第49話 財団職員の決意 西暦2025年July
文字数 4,008文字
ニューヨーク マンハッタン 5番街
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
「隊長ジャガー。応答願います。こちら現地対策本部ジョン・オルティス。セントラルスターホテル向いのビルにて、悪魔のペントハウスを監視中のジョンです。隊長。応答願います」
「こちらジャガー。ジョン。どうしたのか?」
「大変です。ジェームス様のお身体に出血の反応です」
「出血の反応とは何か? 詳細な説明を求める」
カーレル財団筆頭執事、ジェームス・モートン救出作戦実行指揮官である特殊部隊隊長ジャガーが、現地対策本部に居るジョン・オルティスに尋ねる。
「何か鋭利 な物によりジェームス様の皮膚が切り裂かれた可能性があります。ジェームス様の身体に大きな侵襲 が加えられた可能性があります」
「何処 にだ。身体のどの部位に侵襲が加えられたのだ。出血の量は? ジェームス様の心拍数はどうか? 血圧の低下はあるのか?」
ジャガーはジェームスの生体反応の低下を危惧する。
「ジェームス様の心拍数は上昇。血圧の低下はありません。部位は頸部、頸部中央からの出血です」
「出血の状況はどうか? 動脈性の出血はあるのか?」
ジャガーが更に詳しく尋ねる。
「動脈性の出血は無いようです。大量の熱量の噴出 はありません」
現地対策本部にて計器を監視するジョンは、この状況を冷静に分析する。
「只、頚部中央より空気が漏れ出ております。現在ジェームス様の呼吸は気管からも行われている様子です」
「気管から呼吸が漏 れているのか? 頸部咽頭の気管が切り裂かれた⁉」
「はい。そのような反応に見受けられます」
「了解。ジョン・オルティス。厳重な監視を続けてくれ」
隊長ジャガーは現地対策本部ジョンとの交信を終えると、総統カーレルに向い通信を始める。
「総統。今聴かれた通りです。最早一刻 の猶予 もありません。我らは突入します」
「よし。ジャガー。突入の許可 を与える」
カーレルは即答し、ジャガーに作戦の許可を与える。
「ジョン頼むぞ! ペントハウス内に居る悪魔の動きを監視し、我ら突入部隊のゴーグルに最新の情報を送ってくれ」
ジャガーは現地対策本部にいるジョン・オルティスに支援をお願いする。
「わっ、解りました。突入部隊の幸運を祈ります」
現地対策本部情報分析員ジョンが、危険地帯に突入するジャーガ-に応えた。
「部隊長ジャガー、情報分析員ジョン。沙織・ガブリエルです。只今より現地対策本部の情報は、戦略指令室が総てを管理します。現地対策本部に於いてはデーターの迅速 な分析作業の継続をお願いします。解析 された情報は、戦略指令室が責任をもって作戦行動員のゴーグルにリアルタイムで配信を致します。総統。宜しいですね?」
戦略指令室長官、沙織・ガブリエルが現場に介入する。
「勿論だとも。よろしく頼む!」
「沙織さん。助かりました。いいえ。戦略指令室長官、了解です!」
沙織の介入に現地対策本部情報分析員ジョンが胸をなでおろす。自分が分析した情報を、現場の指揮系統に適切に反映させることなど、一分析員にしか過ぎないジョンには余りにも荷が重すぎるのだ。
「さてレオナルド。ニューヨーク マンハッタン迄、我らはあと何分で着く?」
カ-レルが尋ねる。
「到着まであと3分の計算です」
ハリアーGR・7の操縦桿を握りながら、レオナルドが答える。
「ジェームス…彼奴 一人で頑張りおって。ジャガー、儂らが行くまで何とか堪 えてくれよ」
カーレル財団総統カーレル・B・サンダーは祈るように機内の時計を見詰めた。
「総統。これからホテルの扉を爆破します。建築物の補償費用等、財団に御迷惑が掛ります」
突入作業の爆破準備が整ったジャガーが、カーレル財団総統カーレルに告げる。
「費用など、何を言うかジャガー。それよりもいいか、決して悪魔を殺ってやろうなんて考えては駄目だぞ。諸君らの任務は、一にジェームスの救出、二に作戦隊員全員の無事な帰還だ。それを忘れるな!」
「了解!」
「ジャガー。儂らとて悪魔の強さは解らぬ。しかし熊やゴリラの比ではない事は確かだ。儂は恐竜並みの強さを想定しているよ。だから善いな、決して無理をするな」
