第52話 魔王との対決 西暦2025年July
文字数 3,539文字
ニューヨーク マンハッタン 5番街
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
「何を言うのも勝手だが… 死の国への道先案内は僕が務 めよう!」
レオナルドの口から無意識に言葉が流れ出た。
「ふっ。レオナルドと言うのか!? 小憎らしいバッジョの化身。お前の剣技 が果たして私に通用するかな? 試 してみるがいい」
魔王セラヌは着ていた背広 を素早く脱ぎ捨てる。
(速い!!)
背広が脱ぎ捨てられた時には、既にその場にセラヌの姿は無い。
セラヌは一気にレオナルドに向かい肉迫 する。敵の動きに素早く反応したレオナルドも、瞬時に一歩前に踏 み出てセラヌの振るう中剣 を受け止めていた。
レオナルドのもとで白金 に光り輝く聖剣エクスカリバー。暗黒の魔王セラヌが持つそれは、2000年もの長き時間 を渡り、数えきれない程の血を吸い続けて来た悪魔の中剣であった。
セラヌが放った右上段 からの鋭 い一撃 を、額ぎりぎりで受け止めたレオナルドが、今度は受払 いざまに素早く剣を振り降ろす。
「ええいっ」
左斜 上段より、レオナルドが気合いを込めて放った一撃は、魔王セラヌの首を狙 い鋭 く振り降ろされる。
素早く後退し、振り下ろされた一撃を回避した魔王セラヌは、辛うじてレオナルドの剣の軌道からは逃れた。しかし聖剣エクスカリバーの凄 まじい剣圧 が、セラヌの頬を浅く斬り裂いていた。
魔王セラヌは二歩、三歩と後退しながら左手を背中に回し、隠していたもう一本の剣を抜き放つ。妖 しい光りをたたえる中剣を、左右の腕に構えたセラヌの頬から、赤い雫 が伝 い床を濡らした。
地上では、ホテルに集まり来る警察車両や救急車両のサイレン音が鳴り響いていた。
「良いのか?騒 ぎが大きくなり人が集まり始めた。人目を避 け闇 の世界に生きるお前ら悪魔には都合 が悪いであろう?」
向き合ったレオナルドと魔王の間を割 るようにして、カーレルが言葉を挟 む。
「ふっ。その誘 いには乗らない」
魔王セラヌはカーレルの申し出を一蹴 する。
「王子アーテリーの化身はここには現れない。そうなのだろう!?」
セラヌは頬から流れ出る血液を舐 め味わいながら話した。構 えは崩さず、冷酷な瞳は絶えずレオナルドの隙 を探 している。
(手の内を読まれているのか?)
カーレルは心の中で呟く。しかし表情には素振 りさえ見せない。
「我等 二人に、王子アーテリーの化身が加わればどうにもならぬ。そう恐れたな!?」
カーレルはそう答えた。
「ふっ。強がりを言う。どうやら図星 のようだ。何か理由があるようだが、それはこちらにとっては好都合 と言うもの。アーテリーの化身が現れる前に、貴様ら二人は仲良くここで消えてもらうことにしよう」
魔王セラヌの口元から、笑いが消え失せていた。
「王子の手を煩 わせる事もなし。貴様を葬 り去る事などいとも容易 い。聖剣エクスカリバーのもと、剣の露 と消えよ」
若いレオナルドはセラヌの挑発 に頬を上気させる。
「ほう、それが聖剣エクスカリバー。ふっ、凄い業物 をお持ちだ。だがその剣の輝き方では、君は剣の正統な持ち主とは言えぬようだ。バッジョの化身よ、エクスカリバーを使うのも、この私の相手を務 めるのも、やはりお前では役に不足があるようだよ」
魔王セラヌは饒舌 にレオナルドを挑発する。
「ええい!」
レオナルドは正面に立つ魔王セラヌの喉 もとに向け、正眼 の構 えから真直ぐに剣を突き入れて行く。
レオナルドの鋭い一撃を、左右の剣を交叉させ斜め上方へと受け流したセラヌは、突きの姿勢で上体が伸びた若者の脇腹に強烈なひと振りを返してくる。レオナルドの長剣を左腕一本で押し上げ、セラヌは素早く右腕を返して来たのだ。
レオナルドの脇腹で、風を斬る大きな音が鳴った。これには流石の騎士バッジョの化身も肝 を冷やす事となる。
(まともに食らえば、装甲スーツとてもたない!)
