第20話 瀑布割り
文字数 4,140文字
エーギルの纏う水壁の防御に攻めあぐねる天馬達。それを受けてエーギルが魔力を更に高めた。
『私が何故負けると解っていて最初に部下どもを嗾けたか教えてやろう。その戦いにお前達の気を逸らしている内に、このフォーレ島に存在している地下水 をこの場に集約する為だ。事前に集めているとお前達に感知されていただろうからな』
「……!」
それが奴が無尽蔵にも思える水を操る事が出来ている理由か。
『我が力の真髄を見せてやろう! 『幻影水鏡 』!!』
エーギルが叫ぶと、それに合わせて地面から幾筋もの太い水柱 が立ち昇った。何か規模の大きい攻撃かと警戒する天馬達だが、予想に反してその水柱群はこちらを攻撃する様子もなく、その場で蠢動しながら形を変えて楕円形の球体のような形状になった。
その球体は更に形を変えて、急速に人の形 を取っていく。更にその人型はより細かいディティールを形成して、明確に『とある人間』を象った水人形 とでも言うべき物体となる。
「これは……あなた自身?」
ミネルヴァがその水人形達の顔を見て眉を顰める。それは人間状態でのエーギルと瓜二つの容姿をしていたのだ。無論半透明の水人形状態ではあるが、それは間違いなく人間時のエーギルの姿を象ったものであった。それが優に10体近く いる。
「あー……こいつはちょっとマズそうだな」
この時点でエーギルの能力の予測がついた天馬が冷や汗まじりに呟く。それを裏付けるように水人形達が一斉に動き出した。
『ゆけい! 我が水影身 達よ! 奴等に最も苦しい死にざまを与えてやれ!』
エーギルの号令に合わせて水人形達が襲い掛かってくる。天馬の最も近くにいた個体がその手を水鞭に変えて高速で打ち付けてくる。その速さは人間時のエーギルに勝ると劣らない。
「ちぃ……!」
天馬は舌打ちしつつ逆に相手の懐に潜り込むようにして鞭を躱し、その胴体を横一線に薙ぎ払う。しかし案の定というか水人形達はつまる所水の塊であり、天馬の斬撃で僅かに水が揺らいだだけで、すぐに元通りに復元してしまった。
水の塊なので物理攻撃が効かないようだ。となると……
『ディーヴァの舞踏会!』
『拡散神聖弾!!』
シャクティとアリシアが、群がってくる水人形に対して手数優先で牽制しているが、水人形達は被弾してもお構いなく攻撃してくる。ミネルヴァの槍による連続突きも同様に効果がない。
その身体から水弾を飛ばす者や、水鞭を操る者、そして大きな水の輪を作り出してそれをスライサーのように投げて攻撃してくる者、また巨大な水壁を作り出してこちらを呑み込み、押しつぶそうとしてくる者……
一体一体が本物のエーギルと同じ多彩な水攻撃を仕掛けてくる。しかもそれでいてその身体は水で構成されており、こちらの殆どの攻撃を受け付けないという凶悪さだ。
「く……ま、まずいぞ、このままでは!」
「テ、テンマさん、どうすれば……!?」
水人形達の苛烈な攻撃に忽ち追い詰められるシャクティ達。敵はプログレスの集団とは訳が違う。こちらの攻撃を無効化するウォーデンの集団が相手のようなものだ。こいつらとまともに戦ってもまず勝ち目はない。
(ならやはり本体 を叩くしかねぇな。だがどうやって……!?)
