第6話 ディヤウスの使命

文字数 2,994文字

「あ、あぁ……な、何なんだよこれ? こいつらは……それにお前らも一体何者なんだよ!?」

 タビサがへたり込んだままその大きな目を限界まで見開いている。怪物と化したプログレスやゾンビ達、そして小鈴達の超常の戦いを間近で見せられたので、ある意味では当然の反応だ。

 だが彼女は自分で気づいていないだけで、小鈴達と同じような力を持っているはずなのだ。小鈴達は顔を見合わせて頷き合った。この状況を想定していた訳ではないが、今ならタビサに事情を説明しても納得してもらいやすい下地(・・)が出来上がっていた。

「落ち着いて。全部説明するから。これはあなたにも関係がある事だから」

「ア、アタシにも……? どういう事だよ?」

 小鈴が屈みこんで諭すとタビサの顔に疑問符が浮かぶ。ぺラギアが手を叩いた。


「とりあえずここは日差しも強いし、どこか屋内に入らないかい? なるべく余人に話を聞かれない場所がいいけど」

「あ……そ、それなら、このズヴァナ伯母さんの家でいいと思う。合鍵も持ってるし。アンタらが良ければだけど」

 タビサが目の前の粗末な家を示す。粗末とはいっても4人くらいなら問題なく中に入って話は出来そうだ。周囲には何もないし誰か近付いてくればすぐに解るので、確かに内密な話をするには案外都合がいいかも知れない。小鈴は頷いた。

「ええ、私達なら構わないわ。あなたこそいいの? その伯母さんの家に勝手に他人を上げちゃって」

「それは別にいいよ。しょっちゅう来てたし、伯母さんからも自分がいない時は好きに使っていいって言われて合鍵もらってるし」

 どうやらその伯母さんとはかなり親しかったようだ。それだけに行方不明になった事が心配で騒いでいるうちに、あのような連中に目を付けられてしまったのだろう。

 そういう訳でとりあえずズヴァナの家に上がらせてもらう事になった。家の中は外から見た印象通りという感じで、入ってすぐ左側に小さなリビングと思しき部屋があり、右側にはキッチンとダイニングがあるだけの簡素な造りだった。寝室はリビングの奥にあるらしい。

 電線は繋がっていたので一応電気は来ているようだが、リビングの照明は裸電球であった。


「ここならいいだろ? で、説明してくれるって言ったよな?」

 流石に4人もリビングに入ると手狭でソファも足りないので、タビサはダイニングから粗末な丸椅子を持ってきてそれに座ると、前置きもなしに尋ねてきた。かなり気が急いているようだ。まあそれも無理からぬ事だろうが。

「説明する前に一つだけ確認したいんだけど、あなたはここ最近夢の中で神様のような存在から、この星を守るようにみたいな話をされなかった?」

 これは天馬がよくやっていた確認手段だが、相手が未覚醒のディヤウスである事の最終確認と同時に、話の取っ掛かりにも便利なので小鈴も真似させてもらう事にした。

「神様? かどうか分かんないけど、なんか大地(・・)が直接語り掛けてくる夢なら見たぜ? たしかにこの星がどうとか邪神がどうとか言ってたな。夢だってのに目が覚めても不思議に覚えてるし。何でアンタらがそれを知ってるんだ? 誰にも言った事ないのに」

「大地が? ふむ……どう思う、ラシーダ?」

 話を聞いたぺラギアが顎に手を当ててラシーダにも意見を求める。確かに今までとは少し異なるパターンだ。小鈴達のケースではいずれも人に近い形を取った旧神が直接語り掛けてきていた。ラシーダも少し考え込むようにして発言する。

「……天や空、海、それに大地といった自然そのもの(・・・・・・)を象徴する神は、世界中どこでもかなり高位の神である事が殆どよ。エジプトでいえば太陽神(ラー)のようにね。彼女はもしかするとそういうケースかもしれない」

