第33話 アンドロギュヌス 西暦2025年 July 7
文字数 4,530文字
アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア
Philadelphia, Pennsylvania, United States
カーレル・B・サンダー邸
Carrel B. Sander House
「レオナルド。聞いて欲しい」
カーレルは、冷静な口調でしっかりと話し始めた。
「儂は、ヒベルニアの大地で肉体の死を迎えた。いいや、あの時のバッジョやサラサラと別れてから何年も過ぎた後の話だ。ヒベルニアでの肉体を失い、儂の霊魂は死の門をくぐり抜けた。そして1400年を超える時を経て、20世紀のアメリカ合衆国に転生した。サンダー邸で過ごす幼少の時期を経て、自我 が芽生えた時、儂の中に総ての記憶が甦る。その日より魔王をセラヌを探したのだ。しかし目の覚めた世界の中でも、又、眠りの後の精神世界に於 いてさえも、儂はセラヌの姿を見つける事が出来なかった。儂は初め、セラヌの奴は未だこの世に転生していないのだと考えていた。常に共に生きて来た儂ら二人が、堕天使ルシフェルにより引き離されてしまった訳だが… それでも二人の霊魂は眠りの後に精神世界で繋がっていたのだから、そう考えるのが自然であろう!? その後も、何時になっても奴の表象 を見つける事が出来なかった儂が、しかしある日、はたと気付いた。紀元五世紀、儂はヒベルニアで生を終え死の門をくぐり抜けた。しかし奴は、セラヌの奴は、あの時代から死の門をくぐり抜ける事を止めたのではないか? そのような疑念が俄 に儂の心に沸き上る。そしてそれが確信へと変化して行った」
「とても信じられない? 何を言っているのです。人間が死なないで生き続けることなど… 出来るわけが無い。朽 ち果てる事のない肉体は存在しない!」
レオナルドが、カーレルの突拍子 もない想像に反論をする。
「スパイサー城に居た宰相セラヌが、現在の時代まで生き続けているだなんて!? それは貴方の妄想です!!」
レオナルドは断言する。
「バッジョよ。いや、レオナルド。貴殿なら解ろう。直感 の力を!?」
「直感!?」
「ああ、直感だ。お主は霊的な直感を身に付けたが故に、ヒベルニアの大地で、頭目グレンの脳天に上空から矢を突き立てる事が出来た。そうであろう!?」
「えっ!!」
レオナルドの口から言葉が漏れ出る。
「貴殿はあの時、頭目グレンが起こす次の動作、更にはその次に起こす動作が見えていたのだ。そして天のどの位置に矢を放てば、グレンの脳天を貫けるのか!? それを直感した」
カーレルは話し続ける。
「貴殿同様、儂にも直感の力は開示 されている。但し儂のは、貴殿とは幾分 違うものだがのう」
「直感…」
嘗 て騎士バッジョであった時代に、その力を手に入れたレオナルドにとって、直感の力は認めざるを得ない真実の力でもあった。
「魔王セラヌは、ブリテンで生きた紀元五世紀の時代より、死の門をくぐり抜ける事を止めた。それ故に、正しく死の門をくぐり抜けた儂との絆 が総て途絶えたのだ」
カーレルの言葉を前に、レオナルドは静かに息を吐く。
「何もこれは悪い事では無い。儂が奴の位置を確認出来ぬのは残念だが、奴にも儂の位置が解らぬのだから、それはこれで良い。これで儂も枕を高くして眠れると言う訳だ。しかし儂の直感は儂に伝える。奴は確かにこの時代に存在し、その時を待っている。手を悪に染め続けながら、堕天使や悪魔達を再び天に上げる機会を伺 っている。儂の直感は、儂にそれを告げるのだよ」
カーレルは真顔で話し続ける。
「貴方の直感は信じます。しかし人間の身体はもって百年をどうにか超える程度のもの。1500年を超える時間を、どのようにしたら生き続ける事が出来ると言うのです?」
