第17話 集結
文字数 2,747文字
「ごふっ……ふ、ふふ……やはりこうなりましたか。私には自分の運命を勝ち取る力は無かったようです」
倒れたアディティは血を吐きながら死相を浮かべて苦笑した。ディヤウスといえど同じディヤウスからの攻撃をこれだけまともに受ければ間違いなく致命傷だ。
「アディティ……」
決着がついた事を悟ったシャクティが悲しげな表情を浮かべてその側に歩み寄る。
「ふふ……お嬢様、そんな顔をしないで下さい。私とあなたは決して相容れる事がない、どちらかが死ぬしかない運命だったのです。そしてあなたは運命に打ち勝った。もっと誇らしげにして下さい」
「…………」
和解するチャンスも降参するチャンスもいくらでもあった。この結果を選択したのはアディティ自身だ。シャクティに責任がある訳ではない。
それでも長年『友人』と思ってきた相手だ。そんな人物との別れがこのような形で、悲しくないと言えば嘘になる。
「アディティ、最後に教えて。あなたが組んでいる相手……ナラシンハと言っていたけど、それはあの ナラシンハなの?」
「……ええ、そうですよ。このテランガーナ州のネルー首相の息子で、あなたの婚約者 筆頭候補であったナラシンハ・ネルーです」
「……! やっぱりそうなのね。一体どんな経緯であの男と? あいつは何を企んでいるの?」
「それは……」
アディティが答えようとした時だった。
「――っ! 危ねぇっ!!」
それまで黙って成り行きを見守っていた天馬がシャクティを抱きかかえて飛び退る。その直後、彼等のいた場所に黒い矢 が突き刺さる。そして……アディティの身体にも。
「っ! アディティ!!」
「ごはっ……ナ、ナラシンハ、様……」
アディティは更に口から大量の血を吐き出しながら何かを言いかけたが、それを言葉として発する事はできずに息絶えた。
「――ふむ、自分がお前達を必ず殺すというので任せてみたが……やはりウォーデンにもなれぬ女ではこの程度か。役には立ったが、最早用済みだな」
「……!!」
聞き覚えのある男の声。いや……それ以前に、天馬にとっては直近で苦い記憶のある邪悪で圧倒的な魔力。
いつの間にそこに居たのか、朽ちた遺跡群の建物の一つ。その屋根の上に一人の男が佇んでいた。仕立ての良いスーツ姿にまるで感情が欠落したような目が印象的な若い男。
邪神メーガナーダのウォーデン、ナラシンハ・ネルー。その手には先程の黒い矢を放ったと思われる銀色の弓……恐らくは奴の神器 であるクリスナーガを携えている。
「ち……現れやがったか!」
「私の目的が知りたいなら、私に直接聞けば良いのだ」
天馬達が再び臨戦態勢を取る前で、かなりの高さがある屋根の上から飛び降りて悠然と着地するナラシンハ。
「私の目的。それは……ウォーデンすらも超えて、神そのもの になる事だ」
「な、何だと……? 神になる、だぁ?」
天馬は思わず唖然とした声を上げてしまう。後ろではシャクティも声こそ出さなかったが同じような表情になっていた。
「そうだ。そのためにはディヤウスであるお前達の命が必要なのだ。『神』となった私は俗世のあらゆる制約から解き放たれ、王を名乗るあの男 も超えてこの世の頂点に君臨できるだろう」
「……!!」
『王を名乗る男』という言葉に天馬が反応する。日本で戦った我妻という男も言及していた存在。同じウォーデンであるナラシンハが口にするからには同一人物である可能性が高い。
茉莉香を花嫁 にするためにあの襲撃事件を起こし、我妻に命令して茉莉香を連れ去った黒幕。その存在を口にされるだけで天馬の瞳は憤怒に燃え上がり、その歯が割れんばかりに噛み締められる。
「こ、この世の頂点? それって結局ただ自分が上になりたいっていう出世欲という事ですか? そ、そんな事の為にこんな事を!? アディティまで利用して……」
だが後ろで同じように怒りに震えるシャクティの声を耳にして、多少冷静さを取り戻す事ができた。そう……理不尽な悪意によって生活や人生をメチャクチャにされたのは天馬達だけではないのだ。
「ふ……その程度の認識しか出来ぬから、貴様ら俗人共とまともに会話する気にもならんのだ。神をこの身に顕現させ現世の理を根底から変える偉業、所詮貴様らには理解できまい」
ナラシンハは己のみに通用する身勝手な理屈で天馬達を嘲笑すると、その身体から魔力を噴出させた。
「この遺跡全体が我が結界の支配域となっている。この場で貴様らが死ねば、その神力は自動的に我が力となる」
せっかく捕らえてあった天馬達の、捕縛ではなく殺害をアディティらに命じていたのはそれが理由か。
どうやら長々と会話する気はないらしい。天馬は覚悟を決めた。アディティだけでもあれだけ苦戦したというのに、それよりも遥かに強いナラシンハ相手にシャクティと今の天馬だけで勝てるとは思えない。
(だからって諦める気は全くねぇけどな。こうなったらやれるだけやってやるぜ!)
