第19話 『暗晦』のエーギル
文字数 3,336文字
「おぉぉぉぉぉっ!!」
「ふっ!!」
天馬とミネルヴァがエーギルに対して挟撃を仕掛ける。目にも留まらぬ刀の煌めきが縦横無尽に走る。そして反対側からは神速の連続突きが叩き込まれる。
「はっ! 無駄だ!」
だがエーギルは自分の左右両側に水壁を展開して2人の攻撃を防ぐ。
『ドゥルガーの怒り!』
だがそこにがら空きになった正面からシャクティの投擲したチャクラムが迫る。更に彼女はもう1つ光のチャクラムを作り出して、ブーメランのようにエーギルの後方からも攻撃を仕掛ける。前後左右、文字通り四方からの一斉攻撃。だが……
「甘いわっ!」
左右に展開した水壁から例の水の鞭が伸びて、シャクティのチャクラムを打ち据えて叩き落とした。だが奴は前後左右四面すべてに水壁を展開は出来ないようだ。それをすると自らの視界も覆われるからか、それとも単純に能力の限界なのか。
いずれにせよ重要な指針を発見したのは間違いない。
「よし、いい感じだぜ! この要領でとにかく攻めまくるぞ!」
天馬はミネルヴァとシャクティに発破を掛けながら、自ら率先して斬り込む。勿論ミネルヴァ達もそれに続く。
「調子に乗るな、ゴミ共が!」
エーギルも防戦一方ではない。水壁を操って天馬達の攻撃を防ぎつつ、その水壁から水弾や水鞭が飛び出して反撃してくる。盾が攻撃を防いだ瞬間に剣となって反撃してくるようなものだ。
自分達の攻撃を防がれた直後にその盾が攻撃してくるので対処が難しく、特に前衛で近接戦闘を仕掛けている天馬とミネルヴァはどうしても被弾が多くなる。
「ぬぅ……!」
「く……中々、キツい、わね」
前衛の2人が呻く。神衣があるから持ち堪えているようなもので、それもこのままでは直に限界を迎えるだろう。
「テンマさん! ミネルヴァさん! 大丈夫ですか!?」
シャクティも中距離からチャクラムの投擲を繰り返すが、エーギルの防御をどうしても破れない。そして中距離にいるから安全という訳でもなく、気を抜くと即座に水弾が飛んでくる。
「ふぁはは! 口ほどにもない奴等め! 我が力の前にひれ伏すがいい!」
傷つき消耗していく天馬達の姿にエーギルが哄笑する。だが……追い詰められているはずの天馬の口が笑みに吊り上がる。
「へ、馬鹿が……。俺達の目的は最初から牽制 だけだぜ」
ウォーデン相手にまともに攻めかかって、そう簡単に斃せるとは最初から思っていない。にも関わらず天馬達が果敢に攻め立てていたのは、エーギルの注意を自分達に釘付けにしておく為だ。そしてそれは上手く行った。
「ぶち破れぇぇっ!!」
天馬が唐突に叫ぶ。それが合図 のようなものだ。付き合いの長いアリシア にはそれだけで伝わると信じていた。
「……任された!」
エーギルの注意を引かない程度の距離まで後退していたアリシアは、溜めに溜めた神力を愛銃『デュランダル』に込める。そして冷静にエーギルに狙いを付けた。
『神聖砲弾 !!』
解き放たれた神力の塊は、銃口よりも遥かに大きな光線となって一直線にエーギルへと迫る。
「ぬおっ!?」
迫りくる光線に、咄嗟に天馬達の狙いを悟ったエーギルは反射的に防御の水壁を張り巡らせる。今まで天馬達の攻撃を全て受け止めてきた絶対の防壁が神聖砲弾と接触し――
水壁が大きく撓み、大量の水しぶきとなって弾け飛んだ!
