第22話 未来へ
文字数 3,544文字
「騎士殿。そろそろガリアに別れを告げようではないか!?」
セラヌリウスが、紀元前52年のガリアに未練が残るバッジョを促す。
「ソフィーとパトリシアは、これからもガリアの地で力強く生き続ける。そうであろう!? 」
「はい。その通りです」
「母上が心配なのかな?」
「ええ。母様 をもう少し見ていたかったのです。良家育ちの母様は、向後苦労を強いられる… でも、大丈夫です。過ぎ去った時を変えることは出来ないのですから。行きましょうセラヌリウス」
バッジョが応 える。
「良いのか?」
「はい。行きましょう!」
「それでは参ろう。所で騎士殿には、我等の行き先が解るかのう?」
セラヌリウスが優しく聞き返す。
「はい。ソフィーの意識の道に入り込み、共に未来へと進むのでしょう!?」
「そうだ。ソフィ、アーテリー。そして彼らの次なる転生先へと向かう」
「二人の霊が転生した未来の情報を、私が拾い集める。そうなのですね!?」
「その通りだ騎士殿。覚醒 したようじゃのう」
「覚醒? まあ少しは目が覚めましたが…」
「ふふっ。いずれ解るよ。さて騎士殿。アーテリーが何時の時代の何処に転生をするのか? それを貴殿が探り出しておくれ!」
「はい。やってみます!」
バッジョが答える。
「我等が潜り込む二人の意識はとてつもなく強大だ。一瞬たりとも気を抜けば、我等の意識などあっと言う間に飲み込まれてしまう事であろう。故 に儂は、極限まで速度を上げて時空を進むつもりだ。目標地点に到着するまで、騎士殿は唯、眼を瞑 り儂の後ろにしがみついているのだぞ!」
「はい。唯 一心にしがみついております」
「そこでだ。儂はアーテリーが来世に転生した瞬間に急停止し、貴殿に合図を送る積りだ」
「セラヌリウス。停止時した際、私にどのような合図を送って頂けますか?」
「そうだな。何が良いか?」
「ヤッホーは如何でしょう?」
バッジョが提案 する。
「うむう、それがいい。目標地点に到達した瞬間に儂はヤッホーと叫び、時空の走行を停止させる。騎士殿は儂が停止した瞬間に眼を見開き、総ての神経を五感に集中させ… いや失礼。五感の変わりに獲得 した新たなる精神器官を用いて、アーテリーの転生し時間と場所を特定するのだ!」
「はい。遣 ってみます!」
バッジョが答えた。
「王子はさぞや可愛い赤子に転生をするのでしょうね?」
「いや急停止すると言っても、なんせスピードに乗っているからのう。停止出来るのは… アーテリーの誕生後、十数年程先に進んだ地点になるであろう」
「十数年程先!? それでは転生した王子は、現世と同じ若者の姿でありますな!」
「そうだ。王子に逢いたかったのであろう」
「はい」
バッジョが声を詰まらせる。
「どうだ儂は嘘など吐かぬだろう。これから騎士殿は、王子の化身に会う事が叶うのだ!」
「はい。島に流れ着いた私に、貴方が話してくれた言葉は、誠の言葉でありました」
「ふふふっ。さあ行くぞ!」
セラヌリウスは力強く言葉を放つ。
「ああ。そうだ騎士殿!?」
セラヌリウスが何かを思い出し出発を中断する。
「騎士殿。未来での滞在時間だが… 我等が滞在出来るのは、ぎりぎり粘ったとしても、僅 か四半時 が限度だ。ガリアでの訪問のようには、ゆっくりとはしておられぬぞ」
セラヌリウスがバッジョに注文を付ける。
「はい。王子の意識の中で長居をすれば、私の意識等、転生した王子の意識に簡単に飲み込まれてしまう。そう言う事なのですね?」
「そうだ。それ故目標点に到達後、儂は全ての感覚を遮蔽 して、唯数のみを数える事にする。ゆっくりと2000回数えて、儂は騎士殿の意識を連れヒベルニアのストーンヘンジへと戻る事にする」
「わかりました」
「騎士殿。例え未来がどんな状況であっても、帰還の時は変わらぬぞ!」
