第46話 悪魔の計略 西暦2025年July

文字数 7,209文字

 ニューヨーク マンハッタン 5番街
 New York Manhattan Fifth Avenue
 セントラルスターホテル 
 Central Star Hotel 

『速報が入りました。大きなニュースです。今月七日、スペースシップ・ルシフェルにより月面に運ばれた宇宙建設士の総てが、何らかの感染症に罹患(りかん)した模様(もよう)です』

「なんと言う事か!?
 ジェームス・モートンはテレビを見詰めたまま絶句する。

罹患(りかん)した宇宙建設士は皆、突然の高熱と意識障害で発症。月面では、完成したエリアに罹患した人々が集められ、補液(ほえき)や解熱薬の投与などの対症療法(たいしょうりょうほう)を中心とした治療が行われている模様(もよう)です』
 ニュースキャスターの話す声が、魔王セラヌの所有するペントハウスに鳴り響いていた。

『血液検査からは、何らかのウイルス感染が集団発生した可能性を疑われていますが、月面に持参した簡易迅速ウイルス検査の結果は、インフルエンザウイルス他、いずれのウイルスにも陽性の反応は検出されず。現在の所、発熱の原因は判っておりません』

「ふふっ。これはインフルエンザウイルス感染症など既存(きぞん)のウイルス感染症ではない。我らが遺伝子操作を加え合成した新種のウイルス感染症だ」
 ニュース速報を楽し気に見詰めるセラヌが、向かいの席に座るジェームスに聞かせるように呟く。

「何、遺伝子操作を加えた新種のウイルス感染症。それをお前達が月面の基地建設現場に持ち込んだと言うのか!?
 ジェームスが眼光鋭く、セラヌに喰って掛る。

「シャーッ!」
 背後に立つセラヌのボディーガードが一人、大きな口を開き、ジェームスの首筋に鋭い牙をあてた。

 静かに振り向くジェームスの目の前には、口ばかりが異様に大きい悪魔の顔がある。ジェームスの脇から冷たい汗が流れ落ちた。

「良いのだアルベリ。彼はカーレル家の筆頭執事だ。多少の無礼は許そう。これもまた我らには楽しい時間でもある」
 セラヌは愉快(ゆかい)げに笑った。

「ジェームス君。君の質問に答えよう。答えはイエスだ。君の言うように確かに、我らが月面に向かう輸送船にウイルスを持ち込んだ。月面で働く総ての人間を眠らせる為にね」

「何故だ。何故そんな事をする?」
 ジェームスは恐怖に耐えながら尋ねる。

「聞きたいのか?」
 セラヌは指輪を()めた指先を動かしながらジェームスに尋ね返す。

「ああ。聞きたいとも」
 首筋からも冷や汗が流れた。それでもジェームスは必死に答える。

「冥土の土産に教える事になるのだが、お前はそれでも聞きたいのかな?」
 魔王セラヌは冷たい微笑みを浮かべている。

「すうーっ!」
 ジェームスの直ぐ後ろに控える悪魔アルべリが、旨そうにジェームスの恐怖を味わい、吸い込んだ。

「止めておくか?」
 セラヌはジェームスの精神とのやり取りを楽しんでいた。

「この先を聴くのは止めて、記憶を消されて家に帰るのだ。破壊されたサンダー邸にな。ふっ、ふふふっ。それがいい」
 セラヌは下を向き肩を小さく(すぼ)めるジェームスの姿を嘲笑(あざわら)った。

(悪を恐れ、悪に合わせてはいけない。魔王の企みを突き止め、その情報を財団に伝える努力をするのだ。最後まで(あきら)めるな。命乞いをしに来たのではない。命の保証など、悪魔に求めてどうするのだ…)
 ジェームスは自らの死を意識する。

 それでもジェームスは勇気を振り絞る事を選択した。

(悪を恐れなどはしない)
 顔を上げ、真直ぐに魔王の瞳を見詰める。

「教えてもらおう!」
 ジェームスはそう応えた。

「ふっ。生意気な」
 魔王セラヌは、勇気を(ふる)い起こしたジェームスの心を嫌った。

「まあ良い。人間の気持ちなど()ぐに変わるものだ。今の勇気が何時まで続くのか。私の話を聞いた後に、お前はアルベリにそれを(ため)される事になる。アルべリは充分にお前を可愛がり、お前が持つ(とうと)い心を変えてくれる事であろう」

