第8話 情報聴取
文字数 4,190文字
「見えてきたぜ。あれが硯盛資源が所有してる『ファラボルワ鉱山』だよ」
「……!」
本当にすぐに着いた。タビサが指し示す先には、サバンナの景色とは明らかに浮いている異質な風景が広がっていた。
まず目に付くのはどこまでも続いているかのような武骨なフェンスとコンクリートの壁、そして鉄条網だ。その奥にはいくつものプレハブやコンクリートの建物が立ち並んでいるのが見え、高い見張り塔のような建造物も目に付いた。
他にも巨大なクレーン車などの重機も遠目にいくつも確認でき、何か黒い煙のようなものがそこかしこで立ち昇っているのも視認できた。
「こんな大規模な鉱山を直接見るのは初めてだけど……なるほど、これはまあ特に環境問題に造詣が深い人間でなくとも眉を顰める光景ではあるね」
近くに車を停めたぺラギアが言葉通り眉を顰める。
「ええ、それに何だか……変な臭いもするし、明らかに空気も悪い感じがするわね。こんな所にずっといたら何かの病気に罹りそう」
ラシーダも同意するように呟く。これは中国企業が所有する鉱山ではあるが、その同じ中国人の小鈴から見てもそれはあまりにも歪に見えた。タビサから事前に話を聞いていたからではなく、恐らく予備知識なしにいきなりこの光景を見たとしても、同じような感想を抱いただろう。
「この広い鉱山のどこかにあなたの伯母さんがいるのね」
「ああ、間違いないよ」
タビサは確信を持って頷く。だが下手をすると一つの小さな街くらいの規模があるこの広い採掘プラントの中で人1人を捜すのは並大抵ではない。たった4人でこのプラントを虱潰し、というのも現実的ではないだろう。
小鈴がそう懸念するとぺラギアが肩を竦めた。
「なら知ってそうな人間を捜して聞けばいい。単純な事さ」
小鈴達は車を目立たない場所に停め直すと、しばらくプラントへの人の出入りを観察していた。その殆どがアジア人(恐らく中国本土からやってきた労働者)のようだったが、一部現地のアフリカ人と思われる黒人達も出入りしていた。
「……! あれが良さそうじゃない?」
ラシーダが指差した先、プラントの正面口から一台の少し高級そうな車が出てきた。中に乗っているのは中国人のようだ。車も、乗っている人間も、現場の労働者とは異なる雰囲気を醸し出している。恐らく会社においてある程度高い立場の人間だ。
「そうだね。じゃあ手筈通りに行こうか」
ぺラギアも同意すると小鈴の方に向き直った。小鈴は頷くとディヤウスの脚力を利用して、その中国人の乗る車に先回りして道路の真ん中に立つ。そして案の定、道路に立っている彼女を見つけたその車が停まった。
車のドアが開いて中から人が降りてくる。40代くらいの中国人で、糊のきいた作業着の下にワイシャツとネクタイが見えた。やはり管理職クラスか。
「君は同胞か? こんな所に立っていたら危ないぞ。1人で何をしているんだね?」
他の人種から見ると不思議に思われるが、同じ東洋人でも中国人、日本人、韓国人などはそれぞれお互い同士何となく見分けがつく。この男も小鈴が中国人だと一目で分かったらしく、特に警戒した様子もなく近付いてきた。
これがタビサも含めた他の3人ではこう上手くは行かなかっただろう。中国人は基本的に同胞以外信用しないので、警戒されてそのまま車で走り去るか、誰か会社の人間に連絡されていた可能性が高い。
「ああ、助かった。父が忘れ物をしたので工場に届ける予定だったの。でも車が故障しちゃって……」
「それは災難だったね。良かったら車を見てあげようか? それかお父さんの名前と部署を教えてくれれば私から連絡してあげよう」
これが本国であれば他人に対してこんな親身になる事はまずないだろうが、遠い外国に住んでいるとどうしても同国人に対しての同胞意識が強くなり、親切になる傾向があった。それはどの国の人間でも共通しているが中国人も例外ではなかった。