「次々に自身の新しい肉体を造り出さなければ、それは叶うまい」
カーレル・B・サンダーは瞼 を細める。
「肉体を次々に造り出す!? 今のクローン技術を用いれば、或 はそれは可能かも知れない。魔王セラヌは、自身のクローンを次々と造り上げ、それに憑依 を繰り返したとでも言うのか? しかしそれは非現実的な発想です。それに1500年もの昔に、クローン技術などありはしない。セラヌがこの世界に存在すると言うカーレル、貴方の直感は認めますが『魔王セラヌが1500年にも渡る時間を生き続けている』 それには無理があるように思います。セラヌは再びこの世界に転生をした。しかし貴方との絆は途絶えた。そう考える方が妥当 ではありませんか!?」
ただ唯物的 に、近代科学を愛し生きて来たレオナルドである。それが今日、突然に転生の事実を突き付けられ、今、混乱した思考を必死に修正している所であった。それが今度は死なない人間を造り出す手法の推測をしているのである。レオナルドは、いつもより饒舌 になる自分を感じていた。
「儂はこんな話を聞いた事がある」
ゆっくりと、兄セラヌリウスであるカーレルが話し始めた。
「嘗ての昔、遥か太古の時代、人間は自身で新たなる己を産み落とし、自らの記憶を新しい生命に移り換えた」
「何を言っているのです?」
「儂はそんな話を聞いた事がある」
「自分一人のみの力で受精を済ませ。自身で赤子を産み落とし。その赤子に自分の記憶を移り換える。そう言うのですか?」
「ああ。今の人類は男と女が交わり、女が男の精を受けることにより受精し、女は新たなる生命を体内に宿す。女により産み落とされた新たなる生命が、男女二人の遺伝子を未来に伝えて行く事になるのだ。しかし太古の人間は、自身一人で新たな生命を体内に宿し、自分の遺伝子を、更にはその記憶の総てをも保ったままの状態で新たな肉体を産み落とした。そのような話を聞いた事がある」
「なんとも信じがたいお話しですが、その方法を用いれば死後霊魂を天に帰す必要はなく、自分の霊魂を新しい生命に宿す事が可能となる。そう言うのですか!?」
「そうだ。我等現在の人間が行う生殖 では、鎹 となった男女の霊魂は新しく生まれた生命の中には入れぬ。新しい肉体には別の霊魂が天から降ろされて来るように定められている。肉体を失った霊魂は死の門をくぐり抜け、更に1000年を超える時間を経て、再び新たな肉体に受肉 するのだ。しかし太古の時代、人間は自分の霊魂を、自分一人の肉体で造り出した新たな生命に移し換え、自身の経験や記憶を未来へと繋いでいた。そう聞いた事があるのだ」
「それをセラヌが行っていると言うのですか!?」
「ああ、儂にはとても真似は出来ぬ。唯、奴は儂とは、やはり違った。君はあの時、儂らがガリアで生きた時代に出会ったルシフェルが言った言葉を覚えているだろうか?」
カーレルは嘗て自身が若い兄セラヌリウスで在った時代、ローマとの戦で片腕を失った暗黒時代の事を思い出していた。
「ほら、君が可憐 な少女パトリシアであった時代の、あの夜の出来事のことだよ」
カーレルはレオナルドに尋ねる。
「ヴェルキンゲトリクスがローマ軍に敗れ、我等は親ローマ派長老の息子や、大勢の凶暴な男達に追われた。土砂降りの雨の中、必死で森に逃げ込んだ夜の事を、君は覚えているだろうか?」
「堕天使ルシフェルに会った… ?」
「そうだ。思い出しただろう。あの時、ルシフェルは弟を引き止めようとする私にこう話した…『ああ、君は良いのだ。君は既に完全さを失っている』」
「ええ、確かに聞きました。片腕を無くした貴方に、なんて惨 い言いようかと。幼い私の心は痛みました」
