石』はどうも工場部分の方に存在しているようだ。それも恐らくは……
「……! やはり……」
「ここって……焼却炉だよな?」
日本はゴミの分別にはかなり煩い国のようで、焼却炉もいくつかに分かれていたが、そのうち最も巨大な炉――恐らく可燃ごみ用と思われる焼却炉の中に……あの特徴的な真っ黒いモノリスが屹立していたのだ。その上には巨大な排煙口が開いており、恐らく外からも見えたあの大きな煙突に繋がっているものと思われた。
「……なぁ、流石にあんな所にあんな目立つモンが突っ立ってて、誰も気づかないなんて事はあり得ねぇよな?」
「奇遇ね。私も丁度同じ疑問を抱いた所」
この処理場のメイン焼却炉だ。入念に管理されているはずだし、作業中や作業後も必ず複数の人の目が向けられているはずだ。にも関わらずあんな物が放置されているという事は……
「――やあやあ、これは可愛らしいお嬢さん方だ! 俺のテリトリー にようこそ!」
「「っ!!」」
2人は弾かれたように振り返った。今の隠密用の神力を纏った2人に声を掛けられる存在は限られている。2人は耐熱ガラスを隔てて焼却炉の様子が見下ろせる広いロビーのようなスペースにいたのだが、振り返った彼女らの視線の先に20代後半くらいの1人の男が佇んでいた。
この処理場の作業着を着ているが、どう見ても日本人ではない。浅黒い肌に茶色の短髪、堀の深い顔立ち。その男はラテン系 の特徴を持っていた。
「中々素晴らしい試みだろ? 街のど真ん中に建ってるこの巨大な炉と煙突を利用すれば、遥かに効率的に『要石』の魔力を街中に浸透できる。この処理場の職員だけじゃない。既にこの葛飾区全体が俺達 の支配下だなのさ」
「……!!」
ラテン系の男はそう言って薄く笑った。やはりこの施設の職員は既に掌握済み という事のようだ。
「『要石』はどれだけ高温だろうと普通の炎や熱では決して燃えないし傷つく事もない。だからここに入れっ放しでゴミと一緒に燃やしても全く問題ないって事。【外なる神々】……いや、クトゥルフ神の一部 に対して不敬かな? でも俺の主はあくまで中南米を領域とするシュブ=ニグラス様だからな。ま、だからこそこんなアイデアが思い付いた訳だが」
ラテン男は再び愉快そうに笑った。
「そして俺は運がいい。日本人の女はどうも俺の好みじゃなくてね。肌のきれいな白人か黒人の女が欲しいと思ってたら、まさかその両方が自分から俺のテリトリーに入ってきてくれるなんてな。お前らは俺の物にする。これは決定事項だ」
「ああ? てめぇ、ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
「……ウォーデンになるくらいだから人格も最低って事ね。遠慮なく殺してあげられるわ」
男の言い草にミネルヴァとタビサは柳眉を逆立てて戦闘態勢になる。ミネルヴァは神器を顕現し、神衣をその身に纏う。
「んんーー、怒った顔もそそるねぇ。増々気に入った。アステカの死神ミクトランテクトリのウォーデン、エミリオ・ガルべスだ。精々俺を楽しませてくれよ、お嬢さん方?」
ラテン男――ガルべスの身体から強大な魔力が噴き出した。アステカの神を守護神に持つ事、そして名前からもどうやらメキシコ人のようだ。
ゴミ処理施設の広いロビーフロアで、強大な力と力のぶつかり合いが始まった!
「……っ!?」
「うぇ……! く、臭……!! 何だ、この酷ぇ臭い!? 鼻が曲がりそうだぜ!」
葛飾区に入ってしばらくすると、2人は空気中に漂う凄まじいまでの臭気に顔をしかめる。足立区にいた時はこんな臭いはしなかった。ミネルヴァは他に道行く人々に視線を走らせるが、誰もこの異様な臭いを気にしている人はいない。隣の足立区ではこんな臭いはしなかったし、他の区から来ている人も大勢いるはずなので、慣れという事はないはずだ。
(……普通の人間が感知しないとなると、この臭いは魔力が関わっている?)