「了解です。これより扉を爆破致します」
ジャガーは緊張な面持 ちで応えた。
「戦略室司令長官、沙織・ガブリエル殿。予定通りに後方支援部隊は二手に別れます。扉を爆破し階段からペントハウスに侵入する我ら突入部隊の後方に一部隊、そしてもう一部隊が直通エレベータでペントハウス内に侵入をします。後方支援部隊のサポートをお願いします」
ジャガーは突入前に沙織・ガブリエルに後方支援部隊への援助を願い出る。
「解りました。こちらからは救助用のヘリ二機、兵員輸送用のヘリ二機、対戦車ミサイル搭載 の重戦闘用のヘリを二機、ホテルの上空に派遣致します。ヘリ到着迄の時間は凡 そ十五分の予定です。十五分で作戦を完遂 させて下さい。救助用のヘリと兵員輸送用ヘリは、近くのビル屋上にて待機をさせます。重戦闘用のヘリ二機はセントラルスターホテルの上空にて旋回 行動を維持します。作戦部隊撤退 時には援護するよう重戦闘ヘリには要請 をかけています。突入部隊の退路は屋上に確保して下さい。撤退の際にはホテル屋上に兵員輸送用のヘリを向わせます」
沙織・ガブリエルが冷静な口調で作戦支援の方法を伝える。
「ジャガー死ぬなよ」
カ-レルは祈るような気持ちで呟 いた。
その時である。
「カ-レル様。沙織・ガブリエルです」
先程迄、冷静な口調で話していた沙織・ガブリエルが突如大きな声を上げる。
「沙織どうした?」
「大変な事態です。大西洋沖にて演習中の米海軍駆逐艦 から、二発のトマホークミサイルが発射された事を、財団偵察 衛星が確認。トマホークミサイルを発射した駆逐艦は、ア-レイ・バーク級イージス駆逐艦。発射されたミサイルはハドソン海底谷 海上を超え、真直ぐフィラデルフィアに向かっています」
「何!? 我らの住むフィラデルフィアに向かっているだと…」
「詳細については現在、米海軍司令部と交信中…」
沙織はそう告げるとカ-レルとの連絡を一時中断する。
「まさか奴 に先手を打たれたか?」
「奴って、セラヌの事ですか?」
レオナルドがカーレルの言葉に即座 に反応する。
「そうだ。セラヌの奴、既にジェームスから全ての情報を引き出したやもしれぬ」
カ-レルは眉間 に皺 を寄せた。
「情報って、何の情報です?」
「ジェームスが知る、我ら総ての情報だ」
「総てを!? そんな事。それに何故、米海軍の駆逐艦が」
「このような時の為にと、奴に操られた輩 が海軍に侵入しているやも知れぬ」
カ-レルは溜め息を吐いた。
「沙織。戦略室司令長官、沙織・ガブリエル。まだか、まだ応答は出来ないのか!?」
カ-レルは大声を上げる。
その時、沙織ガブリエルの代わりに戦略指令室からカーレルの呼びかけに応じた職員がいた。
「カ-レル様。わたくし沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンと申します。もう暫 くお待ち下さい。現在、沙織・ガブリエルは米海軍司令部と直に交信中です。発射された二発のトマホークミサイルの軌道は、財団の偵察衛星が確実に補足をしています。ミサイルの飛行速度は時速900km、財団本部までの距離は150km、ミサイルは凡 そ10分で財団本部にまで到達致します」
「10分!?」
戦闘機ハリアーGR・7の操縦桿を握るレオナルドが呟く。
「リストンと言ったな。カーレルじゃ。無論、手は打ってあるな!?」
カーレルは、沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンに尋ねる。
「はい。この程度の攻撃では財団本部には被害は及びません」
「ほう。気丈なお嬢さんだ。儂も発射されたミサイルが核弾頭搭載のミサイルで無い事を祈ろう。だが、もしもの事態に備 えて財団司令本部を更なる地下に沈降 させよ」
「はい。了解しました」
沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンが総統の命令に応える。
「一度に沢山の事象 が動き始めた。レオナルド。財団の精鋭達を信じて我らは我らの使命に集中しよう。あと90秒。我らの戦場も、もう直 だ」
「解りました」