セラヌリウスはバッジョに念を押した。
「はい」
バッジョがセラヌリウスに応える。
「それともう一つ、これは一番大切な事なのだが… 騎士殿が未来で見聞きした事柄については、絶対に儂に話してはならぬぞ。それどころか儂には何も悟らせぬ事だ」
「セラヌリウス。貴方だってソフィーやアーテリーの転生した姿を知りたいでしょうに!?」
「ああ。この世でアーテリーに会えなかった儂だ。愛らしいソフィーの更なる転生の姿は見てみたいのが本音だ。本当に残念だが、その楽しみは来世まで取って置く事としよう」
セラヌリウスが寂しげに語った。
「貴方が知る事の総てが、魔王セラヌに知れてしまうからなのですね?」
「そうだ。奴が魔王セラヌと名を改めてより、これまで儂ら二人が出会う事はない。唯、儂らの霊魂は精神世界でまだ繋がっている。儂が眠りに就けば、儂が知り得た情報は総て、無意識の領域で弟セラヌの知る事となる」
「それでは!?」
「そうだ。騎士殿と儂は、旅の終わりで別れなければならない。我等は来世まで、互いに別の道を行くのだ」
セラヌリウスは悲しい事実をバッジョに告げる。
「折角 又逢えたと言うのに…」
「バッジョ。更に1000年を超えるの時を待つのだ。ルシフェルにより魔王とされた弟の霊魂を取り戻し、我等が暗黒の時代を終わらせるのだ!」
セラヌリウスは言葉に力を込める。
「セラヌリウス。我等が時々逢う事は叶いませぬか!? 不意に私が貴方の許を訪問し、他愛も無い話をして帰る。大事な情報は貴方には知らせず。貴方が眠りに就 く前に、私は遠くに戻ります。それならば良いでしょう!?」
バッジョは未練 を見せる。
「いいや駄目じゃよ。儂と騎士殿が出会った事を知ったセラヌは、儂の近くに密告者を配置することだろう。奴は遠い距離に迄、自己の霊を飛ばし他人を意のままに操る術を備 えている」
セラヌリウスはバッジョを諭 すように話し始める。
「騎士殿。貴殿に万が一の事があったらどうする。貴殿の他に誰が、転生するアーテリーの力となる組織を創れると言うのだ!?」
「解りましたセラヌリウス。合図はヤッホーでしたね!?」
バッジョが覚悟 を決める。
「そうだ。停止の合図はヤッホーだ!」
二人は笑顔を作り微笑む。
「それでは行くか騎士殿。しっかりとしがみついておれ!!」
二人はガリアの時代を生き抜いたソフィーの生涯の道に入り込み、そこから未来へと更にスピードを上げる。
二人を運ぶ時空のトンネル。周囲の景色は加速度を強め目紛 しく移り変わって行く。
ソフィーが生涯を掛けて歩んだ道程が終わり、再び宇宙へと広がり行くソフィーの意識。太陽系を超え、遥か銀河をも超えて行くソフィーの霊は大きな広がりを見せる。終 には宇宙の裾 まで拡大したソフィーの霊的エネルギーは、今度は一転収縮へと転じ、再び銀河を擦り抜け地球へと戻されて行く。そして新たなる転生、ブリテン島でのアーテリーの生涯。死の門を通り抜けたアーテリーの意識は再び大宇宙へと広がって行く。
「騎士殿。大丈夫かのう?」
老人セラヌリウスの声が聞こえる。
「はい。何とか… しかし余りの速さに意識が途切れそうです」
「物凄い速さだからのう。頑張ろう、唯ひたすらに頑張るのだ!!」
老人はバッジョを励ます。
「目紛しい速度の中では、周囲を見る事はおろか音を聞く事も叶わぬ。騎士殿に、何も経験させて遣れぬのが残念じゃ」
「はい、つうっ…」
「唯、感じぬか? バッジョ。唯感じぬか? ソフィーとアーテリーの霊的エネルギーが、更に大きく美しく成長しているのを… そして彼等を支える数多 存在の力を… 貴殿は感じる事が出来るかのう?」
セラヌリウスはそれをバッジョに感じて貰いたかった。
その直後。
「ああっ、ヤッホー!!」
セラヌリウスの突然の掛声。そして未来への時空移動が停止する。
