第9話 鉱山潜入
文字数 3,035文字
「……そろそろ頃合いだね。皆、準備はいいかい?」
現地時間にして夜8時を回った時刻。一般従業員の殆どが退社して、鉱山は夜の帳に静まり返っている。頃合いと見たぺラギアが小鈴達を振り返る。小鈴は勿論準備万端で頷いた。
「ええ、いつでも行けるわ。むしろ待ちくたびれた位よ」
「同じく。後は行動あるのみね」
ラシーダも同意するように『セルケトの尾』を弄りながら頷いた。普段はあまり活動的ではない彼女も流石に待ちくたびれた感はあるらしい。
「は、早く伯母さんを助けに行こうぜ」
タビサもかなり焦れていたようだ。まだ覚醒していない彼女だが、勿論ここに1人で置いていくという選択肢は無いので一緒に連れて行く。それにぺラギアによると敢えて戦いという極限状態に身を置いた方が覚醒が促される可能性が高いという。それは小鈴やラシーダも実体験から納得していた。
ややスパルタ的なやり方ではあるが、タビサ本人も同行を望んでいるのでそれが最も効率の良い方法ではあった。
満場一致で行動を起こした彼女達は車を降りると、夜の闇に紛れながら慎重にプラントの外壁に近付いていく。静まり返っているとはいっても勿論最低限の警備などはあるし、もしかしたら残業などでまだ人が残っているかも知れない。だがそこまで気にしていたらいつまで経っても侵入できない。
見張り塔からサーチライトが定期的に動いている。まるで刑務所のようだ。小鈴達にとってサーチライトなど問題にならないが、今は常人のタビサがいるので彼女が見つからないように細心の注意を払いながら外壁に取り付く。
小鈴とぺラギアは勿論、体術が得意でないラシーダもディヤウスの身体能力を発揮すれば、この高さの外壁を乗り越えるくらいは簡単だ。タビサに関しては小鈴がその脇を抱えるようにして一緒に飛び越えた。
「す、すげ……。これがそのディヤウスってヤツの力なのか……?」
「こんなのはただの付随能力よ。そしてあなたにもこういう力は眠っているはずなのよ」
あっさりと高い塀を乗り越えた事で、タビサが感心とも畏怖とも付かない呟きを漏らす。小鈴は肩を竦めた。実際タビサはかなり高位の神の『種子 』を受けているらしいので、その潜在能力は小鈴達も上回っている可能性さえあった。
そのまま警備の目を避けながら第二鉱山の精製工場を目指す小鈴達。途中で他の鉱山の横を通り過ぎたが、まるでがそこに隕石でも落ちたかのような恐ろしく深く巨大な縦穴は、見る者に何とも言えない無気味さと不安感を与える。
「……!」
しかしその鉱山の脇を通り抜けようとした所で小鈴達の足が止まった。前方に複数の人影を確認したからだ。警備巡回中に偶然この場にいたという様子ではない。明らかにこちらを待ち構えていた 。
「どうやらお出ましのようね」
小鈴は『朱雀翼』を顕現させながら身構える。ぺラギア達もタビサを後ろに庇いつつそれぞれの武器を顕現させる。
「……我が主が今夜必ず侵入者 が現れるはずだと仰っていたが、まさか本当に現れるとはな」
そういって闇の中から浮かび上がるのは4人ほどの現地人の男達だ。だが明らかに雇われ労働者ではない。小鈴は男達から魔力が発散されているのを感じた。
「忌々しい旧神の使徒共よ! 死んでもらうぞ!!」
男達の身体が一瞬で変化 した。下半身 がそれぞれ種類の異なる獣の身体に変じる。やはりこれがこの地の(正確にはこの地を領域とする邪神の種子を受けた)プログレス達の特徴のようだ。
異形のケンタウルスと化した男達が飛び掛かってくる。その挙動や素早さは下半身の獣のそれに準じている。