「……! 主神クラスという事かい?」

 ぺラギアが目を瞠る。ギリシャでいえばガイア、中国でいえば盤古あたりだろうか。そう考えるとそれがどれだけ凄い事か想像しやすい。彼女はそんな神の種子を受けたという事なのだろうか。


「な、何だよ。アタシの見た夢の事を知ってんのか? まさかあれが本当だって言うんじゃないよな?」

 ぺラギア達の様子を見たタビサが不安そうに問い掛けてくる。小鈴は彼女に向き直った。

「残念ながら本当よ。勿論普通であれば邪神だの地球の危機だの言われても信じられないでしょうけど、今は(・・)私達の言う事にも多少の信憑性があると思わない?」

「……!! あの化け物達か?」

 先程の戦いを思い出したタビサの顔が歪む。あのプログレスやそれと戦う小鈴達の姿は何よりの強い証拠になる。あれを直に見ては小鈴達の話を笑い飛ばす事は出来ないだろう。彼女達が今なら話をしやすいと判断したのもこれが理由だ。

「そう。今この地球は外宇宙から飛来してきた邪神共によって蝕まれている。あいつらはその邪神達の眷属なのよ。そして私達はその邪神の勢力と戦うための力を与えられた『神化種(ディヤウス)』という存在なのよ」

「ディヤウス……」

 タビサは呆然としたように呟く。だが彼女にとっても他人事ではないのだ。何故なら……

「そして……君もまた我々と同じ存在なんだよ。私達は君を捜す為にこの地までやって来たんだ」

「え、ええ!? ア、アタシも……!?」

 ぺラギアの言葉にタビサが目を丸くして驚愕する。まあ誰だっていきなりこんな事を言われたらびっくりするだろう。だがそれが事実であり、現実なのだ。

「自覚はないでしょうけど、あなたにも私達と同じような力が眠っているのは事実よ。だから私達はあなたを勧誘(・・)に来たのよ。共に邪神共と戦う仲間としてね」

「勧誘って……いきなりそんな事言われても……」

 ラシーダの言葉にタビサは戸惑ったように言葉を濁す。まあそれはそうだろう。彼女にはここでの暮らしがある。彼女を大切に思っている家族もいる。そして何より……

「そもそもズヴァナ伯母さんの事を放ってどこかに行くなんて出来ねぇよ。あんな化け物どもが絡んでるとなったら尚更だ」

 その喫緊の問題がある。例え他の条件をクリアしたとしても、伯母の安否が確認できない限りタビサの心は安定しないだろう。小鈴達としても事件に邪神の勢力が絡んでいるらしい以上、このまま見過ごすという選択肢はない。


「そのあなたの伯母さんに関してだけど、私達も捜索と救出に協力するわ。いえ、是非協力させて頂戴」

「……!! あ、アンタ達も!? ほ、本当にいいのかよ?」

 小鈴が請け負うとタビサは目を瞠るが、内心で多少それを期待していた部分もあるようだ。元々彼女1人の手には余る問題だった所に、あんなプログレス達まで絡んでいるとなれば、いくら彼女が気が強くとも大切な伯母のために無意識に他者に助けを求めてしまうのも致し方無い事だろう。

「勿論よ。これはあなたの勧誘とは別の話。私達にとって邪神の勢力は不俱戴天の敵なの。奴等が絡んでいる以上、見過ごす事はできないわ。だからあなたは気にしなくていいのよ。私達が勝手に協力させてもらうんだから」

「そ、そういう事なら…………あ、ありがと」

 小さな声でもごもごと礼を言うタビサ。父親も警察も当てにならない中で今まで1人で事に当たっていたのだ。正直かなり不安は大きかったのだろう。そして実際に彼女の口を封じようと襲ってきた連中がいる。

 味方は1人でも欲しかった所だろう。ましてや事前に小鈴達の超常的な強さも見ているので、余計に頼もしく感じているのかもしれない。
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