小鈴は男の中国語の訛りから、恐らく上海を中心とした東沿岸部の出身だと踏んだ。成都や重慶を中心とした内陸部の人間とはそりが合わない事が多いが、この異国の地では関係ないようだ。
「助かるわ。それじゃお願いできる?」
小鈴はそう言って微笑むと、男を自分達の車が停めてある場所まで誘導する。
「この車なんだけど……」
「これかい? ふむふむ、じゃあちょっとバンパーを――」
小鈴に誘導された男が車に近付く。だがそこで車の陰に隠れていたぺラギアが飛び出した。男が反応してギョッと目を見開く暇もあればこそ、ぺラギアは自分の指を男の額に当てた。
「お――」
「シ、静かに……。大丈夫、ただちょっといくつか質問があるだけなんだ。それを聞いたら私達はすぐに消える」
言葉と共にぺラギアの指から微量の神力が滲み出て、男の頭の中に浸透していく。
「…………」
男が茫洋とした目付きになって身じろぎしなくなった。完全に暗示状態に入ったようだ。
「……もう出ても大丈夫そうね。相変わらずの手並みね」
「そ、そいつに何したんだ?」
もう心配は無さそうだと見て取ったラシーダとタビサも車の陰から出てくる。
ディヤウスになって比較的日が浅い小鈴達では、ここまで鮮やかな暗示 は掛けられない。ぺラギアはギリシャで戦っていた時にも襲われた人々から『破滅の風』に関する記憶を消すのにこの力をしょっちゅう使っていたらしく、動作に淀みが無かった。
「何、害を与えている訳じゃないよ。ちょっと暗示を掛けて質問に答えやすくさせてもらっただけさ。私達が去った後は、彼はシャオリンに会った事も覚えていないよ」
恐る恐るという感じのタビサを安心させるようにウィンクするぺラギア。それから真剣な表情に戻って男に向き直った。
「さて……まず聞きたいのは、ここ最近このプラントに誰か現地人の女性 が連れ込まれなかったかい?」
「……ああ、あの女 か。馬鹿な奴だよ。貧しい現地人の分際で汪社長の買収を蹴るなんてな」
「……っ! てめぇ……!!」
ズヴァナの誘拐を認める発言。タビサが目を吊り上げて詰め寄ろうとするが、ラシーダに制止される。
「気持ちはわかるけど今はやめなさい。何が邪魔になるか分からないから」
「……っ」
タビサが余計な事をして、万が一男の洗脳が解けてしまったら目も当てられない。ズヴァナを確実に助ける為には我慢も必要だ。それを悟ったタビサは唇を強く噛み締めて大人しくなる。
「……質問を続けるよ。その連れ去った女性は今どこにいるんだい?」
「……第二鉱山の精製工場の地下に広い倉庫がある。そこに監禁してるはずだ」
男の答えにズヴァナがまだ生きている事を知って、タビサが腰が砕けたように安堵した様子を見せる。
「……じゃあこれが最後だ。君達の社長は何故 彼女を連れ去って監禁した? 何を目的としているんだい?」
「……当初は社長が『説得』を続ける気で拉致監禁したはずだ。だがあの女は頑として拒否し続けた。そしたらあの……社長と懇意の国会議員 がやってきて、あの女を洗脳 するとか何とか言い出したんだ」
「……!」
「洗脳というのが何なのか俺達も知らない。だが社長は知ってるみたいで、あの議員に女の処置を任せた。俺が知ってるのはそこまでだ」
「……いいだろう。聞きたい事は大体聞けた。じゃあ君は今から5分後 に目を覚ます。そしたら私達の事は綺麗さっぱり忘れるんだ。いいね?」
「ああ……解った」
男が茫洋とした目付きのまま頷く。彼を残して小鈴達は素早く車でその場を離れる。
「ち、ちくしょう……あいつら、やっぱり伯母さんを攫ってやがったんだ」
車の中でタビサが怒りに震えて拳を握る。
「まさか彼等が本当にそんな犯罪行為に走っていたなんて……これは色んな意味で見過ごす事は出来ないわね」