「ひっ!?」
「タビサ、私の後ろに! 小鈴とラシーダも一組で敵に当たれ!」
ぺラギアがタビサを後ろに庇いながら指示する。防御に長けた彼女ならタビサを守り切れる可能性が高い。そしてラシーダも単身で戦うよりも、誰かの援護という形が最も力を発揮できる性質がある。
「解ったわ!」
小鈴達も頷いて、一組になって敵を迎撃する。小鈴達の方に来たのは下半身がハイエナのような形状の男と、熊のような形状になった男の2人だ。
「ちょっと、熊ってサバンナにいたっけ!?」
「相手は邪神の眷属よ? そういう常識は捨てた方がいいわね!」
軽口を叩きながらも神器を構えてプログレス達を迎え撃つ小鈴とラシーダ。その身は既に神々しいが露出度の高い神衣を纏っている。
『死ねッ!!』
機動力の差か、まずハイエナ男の方が飛び掛かってきた。その両手には魔力で構成された黒い槍のような武器を握っている。飛び掛かりがてらそれを突き出してくる。
「ふっ!」
小鈴は冷静にその軌道を見切って避けると、炎を纏わせてリーチを伸ばした『朱雀翼』をカウンターで叩きつける。それは突進してきていたハイエナ男の胴体を打ち据えた。
『ヌガッ!? 貴様ァッ!!』
ハイエナ男は怒り狂って槍を振り回してくるが、小鈴はその全ての攻撃を見切って回避していく。しかしその後ろから巨体の熊男が迫ってくる。その両手にはそれぞれ黒い手斧のような武器が握られている。
「させない!」
だがそこにラシーダが『セルケトの尾』を振るって牽制する。鞭は意思を持っているかのように撓って、小鈴の後ろから彼女を援護して同時の接敵を許さない。
『小娘が!!』
焦れたハイエナ男がその口を大きく開くと、放射状に黒いエネルギー体を吐き出してきた。
「……!」
回避は間に合わないと判断した小鈴は『朱雀翼』の長棍を掲げ、高速で旋回させる。炎を帯びた梢子棍は彼女の前に赤い『壁』を作り出す。
『旋炎破断棍!!』
プログレスの吐く黒いブレスは小鈴の旋回させる炎棍によって防がれ、吹き散らされていく。基本的に攻撃に比重を置いている小鈴の数少ない防御用の技であった。だがウォーデンならともかくプログレスの攻撃を防ぐくらいなら充分有用だ。
『何ッ!?』
ハイエナ男が目を見開く。奴の動揺している隙を突いて小鈴は一気に踏み込む。ハイエナ男は慌てて槍を突き出してくる。だが既に奴の攻撃の軌道は見切った。小鈴は突きを屈んで躱しつつ、低い姿勢のまま敵の懐に潜り込む。
『炎帝昇鳳波ッ!!』
脚力を利用して跳び上がるような打ち上げの一撃を炸裂させる。炎を纏った上昇攻撃は、その勢いを保ったままプログレスの胴体に叩き込まれた。
『ゴボアァァァッ!!!』
断末魔と共にハイエナ男が空中に打ち上げられ、神力の炎に焼かれて消滅していった。まず一体。
「やるわね、シャオリン! 私も負けてはいられないわね」
熊男相手に鞭を振るって牽制していたラシーダが発奮する。
『この女が、ちょこまかとっ!』
熊男が手斧を振りかざして突進して来ようとする。直接迫られると弱いラシーダだが、仲間がいるなら話は別だ。
「行かせない!」
『……! 邪魔だ、小娘!』
間に立ち塞がった小鈴に、熊男は手斧や熊の爪を駆使して連撃を仕掛けてくる。接近戦能力は先程のハイエナ男より高いようだ。だが防戦に徹する小鈴に焦りはない。
『テラー・ニードル!!』
後方からラシーダの振るう『セルケトの尾』が意志を持っているかのように小鈴を避けて、熊男の身体に突き刺さる。
「お――――」