 ジェームスは悪魔アルべリを一睨(ひとにら)みすると、姿勢を正し魔王セラヌに立ち向かう。

「さあ、話の続きだ。何故お前らは月面基地に新種のウイルスを持ち込んだ。教えてくれる約束だ。悪魔は契約を守る。それを私は知っているぞ!」

「何を生意気な」
 セラヌが、しらけた声を上げる。

「今この場でセラヌ、貴様が約束したのだ。私が冥土に行かされるのと交換に、私の疑問に答えると」

 セラヌは端正(たんせい)な鼻筋に(しわ)を寄せジェームスを睨みつける。

「契約の証人もいる。証人は、お前の4人のボディガード達だ!」
 ジェームスがセラヌの周囲を見渡す。

「聞かせたとて、誰かにそれを知らせる事は出来ぬというのに、愚かな事だ。ふっ、いいだろう。契約は結ばれたようだ」
 セラヌはジェームスの目の前で、良く冷えたシャンパンを旨そうに飲み干した。

「ジェームス君。あの世で誰かに話すがよい。我らが何を望み、何を起こしたのかを。それを君が、君の雀のような小さな眼で見届ける迄、君は与えられた恐怖の中で死ぬ事が出来ない」
 ()やりとした圧力を前に、ジェームスはごくりと(つば)を飲み込む。

「月面で起こった大惨事(だいさんじ)を受け、国民に()き立てられた連邦政府は、月までの救援チームの派遣を大統領に決断させるであろう。宇宙飛行技術と感染症専門の医療技術を同時に有する者の集団。そのようなスペシャリストチームは、世界中を探しても何処(どこ)にも見つからない。この(くわだ)てを(おこ)した我ら以外にはな」

「何?」

「我らには宇宙飛行が可能な感染症専門の医療チームが既に存在する。要請(ようせい)があれば何時でも出掛けられる。そのように周到(しゅうとう)な準備は既に終えられているのだ」

「宇宙への進出と言う人類の崇高(すうこう)な夢や挑戦の前に、お前らのような卑劣(ひれつ)(やから)が横やりを入れるとは」
 ジェームスはセラヌに悪態(あくたい)()く。

「ふっ。宇宙に進出出来る知恵を人間に与えし我らの前で、よくもぬけぬけと」
 魔王セラヌは鼻で笑った。

「ふん。幾ら急いで救援が必要だとしても、大統領が、お前ら悪の輩にそのような大事を要請するものか」
 ジェームスも負けじと鼻を鳴らす。

「君は我らがどのような輩と言うのか? 少なくとも表面的には、君らカーレル財団とそう違いはあるまい。我らの傘下企業の方こそ、君たちの企業体より、より大きな、そして科学技術の進んだ企業体である事を知れ。ペンタゴンの要請で軍需(ぐんじゅ)産業を発展させて来たのも我が一族の傘下。政府の方こそ我らとは深く繋がっているのだ。ブロンズシェリー、L&L社、グローバルカンパニー、ボレシー、ライズゴールドムーン社、カター銀行、ジョルジョリ証券、ガリッチー石油、ジミビューウラン鉱山、ストロベリーコンピュータ社、ウオーター医化学研究所。どうだ我ら傘下企業の名前を少し述べただけだが、君もその総ての名前を聞いた事が在るだろう。我らの企業体は、地球の歴史と共に歩み、大衆に認知されて来た集団なのだ」

「何だと。我らの生活の直ぐ近くに、悪魔の興した危険な企業が多数存在すると言うのに、世界の人々はそれを知らない」
 ジェームスはこの事実を世界中の人間に知らせたかった。