押し潰されそうな自分を感じながらも、バッジョは必死で周囲の総てに意識を集中する。
眼を見開くような感覚。耳をそばだてるような感触。それは五感の為 す業 ではない。バッジョに開示 された新たな器官の為せる業 。
手入れの行き届いた庭園。食台の上には光る石板が立て置かれている。石板の中には、漆黒の空を飛行する白金のルシフェルの姿が映し出されていた。ルシフェルはこれから基地を建設する為に月に向かうのだと、銀の戦棍 を握り締める女性が石板の中で話しをしている… 私は下僕に連れられ、庭園を離れ不思議な箱船に乗る。「アメリカン交通中央ストアー前バス停留所」箱船が不思議な言葉を告げる。「8時。大丈夫…」私は手首に装着する光石を見詰めた… 下僕は身に迫る危険を予知し箱船から降りるよう私に進言をする。箱船が停止し扉が開かれる。突如として我等に悪魔が襲いかかってくる。悪魔は黒装束 に細長い剣を持つ。悪魔の手下に突き飛ばされた私は、背をしたたかと打ちつける。息が詰まるような苦しみがあり、私の意識は遠のいて行く。
セラヌリウスが、紀元前52年のガリアに未練が残るバッジョを促す。
「ソフィーとパトリシアは、これからもガリアの地で力強く生き続ける。そうであろう!? 」
「はい。その通りです」
「母上が心配なのかな?」
「ええ。
バッジョが
「良いのか?」
「はい。行きましょう!」
「それでは参ろう。所で騎士殿には、我等の行き先が解るかのう?」
セラヌリウスが優しく聞き返す。
「はい。ソフィーの意識の道に入り込み、共に未来へと進むのでしょう!?」
「そうだ。ソフィ、アーテリー。そして彼らの次なる転生先へと向かう」
「二人の霊が転生した未来の情報を、私が拾い集める。そうなのですね!?」
「その通りだ騎士殿。
「覚醒? まあ少しは目が覚めましたが…」
「ふふっ。いずれ解るよ。さて騎士殿。アーテリーが何時の時代の何処に転生をするのか? それを貴殿が探り出しておくれ!」
「はい。やってみます!」
バッジョが答える。
「我等が潜り込む二人の意識はとてつもなく強大だ。一瞬たりとも気を抜けば、我等の意識などあっと言う間に飲み込まれてしまう事であろう。
「はい。
「そこでだ。儂はアーテリーが来世に転生した瞬間に急停止し、貴殿に合図を送る積りだ」
「セラヌリウス。停止時した際、私にどのような合図を送って頂けますか?」
「そうだな。何が良いか?」
「ヤッホーは如何でしょう?」
バッジョが
「うむう、それがいい。目標地点に到達した瞬間に儂はヤッホーと叫び、時空の走行を停止させる。騎士殿は儂が停止した瞬間に眼を見開き、総ての神経を五感に集中させ… いや失礼。五感の変わりに
「はい。
バッジョが答えた。
「王子はさぞや可愛い赤子に転生をするのでしょうね?」
「いや急停止すると言っても、なんせスピードに乗っているからのう。停止出来るのは… アーテリーの誕生後、十数年程先に進んだ地点になるであろう」
「十数年程先!? それでは転生した王子は、現世と同じ若者の姿でありますな!」
「そうだ。王子に逢いたかったのであろう」
「はい」
バッジョが声を詰まらせる。
「どうだ儂は嘘など吐かぬだろう。これから騎士殿は、王子の化身に会う事が叶うのだ!」
「はい。島に流れ着いた私に、貴方が話してくれた言葉は、誠の言葉でありました」
「ふふふっ。さあ行くぞ!」
セラヌリウスは力強く言葉を放つ。
「ああ。そうだ騎士殿!?」
セラヌリウスが何かを思い出し出発を中断する。
「騎士殿。未来での滞在時間だが… 我等が滞在出来るのは、ぎりぎり粘ったとしても、
セラヌリウスがバッジョに注文を付ける。
「はい。王子の意識の中で長居をすれば、私の意識等、転生した王子の意識に簡単に飲み込まれてしまう。そう言う事なのですね?」