蛸とイソギンチャクの怪物と化した本物のエーギル。奴さえ倒せればこの水人形達は消え去るだろう。だが単体でも困難を極める相手だが、今はこの水人形達がいる。しかもこちらより数が多いので、とてもこいつらを無視してエーギルを叩く事はできないだろう。下手したら挟撃されてしまう。
何かでこの水人形どもの『足』を止める事が出来れば……
「……テンマ。私がこいつらの足止め をする。あなた達はその間に奴をお願い」
「……!! ああ、助かるぜ」
丁度同じ事を指示しようとした時に、ミネルヴァの方からその申し出があった。彼女の冷気を操る力ならこの水人形どもを倒せないまでも、足止めして時間を稼ぐ事は可能のはずだ。
「悠長に喋ってる時間はねぇ! 早速頼むぜ!」
「任せて。――『ヴァルハラ・スノーストーム!』」
水人形達の攻撃を何とか凌ぎながら、その一瞬の停滞を突いてミネルヴァが『ブリュンヒルド』を旋回させて、強烈な冷気の渦を発生させる。
『……!』
局所的な猛吹雪に曝された水人形達だが、この島中の地下水を集めて作っただけあってやはり見た目より相当に体積があるらしく、更にエーギルの魔力が浸透しているために、ミネルヴァの技を直接受けても完全に凍結する事が無かった。
しかしやはり表面を薄く凍らせる程度の効果はあり、それが地面にまで及んで水人形達の『足』を地面に縫い付ける。足だけでなく全身が薄く凍っている水人形達の動きが明らかに精彩を欠いて鈍くなる。チャンスは今しかない。
「よし、行くぜ! 遅れるな!」
「うむ!」「は、はい!」
当然だがミネルヴァの神力もいつまでも保つ訳ではない。彼女の神力が枯渇して吹雪を維持できなくなったら、忽ちの内に水人形どもが復活してしまう。その前にエーギルの本体を倒さなくてはならないのだ。悠長に作戦を説明している暇はない。アリシア達もそこは心得たもので、すぐに状況を理解して最小限の返事だけで天馬に続く。
『小賢しい真似を! それで私を出し抜いたつもりか!』
エーギルがその長い触腕を振り回して叩きつけてくる。3人は一斉に散開してそれを避ける。シャクティとアリシアが回避しつつ遠距離攻撃を仕掛けるが、奴の身体を覆う水の膜に虚しく弾かれて終わる。
「シャクティは『カーリーの抱擁』を使え! アリシアは今度は遠距離からの援護に回ってくれ!」
「……! わ、解りました!」「む、了解した……!」
アリシアは先程の神聖砲弾でかなりの神力を消耗しているはずなので、短時間で再度の大技は厳しいだろう。なのでここは牽制に回ってもらう。かわりにシャクティに大技の準備をさせる。
そして勿論天馬はそれをエーギルに悟られないように、自らが全てのヘイトを受け持つ心持ちで鬼神の如く攻めかかる。
『忌々しい小僧め!』
エーギルが複数の触腕を縦横無尽に振り回して、文字通り四方八方から攻撃してくる。不規則な軌道を描く八本の触腕は、その軌道を見切る事は困難だ。天馬は敢えて全体を俯瞰するのではなく、自分に当たる瞬間にのみ意識を集中させる。
そしてほぼ本能的な反射のみでエーギルの触腕を回避していく。回避した際にカウンターで斬撃を煌めかせるが、それはあえなく水の膜を切り裂く事が出来ずに終わる。だがエーギルの注意を自分に引く事さえ出来れば充分だ。
その間にもアリシアが触腕が届かない距離から神聖弾による援護射撃を継続する。彼女の方にはイソギンチャクの頭部に無数に生える突起から水弾が撃ち込まれているが、アリシアも何とか回避に成功していた。
だが水人形どもを吹雪で足止めしているミネルヴァも既に苦し気な様子になっている。もうあまり猶予はない。
『羽虫どもめ! これでまとめて潰れるがいい! 『重水圧刑 』!!』
「……っ!」
その時、苛立ったエーギルが八本の触腕を同時に頭上高くに振り上げた。絶好の攻撃チャンスだが、天馬は本能的に危険を察知してむしろ後方へ跳び退った。