 魔王セラヌは更に話し続ける。

「我ら魔族が集団で月に昇る手段。この目的の為に、我らは愚かな原人であった人間に科学を与えて来た。先ずは我等13の魔徒が始めに月に降り立つ」

「始めに?」

「そうだ。我ら13の魔徒が、総ての魔族の、月への路先(みちさき)案内人となるのさ」

「それでは、その後も沢山の悪魔が月に進出すると言うのか?」

「当然だ。月は我ら魔族が再び宇宙に飛び出す為の前線基地となるのだからな」

「宇宙進出への前線基地?」

「ジェームス君。正しくは、我ら魔族の大宇宙への解放。ふっ、その方がより正しい。我らは精神エネルギー存在として宇宙を羽搏(はばた)くのではなく、肉体を持った精神エネルギー体として無限の宇宙に解放される…」
 セラヌはそう言って笑った。

「神の軍勢により地上に突き落とされ、大地に(しば)り付けられたお前ら悪魔が、実体を伴い、その上で地球を離れ再び大宇宙に拡散(かくさん)する。そう言う事か!?

「ジェームス君。神の軍勢により地上に突き落とされたなどと、言い辛い事をぬけぬけと好く言う。確かに悪魔は、天と地に()いて行われた大いなる戦いに敗れた。その結果、悪魔は地上に縛られて生きる事を余儀無(よぎな)くされた。しかしその事が、思わぬ形で悪魔に大きな果実を(もたら)す。神や天使より、より人間に近い距離に居た悪魔は、物質の生活に慣れ親しんで行く。つまり人間同様、実体のある世界に適応して行ったのだ。我等魔族と人間は科学を生み出し、進歩した科学は生物の複製など、いとも簡単に行える領域に達した。クローン技術。遺伝子操作技術。三次元世界を認識し自由に操作が出来る器。それが五感を持つ人間のクローン、悪魔に与えられた大いなる果実だ。我等魔族は、神や天使の介入が出来ない悪魔だけの自由な肉体を手に入れたのだ」
 セラヌは若さに溢れた自らの肉体を誇示するかのように、大きく胸を張った。

「神や天使の介入がない自由な肉体とはどのような事か? 仕組みを詳しく教えろ」
 ジェームスは目の前に座る魔王に尋ねる。

「ふっ。流石の私にも、君にも理解が出来るような幼稚な言葉使いは難しい」

「いいから答えよ。これは契約だ!」
 何時しかジェームスは、魔王と交した契約の支配者となっていた。

「いい身分だ。それも、契約した話しが終わるまでのほんの僅かな時間でしか無いと言うのに。愚かにもこれが自分の力だと、ジェームス、誤解はしない事だ。まあ良い。話してやろう」
 セラヌは(しもべ)に命じて、空になったグラスに冷えたシャンパンを注がせた。

「嘗て、天と地の戦いの後で、悪魔と天使の軍勢はある契約を結んだ。悪魔は無条件に降伏したのでも、天使の軍勢に従順(じゅうじゅん)服従(ふくじゅう)をしたのでもない。あの戦いに於いては天使の軍勢とて多くの血を流し、既に悪魔同様、これ以上戦いを続ける事は困難となっていたのだ。天使達は戦況が有利なうちに悪魔に停戦協定を結ばせた。それ以後、悪魔は地に()い、天使は天空を支配した。しかし悪魔と天使の軍勢は、その後も休む事なく人間の内面や森羅万象(しんらばんしょう)を舞台に静かな戦いを続けて来た。人間の心に(ささや)き、人間を地に引き止めようとする悪魔。天使らは軽々しく崇高な精神を人間に見せ与え、人間を大地より引き離し天上に上げようと努力をする。つまらぬいたちごっこの繰り返しだ。つまり人間とは、常に天使と悪魔との間を揺れ動く存在なのだ。しかし我らが進めて来た科学の発展が、そのせめぎ合いに終止符(しゅうしふ)を打つ。悪魔だけの自由な肉体を手に入れた我等にとって、最早人間のだらしのない精神や魂など、その全てが不要だ。人間の肉体とてもういらぬ。クローンに必要な細胞は充分に保存してあるのだ。既に人間は、我らの労働力にしかならぬ存在なのだよ。しかし天使のみが、まだ人間を必要とする。天使のみが人間を媒介(ばいかい)にし、実体のある世界を治めようとする。悪魔と天使、どちらがこの物質世界の勝者か?」
 魔王セラヌはシャンパンの入れられたグラスを唇に運ぶ。しかしそれを飲み干す事も無く、ジェームスの前にグラスを(かざ)した。

「ジェームス君、乾杯だ。物質の世界を(おさ)めし我ら魔族に。既に必要の無くなった天界や霊界に。乾杯!!