「そうだ。それ故目標点に到達後、儂は全ての感覚を
「わかりました」
「騎士殿。例え未来がどんな状況であっても、帰還の時は変わらぬぞ!」
セラヌリウスはバッジョに念を押した。
「はい」
バッジョがセラヌリウスに応える。
「それともう一つ、これは一番大切な事なのだが… 騎士殿が未来で見聞きした事柄については、絶対に儂に話してはならぬぞ。それどころか儂には何も悟らせぬ事だ」
「セラヌリウス。貴方だってソフィーやアーテリーの転生した姿を知りたいでしょうに!?」
「ああ。この世でアーテリーに会えなかった儂だ。愛らしいソフィーの更なる転生の姿は見てみたいのが本音だ。本当に残念だが、その楽しみは来世まで取って置く事としよう」
セラヌリウスが寂しげに語った。
「貴方が知る事の総てが、魔王セラヌに知れてしまうからなのですね?」
「そうだ。奴が魔王セラヌと名を改めてより、これまで儂ら二人が出会う事はない。唯、儂らの霊魂は精神世界でまだ繋がっている。儂が眠りに就けば、儂が知り得た情報は総て、無意識の領域で弟セラヌの知る事となる」
「それでは!?」
「そうだ。騎士殿と儂は、旅の終わりで別れなければならない。我等は来世まで、互いに別の道を行くのだ」
セラヌリウスは悲しい事実をバッジョに告げる。
「
「バッジョ。更に1000年を超えるの時を待つのだ。ルシフェルにより魔王とされた弟の霊魂を取り戻し、我等が暗黒の時代を終わらせるのだ!」
セラヌリウスは言葉に力を込める。
「セラヌリウス。我等が時々逢う事は叶いませぬか!? 不意に私が貴方の許を訪問し、他愛も無い話をして帰る。大事な情報は貴方には知らせず。貴方が眠りに
バッジョは
「いいや駄目じゃよ。儂と騎士殿が出会った事を知ったセラヌは、儂の近くに密告者を配置することだろう。奴は遠い距離に迄、自己の霊を飛ばし他人を意のままに操る術を
セラヌリウスはバッジョを
「騎士殿。貴殿に万が一の事があったらどうする。貴殿の他に誰が、転生するアーテリーの力となる組織を創れると言うのだ!?」
「解りましたセラヌリウス。合図はヤッホーでしたね!?」
バッジョが
「そうだ。停止の合図はヤッホーだ!」
二人は笑顔を作り微笑む。
「それでは行くか騎士殿。しっかりとしがみついておれ!!」
二人はガリアの時代を生き抜いたソフィーの生涯の道に入り込み、そこから未来へと更にスピードを上げる。
二人を運ぶ時空のトンネル。周囲の景色は加速度を強め
ソフィーが生涯を掛けて歩んだ道程が終わり、再び宇宙へと広がり行くソフィーの意識。太陽系を超え、遥か銀河をも超えて行くソフィーの霊は大きな広がりを見せる。
「騎士殿。大丈夫かのう?」
老人セラヌリウスの声が聞こえる。
「はい。何とか… しかし余りの速さに意識が途切れそうです」
「物凄い速さだからのう。頑張ろう、唯ひたすらに頑張るのだ!!」
老人はバッジョを励ます。
「目紛しい速度の中では、周囲を見る事はおろか音を聞く事も叶わぬ。騎士殿に、何も経験させて遣れぬのが残念じゃ」
「はい、つうっ…」
「唯、感じぬか? バッジョ。唯感じぬか? ソフィーとアーテリーの霊的エネルギーが、更に大きく美しく成長しているのを… そして彼等を支える
セラヌリウスはそれをバッジョに感じて貰いたかった。
その直後。
「ああっ、ヤッホー!!」
セラヌリウスの突然の掛声。そして未来への時空移動が停止する。
押し潰されそうな自分を感じながらも、バッジョは必死で周囲の総てに意識を集中する。
眼を見開くような感覚。耳をそばだてるような感触。それは五感の
手入れの行き届いた庭園。食台の上には光る石板が立て置かれている。石板の中には、漆黒の空を飛行する白金のルシフェルの姿が映し出されていた。ルシフェルはこれから基地を建設する為に月に向かうのだと、銀の