そう考えるのが妥当だ。となればやる事は一つだ。
「しっかりして。この臭いの元を辿るわ」
「うぇ、マジかよ。既に吐きそうだってのに、この臭いにもっと近づけって?」
タビサは露骨に顔をしかめる。ミネルヴァだって出来ればこんな事はしたくないが、彼女の勘はこの臭いと『要石』は確実に関係していると告げていた。
「他の班に後れを取ってもいいの? テンマは何て言うかしら?」
「……!!」
この任務を競争のように考えている節のあるタビサ、ましてや彼女が少し懸想しているらしい天馬の事を引き合いに出したらその効果は覿面であった。
「そ、そうだな。他の班よりも早く全部の『要石』をぶっ壊して、テンマの所にいの一番に加勢するんだ。その為ならこんな臭いくらいで尻込みしてられねぇな!」
単純なタビサはすっかりその気になって、むしろ自分から率先して臭いの元へ動き出した。
「ほら、何してんだ! ボサッとしてたら他の班に負けちまうだろ! 置いてくぞ!」
最初は難色を示していたのも忘れて彼女を促してくるタビサの姿に、半ば呆れながらため息をついたミネルヴァはその後を追うように歩き出した。
気分の悪さを別にすれば、この異臭の元を辿るのは全く難しくなかった。ただ臭いがきつくなる方に向かっていけばいいのだから。やがて二人は葛飾区の街中にある、巨大な煙突をいくつも備えた何らかの工場のような施設の前に辿り着いていた。
「間違いねぇ。ここがこの臭いの元だな。でも何だここ? 何かの工場か?」
「工場は工場だけど……何かを作るのではなくて、むしろ
施設を見上げながらミネルヴァが呟いた。彼女の知識に間違いがなければ、ここは恐らくゴミ処理施設の類いだと思われた。実際に正門の所に『葛飾清掃工場』と書かれた看板が貼られていた。
「ゴミ処理施設? それにしちゃ随分小奇麗だな。アフリカじゃ考えられねぇな。カネ持ってる国は贅沢で羨ましいぜ」
タビサが鼻を鳴らす。ようやくこの異臭にも少し慣れてきたようだ。しかしそれだけに即行動を起こそうとする。
「よし、じゃあ早速中にある『要石』をぶっ壊しにいこうぜ。それを壊しゃこの臭いも消えるだろ」
「え……ちょっと待って。このまま入る気? 今は操業中よ。下手すると不法侵入になるわ。夜まで待って忍び込むべきよ」
いきなり工場に踏み込もうとするタビサに唖然としたミネルヴァは慌てて引き留める。
「何言ってんだよ。夜までなんて待ってたら他の班に先を越されちまうだろ? それになるべく早くここの『要石』を壊した方がいいのはあんたも同意だろ?」
「それは、まあ……」
ここまで来るとはっきりと分かるが、この処理施設の巨大な煙突から大量の魔力の靄が、常人には見えない煙状になって噴き出して拡散されているのだ。間違いなくこの異常に濃い魔力が異臭の元であり、一刻も早く破壊しなければ大変な事になりそうだという予感はあった。
「ディヤウスの力なら一般人に見つからないように忍び込むくらい簡単だろ。『要石』がこの中のどこにあるのかは、この臭いが教えてくれるんだしよ」
「でも……『要石』を破壊するには神力を込めた技を当てる必要があるわ。流石にそれを見咎められずに行う事は不可能よ。それ以前に邪神の勢力が妨害してきたら応戦しない訳にはいかないし……」
超常の戦いを直に見られるのは宜しくない。ここにも邪神の勢力が潜んでいるとして、奴等が不法侵入で警察を呼ぶなどといった
「それこそ取り越し苦労だぜ。もしそうなったらとにかく強引に『要石』を破壊しちまえばいい。それを防ごうと思ったら奴等だって超常の力を振るわなきゃいけない。そこに警察なんか来たら困るのは奴等だって同じだろ?」
「……!」
そう言われれば確かにそんな気もする。ミネルヴァはタビサが意外に色々考えていた事に驚かされた。彼女が苦笑した。
「あたしだってそこまで考えなしじゃないぜ。テンマに迷惑かけたくないしな」
「……そうね。それに確かにこの煙と臭いは放置できないし。解ったわ。今すぐに潜入しましょう」
ミネルヴァが同意すれば話は早い。2人は早速神力を発動させ、それを身に纏った状態で堂々と工場の敷地内に侵入する。敷地内を忙しく動き回る従業員や出入りの業者などが大勢いたが、誰も白人と黒人の女性2人連れという、この場所にあっては異質な存在に目を向ける事はなかった。
