【花】【ロボット】【魅惑的な殺戮】

文字数 823文字

課題:何かクイズを入れてください

 ボクの職場には変な奴がいる。頭はいいんだけど感情を表に出さず、妙に淡々としていて、ロボットのようでもある。そこでついたあだ名がロイド。名字とあわせて安藤ロイド、アンドロイドをもじったものだ。
 ある日、ボクは独りで弁当を食べているロイドに、一緒に食べようといって隣に座った。ロイドは「ああ」と一言だけ呟いた。
 やっぱりロイドは変な奴だ、弁当にイチジクが入っている。
「やっぱりロイドは変わってるな」ボクはそのイチジクを指差して言った。
「食べるかい?」ロイドはイチジクを一切れ爪楊枝で刺して、ボクに差し出した。
「ありがと」
「ここで問題、イチジクって漢字で書けるかい?」
 突然のクイズにボクは呆気にとられながら答える。
「花が咲かずに実をつけるから、無しの無に、花に、果実の果だよね」
「正解、よく知ってたね。でも、花がないわけじゃないんだ。花は実の中にある。そこで次の問題、イチジクの実の中には何があると思う?」
「タネとか?」
「そういうことじゃないんだ、イチジクの一部という意味じゃないんだよ」
 ボクは思考を巡らせた。イチジクの中には花がある。
「もしかして」
 ボクの表情から読み取ったように、ロイドは軽く頷いた。
「虫が入っている。もっと正確にいうならイチジクコバチというハチと、その卵だね」
 ロイドは平然と言う。
「メスのイチジクコバチはイチジクの中に入り込んで受粉して産卵し、その中で死ぬ。孵化したコバチはその中で交尾を行い、メスは新たな果実に移るがオスは一生をその中で終える。イチジクからすると魅惑的な殺戮といえるかもね」
 今食べたイチジクにも虫が入っていたのかと思うとボクは気分が悪くなった。
 そんなボクを見てロイドは言う。
「国産のイチジクは単為結果性、つまり受粉なしで実をつける。それに日本にイチジクコバチはいないから、入ってないよ」
「脅かすなよ」
「ごめん」
 ロイドはそれまでみせたことのない微笑みを浮かべて言った。
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