「やはりそう受け取ったか!? しかしルシフェルは小さな声でこう綴 った。『失った腕の事を言っているのではない。私が欲するのは、太古の人間が有していた完全なhermaphrodite』」
「hermaphrodite。何のことです?」
「ルシフェルが言った『完全さを失っている』と言う言葉の意味は、私が片腕を失ってしまったと言う事では無く。もっと深い所に、真の理由があったのだよ」
「深い理由があった?」
「そうだ。弟セラヌリウスには残され、私には失われたもの。繰り返す転生の中で儂が何時しか無くしていた肉体の能力」
「肉体の能力。貴方は何の事を言っているのです?」
レオナルドは、非現実的な世界に取り込まれ行く自分を感じた。
そしてカーレルは重大な秘密を明かす。
「弟セラヌリウスは、アンドロギュヌス (両性具有性 )であった」
「アンドロギュヌス!?」
「左様、奴は完璧なる両性具有者であった」
「なんと…」
レオナルドは絶句する。
「コツコツ」と、ドアがノックされる。
「旦那様。レオナルド様をお送りする車の準備が整いました」
次席執事のトムが書斎に入って来る。
「レオナルド。もう少し屋敷に残り話をしないか!?」
カーレルはレオナルドを引き止める。
「アンドロギュヌスなどと。いいえ今日はもう充分にたくさんの事がありました。少し頭の整理をしたいのです」
レオナルドは混乱した思考で、あいまいな挨拶を済ませるとカーレルの書斎を出て行った。
「ああっ、待ってくれ。せめてカレンに、君が遺した予言書を、見せてはくれないだろうか!?」
カーレルは屋敷を足早 に立ち去ろうとするレオナルドに追い縋 るように、一冊の書籍を手渡そうとする。
「カーレル。待ってほしい。僕でさえこの頭を整理するのには、まだたくさんの時間が必要なんだ。それに…」
レオナルドは用意された高級車の、後部座席のドアに手を掛けている。
「カレンを危険な事には巻き込みたくないんだ!」
そう言って車に乗り込むと、レオナルドは後部座席のドアを閉めてしまった。
屋敷の玄関に一人残されたカーレルはただ呆然 と、走り去る車の後ろ姿を見詰めるしかなかった。手には渡せなかった初代バッジョの自伝書が握られていた。カレンの許に届け、少しでも早く読んでもらいたかった無念さが、痩せたカーレルの背中に滲 んでいた。
「カーレル様。カーレル様」
次席執事のトムが小走りに屋敷の玄関に駆け込んで来る。
「何事か、騒々しい」
カーレルは不機嫌な口調で尋ねる。
「それが今、大学付属病院より電話がありまして。なんと筆頭執事のジェームスが病室を勝手に抜け出し行方不明との連絡です」
「何っ。ジェームスなら、頭の精査の後、スヤスヤと寝息をたて個室で寝ていると連絡があったばかりではないか!?」
「はあ、そうなのですが…」
「はっ。ジェームスの奴、空腹に耐えかねて売店にパンでも買いに行ったか?」
「いいえ。それが、病室のベットには寝間着がきちんと畳み置かれていたようです。つまりジェームス様は、洋服に着替えた後に自分の意思で病室を出て行かれたようなのです」
「それではこちらに向かっているのではないのか?」
「そうだと好いのですが…」
次席執事のトムはカーレルの前で口籠 る。
「財団の車を使っていないのだな!?」
「はい。これはまだ不確かな情報なのですが、ジェームス様に好く似た人物が、病院前のバス停からバスに乗るのを見たと言う者がいるそうです」
「むうーっ」
カーレルは黙り込んでしまった。
「いずれにしても、財団の職員が捜索を開始しています。見つかるのも時間の問題かと思うのですが…」
次席執事のトムはそう話した。
「ジェームス」
カーレルは何かの異変を感じていた。
Philadelphia, Pennsylvania, United States