「……っ!!」
水壁によって若干威力は軽減したものの、そのまま消える事無く突き進んだ神聖砲弾は、驚愕に目を見開くエーギルの胴体に命中した。目も眩むような激しい閃光が爆発する。
「ゲハァッ!!」
エーギルが血反吐を吐きながら吹き飛んだ。大きなダメージは与えたが死んではいないようだ。天馬が舌打ちした。
「ち……上手く行きゃこれで倒せると思ったが、甘かったか……!」
恐らく水壁で神聖砲弾の威力を軽減していたのが原因だろう。一発で倒しきれないと厄介な事 になる。天馬は吹っ飛んだエーギル目掛けて全速力で突進し、追撃を掛けようとするが……
「貴様らぁぁァァァァァァァァッ!!!」
「……っ!」
血を吐きながら怒りの咆哮を上げたエーギルの身体が、大量の黒い靄に覆われた。そしてその魔力が爆発的に膨れ上がる。
「くそ……!」
天馬は歯噛みした。やはり間に合わなかった。エーギルが……ウォーデンの戦闘形態 になる!
まず靄から飛び出してきたのは、長く太い触腕 。太さは数十センチ。長さは……靄から出ている部分だけで10メートル以上はある。それが追撃してきた天馬に薙ぎ払われる。
「……!」
それだけの大きさでありながら、その速度は先程までの水鞭に勝るとも劣らない。天馬は躱す暇もなく巨大な触腕に薙ぎ払われた。
「ぐはっ……!」
「テンマさん!?」
吹き飛ばされる天馬を見てシャクティが悲鳴を上げる。だが天馬は苦し気に表情を歪めながらも、空中で一回転して強引に着地した。
「俺は大丈夫だ! それより来る ぞ! 警戒しろ!」
「……っ!」
シャクティだけでなく、アリシアも、そしてミネルヴァも慌てて黒い靄の塊に武器を向ける。彼女らの見ている前で黒い靄が内側からの圧力で霧散した。その中から姿を現したのは……
『貴様らぁ……私を本気で怒らせてしまったようだな。楽には死なせんぞ?』
エーギル……と思しき怪物が、その八本の触腕 を蠢かせて怨嗟の唸りを上げる。
それは一言で表すなら『黒い皮膚をした超巨大蛸』とでも言うべき存在であった。しかし蛸のような印象を与えるのはその八本の触腕だけであり、頭部に当たる部分は無数の突起が生えて蠢いており、まるでイソギンチャクのような形状をしていた。
恐ろしく巨大なタコとイソギンチャクが合わさった怪物……。それがエーギルの変身した姿のようであった。
「イタカの眷属でありながらこのような姿になるとは、まるで東アジア一帯 を縄張りとする『クトゥルフ』の眷属のようではないか。ディヤウスとして加護を与えていた旧神の属性が色濃く出るのか」
「……!!」
眉を顰めながらのアリシアの言葉の中に出てきた『東アジア一帯』という単語に反応する天馬。それには当然日本も含まれているだろう。つまりあの学校での惨劇を引き起こした奴等の裏にいる邪神とは……
『死ねぃ! 忌々しい旧神の残り滓どもめ!』
だが怪物と化したエーギルが襲い掛かってきたので、そちらへの対処に意識を切り替える天馬。
合計八本もの触腕が唸りを上げて振り回される。どれもが先程天馬を吹き飛ばした一撃と比べて遜色ない速さと威力だ。とても接近する隙がなく、天馬は慌てて飛び退って距離を取る。怪物化したエーギルは見た目通り地上では機動力がないのか、その場からあまり素早くは動けないようだった。だが……
『馬鹿め! それで逃げたつもりか!』
「……!」
触腕の一本が明らかに急激に伸長 した。触腕の長さから凡その攻撃範囲を推測して退避していた天馬は意表を突かれて、再び触腕に薙ぎ払われた。
「テンマ! おのれ、化け物め!」
アリシアが神聖弾を撃ち込む。何と言っても敵は巨大なので撃てばどこかしらに当たるはずであった。だが確かに奴の身体に命中したはずの神聖弾は急激に威力を減じて消滅してしまう。
よく見ると奴の本体や触腕は薄い水の膜 に覆われていた。あれがアリシアの神聖弾を受け止めて無害化したのだ。
『ドゥルガーの怒り!』