「シャクティ、いきなりこんな事になっちまって悪かったな。だけど俺は最後まで諦める気はないぜ。アンタもそうだろ?」
天馬がナラシンハを睨みつけたまま問うと、後ろで彼女がうなずく気配があった。
「はい、勿論です……! 死んでも諦めたりなんかしません! アディティの為にも!」
「へ、いい覚悟だ。じゃあ……行くか?」
「はい、いつでも!」
そして天馬とシャクティもありったけの神力を振り絞る。だがナラシンハはそれを何ら脅威と感じていないように冷笑した。
「死ぬがいい、下賤な神の信徒どもよ。そして我が進化の礎となれ」
ナラシンハはそう宣言して、憐れな獲物たち相手に弓を向ける。そしてその弓 から黒い矢が放たれようとした時……
――ドゥゥゥゥンッ!!!
「……!!」
轟く重い銃声。そして咄嗟に飛び退いたナラシンハのいた場所に撃ち込まれた光の銃弾 が地面に穴を穿つ。
「お…………」
「な、何……!?」
ナラシンハだけでなく、天馬とシャクティの視線も反射的にその銃弾が撃ち込まれた方向へ向く。そして2人の目が同時に驚きに見開かれる。ただし天馬は嬉しい驚き、シャクティは不審な驚きという感情の違いはあったが。
「……愚かな。せっかく助かった命をわざわざ捨てに来るとは」
そしてナラシンハもまた同じ方向に視線を向けて眉を顰めた。彼等が見据える先……先程ナラシンハが立っていたのとは別の建物の屋根の上。そこには2人の女性 の姿があった。
1人は金髪のカウガールルックの白人女性で、手にはリボルバーを構えている。もう1人は黒髪を緩く束ねた東洋人女性。
「あいつら……生きてたか!」
それは勿論天馬にとっては見知った仲間、そしてハイデラバード空港で別れて以来どうなったか解らず安否が不明でもあった2人、アリシアと小鈴であった!
倒れたアディティは血を吐きながら死相を浮かべて苦笑した。ディヤウスといえど同じディヤウスからの攻撃をこれだけまともに受ければ間違いなく致命傷だ。
「アディティ……」
決着がついた事を悟ったシャクティが悲しげな表情を浮かべてその側に歩み寄る。
「ふふ……お嬢様、そんな顔をしないで下さい。私とあなたは決して相容れる事がない、どちらかが死ぬしかない運命だったのです。そしてあなたは運命に打ち勝った。もっと誇らしげにして下さい」
「…………」
和解するチャンスも降参するチャンスもいくらでもあった。この結果を選択したのはアディティ自身だ。シャクティに責任がある訳ではない。
それでも長年『友人』と思ってきた相手だ。そんな人物との別れがこのような形で、悲しくないと言えば嘘になる。
「アディティ、最後に教えて。あなたが組んでいる相手……ナラシンハと言っていたけど、それは
「……ええ、そうですよ。このテランガーナ州のネルー首相の息子で、あなたの
「……! やっぱりそうなのね。一体どんな経緯であの男と? あいつは何を企んでいるの?」
「それは……」
アディティが答えようとした時だった。
「――っ! 危ねぇっ!!」
それまで黙って成り行きを見守っていた天馬がシャクティを抱きかかえて飛び退る。その直後、彼等のいた場所に
「っ! アディティ!!」
「ごはっ……ナ、ナラシンハ、様……」
アディティは更に口から大量の血を吐き出しながら何かを言いかけたが、それを言葉として発する事はできずに息絶えた。
「――ふむ、自分がお前達を必ず殺すというので任せてみたが……やはりウォーデンにもなれぬ女ではこの程度か。役には立ったが、最早用済みだな」
「……!!」
聞き覚えのある男の声。いや……それ以前に、天馬にとっては直近で苦い記憶のある邪悪で圧倒的な魔力。
いつの間にそこに居たのか、朽ちた遺跡群の建物の一つ。その屋根の上に一人の男が佇んでいた。仕立ての良いスーツ姿にまるで感情が欠落したような目が印象的な若い男。