「何でも物は言い様だ。お前ら魔族は、科学の名の下に人間の肉体を(かす)めたこそ泥でしかないくせに、(あき)れ果てた物言いだ!」
 ジェームスは目の前のテーブルを両手で大きく叩いた。

「ふっ。正しくは無いが、少しは道理を理解したようだ」
 セラヌは不機嫌に応えた。

 「今後は物質世界に精通した魔族が、悪魔の肉体を用い未来永劫(みらいえいごう)に宇宙を支配するのだ!」

世迷(よまよ)い事だ。お前らの計画は絵に描いた餅でしかない!」
 ジェームスはセラヌを罵倒(ばとう)する。

「今のは日本の(ことわざ)。ジェームス君は面白い御仁(ごじん)だ。しかしこれは既に実現した事なのだよ」

「冗談も休み休みに言う事だ。お前ら魔族が13人、月に出掛けた所で、この世界の何が変わると言うのか!?
 ジェームスがセラヌに向かい更に失礼な言動を放った瞬間、右の位置に立つセラヌのボディガード悪魔バタイサが、4本のナイフをジェームス目掛けて投げ放つ。しかしジェームスがそれに気付いた時には、バタイサから放たれた全てのナイフが、ジェームスの前で停止し宙に浮かんでいた。

「バタイサ。我に忠誠を誓うと言う事は、このような事をせよと言う意味では無いのだよ」
 短気な性質のバタイサを(いさ)めるセラヌの言葉と共に、宙に浮いていたナイフが4本、音を立ててテーブルの上に落ちて行った。

 (こうべ)を垂れ反省の意を示すバタイサの横顔をアルべリが睨み付ける。

「ジェームス君。下僕(げぼく)がとった失礼な振る舞いを謝罪する。安心したまえ、契約が完了する迄の間、君の命は私が保証する」
 ジェームスは快と不快の領域を超えてここに存在していた。既に命を投げ出す覚悟は出来ていたのである。それ(ゆえ)落ち着いた声でこう話した。

「魔王セラヌ。それも契約だ!」

「ふっ。カーレル財団筆頭執事ジェームス・モートン。只の鼠ではない訳だ」
 セラヌは苦笑する。

「もう少し君の疑問に付き合おう。月に昇るのは我ら13の魔徒。全ては輸送船の搭乗席には座れない。半分以上は貨物室送りとなるだろうがその用意もしている。我らが月に旅立つのと前後して、地球上の様々(さまざま)な地域から月に向けて貨物ロケットが発射される。中国、日本、フランス、ドイツ、ロシア、イギリス、スペイン、そして我らの傘下企業もアメリカからロケットを打ち上げる。その貨物ロケットで月に何を運ぶか、君は本当に聞きたいのか? 聞いたとて誰にも伝えられぬ話を、本当に聞きたいのか?」

「教えてもらおう」

「ふっ。それでは聞きたまえ。例えば重力が地球の約六分の一である月面に、巨大な投石器を持ち込んで、地球に向け岩石を打放てばどうなるか?」

「それは大変な事態だが、岩石のほとんどは大気圏の摩擦にて消失するだろう」

「その通りだ。それでは耐熱シールドを装着した岩石ならどうか?」

「耐熱シールド!?

「ふっふっ。岩石などと幼稚な話はよそう。我らは耐熱シールドに守られた小型核ミサイルでさえ、月面より地球に打ち込む事が出来る。当然着弾点は精密に定められ誤差は僅か数メートル。例えば自由の女神、パリの凱旋門、日本の国会議事堂、アメリカのホワイトハウス、南極点、そしてカーレル財団当主の屋敷、地球上の何処にでも、ミサイルは指令通りに月面より精密に送られる」

「そんな事を企てていたのか!?

