第４１話 肉体改造 西暦２０２５年 Ｊｕｌｙ ７
文字数 1,826文字
アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア
Philadelphia, Pennsylvania, United States
カーレル・B・サンダー邸
Carrel B. Sander House
カーレル財団第三十八代総統であるカーレル・B・サンダーの屋敷、第三の広間の壁には、多数の剣、槍、弓、銃等の武器が所狭しと陳列 されている。それはまるで財団の富を象徴 する装飾品 の様に見受けられるが真実は異なる。幾つもの戦いの歴史を生き抜いて来た財団には私設の兵士団がいた。兵士達の武器庫も兼ねた部屋が、第三の広間なのである。新大陸に渡る前に造り上げられた実用的な建築が現在の屋敷内にも再現されていた。
階上部まで吹き抜けで、高さと広さを兼ね備えた部屋の円天井 からは、穏やかな外光が差し込み室内を明るく照らしていた。
部屋の中央で二人の剣士が剣を交えている。
見違える程に逞 しさを増したレオナルドの発声と共に、手合いの剣士が剣を飛ばされ、剣は天井に深々と突き刺さる。
「レオナルド。見事な太刀捌 きだ！」
試合の様子を見ていたカーレルが、手を叩きレオナルドを賞賛 する。
「いやあ、レオナルド様にはまったく脅 かされます。剣を握ってより僅 か二週間しか経たぬと言うのに、剣術指南 の私を遥かに凌駕 している」
カーレル財団私設兵士団剣術指南アルバート・ミラーはお手上げとばかりに、戯 けた仕草を見せる。
「アルバートよ。だから言っておろう。レオナルドはブリテン・ウエールズの覇王 、ゼルティ・R・ブリテン随一 の使い手、正義の銀騎士と呼ばれたバッジョ・K・サンダーの生まれ変わりなのだと。お前はまだ信じぬのか!?」
「親方様。元来頭の堅い私ではありますが、この度はその不思議なお話を信じる他に道がないようです。こんな経験をさせられれば、それも当然かと」
日頃より凛 として、背筋が真直ぐと伸びるアルバート・ミラーも、レオナルドの天才的な剣の舞いを目の辺 りにしては、最早 形無 しの風情 であった。
あの日、一度は戸惑 い帰宅したレオナルドではあったが、翌日には再びカーレル邸を訪れ、後は帰宅もせずにカーレルの屋敷に住み着いてしまったのである。
自らカーレルに肉体改造を願い出たレオナルドは、一日のほとんどの時間を財団のトレーニングジムや戦闘訓練施設で過ごし、基礎体力の向上と反射神経訓練に明け暮れた。スポーツ医学の大家や栄養学のスペシャリスト、更には細胞学や神経学を含む科学者の精鋭 を集めたプロジェクトチームαがレオナルドの肉体改造を手助けをする。
『若きレオナルドの肉体に、騎士バッジョのような逞 しさを植え付ける為に』
しかし本来プロジェクトチームαは、現代に転生して来るアーテリー王子の化身の為に組織されたものであった。王子の化身であるカレンの参加がない事が唯一、チームの心に影を落としていたのも事実ではある。
一日の過酷 な訓練を終え眠りに就くレオナルド。しかし就寝時にも彼の若い肉体に休みが与えられる事はなかった。精神医学の専門家による睡眠療法により深い眠りに誘導されたレオナルドは、過去の騎士であったバッジョの時代にまで深く意識を引き戻され、自らが行った騎士時代の戦闘行為を夢として見せられて行く。
バッジョが行った騎乗での戦い、肉弾戦や格闘、弓術、槍術、剣技等、過去の戦闘記憶が寝台の隣に置かれたスーパーコンピュターに記録されて行った。
先ず、記録の作業が三夜続けられたのである。
そして四日目からは、今度は逆に、スーパーコンピュータに記録されたバッジョの戦闘時の動作が電流に変換され、就寝中のレオナルドの肉体に流されて行った。夢の記憶に反応したレオナルドの脳と脊髄 （中枢神経）が、抹消 神経を通じ全身の筋肉繊維へと指令を送り始める。寝台の上に横たわるレオナルドの身体は小刻みに震え、全身のあらゆる筋肉が収縮と伸展を繰り返した。
この間、眠り続けるレオナルドには中心静脈への点滴が施され、十分な補液、ミネラル成分に電解質、クエン酸、ビタミン類、脂質、更には筋肉運動の燃焼に必要な糖質が、そして筋肉組織の生成や蛋白合成に必要なアミノ酸が精密に計算され補給されて行く。
日中の意識的な訓練と夜間の強制的な肉体への訓練。
十三日間続いたプロジェクトが終わった時、レオナルドの肉体改造は完成し、彼の運動能力は飛躍的 な変化を遂 げていた。
銀騎士バッジョのような精悍 な男がそこにいたのである。
Philadelphia, Pennsylvania, United States
カーレル・B・サンダー邸
Carrel B. Sander House
カーレル財団第三十八代総統であるカーレル・B・サンダーの屋敷、第三の広間の壁には、多数の剣、槍、弓、銃等の武器が所狭しと
階上部まで吹き抜けで、高さと広さを兼ね備えた部屋の
部屋の中央で二人の剣士が剣を交えている。
見違える程に
「レオナルド。見事な
試合の様子を見ていたカーレルが、手を叩きレオナルドを
「いやあ、レオナルド様にはまったく
カーレル財団私設兵士団剣術指南アルバート・ミラーはお手上げとばかりに、
「アルバートよ。だから言っておろう。レオナルドはブリテン・ウエールズの
「親方様。元来頭の堅い私ではありますが、この度はその不思議なお話を信じる他に道がないようです。こんな経験をさせられれば、それも当然かと」
日頃より
あの日、一度は
自らカーレルに肉体改造を願い出たレオナルドは、一日のほとんどの時間を財団のトレーニングジムや戦闘訓練施設で過ごし、基礎体力の向上と反射神経訓練に明け暮れた。スポーツ医学の大家や栄養学のスペシャリスト、更には細胞学や神経学を含む科学者の
『若きレオナルドの肉体に、騎士バッジョのような
しかし本来プロジェクトチームαは、現代に転生して来るアーテリー王子の化身の為に組織されたものであった。王子の化身であるカレンの参加がない事が唯一、チームの心に影を落としていたのも事実ではある。
一日の
バッジョが行った騎乗での戦い、肉弾戦や格闘、弓術、槍術、剣技等、過去の戦闘記憶が寝台の隣に置かれたスーパーコンピュターに記録されて行った。
先ず、記録の作業が三夜続けられたのである。
そして四日目からは、今度は逆に、スーパーコンピュータに記録されたバッジョの戦闘時の動作が電流に変換され、就寝中のレオナルドの肉体に流されて行った。夢の記憶に反応したレオナルドの脳と
この間、眠り続けるレオナルドには中心静脈への点滴が施され、十分な補液、ミネラル成分に電解質、クエン酸、ビタミン類、脂質、更には筋肉運動の燃焼に必要な糖質が、そして筋肉組織の生成や蛋白合成に必要なアミノ酸が精密に計算され補給されて行く。
日中の意識的な訓練と夜間の強制的な肉体への訓練。
十三日間続いたプロジェクトが終わった時、レオナルドの肉体改造は完成し、彼の運動能力は
銀騎士バッジョのような
