【自我】【裏切り】【壁】

文字数 905文字

課題 ; 居場所のエピソードに意味があればよいかなと。


【カネの隠し場所】

 俺の名はヤス。いわゆる半グレの下っ端である。あぶねー橋ばかり渡らされる一方でロクに稼げやしねぇ。嫌気がさしてグループを抜けようと、相棒の萩原と一緒に組織のカネ一億円を持ち逃げした。
 細かい説明はPの都合上端折るが、作戦の性質上、萩原とは別行動をとっている。そして今ヤツがカネを持っている。俺の分前五千万は、俺たち二人のアジトに隠す手筈になっているのだが、……あいつ持ち逃げしたりしないよな?
 あいつは昔から自我の強いヤツだ。この世界で生きてたら裏切りなんて珍しくない。それが親分子分の間であれ、兄弟分であれ。
 
 ♪♪♪

 ショートメッセージ着信を知らせるメロディに俺はホッと胸を撫で下ろす。この作戦専用のケータイ。番号を知るのは萩原のみだ。

“ヤス、俺の方はうまくいった! 一足先にマニラに飛ぶぜ。お前もグズグズするなよ。早いとこアジトへ行け。何ごともゲタを履くまで分からないからな。 いいか、ブツは完壁に隠した。ブツってのは言わなくてもわかるな 荻原”

 これは暗号というような大袈裟なものではないが、俺たちの符牒(ふちょう)だ。
「完璧」が璧ではなく、壁になっている。つまりブツはアジトの壁に隠したんだ。
 俺は急いでアジトへと向かった。
 アジトに入るなり俺は一目散にタンスへと向かう。この裏の壁に穴が空いてるんだ。
 タンスを乱暴にどかし、俺は目を疑った。

 誰だこいつ? カネはどこだ?

 俺は手足を縛られて穴に収まるその男の猿ぐつわを外し問いただす。
「おい、お前は誰だ? カネはどこだ?」
「知りません。僕突然攫われて。僕はオギワラと言います」
 ヤスは慌ててショートメッセージを読み返す。
 “ブツってのは言わなくてもわかるな 【荻原】”

「くそ、てっきり萩原って書いてあるかと思い込んでた。あいつおちょくりやがって、それにしても、……」


「よくこんなことしてる暇あったなあいつ」



「原稿あがったよ」
「P先生、今回は早いですね」
「僕がやる気になったらこんなもんですよ」
「拝見します」
.•



「どう?」
「何ですかPの都合って。やり直し」
「ハイ」

— カネの隠し場所


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