次の瞬間、エーギルの頭上に恐ろしく巨大で分厚い水の絨毯 のような物が形成された。その水絨毯はエーギルが触腕を振り下ろすのに合わせて、一気に落下してきた。水圧という概念が存在する事から分かるように、水は容積によっては途轍もない重さを秘めた凶器となる。
この水絨毯はエーギルの魔力によってその容積体積が圧縮されており、見た目以上の重さと圧力があるはずだ。恐らく人間など簡単に押しつぶせるだけの……
その攻撃範囲は広く、天馬だけでなくアリシアや、大技の為に神力を高めているシャクティの頭上にも等しく覆い被さってくる。
「……っ!!」
シャクティの目が大きく見開かれる。力を集中していた彼女は咄嗟に回避や防御行動を取れなかった。如何に神衣を纏ったディヤウスとはいえ、ウォーデンの技をまともに喰らってタダで済むはずがない。
「シャクティッ!!」
だが彼女が為す術もなく押しつぶされそうになった時、その前に天馬が素早く立ち塞がった。彼は腰を低く落とし刀を鞘に納めた居合 のような体勢を取っていた。そして自分とシャクティを押しつぶそうと迫ってくる水の天井目掛けて、下から斬り上げるように刀を鞘走らせた。
「今こそ【瀑布割り 】の真髄を見せてやるぜぇっ!! 『魚鱗斬瀑剣!!』」
鞘走った刀身は完全なる円周率を描きつつ、迫りくる水絨毯に縦一文字に斬り付けられ……
「っ!!」
刃が水の絨毯に接触した瞬間、天馬は凄まじいまでの圧力に刀ごと手折られそうになる。これをまともに喰らったらタダでは済まないどころか、下手をするとディヤウスでも即死しかねない圧力だ。
流石にウォーデンの魔力を注ぎ込んだ技だけある。だが……
(負ける…………かぁぁぁぁぁっ!!!)
彼は自分達を押しつぶそうとする水絨毯が、まるで自分と茉莉香に過酷で理不尽な境遇を強いた『王』、そして運命そのものであるかのように睨み上げ、その神力を限界まで振り絞る。
「ぬう……りゃあァァァァァァァァァァァァッ!!!」
気合。怒号。
卓越した技術と神力、そして精神力に支えられた刃は……水の絨毯を縦に切り裂いて、そのまま振り抜かれた!
切り裂かれた部分、つまり天馬とシャクティがいる位置だけ空隙を開けつつ、水の絨毯が弾け飛んだ。
『な、何だとぉぉぉぉ!? 我が力を斬った……!?』
「シャクティッ! 今だァァァッ!!」
エーギルの驚愕と、天馬の血を吐くような叫びが重なる。天馬を信じて神力を溜め続けていたシャクティは、目をカッと見開いてその力を一気に解放する。
『カーリーの抱擁ッ!!!』
彼女の叫びに合わせて二振りのチャクラム『ソーマ』と『ダラ』が、神力の光に包まれて直径にして5メートル程はある光り輝く円輪となって浮遊する。そして凄まじい速度で、大技を破られた直後で硬直しているエーギル目掛けて撃ち込まれた。
巨大な二つの光輪は怪物の纏う水の防護膜をも突き破り……そのイソギンチャク状の頭部を見事真っ二つに分断した!
『私が何故負けると解っていて最初に部下どもを嗾けたか教えてやろう。その戦いにお前達の気を逸らしている内に、このフォーレ島に存在している
「……!」
それが奴が無尽蔵にも思える水を操る事が出来ている理由か。
『我が力の真髄を見せてやろう! 『
エーギルが叫ぶと、それに合わせて地面から幾筋もの太い
その球体は更に形を変えて、急速に
「これは……あなた自身?」
ミネルヴァがその水人形達の顔を見て眉を顰める。それは人間状態でのエーギルと瓜二つの容姿をしていたのだ。無論半透明の水人形状態ではあるが、それは間違いなく人間時のエーギルの姿を象ったものであった。それが優に
「あー……こいつはちょっとマズそうだな」
この時点でエーギルの能力の予測がついた天馬が冷や汗まじりに呟く。それを裏付けるように水人形達が一斉に動き出した。
『ゆけい! 我が