レオナルドはハリアーGR・7のコックピットから、目の前に広がる摩天楼を見詰めた。
「こちら沙織・ガブリエル。カ-レル総統、応答願います!」
「よし沙織、カ-レルだ」
「カーレル様、報告いたします。大西洋沖にて演習中の米海軍イージス駆逐艦からトマホークミサイル二発を発射させた海軍大佐と、同イージス駆逐艦の乗務員が交戦。海軍大佐は銃殺されております。大佐の奇行 については現在米海軍にて調査中。ミサイルは核弾頭搭載のものではありません。トマホークミサイルの遠隔自爆装置は既に破壊されており、海軍では発射されたミサイルを止める手立てが無いとの事です。財団司令部では衛星システムと連動し、既にこのミサイルの捕捉 体制を整えて居ります」
「沙織。皆を連れてミサイルの着弾地点から避難してもよいのだぞ」
カーレルは沙織・ガブリエルにそう告げる。
「何を仰 います。財団の類 まれなる科学力は、総統であるカ-レル様が一番良く御存じの筈 。不肖 この沙織・ガブリエル、そして司令部職員も皆、既に腹が据 わっております。財団の気高い使命の前には、我等の命など、とうに捨てております故、ご心配にはおよびません」
沙織・ガブリエルはそう応えた。
「よかろう。我等の戦いには世界人類の存亡 が懸かっている。1500年の時を使い周到 に準備をして来た我等カーレル財団が、悪魔を討ち滅ぼす戦の先兵を務めるのだ。皆、心して職務を全うせよ!」
カーレル財団第三十八代総統カーレル・B・サンダーの言葉が、無線機を通して総ての財団職員の耳へと流れる。
中々言える言葉では無い。カーレルは今、戦いの鬼となったのである。
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
「隊長ジャガー。応答願います。こちら現地対策本部ジョン・オルティス。セントラルスターホテル向いのビルにて、悪魔のペントハウスを監視中のジョンです。隊長。応答願います」
「こちらジャガー。ジョン。どうしたのか?」
「大変です。ジェームス様のお身体に出血の反応です」
「出血の反応とは何か? 詳細な説明を求める」
カーレル財団筆頭執事、ジェームス・モートン救出作戦実行指揮官である特殊部隊隊長ジャガーが、現地対策本部に居るジョン・オルティスに尋ねる。
「何か
「
ジャガーはジェームスの生体反応の低下を危惧する。
「ジェームス様の心拍数は上昇。血圧の低下はありません。部位は頸部、頸部中央からの出血です」
「出血の状況はどうか? 動脈性の出血はあるのか?」
ジャガーが更に詳しく尋ねる。
「動脈性の出血は無いようです。大量の熱量の
現地対策本部にて計器を監視するジョンは、この状況を冷静に分析する。
「只、頚部中央より空気が漏れ出ております。現在ジェームス様の呼吸は気管からも行われている様子です」
「気管から呼吸が
「はい。そのような反応に見受けられます」
「了解。ジョン・オルティス。厳重な監視を続けてくれ」
隊長ジャガーは現地対策本部ジョンとの交信を終えると、総統カーレルに向い通信を始める。
「総統。今聴かれた通りです。
「よし。ジャガー。突入の
カーレルは即答し、ジャガーに作戦の許可を与える。
「ジョン頼むぞ! ペントハウス内に居る悪魔の動きを監視し、我ら突入部隊のゴーグルに最新の情報を送ってくれ」
ジャガーは現地対策本部にいるジョン・オルティスに支援をお願いする。
「わっ、解りました。突入部隊の幸運を祈ります」
現地対策本部情報分析員ジョンが、危険地帯に突入するジャーガ-に応えた。
「部隊長ジャガー、情報分析員ジョン。沙織・ガブリエルです。只今より現地対策本部の情報は、戦略指令室が総てを管理します。現地対策本部に於いてはデーターの
戦略指令室長官、沙織・ガブリエルが現場に介入する。
「勿論だとも。よろしく頼む!」
「沙織さん。助かりました。いいえ。戦略指令室長官、了解です!」
沙織の介入に現地対策本部情報分析員ジョンが胸をなでおろす。自分が分析した情報を、現場の指揮系統に適切に反映させることなど、一分析員にしか過ぎないジョンには余りにも荷が重すぎるのだ。
「さてレオナルド。ニューヨーク マンハッタン迄、我らはあと何分で着く?」
カ-レルが尋ねる。
「到着まであと3分の計算です」