「そうだ。月面基地の新種ウイルスどころの騒ぎじゃあ済まないだろう。テレビを見てみろ。どのチャンネルに切り替えても大騒ぎで報道が続いている。これは我々の計画のほんの序章(じょしょう)にしか過ぎないと言うのに。ふふっ。ふふふっ」
 セラヌは笑いを止められない様子である。

「そんなミサイル、軍事衛星や空軍の戦闘機が、更には連邦の対空防衛システムが総てを迎撃(げいげき)するだろう」
 ジェームスはセラヌに(いど)むように話した。

「現在の君達人間の科学技術で、果たして何%の迎撃が可能か、50%も迎撃が出来れば上等であろう。ふっ、そうは簡単には行かないのさ。それに我らは既に調べ終えている。各国軍事衛星の周回軌道をだ。それらは総て、月面から始末しておく予定だ。更に我らのミサイルは大気圏を通り抜け耐熱シールドを脱ぎさった後には軌道を変え超音速ステルス仕様に変換するシステムが組み込まれている。その時、最早レーダーではミサイルの補足は出来ない」

「この悪魔め!!

「そうだ悪魔の企てだ。シナリオはこうだ。月に昇りし我ら13の魔徒は、地球より届けられた貨物ロケットの梱包(こんぽう)を解き、資材と同胞を月に迎え、我等魔族の月面基地を完成させる。準備が整い次第、地球上の主たる目標をミサイルにて攻撃。地上の主たる軍事力を消滅させる。それを合図に、地底に隠れている我が同胞が地上に飛び出して来る。数えきれない程の悪魔が、有りのままの姿で地上に飛び出てくるのだ。彼等の鋭い爪は、いとも簡単に人間の皮膚を切り裂き、彼等の並外れた腕力が、走行する車も容易(たやす)く引き千切(ちぎ)る事であろう。各国政府は月面に居る我らの核ミサイルの影に(おび)え何の対策もとれない。こうして地球は、支配者の座を悪魔に(ゆだ)ねるのだ」

「そんな事は許さない。私が、我がカーレ財団が総力を上げ断固として貴様らの計画など阻止(そし)して見せる!」
 ジェームスは財団の仲間達と共に高々とシュプレヒコールを上げたかった。しかし今は唯ひとりである。

「ふうーっ、ジェームス君。総ての準備は既に整っているのだ。長くなったが、これで君と契約した私の話は終わりだ。あとは君が契約を果たす番だ!」

 魔王セラヌは冷酷に言い渡した。

 その時、室内にスマートフォンの着信音が鳴り響く。セラヌを取り巻く4人のボディガードの一人、ルゼブスが無言でセラヌにスマホを手渡す。

「ふっふっふっ。それはそれは… 御苦労さまでした」
 魔王セラヌはそう言うと、スマホをルゼブスの手に戻した。

「ジェームス君。君だけではない。君らサンダー家の総てが終わりだ。カ-レル財団本部とサンダー家当主の屋敷に対し、総てを破壊し尽くすミサイルが、たった今、発射されたそうだ。これは愉快(ゆかい)。何とも好いタイミングだ!」
 セラヌはジェームスを見下すように笑い続ける。

 ジェームスは、この事態を財団に伝えようと、その場からの逃亡を図る。

「逃げられぬ。秘密は話せない」
 セラヌは悪魔アルべリに目配(めくば)せをする。

「あひゅー。ひゅーひゅー」
 逃げ出したジェームスの前に瞬時に回り込んだアルべリの爪が、ジェームスの軟らかい咽をいとも容易く切り裂いていた。

「月を前線基地として、手始めに火星を地球化する。そして我らは、いずれ無限の宇宙に広がるだろう。その時、天使が治める実体のない世界は崩壊する」
 セラヌはそう呟いていた。

「神にさえ邪魔はさせぬさ!」
 セラヌの口から言葉が()れ出ていた。
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登場人物紹介

Sophie(ソフィー) 

堕天使ルシフェルと対峙する程の、ピュア(pure)なパワーを持つ少女。




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