第25話 運命の再会 西暦2025年 July 7

文字数 2,019文字

 ニューヨーク ウエストチェスター 
 Westchester County, New York
 中央ストアーバス停留所
 Central Store Bus Stop

「親方様。午前8時です。バスが向かって来ております。ああっ、興奮で目眩さえする。いいえ。サンダー家執事筆頭の私がしっかりしないでどうする!?
 ジェームスは奇跡の瞬間を目前にして、すっかり舞い上がってしまっていた。

 ジェームスの隣には、緊張感を持って運命のバスを見詰めるカーレルの姿がある。

(西暦525年 ヒベルニアのストーンヘンジで、儂はバッジョの霊魂を未来へと送り込んだ。あれから1500年の時が経過したのだ。まさか儂が、彼が創りしカレール財団の第38代当主に転生して来ようとはな。バッジョ、任せてくれ。愛らしいソフィー、そして王子アーテリーの化身は、この儂が安全に確保する!)
 カーレルの表情には、固い決意が現れていた。
 
 遂に運命のバスが中央ストアー前バス停留所に乗り入れる。

「カーレル様。私が先に乗り込みます」

「何を申す。儂が先に乗り込もう」
 カーレルが車両中央の乗車口に向い、ジェームスの一歩手前に進み出る。

 ドア開閉を告げるブザーの音と共に、アメリカン交通社バス中央乗車扉が開かれた。

 極度の緊張で(あし)強張(こわば)るジェームスを置き去りにして、カーレル・B・サンダーが颯爽(さっそう)とバスステップを駆け上がって行く。

 バスステップを上がったカーレルの目前には、緊張した面持ちを見せる少年と少女の姿があった。瞬間、両者は見詰め合い、バス客席車内に沈黙が流れる。

「黒装束(しょうぞく)の悪魔!?
 カレンが、勢いよくバスステップを駆け上がって来た老人の姿を見て、レオナルドの預言通りと大きな悲鳴を上げる。

 良質な素材のフォーマルスーツと外套(がいとう)をまとい、黒一色で決めてきたカーレル。手には細長いステッキが握られている。

「黒装束の悪魔? 違う、儂は違う!」
 カーレルが、カレンに向き合い釈明を始める。

「カーレル様!?
 少女の悲鳴に驚いたジェームスが、主人を気遣いバスステップを駆け上がって来る。

「あっ、ああーっ!!
 なんとジェームスは、バスステップ最後の段差で足を引っ掛け(つまず)いてしまう。勢いよく前に飛び込んで行くジェームスの先には、バス車両中央に立ち尽くすカレンの姿がある。

「カレン。危ない…」
 レオナルドがとっさに振り向いた時には既に、カレンはジェームスに突き飛ばされ、バス客席床へと倒れ落ちて行った。

 ジェームスはカーレルの横を擦り抜け、カレンのからだを押しのけると、車両中央の座席脚部に頭から激突して行ったのである。

 (したた)かにバス客席床に背部を打ちつけたカレンが、苦し気な表情で息を詰まらせる。

「カレン!? カレン!?
 床にしゃがみ込んだレオナルドは、カレンのやわらかなからだを抱き起こそうと手を差し入れる。しかしカレンは、レオナルドの腕の中で意識を失ってしまった。

「ストレッチャーを持て!」
 カ-レルがバスステップの下で待機するサンドルに命じる。カーレル財団に所属する救急救命士のサンドルは、2mを優に超えるアフリカ系アメリカ人だ。

「お嬢様をそのままに頼む。直ぐに救急救命士がストレッチャーで安全に搬送致します」
 レオナルドの隣で床にしゃがみ込んだカーレルが言葉を告げる。

「貴方は?」

「カーレル・B・サンダーと申します。申し訳ない。私の(つれ)れがとんだ御迷惑を。外に救命設備を整えたリムジンを待機させております。直ぐに、このお嬢さんをリムジンに運ばせて下さい」
 カ-レルはバス客席床に(ひざまず)き、カレンを労るレオナルドに向い()びの言葉を告げた。

 レオナルドは顔を上げて老紳士(ろうしんし)を見詰める。一瞬の沈黙の後、レオナルドの唇が自然と動き出す。

「セラヌリウス。貴方は兄セラヌウスなのか?」
「ああ。そうだ… 何と君は、まさか君はバッジョの生まれ変わりなのか!?
 レオナルドにセラヌリウスと呼ばれたカーレルも、この状況に驚きを隠せないでいる。

何故(なぜ)だ。何故僕にそのような、貴方の事が解るだなんて?」
 レオナルドの頭は、(みずか)らの口が発した言葉に混乱する。

「良いのだ。ゆっくりと思い出しておくれ」
 カーレルは気が動顛(どうてん)するレオナルドの肩を抱く。

「バッジョ。再び出会えて、こんなに嬉しい事は無い!」
 カーレルの瞳から大きな涙が(こぼ)れた。

 レオナルドの脳裏(のうり)に前世の記憶が洪水のように流れ込んで来る。

「バッジョ? 僕がバッジョ!?
 レオナルドの脳は更に混乱をきたす。長い眠りから突如起された気分だった。

「美しい娘だ。この娘がソフィーの、アーテリーの転生し姿か!?
 カーレルが、意識を消失したカレンを見詰めレオナルドに尋ねた。

「そう。カレンこそ、アーテリー王子が転生し化身。たった今、僕も総てを悟った…」
 カーレルにバッジョと呼ばれたレオナルドが、倒れ込むカレンを()()えながら答えた。

 天は又、我等を運命の糸で結び合わせた…
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登場人物紹介

Sophie(ソフィー) 

堕天使ルシフェルと対峙する程の、ピュア(pure)なパワーを持つ少女。




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