小鈴も同国人達が直接的な犯罪に手を染めている証拠を見せられてショックを受けていた。確かに外国で傍若無人に振舞う事はあったとしても、現地の人に対して直接的な犯罪を犯すのは全く意味合いが異なる。
小鈴は同じ中国人として、この問題を無事に解決する義務 があると感じた。
「でも……彼の言っていたその国会議員 とやらが気になるわね。洗脳とか言っていたし、そいつがウォーデンなのかしら?」
ラシーダが顎に手をあてて首を傾げる。国会議員とは当然この国 の国会議員という事だろう。
「そうだね。あのプログレスは現地人だったし、その可能性は高いと言えるね。タビサ、君はその人物について何か心当たりはないかい?」
ぺラギアが現地人であるタビサに確認すると、彼女は頷いた。
「あ、ああ。多分だけど……ジャブラニ・ムラウジの事じゃないか? 『アフリカ民族会議』の所属で、この地区選出の国会議員だ。でも伯母さんによると中国から賄賂を貰っててズブズブらしくて、あの採掘工場を誘致したのもコイツなんだよ」
アフリカ民族会議とは南アフリカの現在の与党 で、大統領を輩出しているのもこの党だ。つまり与党議員という事だ。
「……マフムードとは同じ国会議員でも、色んな意味で正反対のようね」
ラシーダが眉を顰めて呟く。エジプトで戦ったマフムードは野党議員で生粋の国粋主義者であり、中国を始めとした外国の干渉を極度に嫌っていた。だが話を聞く限りそのジャブラニという男は国粋主義とは無縁らしい。
「ふむ……限りなくクロに近いね、その議員は。恐らく賄賂だけじゃなくあの工場から出る利益でも潤ってるんじゃないかな」
いわゆる利権、既得権益という奴だ。それ自体が大きな、それでいて目に見えない賄賂のような物だ。
「まあ敵に誰がいようが関係ないわ。私達の前に立ち塞がって攻撃してくるなら倒すまでよ。もう情報収集は充分だし、そろそろ行動しない?」
小鈴は意気込んで皆を促す。どのみちズヴァナの事を考えたら時間は敵だ。後は迅速に潜入して目的を遂げるだけだ。ぺラギアが苦笑した。
「ま、確かにそうだね。慎重になり過ぎて機を逸しては本末転倒だ。でもプラント内に人が少なければ少ない程都合がいいから、鉱山が閉まる夜までは待つよ?」
当然だが中で働いている人の殆どは何も知らない労働者であり、彼等を巻き込むのは小鈴とて本意ではない。無関係の人間は少ないほどいいに決まっている。彼女もその意見には頷いて、目立たない場所に車を停めて全ての鉱山が終業する夜間まで待つ事になった。
「……!」
本当にすぐに着いた。タビサが指し示す先には、サバンナの景色とは明らかに浮いている異質な風景が広がっていた。
まず目に付くのはどこまでも続いているかのような武骨なフェンスとコンクリートの壁、そして鉄条網だ。その奥にはいくつものプレハブやコンクリートの建物が立ち並んでいるのが見え、高い見張り塔のような建造物も目に付いた。
他にも巨大なクレーン車などの重機も遠目にいくつも確認でき、何か黒い煙のようなものがそこかしこで立ち昇っているのも視認できた。
「こんな大規模な鉱山を直接見るのは初めてだけど……なるほど、これはまあ特に環境問題に造詣が深い人間でなくとも眉を顰める光景ではあるね」
近くに車を停めたぺラギアが言葉通り眉を顰める。
「ええ、それに何だか……変な臭いもするし、明らかに空気も悪い感じがするわね。こんな所にずっといたら何かの病気に罹りそう」
ラシーダも同意するように呟く。これは中国企業が所有する鉱山ではあるが、その同じ中国人の小鈴から見てもそれはあまりにも歪に見えた。タビサから事前に話を聞いていたからではなく、恐らく予備知識なしにいきなりこの光景を見たとしても、同じような感想を抱いただろう。
「この広い鉱山のどこかにあなたの伯母さんがいるのね」
「ああ、間違いないよ」
タビサは確信を持って頷く。だが下手をすると一つの小さな街くらいの規模があるこの広い採掘プラントの中で人1人を捜すのは並大抵ではない。たった4人でこのプラントを虱潰し、というのも現実的ではないだろう。