ハリアーGR・7の操縦桿を握りながら、レオナルドが答える。
「ジェームス…
カーレル財団総統カーレル・B・サンダーは祈るように機内の時計を見詰めた。
「総統。これからホテルの扉を爆破します。建築物の補償費用等、財団に御迷惑が掛ります」
突入作業の爆破準備が整ったジャガーが、カーレル財団総統カーレルに告げる。
「費用など、何を言うかジャガー。それよりもいいか、決して悪魔を殺ってやろうなんて考えては駄目だぞ。諸君らの任務は、一にジェームスの救出、二に作戦隊員全員の無事な帰還だ。それを忘れるな!」
「了解!」
「ジャガー。儂らとて悪魔の強さは解らぬ。しかし熊やゴリラの比ではない事は確かだ。儂は恐竜並みの強さを想定しているよ。だから善いな、決して無理をするな」
「了解です。これより扉を爆破致します」
ジャガーは緊張な
「戦略室司令長官、沙織・ガブリエル殿。予定通りに後方支援部隊は二手に別れます。扉を爆破し階段からペントハウスに侵入する我ら突入部隊の後方に一部隊、そしてもう一部隊が直通エレベータでペントハウス内に侵入をします。後方支援部隊のサポートをお願いします」
ジャガーは突入前に沙織・ガブリエルに後方支援部隊への援助を願い出る。
「解りました。こちらからは救助用のヘリ二機、兵員輸送用のヘリ二機、対戦車ミサイル
沙織・ガブリエルが冷静な口調で作戦支援の方法を伝える。
「ジャガー死ぬなよ」
カ-レルは祈るような気持ちで
その時である。
「カ-レル様。沙織・ガブリエルです」
先程迄、冷静な口調で話していた沙織・ガブリエルが突如大きな声を上げる。
「沙織どうした?」
「大変な事態です。大西洋沖にて演習中の米海軍
「何!? 我らの住むフィラデルフィアに向かっているだと…」
「詳細については現在、米海軍司令部と交信中…」
沙織はそう告げるとカ-レルとの連絡を一時中断する。
「まさか
「奴って、セラヌの事ですか?」
レオナルドがカーレルの言葉に
「そうだ。セラヌの奴、既にジェームスから全ての情報を引き出したやもしれぬ」
カ-レルは
「情報って、何の情報です?」
「ジェームスが知る、我ら総ての情報だ」
「総てを!? そんな事。それに何故、米海軍の駆逐艦が」
「このような時の為にと、奴に操られた
カ-レルは溜め息を吐いた。
「沙織。戦略室司令長官、沙織・ガブリエル。まだか、まだ応答は出来ないのか!?」
カ-レルは大声を上げる。
その時、沙織ガブリエルの代わりに戦略指令室からカーレルの呼びかけに応じた職員がいた。
「カ-レル様。わたくし沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンと申します。もう
「10分!?」
戦闘機ハリアーGR・7の操縦桿を握るレオナルドが呟く。
「リストンと言ったな。カーレルじゃ。無論、手は打ってあるな!?」
カーレルは、沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンに尋ねる。
「はい。この程度の攻撃では財団本部には被害は及びません」
「ほう。気丈なお嬢さんだ。儂も発射されたミサイルが核弾頭搭載のミサイルで無い事を祈ろう。だが、もしもの事態に
「はい。了解しました」
沙織・ガブリエルのアシスタント、リストンが総統の命令に応える。
「一度に沢山の
「解りました」
レオナルドはハリアーGR・7のコックピットから、目の前に広がる摩天楼を見詰めた。
「こちら沙織・ガブリエル。カ-レル総統、応答願います!」
「よし沙織、カ-レルだ」
「カーレル様、報告いたします。大西洋沖にて演習中の米海軍イージス駆逐艦からトマホークミサイル二発を発射させた海軍大佐と、同イージス駆逐艦の乗務員が交戦。海軍大佐は銃殺されております。大佐の
「沙織。皆を連れてミサイルの着弾地点から避難してもよいのだぞ」
カーレルは沙織・ガブリエルにそう告げる。
「何を
沙織・ガブリエルはそう応えた。
「よかろう。我等の戦いには世界人類の
カーレル財団第三十八代総統カーレル・B・サンダーの言葉が、無線機を通して総ての財団職員の耳へと流れる。
中々言える言葉では無い。カーレルは今、戦いの鬼となったのである。