第11話 アジト潜入

文字数 2,829文字

 3人は潜伏していた場所から出ると、気配を殺しながら素早く道を横切って公園内に侵入する。少し高めの柵で仕切られていたが3人とも軽々と乗り越える。ディヤウスの天馬達は勿論、未覚醒である小鈴も相当の体捌きだ。

 公園内では放し飼いになったパンダ達が何も知らずに、怠惰に笹を貪ったりゴロゴロしたりしている。3人は暢気なパンダ達の側を横切っていくが、動物たちは殆ど我関せずで反応しなかった。かなり人馴れしているようだ。

 こんな間近でパンダを見たのは当然初めての天馬は少しだけ目を奪われたが、今はそれどころではないのでそのまま素通りしていく。

(……悪いな。これからお前らにはちっと迷惑を掛けるかも知れねぇが、この施設自体が無くなる事はないだろうし、()はもうちょっとまともな経営者が来てくれる事を祈っといてくれ)

 天馬は心の中で何も知らないパンダ達に謝罪した。アジトに乗り込んだ後は、最悪戦闘も辞さない覚悟であったのでそうなる可能性(・・・・・・・)も考慮していた。


 そのまま木立に入ると、先にあの箱を抱えた男達が進んでいるのが見えた。奴等がアジトに入ってしまう前に捕捉したかったので間に合ったようだ。

 無いとは思うが万が一彼等が本当にただの従業員だった場合を考えて、奇襲は掛けずに敢えて彼等が気付くように足音を立てて追い縋る。案の定こちらに気付いた男達が振り返る。

 彼等がただの従業員であれば天馬達がここにいる理由が解らず、この公園から出るように促してくるだろう。しかしそうではなかった(・・・・・・・・)場合は……

「……!」

 男達は素早く箱を地面に降ろすと、一斉に懐から武器(・・)を取り出した。刀身が短めの柳葉刀のような刃物だ。明らかに玄人が使いそうな武器だ。もうこれで確定した。この男達はクロ(・・)であると。つまり……遠慮はいらないという事だ。

 男達が誰何の声も上げずに一斉に襲い掛かってきた。目撃者は問答無用で殺せという指示が出ているのだろう。一切迷いのない動き。

 男たちの動きは相当な物だがプログレスではないようだ。ならば今の天馬の敵ではない。

「ふっ!」

 呼気と共に左右から繰り出される刃。しかし天馬はその軌道を見切って危なげなく躱すと、鬼神流の武術にディヤウスの力を上乗せした拳と蹴りで反撃。1人の顎を砕き、もう1人の脛骨をへし折った。当然ながら戦闘不能に陥って昏倒する男たち。

 その間にアリシアは、敵に接近される前に神聖弾で1人の胸を正確に撃ち抜いていた。小鈴はやはりそれほど簡単には行かずに苦戦していた。しかし彼女は敵を1人引きつけ持ち堪えるという役割を充分果たしていた。互いに刃と棍が打ち合って派手な金属音が響く。そのまま双方の武器の応酬となるが、その決着がつく前に男のこめかみをアリシアの銃弾が撃ち抜いていた。

 アリシアが倒した敵は即死していたが、それは天馬が敵の昏倒に成功したと判断した故。


「ふぅ……二人共、怪我はないな?」

 天馬が尋ねると2人共頷いた。小鈴も相手が卑劣な犯罪組織の構成員でしかも向こうから問答無用で襲ってきたという事もあって、こいつらに同情する気は無いようだ。

「さて、こいつらが素直にアジトへの侵入に協力するとは思えないが、こんな所で尋問しても言う事を聞かせられるかな? それ以前に自殺とかされないよな?」

 天馬はアリシアに確認する。映画や漫画などでは大抵この手の奴等は何か自殺用に毒でも隠し持っていて、敵に捕まって情報を喋るくらいなら死を選ぶというのがお約束だ。現実でもそうなるのかどうか勿論知らないが用心に越した事はない。

 アリシアは天馬よりもディヤウス歴(・・・・・・)が長いので、何かこういう場合に有効な手段を知っているかもしれないと確認したのだ。果たして彼女は頷いた。

「うむ……ディヤウスは神力を直接相手の頭に流し込む事で、相手が人間であればその精神に一時的に影響を与える事が出来る。……尤も私も実際に人に使った事は一度も無いがな」

「マジかよ……」

 そこまで期待していた訳ではなかったが、そんなドンピシャな力があるとは予想外であった。だがウォーデンじゃあるまいし、確かにそんな洗脳するような力は好んで使いたいものではないだろう。彼女が今まで使った事が無いというのも頷ける。

 だが今この時に限ってはそんな甘い事は言ってられない。また相手が相手だけに遠慮する必要もない。


 天馬は自分がノックアウトした男の1人の胸倉を掴んで強制的に引き起こす。そこにアリシアが屈み込んで自分の指を男の額に当てる。すると彼女の指が一瞬だけ光り、その光が男の額を通って頭の中に消えていった。

「……!!」

 男がカッと目を見開く。天馬と小鈴は反射的に警戒するが、男はどこか茫洋とした目付きでこちらを認識している様子が無い。

「よし……上手く行ったな。さあ、立ち上がってアジトの入り口を開けるのだ」

「あ……ま、待って。その前にこの箱を開けられない? 中に誰か入っているかも」

「……!」

 小鈴が男達の運んでいた大きな鉄箱を指した。戦闘などを経たのですっかり忘れていたが、確かに商品(・・)が入っている可能性は高い。恐らくは薬か何かで眠らされていると思われるが、箱だけは開けておいた方が良いだろう。アリシアは頷くと、男に箱を開けるように命じる。

 男が鍵で箱を開けると、中には……

「……っ! マジか……洒落になんねぇな」

 箱の中身を見て天馬が唸る。中には本当に意識が無い状態の若い女性が入っていたのだ。人身売買の動かぬ証拠である。天馬も勿論現実にこのような光景を見るのは初めてであった為に若干の衝撃を受けたのだ。

「何て事を……。吴珊も、他の人達も皆助けなきゃ……!」

 小鈴もまた衝撃を受けたようで、少し顔を青ざめさせながらも強い調子で決意する。


 とりあえず今はこの女性を介抱している余裕は無いので、箱だけ開けた状態で放置していく。アリシアに促された男はそのままフラフラした足取りで歩き出した。天馬達は少し離れた位置を保ってその後に続く。やがて男は公園の奥にある大きな岩場に到達した。そして岩が窪んで(うろ)のようになっている場所まで来ると、その洞の端の方に出っ張った石塊の先端に顔を近づけた。

 するとその石塊の先端から青く光る横線が照射され、男の顔をスキャンするように上から下まで流れる。いや、事実スキャンしているのだろう。そして……

「……!!」

 その岩の洞の一部がスライドして横に開いた!

「すげぇな。まさに秘密基地って感じだな」

 その様を見た天馬が思わずつぶやく。不謹慎ながら何というか……ある意味で少年心をくすぐる光景であった。

「……よし。ここからは時間との勝負だ。一気に踏み込むぞ。準備はいいか?」

 一方そんな少年心とは無縁のアリシアはデュランダルを構えて2人を振り返る。事ここに至っては今更尻込みする理由はない。天馬も小鈴も躊躇いなく頷いた。

 案内させた男を再び殴りつけて気絶させると、3人は得物を構えて犯罪組織のアジトへと突入した。
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