エーギルの号令に合わせて水人形達が襲い掛かってくる。天馬の最も近くにいた個体がその手を水鞭に変えて高速で打ち付けてくる。その速さは人間時のエーギルに勝ると劣らない。
「ちぃ……!」
天馬は舌打ちしつつ逆に相手の懐に潜り込むようにして鞭を躱し、その胴体を横一線に薙ぎ払う。しかし案の定というか水人形達はつまる所水の塊であり、天馬の斬撃で僅かに水が揺らいだだけで、すぐに元通りに復元してしまった。
水の塊なので物理攻撃が効かないようだ。となると……
『ディーヴァの舞踏会!』
『拡散神聖弾!!』
シャクティとアリシアが、群がってくる水人形に対して手数優先で牽制しているが、水人形達は被弾してもお構いなく攻撃してくる。ミネルヴァの槍による連続突きも同様に効果がない。
その身体から水弾を飛ばす者や、水鞭を操る者、そして大きな水の輪を作り出してそれをスライサーのように投げて攻撃してくる者、また巨大な水壁を作り出してこちらを呑み込み、押しつぶそうとしてくる者……
一体一体が本物のエーギルと同じ多彩な水攻撃を仕掛けてくる。しかもそれでいてその身体は水で構成されており、こちらの殆どの攻撃を受け付けないという凶悪さだ。
「く……ま、まずいぞ、このままでは!」
「テ、テンマさん、どうすれば……!?」
水人形達の苛烈な攻撃に忽ち追い詰められるシャクティ達。敵はプログレスの集団とは訳が違う。こちらの攻撃を無効化するウォーデンの集団が相手のようなものだ。こいつらとまともに戦ってもまず勝ち目はない。
(ならやはり
蛸とイソギンチャクの怪物と化した本物のエーギル。奴さえ倒せればこの水人形達は消え去るだろう。だが単体でも困難を極める相手だが、今はこの水人形達がいる。しかもこちらより数が多いので、とてもこいつらを無視してエーギルを叩く事はできないだろう。下手したら挟撃されてしまう。
何かでこの水人形どもの『足』を止める事が出来れば……
「……テンマ。私がこいつらの
「……!! ああ、助かるぜ」
丁度同じ事を指示しようとした時に、ミネルヴァの方からその申し出があった。彼女の冷気を操る力ならこの水人形どもを倒せないまでも、足止めして時間を稼ぐ事は可能のはずだ。
「悠長に喋ってる時間はねぇ! 早速頼むぜ!」
「任せて。――『ヴァルハラ・スノーストーム!』」
水人形達の攻撃を何とか凌ぎながら、その一瞬の停滞を突いてミネルヴァが『ブリュンヒルド』を旋回させて、強烈な冷気の渦を発生させる。
『……!』
局所的な猛吹雪に曝された水人形達だが、この島中の地下水を集めて作っただけあってやはり見た目より相当に体積があるらしく、更にエーギルの魔力が浸透しているために、ミネルヴァの技を直接受けても完全に凍結する事が無かった。
しかしやはり表面を薄く凍らせる程度の効果はあり、それが地面にまで及んで水人形達の『足』を地面に縫い付ける。足だけでなく全身が薄く凍っている水人形達の動きが明らかに精彩を欠いて鈍くなる。チャンスは今しかない。
「よし、行くぜ! 遅れるな!」
「うむ!」「は、はい!」
当然だがミネルヴァの神力もいつまでも保つ訳ではない。彼女の神力が枯渇して吹雪を維持できなくなったら、忽ちの内に水人形どもが復活してしまう。その前にエーギルの本体を倒さなくてはならないのだ。悠長に作戦を説明している暇はない。アリシア達もそこは心得たもので、すぐに状況を理解して最小限の返事だけで天馬に続く。
『小賢しい真似を! それで私を出し抜いたつもりか!』
エーギルがその長い触腕を振り回して叩きつけてくる。3人は一斉に散開してそれを避ける。シャクティとアリシアが回避しつつ遠距離攻撃を仕掛けるが、奴の身体を覆う水の膜に虚しく弾かれて終わる。
「シャクティは『カーリーの抱擁』を使え! アリシアは今度は遠距離からの援護に回ってくれ!」
「……! わ、解りました!」「む、了解した……!」