カーレル・B・サンダー邸
Carrel B. Sander House
「レオナルド。聞いて欲しい」
カーレルは、冷静な口調でしっかりと話し始めた。
「儂は、ヒベルニアの大地で肉体の死を迎えた。いいや、あの時のバッジョやサラサラと別れてから何年も過ぎた後の話だ。ヒベルニアでの肉体を失い、儂の霊魂は死の門をくぐり抜けた。そして1400年を超える時を経て、20世紀のアメリカ合衆国に転生した。サンダー邸で過ごす幼少の時期を経て、
「とても信じられない? 何を言っているのです。人間が死なないで生き続けることなど… 出来るわけが無い。
レオナルドが、カーレルの
「スパイサー城に居た宰相セラヌが、現在の時代まで生き続けているだなんて!? それは貴方の妄想です!!」
レオナルドは断言する。
「バッジョよ。いや、レオナルド。貴殿なら解ろう。
「直感!?」
「ああ、直感だ。お主は霊的な直感を身に付けたが故に、ヒベルニアの大地で、頭目グレンの脳天に上空から矢を突き立てる事が出来た。そうであろう!?」
「えっ!!」
レオナルドの口から言葉が漏れ出る。
「貴殿はあの時、頭目グレンが起こす次の動作、更にはその次に起こす動作が見えていたのだ。そして天のどの位置に矢を放てば、グレンの脳天を貫けるのか!? それを直感した」
カーレルは話し続ける。
「貴殿同様、儂にも直感の力は
「直感…」
「魔王セラヌは、ブリテンで生きた紀元五世紀の時代より、死の門をくぐり抜ける事を止めた。それ故に、正しく死の門をくぐり抜けた儂との
カーレルの言葉を前に、レオナルドは静かに息を吐く。
「何もこれは悪い事では無い。儂が奴の位置を確認出来ぬのは残念だが、奴にも儂の位置が解らぬのだから、それはこれで良い。これで儂も枕を高くして眠れると言う訳だ。しかし儂の直感は儂に伝える。奴は確かにこの時代に存在し、その時を待っている。手を悪に染め続けながら、堕天使や悪魔達を再び天に上げる機会を
カーレルは真顔で話し続ける。
「貴方の直感は信じます。しかし人間の身体はもって百年をどうにか超える程度のもの。1500年を超える時間を、どのようにしたら生き続ける事が出来ると言うのです?」
「次々に自身の新しい肉体を造り出さなければ、それは叶うまい」
カーレル・B・サンダーは
「肉体を次々に造り出す!? 今のクローン技術を用いれば、
ただ
「儂はこんな話を聞いた事がある」
ゆっくりと、兄セラヌリウスであるカーレルが話し始めた。
「嘗ての昔、遥か太古の時代、人間は自身で新たなる己を産み落とし、自らの記憶を新しい生命に移り換えた」
「何を言っているのです?」
「儂はそんな話を聞いた事がある」
「自分一人のみの力で受精を済ませ。自身で赤子を産み落とし。その赤子に自分の記憶を移り換える。そう言うのですか?」
「ああ。今の人類は男と女が交わり、女が男の精を受けることにより受精し、女は新たなる生命を体内に宿す。女により産み落とされた新たなる生命が、男女二人の遺伝子を未来に伝えて行く事になるのだ。しかし太古の人間は、自身一人で新たな生命を体内に宿し、自分の遺伝子を、更にはその記憶の総てをも保ったままの状態で新たな肉体を産み落とした。そのような話を聞いた事がある」
「なんとも信じがたいお話しですが、その方法を用いれば死後霊魂を天に帰す必要はなく、自分の霊魂を新しい生命に宿す事が可能となる。そう言うのですか!?」
「そうだ。我等現在の人間が行う
「それをセラヌが行っていると言うのですか!?」
「ああ、儂にはとても真似は出来ぬ。唯、奴は儂とは、やはり違った。君はあの時、儂らがガリアで生きた時代に出会ったルシフェルが言った言葉を覚えているだろうか?」