小鈴がそう懸念するとぺラギアが肩を竦めた。
「なら知ってそうな人間を捜して聞けばいい。単純な事さ」
小鈴達は車を目立たない場所に停め直すと、しばらくプラントへの人の出入りを観察していた。その殆どがアジア人(恐らく中国本土からやってきた労働者)のようだったが、一部現地のアフリカ人と思われる黒人達も出入りしていた。
「……! あれが良さそうじゃない?」
ラシーダが指差した先、プラントの正面口から一台の少し高級そうな車が出てきた。中に乗っているのは中国人のようだ。車も、乗っている人間も、現場の労働者とは異なる雰囲気を醸し出している。恐らく会社においてある程度高い立場の人間だ。
「そうだね。じゃあ手筈通りに行こうか」
ぺラギアも同意すると小鈴の方に向き直った。小鈴は頷くとディヤウスの脚力を利用して、その中国人の乗る車に先回りして道路の真ん中に立つ。そして案の定、道路に立っている彼女を見つけたその車が停まった。
車のドアが開いて中から人が降りてくる。40代くらいの中国人で、糊のきいた作業着の下にワイシャツとネクタイが見えた。やはり管理職クラスか。
「君は同胞か? こんな所に立っていたら危ないぞ。1人で何をしているんだね?」
他の人種から見ると不思議に思われるが、同じ東洋人でも中国人、日本人、韓国人などはそれぞれお互い同士何となく見分けがつく。この男も小鈴が中国人だと一目で分かったらしく、特に警戒した様子もなく近付いてきた。
これがタビサも含めた他の3人ではこう上手くは行かなかっただろう。中国人は基本的に同胞以外信用しないので、警戒されてそのまま車で走り去るか、誰か会社の人間に連絡されていた可能性が高い。
「ああ、助かった。父が忘れ物をしたので工場に届ける予定だったの。でも車が故障しちゃって……」
「それは災難だったね。良かったら車を見てあげようか? それかお父さんの名前と部署を教えてくれれば私から連絡してあげよう」
これが本国であれば他人に対してこんな親身になる事はまずないだろうが、遠い外国に住んでいるとどうしても同国人に対しての同胞意識が強くなり、親切になる傾向があった。それはどの国の人間でも共通しているが中国人も例外ではなかった。
小鈴は男の中国語の訛りから、恐らく上海を中心とした東沿岸部の出身だと踏んだ。成都や重慶を中心とした内陸部の人間とはそりが合わない事が多いが、この異国の地では関係ないようだ。
「助かるわ。それじゃお願いできる?」
小鈴はそう言って微笑むと、男を自分達の車が停めてある場所まで誘導する。
「この車なんだけど……」
「これかい? ふむふむ、じゃあちょっとバンパーを――」
小鈴に誘導された男が車に近付く。だがそこで車の陰に隠れていたぺラギアが飛び出した。男が反応してギョッと目を見開く暇もあればこそ、ぺラギアは自分の指を男の額に当てた。
「お――」
「シ、静かに……。大丈夫、ただちょっといくつか質問があるだけなんだ。それを聞いたら私達はすぐに消える」
言葉と共にぺラギアの指から微量の神力が滲み出て、男の頭の中に浸透していく。
「…………」
男が茫洋とした目付きになって身じろぎしなくなった。完全に暗示状態に入ったようだ。
「……もう出ても大丈夫そうね。相変わらずの手並みね」
「そ、そいつに何したんだ?」
もう心配は無さそうだと見て取ったラシーダとタビサも車の陰から出てくる。
ディヤウスになって比較的日が浅い小鈴達では、ここまで鮮やかな
「何、害を与えている訳じゃないよ。ちょっと暗示を掛けて質問に答えやすくさせてもらっただけさ。私達が去った後は、彼はシャオリンに会った事も覚えていないよ」
恐る恐るという感じのタビサを安心させるようにウィンクするぺラギア。それから真剣な表情に戻って男に向き直った。
