第40話 異変 西暦2025年July

文字数 2,117文字

 ニューヨーク マンハッタン 5番街
 New York Manhattan Fifth Avenue
 セントラルスターホテル 
 Central Star Hotel

オーナー(owner)に、お電話です」
 ペントハウス専用のスマートフォンを手に携えたフロアの支配人が、ホテルのオーナーであるセラヌに近づいて来る。スマートフォンはボディガードの手からセラヌに差し出された。

「ああ、大婆様。今こちらに着いた所です」
 魔王セラヌは機嫌(きげん)よく話し始める。

「マギーが私に逢いたがっていたですって。ふふっ、それは良く(した)われたものです。ええ、それで。はい。そうですか解りました。それでは計画通りに、次の準備に移って下さい。ああそれと、至急カーレル財団の事を調べて下さい。主宰(しゅさい)はカーレル・B・サンダー。ジェームス・モートンと言う執事がいるかどうかも。ええ、よろしく」

 セラヌはスマートフォンをボディガードに戻し、応接ソファーに座る女達の総てに退席を(うなが)す。総ての接客スタッフが立ち去ると、セラヌと彼を守る四人のボディーガード、そしてソファーに座らされたジェームス・モートンのみが、その場に残される。

 緊張するジェームスの前で、魔王セラヌと四人のボディガードは大型液晶テレビの画面を静かに見詰めていた。

「大婆様に聞いた。宇宙開発事業団に参加しているルナ(Lūna)からの情報が届いたとな。スペースシャトル・ルシフェルにより月に運ばれた、月面基地建設に携わる総ての宇宙建設士が、原因不明の熱病を発症(はっしょう)した」

「発症?」
 ジェームス・モートンが思わず口を開いた。

「ふうっ、これも何かの縁だ。ジェームス・モートン君。冥土(めいど)土産(みやげ)に君にもお見せしよう。まあ、ゆっくりとしてくれたまえ」
 セラヌはグラスに注がれたシャンパンを口に運んだ。

「あと僅かな時間の後、世界中のテレビ局から、ある一つの重大なニュースが次々と報道されるであろう。それはまるでショーのように、絶え間なく放送(なが)され続ける」
 画面にはGCNNテレビ局のニースが放送されていた。

 再びスマートフォンの着信音が室内に響き渡る。応答したボディーガードが、セラヌにスマホを手渡す。

「大婆様。そうですか。ジェームス・モートン。カーレル財団の筆頭執事。現在失踪中(しっそうちゅう)。解かりました。カーレル財団については、更に詳しく調査をして下さい。総帥(そうすい)サンダーの屋敷は、位置が解り次第、巡行ミサイルを打ち込み消滅。ええそうです。海軍のケリ-大佐を使って、イージス艦からミサイルを発射させてください。はい。確実に仕留(しと)める。その後の処置は大婆様にお任(おまか)せします。はははっ。大丈夫ですよ。それではよろしく」

(やはり総ての情報が読み取られたのだ。何と言う事か。それに、お屋敷にミサイルを打ち込むだなんて。悪魔か!? 我等の常識を遥かに超えている)
 ジェームスは目眩(めまい)と吐き気を必死に(こら)える。

「ジェームス君。これから楽しいショーが始まると言うのに、顔色が悪いよ。ふっふっ。ふっふっふっふっ」
 セラヌは嬉しそうに笑い始める。

「しかし総ての謎も解けた。遠い昔、ヒベルニア島で兄セラヌリウスとバッジョが何を企んだのか。君のお陰で総てが解った。まさか単細胞のバッジョが、このような壮大(そうだい)な事業を成し遂げていたとは… 驚いたよ。カーレル財団、確かに世界有数の企業体ではある。目障(めざわ)りな存在ではあったが、我が傘下(さんか)企業との摩擦(まさつ)もなく、現在迄、仕掛(しか)ける事はなかった。しかし、それも今日で終わりだ」
 セラヌは嬉しそうに話し続ける。

「ジェームス君。総て君のお陰だ。君のお陰で我等には先手を打つ事が許された。君には感謝している」

 話し続ける目の前の男に、ジェームスは言葉も返せないでいる。

「しかし何ともしつこい。奴等が(そろ)って現代に転生し、我が野望を阻止しようと(いど)んで来ようとは。だがもう総ての準備は整っているのだ。誰にも邪魔はさせぬさ」
 ボディガードが、空になった魔王セラヌのフルートグラスにシャンパンを注ぎ入れた。

「セラヌ様。ニュース速報です」
 セラヌの座るソファーの左隣に立つボディガードが、テレビ画面に出されたテロップを見て知らせる。

「セラヌ!? やはりお前が魔王セラヌか!!
 ボディガードの失言で、男の名前を知ったジェームスが、勇気を振り絞り大きな声を上げた。

「ふっふっ。君は大した男だよ。最短距離で私を探索したのだからね。だが肝心な時になると、おっちょこちょいの自分が顔を覗かせる。そうだろう? ジェームス君」
 セラヌはテレビ画面を見詰めながら答える。

「君があの時、バスの中で気絶せずにいてくれたら、現代に転生したアーテリーの姿までをも掴めていた。それはとても残念だったよ。なんせ君は気絶する刹那に、(わず)かアーテリーの靴先しか見ていないのだからね」

 (王子のお姿を見ずに気絶したことは、私の小さな幸運となった。だが、財団本部にミサイルが撃ち込まれる前に、何とか手を打たねば…)
 ジェームス・モートンは、(おのれ)の勝手な行動から(まね)いた、財団本部の危機を(うれ)いていた。

 テレビ画面ではGCNN局のニュースキャスターが、緊迫(きんぱく)した様子で、月面基地建設に携わる宇宙建設士の病状を伝えるニュース速報を読み上げていた。
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登場人物紹介

Sophie(ソフィー) 

堕天使ルシフェルと対峙する程の、ピュア(pure)なパワーを持つ少女。




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