カーレルは嘗て自身が若い兄セラヌリウスで在った時代、ローマとの戦で片腕を失った暗黒時代の事を思い出していた。
「ほら、君が
カーレルはレオナルドに尋ねる。
「ヴェルキンゲトリクスがローマ軍に敗れ、我等は親ローマ派長老の息子や、大勢の凶暴な男達に追われた。土砂降りの雨の中、必死で森に逃げ込んだ夜の事を、君は覚えているだろうか?」
「堕天使ルシフェルに会った… ?」
「そうだ。思い出しただろう。あの時、ルシフェルは弟を引き止めようとする私にこう話した…『ああ、君は良いのだ。君は既に完全さを失っている』」
「ええ、確かに聞きました。片腕を無くした貴方に、なんて
「やはりそう受け取ったか!? しかしルシフェルは小さな声でこう
「hermaphrodite。何のことです?」
「ルシフェルが言った『完全さを失っている』と言う言葉の意味は、私が片腕を失ってしまったと言う事では無く。もっと深い所に、真の理由があったのだよ」
「深い理由があった?」
「そうだ。弟セラヌリウスには残され、私には失われたもの。繰り返す転生の中で儂が何時しか無くしていた肉体の能力」
「肉体の能力。貴方は何の事を言っているのです?」
レオナルドは、非現実的な世界に取り込まれ行く自分を感じた。
そしてカーレルは重大な秘密を明かす。
「弟セラヌリウスは、
「アンドロギュヌス!?」
「左様、奴は完璧なる両性具有者であった」
「なんと…」
レオナルドは絶句する。
「コツコツ」と、ドアがノックされる。
「旦那様。レオナルド様をお送りする車の準備が整いました」
次席執事のトムが書斎に入って来る。
「レオナルド。もう少し屋敷に残り話をしないか!?」
カーレルはレオナルドを引き止める。
「アンドロギュヌスなどと。いいえ今日はもう充分にたくさんの事がありました。少し頭の整理をしたいのです」
レオナルドは混乱した思考で、あいまいな挨拶を済ませるとカーレルの書斎を出て行った。
「ああっ、待ってくれ。せめてカレンに、君が遺した予言書を、見せてはくれないだろうか!?」
カーレルは屋敷を
「カーレル。待ってほしい。僕でさえこの頭を整理するのには、まだたくさんの時間が必要なんだ。それに…」
レオナルドは用意された高級車の、後部座席のドアに手を掛けている。
「カレンを危険な事には巻き込みたくないんだ!」
そう言って車に乗り込むと、レオナルドは後部座席のドアを閉めてしまった。
屋敷の玄関に一人残されたカーレルはただ
「カーレル様。カーレル様」
次席執事のトムが小走りに屋敷の玄関に駆け込んで来る。
「何事か、騒々しい」
カーレルは不機嫌な口調で尋ねる。
「それが今、大学付属病院より電話がありまして。なんと筆頭執事のジェームスが病室を勝手に抜け出し行方不明との連絡です」
「何っ。ジェームスなら、頭の精査の後、スヤスヤと寝息をたて個室で寝ていると連絡があったばかりではないか!?」
「はあ、そうなのですが…」
「はっ。ジェームスの奴、空腹に耐えかねて売店にパンでも買いに行ったか?」
「いいえ。それが、病室のベットには寝間着がきちんと畳み置かれていたようです。つまりジェームス様は、洋服に着替えた後に自分の意思で病室を出て行かれたようなのです」
「それではこちらに向かっているのではないのか?」
「そうだと好いのですが…」
次席執事のトムはカーレルの前で
「財団の車を使っていないのだな!?」
「はい。これはまだ不確かな情報なのですが、ジェームス様に好く似た人物が、病院前のバス停からバスに乗るのを見たと言う者がいるそうです」
「むうーっ」
カーレルは黙り込んでしまった。
「いずれにしても、財団の職員が捜索を開始しています。見つかるのも時間の問題かと思うのですが…」
次席執事のトムはそう話した。
「ジェームス」
カーレルは何かの異変を感じていた。