シャクティも遠距離攻撃で本体を直接狙うが、やはり奴の身体を覆う水の膜に弾かれてしまう。しかしその間にミネルヴァが接近する時間は稼げた。
『スクルド・フェーデ!!』
ミネルヴァは槍の穂先が無数に分裂したかと錯覚するほどの速さの連続突きを、エーギルの巨体に所構わず浴びせまくる。
『ふぁはは! 効かん! 効かんぞぉ!』
「……っ」
だがやはり水の膜を破る事ができなかった。どうやらあの水の膜は一見薄く見えるが、その実相当圧縮されているようで、人間時に操っていた水壁に等しい防御力を有しているようだ。それが全身にくまなく纏わっているのでは手の出しようがない。
『そらっ!』
「ぐ……!!」
技を弾かれて無防備になったミネルヴァの脇腹にエーギルの触腕が薙ぎ払われる。回避できずにまともに食らった彼女は、天馬と同じように大きく吹き飛ばされて地面に転がった。
「ふっ!!」
天馬とミネルヴァがエーギルに対して挟撃を仕掛ける。目にも留まらぬ刀の煌めきが縦横無尽に走る。そして反対側からは神速の連続突きが叩き込まれる。
「はっ! 無駄だ!」
だがエーギルは自分の左右両側に水壁を展開して2人の攻撃を防ぐ。
『ドゥルガーの怒り!』
だがそこにがら空きになった正面からシャクティの投擲したチャクラムが迫る。更に彼女はもう1つ光のチャクラムを作り出して、ブーメランのようにエーギルの後方からも攻撃を仕掛ける。前後左右、文字通り四方からの一斉攻撃。だが……
「甘いわっ!」
左右に展開した水壁から例の水の鞭が伸びて、シャクティのチャクラムを打ち据えて叩き落とした。だが奴は前後左右四面すべてに水壁を展開は出来ないようだ。それをすると自らの視界も覆われるからか、それとも単純に能力の限界なのか。
いずれにせよ重要な指針を発見したのは間違いない。
「よし、いい感じだぜ! この要領でとにかく攻めまくるぞ!」
天馬はミネルヴァとシャクティに発破を掛けながら、自ら率先して斬り込む。勿論ミネルヴァ達もそれに続く。
「調子に乗るな、ゴミ共が!」
エーギルも防戦一方ではない。水壁を操って天馬達の攻撃を防ぎつつ、その水壁から水弾や水鞭が飛び出して反撃してくる。盾が攻撃を防いだ瞬間に剣となって反撃してくるようなものだ。
自分達の攻撃を防がれた直後にその盾が攻撃してくるので対処が難しく、特に前衛で近接戦闘を仕掛けている天馬とミネルヴァはどうしても被弾が多くなる。
「ぬぅ……!」
「く……中々、キツい、わね」
前衛の2人が呻く。神衣があるから持ち堪えているようなもので、それもこのままでは直に限界を迎えるだろう。
「テンマさん! ミネルヴァさん! 大丈夫ですか!?」
シャクティも中距離からチャクラムの投擲を繰り返すが、エーギルの防御をどうしても破れない。そして中距離にいるから安全という訳でもなく、気を抜くと即座に水弾が飛んでくる。
「ふぁはは! 口ほどにもない奴等め! 我が力の前にひれ伏すがいい!」
傷つき消耗していく天馬達の姿にエーギルが哄笑する。だが……追い詰められているはずの天馬の口が笑みに吊り上がる。
「へ、馬鹿が……。俺達の目的は最初から
ウォーデン相手にまともに攻めかかって、そう簡単に斃せるとは最初から思っていない。にも関わらず天馬達が果敢に攻め立てていたのは、エーギルの注意を自分達に釘付けにしておく為だ。そしてそれは上手く行った。
「ぶち破れぇぇっ!!」
天馬が唐突に叫ぶ。それが
「……任された!」
エーギルの注意を引かない程度の距離まで後退していたアリシアは、溜めに溜めた神力を愛銃『デュランダル』に込める。そして冷静にエーギルに狙いを付けた。
『
解き放たれた神力の塊は、銃口よりも遥かに大きな光線となって一直線にエーギルへと迫る。
「ぬおっ!?」
迫りくる光線に、咄嗟に天馬達の狙いを悟ったエーギルは反射的に防御の水壁を張り巡らせる。今まで天馬達の攻撃を全て受け止めてきた絶対の防壁が神聖砲弾と接触し――
水壁が大きく撓み、大量の水しぶきとなって弾け飛んだ!