奴が何か言い掛けるが、言葉にならず白目を剥いた。致死の猛毒を流し込まれた熊男はそのまま横倒しになって二度と動き出す事は無かった。相変わらず恐ろしい攻撃能力だ。防御や白兵戦は能力に難があるが、それでようやくバランス が取れているとさえ言えると小鈴は思った。
現地時間にして夜8時を回った時刻。一般従業員の殆どが退社して、鉱山は夜の帳に静まり返っている。頃合いと見たぺラギアが小鈴達を振り返る。小鈴は勿論準備万端で頷いた。
「ええ、いつでも行けるわ。むしろ待ちくたびれた位よ」
「同じく。後は行動あるのみね」
ラシーダも同意するように『セルケトの尾』を弄りながら頷いた。普段はあまり活動的ではない彼女も流石に待ちくたびれた感はあるらしい。
「は、早く伯母さんを助けに行こうぜ」
タビサもかなり焦れていたようだ。まだ覚醒していない彼女だが、勿論ここに1人で置いていくという選択肢は無いので一緒に連れて行く。それにぺラギアによると敢えて戦いという極限状態に身を置いた方が覚醒が促される可能性が高いという。それは小鈴やラシーダも実体験から納得していた。
ややスパルタ的なやり方ではあるが、タビサ本人も同行を望んでいるのでそれが最も効率の良い方法ではあった。
満場一致で行動を起こした彼女達は車を降りると、夜の闇に紛れながら慎重にプラントの外壁に近付いていく。静まり返っているとはいっても勿論最低限の警備などはあるし、もしかしたら残業などでまだ人が残っているかも知れない。だがそこまで気にしていたらいつまで経っても侵入できない。
見張り塔からサーチライトが定期的に動いている。まるで刑務所のようだ。小鈴達にとってサーチライトなど問題にならないが、今は常人のタビサがいるので彼女が見つからないように細心の注意を払いながら外壁に取り付く。
小鈴とぺラギアは勿論、体術が得意でないラシーダもディヤウスの身体能力を発揮すれば、この高さの外壁を乗り越えるくらいは簡単だ。タビサに関しては小鈴がその脇を抱えるようにして一緒に飛び越えた。
「す、すげ……。これがそのディヤウスってヤツの力なのか……?」
「こんなのはただの付随能力よ。そしてあなたにもこういう力は眠っているはずなのよ」
あっさりと高い塀を乗り越えた事で、タビサが感心とも畏怖とも付かない呟きを漏らす。小鈴は肩を竦めた。実際タビサはかなり高位の神の『
そのまま警備の目を避けながら第二鉱山の精製工場を目指す小鈴達。途中で他の鉱山の横を通り過ぎたが、まるでがそこに隕石でも落ちたかのような恐ろしく深く巨大な縦穴は、見る者に何とも言えない無気味さと不安感を与える。
「……!」
しかしその鉱山の脇を通り抜けようとした所で小鈴達の足が止まった。前方に複数の人影を確認したからだ。警備巡回中に偶然この場にいたという様子ではない。明らかにこちらを
「どうやらお出ましのようね」
小鈴は『朱雀翼』を顕現させながら身構える。ぺラギア達もタビサを後ろに庇いつつそれぞれの武器を顕現させる。
「……我が主が今夜必ず
そういって闇の中から浮かび上がるのは4人ほどの現地人の男達だ。だが明らかに雇われ労働者ではない。小鈴は男達から魔力が発散されているのを感じた。
「忌々しい旧神の使徒共よ! 死んでもらうぞ!!」
男達の身体が一瞬で
異形のケンタウルスと化した男達が飛び掛かってくる。その挙動や素早さは下半身の獣のそれに準じている。
「ひっ!?」
「タビサ、私の後ろに! 小鈴とラシーダも一組で敵に当たれ!」