それは、からだを素早く回転させる事で、辛うじて魔王セラヌの一撃を外す事に成功したレオナルドの偽 りのない言葉であった。
レオナルドは二転三転と身体の回転を続け位置を移動し、更にその勢いをもってビルの柱を蹴りあげると、中空から一気に魔王セラヌの頭上に襲い掛る。
レオナルドの全体重と跳躍の高さを利用した強烈な一撃を、二本の中剣で受け止めたセラヌではあったが、若者のパワーに押され脚が数歩後退する。
「ボス!?」
主人の危機を察 し、咄嗟 に飛び出して来た魔獣将軍ルゼブスの大きなからだが、後退したセラヌの背中を支える。しかしその行為が逆に仇 となり、セラヌの退路 を塞 いでしまった。
(仕留 めた!)
レオナルドの勝利を確信したカーレルが心の中で声を上げる。
セラヌの頭上に強力な一撃を打ち込んだレオナルドは、瞬時空間に剣を残したまま、柄 を器用に握り換え、今度は自身の右肩上よりセラヌを刺し伏せるように聖剣を構えた。
レオナルドは魔王セラヌの左胸を突き貫 く事を確信する。
(魔獣もろとも貫く!)
レオナルドの気迫に反応したエクスカリバーの刃が、更に眩しく光り輝く。
「決まりだ!!」
勝利を確信したレオナルドの声が、破壊されたペントハウスに轟 く。
側 で見ていたカーレルとて、正 に同じ気持ちであった。しかし次の瞬間、俄 には信じられない光景が空間を支配する。それは大きな爆発により始められ、爆発の音が止んだ時には、現実の事象 となり世界に現れ出ていた。
爆風がもたらす過圧の中で、その一瞬の出来事の総てをカーレルの瞳は鋭く捕えていた。向い来る凄まじい風圧に耐えた後、カーレルはジェームスの待つ蔦繭 の場所へと戻っていた。
「魔王セラヌのボディガード、四体の魔獣は総て撃滅した。残る敵は魔王セラヌひとり。魔王は階下へと消えた。支援部隊は即座にペントハウスに倒れ込むジェームスを救助せよ!」
カーレル・B・サンダーが作戦本部に指示を与える。
「カーレル様。レオナルド様はどうされたのです?」
無線機からの音を頼 りに状況を冷静に分析していた戦略司令室長官沙織・ガブリエルが、レオナルドの安否 を気遣いカ-レルに尋ねる。
「ほら。僅かに聞こえるだろう。鋼 と鋼のぶつかり合う音が…」
「ええ。微 かに…」
沙織が返事をする。
「階下で… ですか?」
「ああ。バッジョの化身レオナルドも又凄まじい!」
カ-レルは溜息を吐き、再び話し始めた。
「レオナルドの総てを懸けた一撃を、瞬時に跳ね返した魔王セラヌの恐るべき気魂 の力。その圧倒的 な力を前に、奴の後ろに居た魔獣のからだは粉々に千切れ吹き飛んで行ったよ。その中でレオナルドは剣を構え立ち続けていた。屋根は爆風で吹き飛び、床には大きな穴が開いた。しかし戦い続ける二人は、それぞれのオーラを放ちながら空間に浮いておった」
「沙織」
「はい」
「レオナルドは強い!!」
「はい」
「儂が思っていたよりも何倍もだ」
「はい」
「バッジョは死して、更に力を益して生まれ変わって来た!」
「はい」
「沙織。儂もこれから階下へと向かう!」
支援部隊がジェームスを運び去るのを確認したカーレルは、床に空いた穴に向かい歩き始める。
「総統。私達に協力出来る事はありませんか?」
沙織・ガブリエルがカ-レルに申し出る。
