第38話 火炎の竜 西暦2025年 July
文字数 1,891文字
ニューヨーク マンハッタン 5番街
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
ニューヨーク マンハッタン 5番街、セントラルスターホテルの屋上には、魔王セラヌのペントハウスが建てられている。ビル高層に森を造り、樹林に隠れるように造られた秘密のペントハウス。そこには例え空からでさえ、ハウスの内部を覗く事が叶わぬ造りが施 されていた。
広々としたペントハウスのフロアー。中央には大きな円形のカウンターテーブルが備えられている。カウンターの中では多くの料理人がてきぱきと仕事をこなしていた。大空間オーダーメイドワインセラーから、ソムリエがワインを抱え飛び出して来る。黒い蝶ネクタイを付けたバーテンは、世界の酒を集めた酒棚の近くで、静かにグラスを磨き続ける。高価な応接ソファーの隣では、愛らしいバニーガールがオーナーの着座を待ちわびていた。
「ボス。お食事にいたしますか?」
ボディガードは、魔王を四方から取り囲むような位置取りで立ち並んでいる。その一人がソファーに腰掛けたセラヌに向い尋ねる。
「いや。その前に大事な用事を済ませておこう」
魔王セラヌは給仕にシャンパンをオーダーする。
「大切な客人をお連れしてくれ」
セラヌは足を組んだ姿勢で配下に命じた。
美しい青年が良く冷えたシャンパンを運んて来る。既にセラヌの周囲には、見事に整った容姿を持つ女性達が集まって来ていた。テーブルにはあざやかな色彩のフルーツが並べられている。
華やかな雰囲気を楽しんでいたセラヌの前に、白のタキシードを揃 え着る男達の一団が現れる。そこに一人だけ、黒いタキシードを着た風采の上がらない中年の男が紛れ込んでいた。
「ふーむ」
皇帝のような、威厳に満ちあふれた声帯の振動。セラヌが小太りの中年男を眺める。
「君が、騎士バッジョなのか?」
二十代前半の年齢にしか見えない美しい容姿の魔王セラヌが、目の前に立つ中年男に向い言葉を掛ける。
中年の男は、視線を落とし無言を貫いていた。
この小太りの中年男こそ、カーレル財団筆頭執事であり、二週間前にカ-レル財団付属病院から失踪 したジェームス・モートンその人であった。
「オーナー。御報告申し上げます」
白いタキシードに身を包んだ小男が、セラヌの前に進み出て深々と頭 を垂れる。
セラヌは黙ってその男を見詰める。
「マギーの使いか?」
セラヌが白のタキシードに身を包んだ小男に言葉を掛ける。
「はい。恐れ入ります。トルマと申します。我が長 、マギーからの指示がありました。この男の行いについては、マギーに代わって私から御報告させて戴きます」
トルマと呼ばれた小男が答えた。
「それではトルマ。これを見よ!」
セラヌはトルマに向かい右手を差し出す。すると手の平に青白い炎が現れ、それは次第に成長し渦を巻くように回転を始めた。
「こっ、これは」
セラヌの右手掌で回転する火炎。驚くトルマが見詰める先で火炎は青白い竜となり、
更に回転を続け、遂には立ち上る竜と成長しトルマの顔に飛び掛かった。
「ひいっ」
トルマが悲鳴を上げた時には既に、立ち昇る竜も青白い炎も、まやかしの総てがその場から消え失せている。
「諸君 。ほんの座興 だ」
目の前で起こったまやかしに翻弄され 、はっと我に帰った者達から、大きな響動 めきが起こった。
周囲の人々の興奮が覚めやらぬ中で、唯二人だけが冷や汗を流した。トルマとジェームスの二人である。火炎の竜はトルマのみならずジェームス・モートンにも襲い掛かっていたからである。
「トルマ。脅かしてしまったが、君の持つ情報は総て理解した。後はこのジェームス・モートン君だけをここに残して、君達は退席してくれ」
セラヌは涼しい顔をしている。
「仰せのままに」
セラヌの言葉に従いトルマは白タキシードの一団を連れてフロアーから退席した。
「トルマ様。これは我等にとってはあまりに酷い扱い…」
ジェームスを脇に抱え連れ出した凶悪な顔貌の男が、エレベーターホールでトルマに訴える。
「いいや、あれで良いのだ。火炎から生まれた青白い竜が私に襲い掛った時、一瞬にして私の思考はセラヌ様に読み取られた。私の考えている事の総てが瞬時にあの方に知られたのだ。最早セラヌ様は、私になど用はない。恐ろしいお方だ。我等が捕えた、手柄と思った中年の男も、どうやらセラヌ様の知るバッジョとは別人の御様子。例え心の中でさえ、セラヌ様の批判はしない事だ。その命が惜しければな」