アリシアは先程の神聖砲弾でかなりの神力を消耗しているはずなので、短時間で再度の大技は厳しいだろう。なのでここは牽制に回ってもらう。かわりにシャクティに大技の準備をさせる。
そして勿論天馬はそれをエーギルに悟られないように、自らが全てのヘイトを受け持つ心持ちで鬼神の如く攻めかかる。
『忌々しい小僧め!』
エーギルが複数の触腕を縦横無尽に振り回して、文字通り四方八方から攻撃してくる。不規則な軌道を描く八本の触腕は、その軌道を見切る事は困難だ。天馬は敢えて全体を俯瞰するのではなく、自分に当たる瞬間にのみ意識を集中させる。
そしてほぼ本能的な反射のみでエーギルの触腕を回避していく。回避した際にカウンターで斬撃を煌めかせるが、それはあえなく水の膜を切り裂く事が出来ずに終わる。だがエーギルの注意を自分に引く事さえ出来れば充分だ。
その間にもアリシアが触腕が届かない距離から神聖弾による援護射撃を継続する。彼女の方にはイソギンチャクの頭部に無数に生える突起から水弾が撃ち込まれているが、アリシアも何とか回避に成功していた。
だが水人形どもを吹雪で足止めしているミネルヴァも既に苦し気な様子になっている。もうあまり猶予はない。
『羽虫どもめ! これでまとめて潰れるがいい! 『
「……っ!」
その時、苛立ったエーギルが八本の触腕を同時に頭上高くに振り上げた。絶好の攻撃チャンスだが、天馬は本能的に危険を察知してむしろ後方へ跳び退った。
次の瞬間、エーギルの頭上に恐ろしく巨大で分厚い
この水絨毯はエーギルの魔力によってその容積体積が圧縮されており、見た目以上の重さと圧力があるはずだ。恐らく人間など簡単に押しつぶせるだけの……
その攻撃範囲は広く、天馬だけでなくアリシアや、大技の為に神力を高めているシャクティの頭上にも等しく覆い被さってくる。
「……っ!!」
シャクティの目が大きく見開かれる。力を集中していた彼女は咄嗟に回避や防御行動を取れなかった。如何に神衣を纏ったディヤウスとはいえ、ウォーデンの技をまともに喰らってタダで済むはずがない。
「シャクティッ!!」
だが彼女が為す術もなく押しつぶされそうになった時、その前に天馬が素早く立ち塞がった。彼は腰を低く落とし刀を鞘に納めた
「今こそ【
鞘走った刀身は完全なる円周率を描きつつ、迫りくる水絨毯に縦一文字に斬り付けられ……
「っ!!」
刃が水の絨毯に接触した瞬間、天馬は凄まじいまでの圧力に刀ごと手折られそうになる。これをまともに喰らったらタダでは済まないどころか、下手をするとディヤウスでも即死しかねない圧力だ。
流石にウォーデンの魔力を注ぎ込んだ技だけある。だが……
(負ける…………かぁぁぁぁぁっ!!!)
彼は自分達を押しつぶそうとする水絨毯が、まるで自分と茉莉香に過酷で理不尽な境遇を強いた『王』、そして運命そのものであるかのように睨み上げ、その神力を限界まで振り絞る。
「ぬう……りゃあァァァァァァァァァァァァッ!!!」
気合。怒号。
卓越した技術と神力、そして精神力に支えられた刃は……水の絨毯を縦に切り裂いて、そのまま振り抜かれた!
切り裂かれた部分、つまり天馬とシャクティがいる位置だけ空隙を開けつつ、水の絨毯が弾け飛んだ。
『な、何だとぉぉぉぉ!? 我が力を斬った……!?』
「シャクティッ! 今だァァァッ!!」
エーギルの驚愕と、天馬の血を吐くような叫びが重なる。天馬を信じて神力を溜め続けていたシャクティは、目をカッと見開いてその力を一気に解放する。
『カーリーの抱擁ッ!!!』
彼女の叫びに合わせて二振りのチャクラム『ソーマ』と『ダラ』が、神力の光に包まれて直径にして5メートル程はある光り輝く円輪となって浮遊する。そして凄まじい速度で、大技を破られた直後で硬直しているエーギル目掛けて撃ち込まれた。
巨大な二つの光輪は怪物の纏う水の防護膜をも突き破り……そのイソギンチャク状の頭部を見事真っ二つに分断した!