「さて……まず聞きたいのは、ここ最近このプラントに誰か
「……ああ、
「……っ! てめぇ……!!」
ズヴァナの誘拐を認める発言。タビサが目を吊り上げて詰め寄ろうとするが、ラシーダに制止される。
「気持ちはわかるけど今はやめなさい。何が邪魔になるか分からないから」
「……っ」
タビサが余計な事をして、万が一男の洗脳が解けてしまったら目も当てられない。ズヴァナを確実に助ける為には我慢も必要だ。それを悟ったタビサは唇を強く噛み締めて大人しくなる。
「……質問を続けるよ。その連れ去った女性は今どこにいるんだい?」
「……第二鉱山の精製工場の地下に広い倉庫がある。そこに監禁してるはずだ」
男の答えにズヴァナがまだ生きている事を知って、タビサが腰が砕けたように安堵した様子を見せる。
「……じゃあこれが最後だ。君達の社長は
「……当初は社長が『説得』を続ける気で拉致監禁したはずだ。だがあの女は頑として拒否し続けた。そしたらあの……社長と懇意の
「……!」
「洗脳というのが何なのか俺達も知らない。だが社長は知ってるみたいで、あの議員に女の処置を任せた。俺が知ってるのはそこまでだ」
「……いいだろう。聞きたい事は大体聞けた。じゃあ君は今から
「ああ……解った」
男が茫洋とした目付きのまま頷く。彼を残して小鈴達は素早く車でその場を離れる。
「ち、ちくしょう……あいつら、やっぱり伯母さんを攫ってやがったんだ」
車の中でタビサが怒りに震えて拳を握る。
「まさか彼等が本当にそんな犯罪行為に走っていたなんて……これは色んな意味で見過ごす事は出来ないわね」
小鈴も同国人達が直接的な犯罪に手を染めている証拠を見せられてショックを受けていた。確かに外国で傍若無人に振舞う事はあったとしても、現地の人に対して直接的な犯罪を犯すのは全く意味合いが異なる。
小鈴は同じ中国人として、この問題を無事に解決する
「でも……彼の言っていたその
ラシーダが顎に手をあてて首を傾げる。国会議員とは当然
「そうだね。あのプログレスは現地人だったし、その可能性は高いと言えるね。タビサ、君はその人物について何か心当たりはないかい?」
ぺラギアが現地人であるタビサに確認すると、彼女は頷いた。
「あ、ああ。多分だけど……ジャブラニ・ムラウジの事じゃないか? 『アフリカ民族会議』の所属で、この地区選出の国会議員だ。でも伯母さんによると中国から賄賂を貰っててズブズブらしくて、あの採掘工場を誘致したのもコイツなんだよ」
アフリカ民族会議とは南アフリカの現在の
「……マフムードとは同じ国会議員でも、色んな意味で正反対のようね」
ラシーダが眉を顰めて呟く。エジプトで戦ったマフムードは野党議員で生粋の国粋主義者であり、中国を始めとした外国の干渉を極度に嫌っていた。だが話を聞く限りそのジャブラニという男は国粋主義とは無縁らしい。
「ふむ……限りなくクロに近いね、その議員は。恐らく賄賂だけじゃなくあの工場から出る利益でも潤ってるんじゃないかな」
いわゆる利権、既得権益という奴だ。それ自体が大きな、それでいて目に見えない賄賂のような物だ。
「まあ敵に誰がいようが関係ないわ。私達の前に立ち塞がって攻撃してくるなら倒すまでよ。もう情報収集は充分だし、そろそろ行動しない?」
小鈴は意気込んで皆を促す。どのみちズヴァナの事を考えたら時間は敵だ。後は迅速に潜入して目的を遂げるだけだ。ぺラギアが苦笑した。
「ま、確かにそうだね。慎重になり過ぎて機を逸しては本末転倒だ。でもプラント内に人が少なければ少ない程都合がいいから、鉱山が閉まる夜までは待つよ?」
当然だが中で働いている人の殆どは何も知らない労働者であり、彼等を巻き込むのは小鈴とて本意ではない。無関係の人間は少ないほどいいに決まっている。彼女もその意見には頷いて、目立たない場所に車を停めて全ての鉱山が終業する夜間まで待つ事になった。