トルマの言葉に、凶悪な顔貌の男は肝を冷やし身体を震わせた。
New York Manhattan Fifth Avenue
セントラルスターホテル
Central Star Hotel
ニューヨーク マンハッタン 5番街、セントラルスターホテルの屋上には、魔王セラヌのペントハウスが建てられている。ビル高層に森を造り、樹林に隠れるように造られた秘密のペントハウス。そこには例え空からでさえ、ハウスの内部を覗く事が叶わぬ造りが
広々としたペントハウスのフロアー。中央には大きな円形のカウンターテーブルが備えられている。カウンターの中では多くの料理人がてきぱきと仕事をこなしていた。大空間オーダーメイドワインセラーから、ソムリエがワインを抱え飛び出して来る。黒い蝶ネクタイを付けたバーテンは、世界の酒を集めた酒棚の近くで、静かにグラスを磨き続ける。高価な応接ソファーの隣では、愛らしいバニーガールがオーナーの着座を待ちわびていた。
「ボス。お食事にいたしますか?」
ボディガードは、魔王を四方から取り囲むような位置取りで立ち並んでいる。その一人がソファーに腰掛けたセラヌに向い尋ねる。
「いや。その前に大事な用事を済ませておこう」
魔王セラヌは給仕にシャンパンをオーダーする。
「大切な客人をお連れしてくれ」
セラヌは足を組んだ姿勢で配下に命じた。
美しい青年が良く冷えたシャンパンを運んて来る。既にセラヌの周囲には、見事に整った容姿を持つ女性達が集まって来ていた。テーブルにはあざやかな色彩のフルーツが並べられている。
華やかな雰囲気を楽しんでいたセラヌの前に、白のタキシードを
「ふーむ」
皇帝のような、威厳に満ちあふれた声帯の振動。セラヌが小太りの中年男を眺める。
「君が、騎士バッジョなのか?」
二十代前半の年齢にしか見えない美しい容姿の魔王セラヌが、目の前に立つ中年男に向い言葉を掛ける。
中年の男は、視線を落とし無言を貫いていた。
この小太りの中年男こそ、カーレル財団筆頭執事であり、二週間前にカ-レル財団付属病院から
「オーナー。御報告申し上げます」
白いタキシードに身を包んだ小男が、セラヌの前に進み出て深々と
セラヌは黙ってその男を見詰める。
「マギーの使いか?」
セラヌが白のタキシードに身を包んだ小男に言葉を掛ける。
「はい。恐れ入ります。トルマと申します。我が
トルマと呼ばれた小男が答えた。
「それではトルマ。これを見よ!」
セラヌはトルマに向かい右手を差し出す。すると手の平に青白い炎が現れ、それは次第に成長し渦を巻くように回転を始めた。
「こっ、これは」
セラヌの右手掌で回転する火炎。驚くトルマが見詰める先で火炎は青白い竜となり、
更に回転を続け、遂には立ち上る竜と成長しトルマの顔に飛び掛かった。
「ひいっ」
トルマが悲鳴を上げた時には既に、立ち昇る竜も青白い炎も、まやかしの総てがその場から消え失せている。
「
目の前で起こったまやかしに
周囲の人々の興奮が覚めやらぬ中で、唯二人だけが冷や汗を流した。トルマとジェームスの二人である。火炎の竜はトルマのみならずジェームス・モートンにも襲い掛かっていたからである。
「トルマ。脅かしてしまったが、君の持つ情報は総て理解した。後はこのジェームス・モートン君だけをここに残して、君達は退席してくれ」
セラヌは涼しい顔をしている。
「仰せのままに」
セラヌの言葉に従いトルマは白タキシードの一団を連れてフロアーから退席した。
「トルマ様。これは我等にとってはあまりに酷い扱い…」
ジェームスを脇に抱え連れ出した凶悪な顔貌の男が、エレベーターホールでトルマに訴える。
「いいや、あれで良いのだ。火炎から生まれた青白い竜が私に襲い掛った時、一瞬にして私の思考はセラヌ様に読み取られた。私の考えている事の総てが瞬時にあの方に知られたのだ。最早セラヌ様は、私になど用はない。恐ろしいお方だ。我等が捕えた、手柄と思った中年の男も、どうやらセラヌ様の知るバッジョとは別人の御様子。例え心の中でさえ、セラヌ様の批判はしない事だ。その命が惜しければな」
トルマの言葉に、凶悪な顔貌の男は肝を冷やし身体を震わせた。