ぺラギアがタビサを後ろに庇いながら指示する。防御に長けた彼女ならタビサを守り切れる可能性が高い。そしてラシーダも単身で戦うよりも、誰かの援護という形が最も力を発揮できる性質がある。
「解ったわ!」
小鈴達も頷いて、一組になって敵を迎撃する。小鈴達の方に来たのは下半身がハイエナのような形状の男と、熊のような形状になった男の2人だ。
「ちょっと、熊ってサバンナにいたっけ!?」
「相手は邪神の眷属よ? そういう常識は捨てた方がいいわね!」
軽口を叩きながらも神器を構えてプログレス達を迎え撃つ小鈴とラシーダ。その身は既に神々しいが露出度の高い神衣を纏っている。
『死ねッ!!』
機動力の差か、まずハイエナ男の方が飛び掛かってきた。その両手には魔力で構成された黒い槍のような武器を握っている。飛び掛かりがてらそれを突き出してくる。
「ふっ!」
小鈴は冷静にその軌道を見切って避けると、炎を纏わせてリーチを伸ばした『朱雀翼』をカウンターで叩きつける。それは突進してきていたハイエナ男の胴体を打ち据えた。
『ヌガッ!? 貴様ァッ!!』
ハイエナ男は怒り狂って槍を振り回してくるが、小鈴はその全ての攻撃を見切って回避していく。しかしその後ろから巨体の熊男が迫ってくる。その両手にはそれぞれ黒い手斧のような武器が握られている。
「させない!」
だがそこにラシーダが『セルケトの尾』を振るって牽制する。鞭は意思を持っているかのように撓って、小鈴の後ろから彼女を援護して同時の接敵を許さない。
『小娘が!!』
焦れたハイエナ男がその口を大きく開くと、放射状に黒いエネルギー体を吐き出してきた。
「……!」
回避は間に合わないと判断した小鈴は『朱雀翼』の長棍を掲げ、高速で旋回させる。炎を帯びた梢子棍は彼女の前に赤い『壁』を作り出す。
『旋炎破断棍!!』
プログレスの吐く黒いブレスは小鈴の旋回させる炎棍によって防がれ、吹き散らされていく。基本的に攻撃に比重を置いている小鈴の数少ない防御用の技であった。だがウォーデンならともかくプログレスの攻撃を防ぐくらいなら充分有用だ。
『何ッ!?』
ハイエナ男が目を見開く。奴の動揺している隙を突いて小鈴は一気に踏み込む。ハイエナ男は慌てて槍を突き出してくる。だが既に奴の攻撃の軌道は見切った。小鈴は突きを屈んで躱しつつ、低い姿勢のまま敵の懐に潜り込む。
『炎帝昇鳳波ッ!!』
脚力を利用して跳び上がるような打ち上げの一撃を炸裂させる。炎を纏った上昇攻撃は、その勢いを保ったままプログレスの胴体に叩き込まれた。
『ゴボアァァァッ!!!』
断末魔と共にハイエナ男が空中に打ち上げられ、神力の炎に焼かれて消滅していった。まず一体。
「やるわね、シャオリン! 私も負けてはいられないわね」
熊男相手に鞭を振るって牽制していたラシーダが発奮する。
『この女が、ちょこまかとっ!』
熊男が手斧を振りかざして突進して来ようとする。直接迫られると弱いラシーダだが、仲間がいるなら話は別だ。
「行かせない!」
『……! 邪魔だ、小娘!』
間に立ち塞がった小鈴に、熊男は手斧や熊の爪を駆使して連撃を仕掛けてくる。接近戦能力は先程のハイエナ男より高いようだ。だが防戦に徹する小鈴に焦りはない。
『テラー・ニードル!!』
後方からラシーダの振るう『セルケトの尾』が意志を持っているかのように小鈴を避けて、熊男の身体に突き刺さる。
「お――――」
奴が何か言い掛けるが、言葉にならず白目を剥いた。致死の猛毒を流し込まれた熊男はそのまま横倒しになって二度と動き出す事は無かった。相変わらず恐ろしい攻撃能力だ。防御や白兵戦は能力に難があるが、それでようやく