「……っ!!」
水壁によって若干威力は軽減したものの、そのまま消える事無く突き進んだ神聖砲弾は、驚愕に目を見開くエーギルの胴体に命中した。目も眩むような激しい閃光が爆発する。
「ゲハァッ!!」
エーギルが血反吐を吐きながら吹き飛んだ。大きなダメージは与えたが死んではいないようだ。天馬が舌打ちした。
「ち……上手く行きゃこれで倒せると思ったが、甘かったか……!」
恐らく水壁で神聖砲弾の威力を軽減していたのが原因だろう。一発で倒しきれないと
「貴様らぁぁァァァァァァァァッ!!!」
「……っ!」
血を吐きながら怒りの咆哮を上げたエーギルの身体が、大量の黒い靄に覆われた。そしてその魔力が爆発的に膨れ上がる。
「くそ……!」
天馬は歯噛みした。やはり間に合わなかった。エーギルが……ウォーデンの
まず靄から飛び出してきたのは、長く太い
「……!」
それだけの大きさでありながら、その速度は先程までの水鞭に勝るとも劣らない。天馬は躱す暇もなく巨大な触腕に薙ぎ払われた。
「ぐはっ……!」
「テンマさん!?」
吹き飛ばされる天馬を見てシャクティが悲鳴を上げる。だが天馬は苦し気に表情を歪めながらも、空中で一回転して強引に着地した。
「俺は大丈夫だ! それより
「……っ!」
シャクティだけでなく、アリシアも、そしてミネルヴァも慌てて黒い靄の塊に武器を向ける。彼女らの見ている前で黒い靄が内側からの圧力で霧散した。その中から姿を現したのは……
『貴様らぁ……私を本気で怒らせてしまったようだな。楽には死なせんぞ?』
エーギル……と思しき怪物が、その
それは一言で表すなら『黒い皮膚をした超巨大蛸』とでも言うべき存在であった。しかし蛸のような印象を与えるのはその八本の触腕だけであり、頭部に当たる部分は無数の突起が生えて蠢いており、まるでイソギンチャクのような形状をしていた。
恐ろしく巨大なタコとイソギンチャクが合わさった怪物……。それがエーギルの変身した姿のようであった。
「イタカの眷属でありながらこのような姿になるとは、まるで
「……!!」
眉を顰めながらのアリシアの言葉の中に出てきた『東アジア一帯』という単語に反応する天馬。それには当然日本も含まれているだろう。つまりあの学校での惨劇を引き起こした奴等の裏にいる邪神とは……
『死ねぃ! 忌々しい旧神の残り滓どもめ!』
だが怪物と化したエーギルが襲い掛かってきたので、そちらへの対処に意識を切り替える天馬。
合計八本もの触腕が唸りを上げて振り回される。どれもが先程天馬を吹き飛ばした一撃と比べて遜色ない速さと威力だ。とても接近する隙がなく、天馬は慌てて飛び退って距離を取る。怪物化したエーギルは見た目通り地上では機動力がないのか、その場からあまり素早くは動けないようだった。だが……
『馬鹿め! それで逃げたつもりか!』
「……!」
触腕の一本が明らかに急激に
「テンマ! おのれ、化け物め!」
アリシアが神聖弾を撃ち込む。何と言っても敵は巨大なので撃てばどこかしらに当たるはずであった。だが確かに奴の身体に命中したはずの神聖弾は急激に威力を減じて消滅してしまう。
よく見ると奴の本体や触腕は薄い
『ドゥルガーの怒り!』
シャクティも遠距離攻撃で本体を直接狙うが、やはり奴の身体を覆う水の膜に弾かれてしまう。しかしその間にミネルヴァが接近する時間は稼げた。
『スクルド・フェーデ!!』
ミネルヴァは槍の穂先が無数に分裂したかと錯覚するほどの速さの連続突きを、エーギルの巨体に所構わず浴びせまくる。
『ふぁはは! 効かん! 効かんぞぉ!』
「……っ」
だがやはり水の膜を破る事ができなかった。どうやらあの水の膜は一見薄く見えるが、その実相当圧縮されているようで、人間時に操っていた水壁に等しい防御力を有しているようだ。それが全身にくまなく纏わっているのでは手の出しようがない。
『そらっ!』
「ぐ……!!」
技を弾かれて無防備になったミネルヴァの脇腹にエーギルの触腕が薙ぎ払われる。回避できずにまともに食らった彼女は、天馬と同じように大きく吹き飛ばされて地面に転がった。