これも言語翻訳や簡易洗脳などと同じくディヤウスの共通能力の一つで、神力の『膜』をその身に纏わせる事で周囲の人間の認識能力を攪乱させて、自身の存在を気づかれないように出来るのだ。どのような原理か鏡や監視カメラにも映らなくなるのだ。
ただし隠せるのは『自分の存在』だけで、ドアや窓を開けたりなどの物理現象は気づかれる(というより誰もいないのにドアがひとりでに開いたように思われて余計に注意を引いてしまう)ので、ドアを潜る必要がある時だけは周囲に誰もいない時を見計らって開閉しなければならないが。
あとは勿論プログレスやウォーデンといった邪神の勢力には通じず、即座に見破られてしまう。もし今の彼女らを見咎める者がいるとしたらそれは人間ではないという事だ。そしてバレた場合は即座に作戦を切り替えて、強引に『要石』まで突っ切る事になっていた。
ゴミ処理施設だけあって、ゴミを搬入して集積する為の大きな搬入口があったので、内部への侵入にはそちらを使わせてもらう。施設内は施設の大部分を占めるゴミを搬入、運搬して焼却炉まで繋がる工場部分と、事務所のようなオフィスフロアに分かれており、オフィスフロアの方はここがゴミ処理場かと疑う程に綺麗で清掃の行き届いた内装であった。流石に工場部分はそうでもなかったが。
『要石』はどうも工場部分の方に存在しているようだ。それも恐らくは……
「……! やはり……」
「ここって……焼却炉だよな?」
日本はゴミの分別にはかなり煩い国のようで、焼却炉もいくつかに分かれていたが、そのうち最も巨大な炉――恐らく可燃ごみ用と思われる焼却炉の中に……あの特徴的な真っ黒いモノリスが屹立していたのだ。その上には巨大な排煙口が開いており、恐らく外からも見えたあの大きな煙突に繋がっているものと思われた。
「……なぁ、流石にあんな所にあんな目立つモンが突っ立ってて、誰も気づかないなんて事はあり得ねぇよな?」
「奇遇ね。私も丁度同じ疑問を抱いた所」
この処理場のメイン焼却炉だ。入念に管理されているはずだし、作業中や作業後も必ず複数の人の目が向けられているはずだ。にも関わらずあんな物が放置されているという事は……
「――やあやあ、これは可愛らしいお嬢さん方だ! 俺の
「「っ!!」」
2人は弾かれたように振り返った。今の隠密用の神力を纏った2人に声を掛けられる存在は限られている。2人は耐熱ガラスを隔てて焼却炉の様子が見下ろせる広いロビーのようなスペースにいたのだが、振り返った彼女らの視線の先に20代後半くらいの1人の男が佇んでいた。
この処理場の作業着を着ているが、どう見ても日本人ではない。浅黒い肌に茶色の短髪、堀の深い顔立ち。その男は
「中々素晴らしい試みだろ? 街のど真ん中に建ってるこの巨大な炉と煙突を利用すれば、遥かに効率的に『要石』の魔力を街中に浸透できる。この処理場の職員だけじゃない。既にこの葛飾区全体が
「……!!」
ラテン系の男はそう言って薄く笑った。やはりこの施設の職員は既に
「『要石』はどれだけ高温だろうと普通の炎や熱では決して燃えないし傷つく事もない。だからここに入れっ放しでゴミと一緒に燃やしても全く問題ないって事。【外なる神々】……いや、クトゥルフ神の
ラテン男は再び愉快そうに笑った。
「そして俺は運がいい。日本人の女はどうも俺の好みじゃなくてね。肌のきれいな白人か黒人の女が欲しいと思ってたら、まさかその両方が自分から俺のテリトリーに入ってきてくれるなんてな。お前らは俺の物にする。これは決定事項だ」
「ああ? てめぇ、ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
「……ウォーデンになるくらいだから人格も最低って事ね。遠慮なく殺してあげられるわ」
男の言い草にミネルヴァとタビサは柳眉を逆立てて戦闘態勢になる。ミネルヴァは神器を顕現し、神衣をその身に纏う。
「んんーー、怒った顔もそそるねぇ。増々気に入った。アステカの死神ミクトランテクトリのウォーデン、エミリオ・ガルべスだ。精々俺を楽しませてくれよ、お嬢さん方?」
ラテン男――ガルべスの身体から強大な魔力が噴き出した。アステカの神を守護神に持つ事、そして名前からもどうやらメキシコ人のようだ。
ゴミ処理施設の広いロビーフロアで、強大な力と力のぶつかり合いが始まった!