「上空にヘリが着いたら、階下の西の窓にまで梯子 を垂 らしておくれ。儂らはそれに掴 まり、この場から脱出する」
カーレルは沙織に退路の確保を依頼した。
「カ-レル様!? まさかそれでは、それ程迄に強いレオナルド様を以 てしても、魔王セラヌを倒す事は叶 わないと、そう仰 るのですか?」
カーレル財団戦略司令室長官沙織・ガブリエルが驚き尋ねる。
「藍 に輝くオーラを放つレオナルドと、紅 のオーラを持つ魔王セラヌ、見た所その力は互角 。いや、剣技では寧 ろレオナルドの方が勝 ろう」
「それでは何故?」
「セラヌの奴はまだ力を隠している。今奴が見せた、貫く剣を止めた気魂の力、それ以上の力を、セラヌの奴はまだ見せてはいないのだ」
「それ以上の力?」
「そうだ。その力を使用した時、セラヌのオーラは紅から夕焼け色に変る。その力こそ、堕天使ルシフェルが弟セラヌリウスに与えし魔界の力」
「堕天使ルシフェル…」
「そうだ。シフェルが与えし力に対峙する事が出来るのは、聖なるソフィーの霊性を持つ王子アーテリーとその化身であるカレン嬢 、その二人しかおらぬのだ」
話を終えると、カーレルは床に空いた穴の中を覗き込む。
「カーレル様!?」
沙織が、カーレルの身を案 じ声を掛ける。
「無理はせぬ。レオナルドを連れて必ずここから抜け出してみせる」
カーレル財団第三十八代総統カーレル・B・サンダーは、沙織・ガブリエルに言葉を残すと、階下へと降りて行った。
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
「何を言うのも勝手だが… 死の国への道先案内は僕が
レオナルドの口から無意識に言葉が流れ出た。
「ふっ。レオナルドと言うのか!? 小憎らしいバッジョの化身。お前の
魔王セラヌは着ていた
(速い!!)
背広が脱ぎ捨てられた時には、既にその場にセラヌの姿は無い。
セラヌは一気にレオナルドに向かい
レオナルドのもとで
セラヌが放った右
「ええいっ」
素早く後退し、振り下ろされた一撃を回避した魔王セラヌは、辛うじてレオナルドの剣の軌道からは逃れた。しかし聖剣エクスカリバーの
魔王セラヌは二歩、三歩と後退しながら左手を背中に回し、隠していたもう一本の剣を抜き放つ。
地上では、ホテルに集まり来る警察車両や救急車両のサイレン音が鳴り響いていた。
「良いのか?
向き合ったレオナルドと魔王の間を
「ふっ。その
魔王セラヌはカーレルの申し出を
「王子アーテリーの化身はここには現れない。そうなのだろう!?」
セラヌは頬から流れ出る血液を
(手の内を読まれているのか?)
カーレルは心の中で呟く。しかし表情には
「
カーレルはそう答えた。
「ふっ。強がりを言う。どうやら
魔王セラヌの口元から、笑いが消え失せていた。
「王子の手を
若いレオナルドはセラヌの
「ほう、それが聖剣エクスカリバー。ふっ、凄い
魔王セラヌは
「ええい!」
レオナルドは正面に立つ魔王セラヌの
レオナルドの鋭い一撃を、左右の剣を交叉させ斜め上方へと受け流したセラヌは、突きの姿勢で上体が伸びた若者の脇腹に強烈なひと振りを返してくる。レオナルドの長剣を左腕一本で押し上げ、セラヌは素早く右腕を返して来たのだ。
レオナルドの脇腹で、風を斬る大きな音が鳴った。これには流石の騎士バッジョの化身も
(まともに食らえば、装甲スーツとてもたない!)