邪神メーガナーダのウォーデン、ナラシンハ・ネルー。その手には先程の黒い矢を放ったと思われる銀色の弓……恐らくは奴の
「ち……現れやがったか!」
「私の目的が知りたいなら、私に直接聞けば良いのだ」
天馬達が再び臨戦態勢を取る前で、かなりの高さがある屋根の上から飛び降りて悠然と着地するナラシンハ。
「私の目的。それは……ウォーデンすらも超えて、
「な、何だと……? 神になる、だぁ?」
天馬は思わず唖然とした声を上げてしまう。後ろではシャクティも声こそ出さなかったが同じような表情になっていた。
「そうだ。そのためにはディヤウスであるお前達の命が必要なのだ。『神』となった私は俗世のあらゆる制約から解き放たれ、
「……!!」
『王を名乗る男』という言葉に天馬が反応する。日本で戦った我妻という男も言及していた存在。同じウォーデンであるナラシンハが口にするからには同一人物である可能性が高い。
茉莉香を
「こ、この世の頂点? それって結局ただ自分が上になりたいっていう出世欲という事ですか? そ、そんな事の為にこんな事を!? アディティまで利用して……」
だが後ろで同じように怒りに震えるシャクティの声を耳にして、多少冷静さを取り戻す事ができた。そう……理不尽な悪意によって生活や人生をメチャクチャにされたのは天馬達だけではないのだ。
「ふ……その程度の認識しか出来ぬから、貴様ら俗人共とまともに会話する気にもならんのだ。神をこの身に顕現させ現世の理を根底から変える偉業、所詮貴様らには理解できまい」
ナラシンハは己のみに通用する身勝手な理屈で天馬達を嘲笑すると、その身体から魔力を噴出させた。
「この遺跡全体が我が結界の支配域となっている。この場で貴様らが死ねば、その神力は自動的に我が力となる」
せっかく捕らえてあった天馬達の、捕縛ではなく殺害をアディティらに命じていたのはそれが理由か。
どうやら長々と会話する気はないらしい。天馬は覚悟を決めた。アディティだけでもあれだけ苦戦したというのに、それよりも遥かに強いナラシンハ相手にシャクティと今の天馬だけで勝てるとは思えない。
(だからって諦める気は全くねぇけどな。こうなったらやれるだけやってやるぜ!)
「シャクティ、いきなりこんな事になっちまって悪かったな。だけど俺は最後まで諦める気はないぜ。アンタもそうだろ?」
天馬がナラシンハを睨みつけたまま問うと、後ろで彼女がうなずく気配があった。
「はい、勿論です……! 死んでも諦めたりなんかしません! アディティの為にも!」
「へ、いい覚悟だ。じゃあ……行くか?」
「はい、いつでも!」
そして天馬とシャクティもありったけの神力を振り絞る。だがナラシンハはそれを何ら脅威と感じていないように冷笑した。
「死ぬがいい、下賤な神の信徒どもよ。そして我が進化の礎となれ」
ナラシンハはそう宣言して、憐れな獲物たち相手に弓を向ける。そしてその
――ドゥゥゥゥンッ!!!
「……!!」
轟く重い銃声。そして咄嗟に飛び退いたナラシンハのいた場所に撃ち込まれた
「お…………」
「な、何……!?」
ナラシンハだけでなく、天馬とシャクティの視線も反射的にその銃弾が撃ち込まれた方向へ向く。そして2人の目が同時に驚きに見開かれる。ただし天馬は嬉しい驚き、シャクティは不審な驚きという感情の違いはあったが。
「……愚かな。せっかく助かった命をわざわざ捨てに来るとは」
そしてナラシンハもまた同じ方向に視線を向けて眉を顰めた。彼等が見据える先……先程ナラシンハが立っていたのとは別の建物の屋根の上。そこには
1人は金髪のカウガールルックの白人女性で、手にはリボルバーを構えている。もう1人は黒髪を緩く束ねた東洋人女性。
「あいつら……生きてたか!」
それは勿論天馬にとっては見知った仲間、そしてハイデラバード空港で別れて以来どうなったか解らず安否が不明でもあった2人、アリシアと小鈴であった!