それは、からだを素早く回転させる事で、辛うじて魔王セラヌの一撃を外す事に成功したレオナルドの
レオナルドは二転三転と身体の回転を続け位置を移動し、更にその勢いをもってビルの柱を蹴りあげると、中空から一気に魔王セラヌの頭上に襲い掛る。
レオナルドの全体重と跳躍の高さを利用した強烈な一撃を、二本の中剣で受け止めたセラヌではあったが、若者のパワーに押され脚が数歩後退する。
「ボス!?」
主人の危機を
(
レオナルドの勝利を確信したカーレルが心の中で声を上げる。
セラヌの頭上に強力な一撃を打ち込んだレオナルドは、瞬時空間に剣を残したまま、
レオナルドは魔王セラヌの左胸を突き
(魔獣もろとも貫く!)
レオナルドの気迫に反応したエクスカリバーの刃が、更に眩しく光り輝く。
「決まりだ!!」
勝利を確信したレオナルドの声が、破壊されたペントハウスに
爆風がもたらす過圧の中で、その一瞬の出来事の総てをカーレルの瞳は鋭く捕えていた。向い来る凄まじい風圧に耐えた後、カーレルはジェームスの待つ
「魔王セラヌのボディガード、四体の魔獣は総て撃滅した。残る敵は魔王セラヌひとり。魔王は階下へと消えた。支援部隊は即座にペントハウスに倒れ込むジェームスを救助せよ!」
カーレル・B・サンダーが作戦本部に指示を与える。
「カーレル様。レオナルド様はどうされたのです?」
無線機からの音を
「ほら。僅かに聞こえるだろう。
「ええ。
沙織が返事をする。
「階下で… ですか?」
「ああ。バッジョの化身レオナルドも又凄まじい!」
カ-レルは溜息を吐き、再び話し始めた。
「レオナルドの総てを懸けた一撃を、瞬時に跳ね返した魔王セラヌの恐るべき
「沙織」
「はい」
「レオナルドは強い!!」
「はい」
「儂が思っていたよりも何倍もだ」
「はい」
「バッジョは死して、更に力を益して生まれ変わって来た!」
「はい」
「沙織。儂もこれから階下へと向かう!」
支援部隊がジェームスを運び去るのを確認したカーレルは、床に空いた穴に向かい歩き始める。
「総統。私達に協力出来る事はありませんか?」
沙織・ガブリエルがカ-レルに申し出る。
「上空にヘリが着いたら、階下の西の窓にまで
カーレルは沙織に退路の確保を依頼した。
「カ-レル様!? まさかそれでは、それ程迄に強いレオナルド様を
カーレル財団戦略司令室長官沙織・ガブリエルが驚き尋ねる。
「
「それでは何故?」
「セラヌの奴はまだ力を隠している。今奴が見せた、貫く剣を止めた気魂の力、それ以上の力を、セラヌの奴はまだ見せてはいないのだ」
「それ以上の力?」
「そうだ。その力を使用した時、セラヌのオーラは紅から夕焼け色に変る。その力こそ、堕天使ルシフェルが弟セラヌリウスに与えし魔界の力」
「堕天使ルシフェル…」
「そうだ。シフェルが与えし力に対峙する事が出来るのは、聖なるソフィーの霊性を持つ王子アーテリーとその化身であるカレン
話を終えると、カーレルは床に空いた穴の中を覗き込む。
「カーレル様!?」
沙織が、カーレルの身を
「無理はせぬ。レオナルドを連れて必ずここから抜け出してみせる」
カーレル財団第三十八代総統カーレル・B・サンダーは、沙織・ガブリエルに言葉を残すと、階下へと降りて行った。